白骨温泉 集客に薄日
2004年7月、白骨温泉の一部の施設(露天の公衆浴場と数軒の旅館)で白骨温泉独特の乳白色の温泉にするために入浴剤を使っていたのが発覚した。

これをきっかけに全国で偽装問題が相次いで発覚し、社会的な問題にまで発展、行政もようやく重い腰を上げた。

その当事者、白骨温泉にようやく薄日が差し始めたようだ。それぞれの施設や旅館組合などが食事やサービス改善などの努力を重ね、来客が増加に転じたのだ。

白骨温泉は、上高地や乗鞍高原と並ぶ松本市の貴重な観光資源。温泉復活の兆しに胸をなど下ろす関係者は多い。

発覚した2004年の7月〜12月の温泉利用客は前年同期比で4割減った。
写真の斉藤旅館は事件に関係ない。
偽装していた野天風呂(撮影は偽装発覚後)
それが、2007年1月〜2月は35%増、2006年通年でも前年比7.5%の299,300人と6年ぶりに利用者が増えた。
ピークの2000年の49万人には遠く及ばないが、松本市では「ようやく底入れした」とみる。


地元が取り組んだ施策は地味なものだ。

●それぞれの旅館が源泉情報をインターネットで公開した。
●食事や接客などのサービスを見直した。
●客が渓流を散策できるように林道を整備した。
●旅館の女将が交代で温泉粥を作って無料で振舞った。
●東京や名古屋などの旅行雑誌の出版社など20社以上を回って売り込んだ。


客足は戻りつつある。
それでも老舗の「湯元斉藤旅館」の社長は「 利用者はピーク時の6割。本当の信頼回復はまだこれから」と慎重だ。

白骨温泉の復活は周辺の観光地にとっても重要だ。
2005年4月の市町村合併によって、上高地・乗鞍高原・白骨温泉は松本市に組み込まれた。

この内、上高地は全国でも有数の観光地であり、白骨温泉の浮沈に直接左右されるわけではない。だが、上高地観光旅館組合は「観光の広域化は今後ますます重要になる」と指摘すし、白骨温泉の復活を願っている。

有名スポットを駆け足で巡る日帰り観光客は地域にとってうまみが少ない。温泉地は宿泊客の確保に欠かせない武器となる。
白骨は白(湯)船から由来するという説がある。
事件に関係ない老舗の「新宅旅館」の典型的な白骨温泉の白濁温泉。平日とは言え、客は数組のみ、4回の入浴全部で風呂を独占した。
白骨温泉の入浴剤事件の背景には、一時の温泉ブームで客が急増したのに浮かれ、最も大切な資源である温泉の価値を軽視したことによる。

この事件をきっかけに、行政の指導や法整備が行われ、全国各地でも温泉の情報公開が積極的に行われるようになった。
例えば、白浜温泉では各風呂ごとに加水・加温・滅菌・着色・循環の有無などが浴室に貼りだされるようになった。

私が白骨温泉に宿泊したのは、事件発覚からほぼ1年後の2005年5月、客の落ち込みが激しい時だった。

数日前に問題の公共の野天風呂が再開したときで、入口には「当面無料」、浴室には「撮影禁止」の貼り紙があって、温泉地全体がピリピリしているときだった。

橋の上から撮影した「白骨温泉野天風呂」
朝晩に温泉街を散歩したが、背後に乗鞍岳が聳え幾重にも連なる山々、標高が高く冷涼な空気、深い峡谷と渓流、緑深い傾斜地に旅館が点在していて、まさに秘湯の雰囲気だ。
それに。着色事件があったとはいえ、せべての旅館が源泉掛け流しには変わりは無い。
宿泊した旅館の見事に白濁した温泉となかなかの設備・サービスと料理、それに野趣豊かな野天風呂・

それらを総合すると、白骨温泉は名湯と秘湯の両方を備えた素晴らしい温泉地だ。
さらに、乗鞍高原は指呼の距離、上高地にも近い。

事件に関わらず、安心して推薦できる温泉地であり、一刻も早い完全復活を願って止まない。
日経新聞(2007・03.26)を編集・加筆