日本の古民家の多くは、地震に対して絶対安全であるとは言いきれない。
特に、西日本では、南側に対し開放的な造りとなっているため、構造上有効な耐力壁の少ない建物が多い。
また、2階建では大抵の場合、1階が縁側として下屋になっており、上下階の壁位置が一致していないという問題がある。
一方、建物の北側は開口が小さかったり、天井が低かったりして圧迫感を覚える場合があり、民家の改修では意匠上吹抜けを設けたり、窓を新設して住環境を改善する場合が多いが、これも構造上は弱点となってしまう。
N邸の場合もこれらの問題が当てはまる建物であった。
構造に関する部分の改修にあたっては、耐力壁要素として構造用合板耐力壁を主として採用し真壁構造とし、一部に面格子耐力壁を用いることとした。
もちろん、柱頭・柱脚には補強金物を設置し、高倍率耐力壁より発生する大きくなった引抜力等に抵抗できるようにしている。
さらに、耐力壁と屋根を連結する為の小屋裏耐力壁の新設、水平構面となる屋根及び2階床構面の補強を行った。
本住宅では以前から1階天井裏(実質2階)に土を載せており、非常に重く耐震上不利であった。
そこで屋根や2階床に載せられていた土は全て撤去し、土壁の老朽化した分や耐力壁として有効でない部分も撤去して、土壁を半分程度まで減らした。これにより撤去された土は4t車で4〜5台分にもなり、もとの建物重量の3割程度は軽量化されたと推定される。
今回は、腐朽が見られた柱の足元は切断し、損傷がひどい部位は金輪継ぎで柱を根継ぎを行い新設の真壁耐力壁内でホールダウン金物により新設地中梁と緊結した。。基礎配筋作業では建物をジャッキアップして、地中梁と全面べた基礎の配筋を行った。
既設の小屋組を利用(一部を除く)して、小屋組にも構造用合板を打ち付けた。これは階下の耐力壁と重たい瓦屋根を連結し、耐力壁を有効に働かせるための補強である。
屋根面・床面にも構造用合板を打ち付けて剛床がとれるようにした。この建物では、2階床はもともと梁が落し込みになっていたので、比較的作業が楽であった。
このように、古い民家では各部の寸法が一定でないなど、施工が難しく一筋縄ではいかないものだが、今回は施工した大工さんがその能力を存分に発揮して工事にあたってくれ、美しく建物が生まれ変わった。