木構造建築研究所 田原


(3)水平構面

建物の構造性能を考える際、床・屋根(小屋)は一体で変形は無視できると想定することが多い。この考え方は実際の建物の形態とも合致しているし、建物のバランスの計算(=偏心率等)をする場合も簡単であるので、広く使われている。

この考え方だと、建物の水平方向のバランスが悪い場合、つまり、偏心率が大きい場合、上下階で耐力壁の位置が違う場合や前項で触れたような建物の形状が複雑な場合でも、地震や風によって建物に生じる力は屋根面や床面通じて伝って、建物全体で抵抗することができる。但しこのような場合には、床・屋根がそれらの力に対して耐力を十分もっているかを検証する必要がある。

当然、壁量計算もこれらの考え方をバックに組立てられている。しかしながら、仕様規定がそれほど厳しくないことも手伝って、木造建物における床の構造的な役割は広く一般に認識されていなかった。

現在は、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)の整備によって「床倍率」という概念で水平構面である床の重要性がようやく認識され始めた。

そのような状態なので、品確法によるチェックを行わずに設計・施工された従来のの木造住宅ではその認識が非常に低い。 また、現行の多くの耐震診断法でも床の性能に関して明示されたチェックがないという問題がある。

床構面に関して問題となりえる可能性のある箇所を次に示す。


●吹き抜け

吹き抜け部分の耐力は当然0なので、吹き抜けを作ると、建物のその部分の床構面の強度が小さくなる。強度が足りない場合は残っている部分の床面を補強するか、耐力壁の配置を見直してその部分に力が生じないようにする必要がある。

また、隠れた吹抜にも注意が必要となる。あまり意識されていない場合があるが、階段や、PS(パイプスペース)、天窓その他の力を負担できない箇所は吹抜けと同じである。

それだけでなく、吹抜けのまわりにある梁の接合部(強度が弱い)を補強する効果もなくなる。木造住宅の梁接合部の補強金物の仕様は、床面などの補強効果を考慮にいれて決定しているので、注意が必要である。

吹き抜けを設ける場合は、その事を頭に入れて、耐力壁や接合部などの配置が慎重に検討されている必要がある。

吹き抜けの例


●下屋

下屋と2階建て部分の接合は、構造的にあまり意識されることがないが、場合によっては2階からの水平力を下屋の先端にある1階の壁に伝達しなければならない。

民家では、南側に下屋で縁側をとって、2階がセットバックしているプランが多いが、セットバックした下屋の屋根の部分が、2階からの水平力を1階の壁に伝達できず壊れた例が多くある。

下屋の例

下屋への力の流れを考えると下図のようになる。この場合、下屋面の強度だけでなく、端部の垂木が建物本体からちぎれてしまう場合についてもが考えなければならない。

下屋の力の流れ