本建物は、リフォーム工事を行うことは決定していたため、事前調査でリフォームが不可能となるような構造上重大な問題が無いことを確認した後は、内外装の撤去工事を進めながら内部の状態を詳細に調査することができた。
現況の耐震性能については、現地調査結果より下記の問題点が発見された。
隣接する建物との間で屋根が谷状になっていた西面や北面の一部ではかなり腐朽・蟻害が進行していた。
また、床下は排水の関係か、やや湿気が多く、柱脚部に腐朽がみられた。
写真は近接して縦樋が設置されている柱であるが、腐朽による不具合が他に比べて著しい状態であった。所々、白いわたのようなものが見え、腐朽菌(白色菌)だと思われる。
既設の基礎は、ほとんどが「玉石基礎」又は「延べ石基礎」であった。
長期の鉛直荷重に対しては地盤もしっかりしており、日常生活の不具合(床の著しいたわみ等)も無いので問題ない。
また、これまで体験した程度の中小地震では大きな力が基礎に作用しないので、玉石・延べ石基礎で問題は見られなかった。
しかしながら、震度6以上の大地震に対して安全性を確保する為には、基礎を鉄筋コンクリート造化する必要がある。
左手前に見えるのが大柱の玉石基礎
和小屋で小屋裏の補強が無いか、雲筋かい程度の場合、屋根質量に生じる地震力は、ほとんど外壁面に流れて内壁の耐力壁が有効に働かない。
本建物では、奥行方向の貫による補強がある程度で、現状のままでは耐力が不足すると考えられた。
小屋裏の丸太梁仕口 | 小屋裏の貫構面 |
地松の丸太梁と軒桁の仕口部分で、丸太梁がずれている。 |
小屋束には幅15mm程度の貫が設置されていたが、
この程度の貫では下階の耐力壁へ力を伝達させるには耐力不足である。 |
地震力は建物の重量に比例して大きくなる。重量は建物のカウンターウエイトとして働く面もあるが、極端に重いと地震力の増大の影響が大きくなる。
本建物の場合、屋根は土葺き瓦でかつ2階の床にも土が敷かれていたため、建物重量が非常に大きくなっていた。
以上(1)〜(4)までの項目の問題点と診断の結果、総合評点は0.7以下となり「倒壊または大破」の危険性が高いと判断されるため、施主であるNさんより、補強を前提とした考え方で計画を進めてほしいと言う要望もあり、詳細な調査・診断よりも補強設計をメインにおいた計画を行なったものである。
本建物では、震度6程度の地震に対して、軽微な被害で済むような耐震性能(品確法の耐震等級3程度)を目標とした。