20世紀の木造住宅は、決して十分な安全性能を担保していたわけではない。
これは何を意味しているかと言うと、鉄筋コンクリート造や鉄骨造のような構造力学に基づいた建築技術ではなく、職人の勘と経験(大工の腕)により、成り立っていたと言って良い。
だからと言って前者の構造がどんな地震に対しても十分な安全性があったかというと、初期の時代の安全性能は低く、大きな地震があるたびに被害を受け、多数の研究者による耐震研究等が蓄積され実用化できる設計体系に整えられ、その度に法律が改正され、現在に至ったのである。
しかしながら、木造住宅は大きな地震があるたびに多数の死者を出し、その度に基準等も改正されていたが、木構造を専門とする研究者は非常に少なく、構造形式や部材要素もS造やRC造に比べ多数あり、実務に使える設計体系にまとめるには圧倒的に不利だったと言える。
そして、材料そのものが自然素材なのでばらつきも多く、わずか十数人程度の研究者(農学部の林業系の研究者が多数)により地道な基礎研究の成果を実用化に向けて提案したのが日本建築学会発行の「木質構造設計規準・同解説」等である。
しかし、それらは素材・接合部レベルが中心で、実務者が現実に即した木構造の構造設計(耐震性能の検討や鉛直時における検討)は他の構造に比べて曖昧であったといえる。
つまり、大地震等の非常時における安全性や、常時における床のたわみや振動等の安定性は、昭和56年の新耐震以後、鉄筋コンクリート造や鉄骨造で当たり前のように構造計算により検討確認されている。
実際の木構造は、意匠設計者と呼ばれるデザイナー建築士(建築家)によって作図され、曖昧な伏せ図等の構造図をもとに、職人(大工等)が自分の持っている経験や技術により、適当にアレンジされ建築されていたのが現実である。
これが、現在も問題となっている「欠陥住宅」と呼ばれる根本でもある。
こういった問題も、根本的な解決は木構造を専門とする建築構造技術者を、S造・RC造の構造技術者と同じ数以上確保しなければ、大手住宅メーカー等以外の木造住宅を「欠陥住宅」の問題から解決する方法はないのである。
しかし、木構造を専門とする教育機関は大学教育等にもなく、きちんとした木構造を受けている人はいない。
このことが決定的に木造住宅を不利にしているのである。