No.23 T邸 新築工事

2002年10月
構造材に「ともいきの杉」を使用した 2建て新築
意匠設計(株)水上建設
構造設計木構造建築研究所 田原(担当: 村田)
施工者 (株)水上建設

本建物は「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)における申請等はしていないが、(財)日本住宅・木材技術センターより平成13年12月に発行された『木造軸組工法住宅の許容応力度設計』に準じて構造計算を行い、耐震・耐風とも最高等級を確保。



本建物の架構体における材料は、京都府美山町産の「ともいきの杉」を使用し、構造設計により地域材の可能性を引出した建物となっている。

全国的に見れば無名の産地ではあり、心材部分(植林後の15年程度)の年輪は平均的な幅だが、それ以後外周部・辺材部分における年輪の緻密さは、構造的に見れば有名産地の杉にも劣らない年輪構成である。

その辺材(未成熟材)を利用して2間以上のスパンを構成している。

特に、曲げ引張応力に強い年輪の緻密な外周部分を梁材として利用することにより、構造的な可能性は大きく広がると思われる。



本建物の主な耐力壁は、半割筋かいである。

力の作用する方向で耐力の差が生じるので、左右の方向にバランス良く配置することが重要で、特に2階梁スパンの中間部に筋かいが取り付く時(筋かいが取り付く柱の下階に柱が無い場合)は、梁の曲げ剛性を考慮し、筋かいの耐力を適宜低減することが必要となる。(上図)



2階耐力壁上部の小屋裏は、耐力壁への水平力を伝達できるように、3角形の構造用合板を利用し水平力の伝達を確保している。

(従来のような雲筋かいだけでは、屋根からの伝達される水平力が十分に伝達できない)

このことは、旧建築基準法から平成12年に大改正された建築基準法に引き継がれた問題点の1つであり、まだまだこの最低限の規定を守っているだけでは、木造住宅の構造的な問題点が全て解決できた訳ではないことを理解しなければならない。



本建物においても2階床と屋根野地板は、木構造建築研究所 田原が開発した「杉厚板+流しダボ」による床仕様で、床の剛性を確保している。(実験での性能を見る)

一般的な杉厚板貼りだけでは剛性が確保できない為(床の剛性に杉板のサネや斜め隠し釘はあまりきかない)、「流しダボ」という工夫をして杉厚板のずれを防ぎ、剛性を高めてある。



 

本建物においても、上図のハッチング部分に該当するブリッジ構面(居間の吹き抜けと階段で挟まれた部分)があるため、その床の剛性を高めるため、構造用合板直張りの上、さらに下部より構造用合板を張り上げる2重張りとして、床倍率3.0倍以上の性能を持たせることとした。

さらに接合部での破壊が生きないように、接合部においてもホールダウン金物(15kN用×2)で開口部補強としてブリッジゾーン周辺を緊結(存在床倍率に対する必要接合部耐力から選定)して、その安全性を確保している。



今回は面格子を耐力壁のみではなく、合成梁としての性能を持たせるべく、≒5.7mのスパンを飛ばしている。



 

本建物の構造性能は、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)で定められた構造の安定に対する性能によると「最高等級」で評価することができ、「指定住宅性能評価機関」への申請は省略したが、当事務所の非常に厳しい構造監理の結果、前述の目標等級は実質確保されたと自負する。

また、この木造住宅に関しては、施工者の技術レベルが非常に卓越しており、叶上建設は新しい工法や技術等を理解して、高度な設計にも対応でき、さらに他の工務店ではあまり出来ない構造設計者への技術的な提案もできる。

この住宅における加工は、全て職人の手刻みで行なわれ、その腕の良さには本当に感心させられるものがあった。

この様な質の高い住宅が出来たのも、ひとえにこの様な優秀な施工者がいたからであり、現在では優秀な職人を持つ工務店が少ない中で、稀有な工務店である。

 ©Tahara Architect & Associates, 2003