0.プロローグ

 ここではない何処か、今だろうか昔だろうか、それとも未来か、そこにはエルフと呼ばれる種族と人と呼ばれる種族が住んでいました。その世界の名前は「ロッドス」。
 世界には3つの大きな大陸があり、現在ではエルフと人の国をあわせて9つの国があり、何処の国にも属さない地域が3つ存在している。ここ数十年は大きな戦争はなく人々の暮らしは安定し「平和」と言う言葉が定着しだした世界。
 しかし、人はかつて大いに栄えたが千年ほど前の大乱により繁栄を支えた技と、自らの歴史のほとんどを失い、現在ではすべての面に置いて優れているエルフに対し劣等感を感じ、エルフは古くからのエルフの血を重んじる古(エンシエント)エルフと、 人よりの新(リセント)エルフの対立が深刻化していた。
 これはそんな世界で起こるちょっとした話。


 そしてここは、人社会で最も技術の進んだ国プログリア。その首都プロシフィアの郊外に位置する「プログリア共和国立魔術・科学研究所」である。この研究所では今から10年前、つまりシンシニア歴1586年のこと。 ディスクと呼ばれる画期的な機械が発明された。ディスクは当時、失われた科学の集大成と呼ばれていた。

 さてそのディスクとは・・・この世界では呪文はエルフ族とその血の混ざったものしか使えないものである。人が太古の昔に使用することのできた召還術は使用者が絶えてから何百年と経っているので使えるものがいない。
 しかも、その技を現在でも知る唯一の種族古(エンシエント)エルフは、一族で団結して堅く口を閉ざしている。その問題を解決するために、人が魔術ないしそれに近い力を得るために研究開発が進め、 そしてついに呪文のデータ化に成功したのが、ディスクである。しかし、ディスク完成当初は初級呪文しか入っていないと言う実用にはほど遠いものであった。

 「・・・と言うわけで、このたび第5次呪文収集隊を結成しようと思うんだが、今回は志願制なので誰か我こそはと思うものは?」

と国立魔術・科学研究所所長レスター・オレガン博士の声が会議室に響き渡ったが、誰一人として挙手するものはいなかった。レスター博士は「ふう」とため息をついて、 会議室に集まった研究員たちを見回したがやはり誰も自ら志願してこの危険きわまりない旅に志願するものはいなかった。
 レスター博士自身もこのディスクの研究に一番大きな壁として立ちはだかるのは呪文収集だと予想はしていたがここまで困難だとは思ってもいなかった。 第1次、大2次収集とその後の新エルフの協力で初級呪文と中級呪文の一部の収集は終わっていたが、続いて行われた第3次、第4次は隊のほとんどが消息を絶ち、その1ヶ月後に遺体で発見されるという悲惨な結果に終わっていた。この結果を受けた国もディスク研究費の削減を決定し、 博士自身ももう限界だと感じていた。

「それでは、これにて会議を・・」

そう博士が言いかけた瞬間

「ちょ、ちょっと待った。」

と言いながら白衣が炭だらけにになった男が入ってきた。その場にいた全員がまさかと思った。
そう、まさかこいつは自分から死にに行くようなことをしてるんではないかと・・・

「えっと?なんの結果報告?」

が、その台詞を聞いたとたんがっくりときた。ディスク計画の主任でもある所長の落胆の仕方は人一倍激しかったことは言うまでもない。しかし、所長自身ホッとしたところの方が大きかった
「リスタ・フレディスか。おまえは明日で辞職だっただろ、有終の美を飾ろうとは思わないのか?」

博士はまた「ふう」とため息をついた。博士がため息をしたのと間髪入れずに「ドーン」とものすごい爆発音が研究所の方から聞こえてきた。
いったいどういう実験をやったら、爆発させることができるのかと思いながら所長はもう一度「ふう」と深いため息をつき、今度は慣れた手つきで手元の電話のボタンを押た。

「もしもし?レスターだ。D-1実験室に消化隊を回してくれ・・・ああ、またフレディスだ。」

そう言って博士は電話を切り、

「これにて会議は終了。みんな各々の研究部署に戻っていいぞ。」

と言うと、さっきまで座っていたメンバーはやれやれというように退出していった。それに紛れてリスタも出て行こうとしたが、後ろから所長に呼び止められた。

「で?今度はなんの実験途中だったんだ?」

所長はあきれて聞く気にもならなかったが聞かないと締まりが悪いので一応聞いた。むしろ、明日で辞める男が今更なんの実験をしてるのかも聞いてみたいのが本音だった。

「はい、今度は小型燃料電池の実験をしてました。どうやら水素と酸素の精製中に爆発が起こったみたいです。」

と彼、リスタは正確に答えた。

「聞くが実験装置の電源は落としてきただろうな?」

「いえ、実はまだ・・・・」

これで何度目だと所長は思ったが、

「もう、いい。早く行って片付けてこい。」

そう言って、もう行けというそぶりを示した。リスタは所長にそう言われて行こうとしたが、思い出したように扉の前で足を止めて、

「所長。先ほどは何の志願を募っていたのですか?」

と聞いてきた。博士は半ばディスク計画をあきらめていたので、めんどくさそうに

「ディスク計画の呪文収集隊の隊員の志願だよ。君は明日首だから関係・・」

「所長!!」

リスタのあまりの声の大きさに博士はびっくりした。

「是非、是非隊のメンバーに参加させてください!!」

とリスタはいつの間にか目を輝かしていった。

「確かにうれしいが、君は明日付けで辞職になってるんだぞ。どうやって行く気だ?」

所長は「うれしい」とは口にしたもの本心では収集隊を組織するつもりはなかったし、ディスク計画も今日で打ちきりにしたかった。もうこれ以上犠牲者は増やしたくなかった。しかし、博士のそんな思いとは裏腹に、

「大丈夫ですよ。そこら辺は『所長』という権限で何とか。」

リスタはやけにうれしそうだった。まるでほしいものをねだる子供のようだと博士は思った。それにしても、将来有望な研究者としてこの研究所に入ったはずのリスタが、ここまでディスクに執着するとは・・・

「わかった。考えておこう。ただしメンバーは自分で集めろよ。」

と言ったが目の前にいる男には全く聞こえてなかったらしい。

「ぃやったーーー!!」

とガッツポーズをとると踊るようにして会議室を出て行った。所長は止める気にもならず、また「ふう」とため息をつき、まだ子どもの方が聞き分けがあるかもしれないなと思った。それに、ため息におかげか最近急に老けたような気がした。

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