「…お前の体の事だ。俺はちゃんと聞いた」
「…その…まだ、…大人の女になってねえから…手を出すとお前の体に良くないって」
ゾロがそう言うと、サンジの表情がほんの僅かに強張った。
「…それは…ちょっとだけ聞いて、…あんまり詳しくは聞いてねえけど…」そう答えて、また不服そうに口を尖らせる。
心臓の鼓動は、一向に治まりそうになく、自分の耳にさえドクンドクンとやかましく響く。
いつも、自分の思い通りに動いてくれる腕や掌は勝手に不埒な動きをしようとしていて、
気を抜けば、包むように抱いているサンジの体をまさぐってしまいそうだ。
「…言ってみろよ。お前、チョッパーに何を言われたのか、全部言えよ」
「…それはだな…」
サンジに急かされて、ゾロは生唾を飲み、何をどう話すべきかを考える。
(…ええと…何を言われたんだっけ…)と、かなり命に関わるような事を言われたような気がするのに、余計なところに血が巡っていく所為か、頭が全く回らず、すぐには思い出せない。
同じ言葉ばかりがぐるぐる頭の中を回るだけで、今にも臍を曲げそうなサンジと、サンジを欲しがる体を宥められる言葉が全く出てこない。
それどころか、手と腕だけでなく、目もずっとサンジに張り付いたままで、瞼を閉じる事も目を逸らす事も出来なくなって来た。
(…ホントに、こいつの体に良くねえんだ)
(だから、しちゃダメなんだ…!)
ヤるだけが、満足する方法じゃねえ。それ以外の方法は…いくらでもあるだろ。
頭の中ではそんな言葉が浮かぶのに、モノを考える場所以外の肉体の全てが、
サンジを猛烈に欲しがっている。脳味噌だけでは、まして理性だけでは到底押さえきれない。
「…お前の体、外見は16くらいらしいが、…その、成長の具合はまだ10才そこそこらしいじゃねえか」
「…ああ、それは知ってる。自分で自分の体をみたらわかる事だからな」
「でも、それがどう体に悪イんだよ」
サンジにそう言われて、ゾロは「…う…」と言葉に詰まる。
そんなゾロの様々な事情など、元々ゾロよりもずっと性欲が希薄なサンジには伝わり辛い様で、みるみる表情が曇っていく。
そして、とうとう、「…もういい。わかった」とやんわりとゾロの腕は解かれてしまった。
「…みっともなく言い訳ばっかされるのはもう沢山だ」
「…別に、…お前とどうしてもヤりてえ訳じゃねえ」
「…ただ、自分が自分でなくなっちまったみたいな心細さをどうにかしたかっただけだ」
「お前が、ちゃんと俺は俺のままだって言ったから、…もういいよ」
もういいよ。
そう言いながら、サンジは少しもそう思っていない。
諦めた様な、寂しげにも投げやりにも見える顔を見てゾロの胸がキュンと痛くなる。
口先や、表立った行動では全く気にしていない風を装っていても、心細く思っていて当然だ。
この体では、ナミやウソップよりも戦闘力が落ちる。
だからと言って、仲間達の誰一人それでサンジの価値が下がるとは全く思っていないのに、
それでもサンジは戦闘の時、自分が役に立たなくなった事を気に病んでいる。
少女の体になっても、サンジはサンジだ。その存在価値は全く変らない。
何度もルフィやナミにそう言われて、その都度、「…わかってるよ」と明るく答えていたのに、やはり、それだけでは落ち着かない気持ちを鎮める事は出来なかったのだろう。
ゾロの言葉なら、ゾロが「お前はお前のままだ」と言ってくれたなら、信じられる。
このままの姿でも、何も不安に感じることもなく今までと変りない気持ちで生きていける。
そう思うから、サンジはゾロの言葉を聞きたいのだ。
温もりと一緒に、ゾロの言葉を心と体で感じ取りたいのだ。
その為に、ゾロと抱き合いたいのだ。
それなのに、ゾロは口付けを途中で止めた。だから、怒った。
サンジのそんな気持ちが分かった途端、恥ずかしいと思っていたサンジへの渇望が少しづつ、鎮まっていく。
肩幅が華奢になった。胴回りが細くなった。
顔も頭も小さく、両掌ですっぽりと包めるくらいに小さくなって、腕力も痛々しい程に弱い。
けれど、この腕の中にいるのは、世界でたった一人しかいない、サンジと言う人間だ。
それは絶対に揺ぎ無い事実だ。
愛しさには全く変わりがない。
いや、それに労わりが素直に重なって、ますますサンジに優しくしたくなる。
サンジが望むなら、なんでも叶えてやりたい、そんな思いが込み上げてくる。
「世界中の全部の人間が、俺を見て、お前はもうお前じゃねえって言っても、」
「…お前が俺を見て、ちゃんと俺だって思っててくれるなら、…それで良かったと思ってたんだ」
サンジのその言葉で、ゾロの中の躊躇いが完全に消えた。
欲望でも肉欲でもない。サンジの心と体に、自分の本当の想いをしっかりと伝えるのなら、
その方法を取るのに、やましく思う事は何もない。
「…わかった」と、ゾロはただ頷いた。
例えどんな姿になろうと、サンジが愛しい。
愛しいのなら、愛しいとそう言えばいい。
言葉で言ってしまえば、余りにも軽すぎて、嘘臭い。
それなら、いっそ、そんな言葉など使わない方がずっといい。
ゾロは、もう一度サンジの唇を塞いだ。
新しい体の形を覚え、確かめる様に腰に手を添えて、抱き寄せる。
息が出来ない程熱くて、苦しかった欲望の波にはもう流されない。
サンジが欲しい、と言う感覚ではなく、サンジが欲しがるモノをサンジが満たされるまで
与えたいと言う欲望がゾロの体を動かし始める。
理性と、欲望と、愛しさがゾロの中で穏やかに均衡を保ち、サンジを求める。
解きにくいネクタイもなく、かすかだけれど金属音を立てるベルトのバックルもなく、
サンジの体を包んでいるのは、頼りない薄布だけだ。
女が着ける独特の下着もまだ必要ないのか、それとも窮屈で我慢ならないのか、サンジは
身につけていない。柔かく、温かい膨らみは掌にさえ余る。
(…今までどおりにやりゃいいんだよな…?)
その膨らみの感触を手で確かめている最中に、ふと思った。
どこをどう愛撫すれば、この新しい体は歓喜するのだろう。
心の中では、そんな迷いがあるのに、ゾロの体は男の本能の赴くままに、サンジの体を開発しようと勝手に動く。
首筋に唇を這わせ、耳たぶを甘噛みし、ゆっくりとただ体を隠していただけの愛らしい布を取り去った。
そして、上から覆いかぶさるようにして、じっくりとサンジの体を眺め下ろす。
「…ジロジロ見るなよ」サンジはそう言いながら、ゾロの両頬に手を伸ばしてくる。
胸に抱き寄せれば、見下ろされる事もなく、体を検分する様に見られずに済むと思ったのだろう。
穴があったら入りたい、とでも言いたげにゾロを見上げる顔は、薄紅色に染まった頬が初々しくて、ゾロの心臓がまた不埒にもドキリと鳴る。
ゾロの心の均等がまた崩れそうになって来た。
「…いいだろ、別に」照れ隠しにそう答えながら笑って、自分の右頬に触れるサンジの左手を握って、軽く口付けし、
「今のこの姿にも慣れときてえんだよ。抱く度におっかなびっくり触るのは面倒だからな」
肌の感触としなやかな腕の細さを確かめる様にゾロはゆっくりと掌をサンジの腕に沿わせ、
背中に腕を回して、いつもとは比べ物にならない程緊張しているサンジの心を解そうとゆっくりと抱き締める。
サンジの心臓の音は、やはりゾロが思ったとおり、いつもよりもずっと強くて早い。
それにつられて、ゾロの心臓の鼓動も早く、強くなってくる。
体をぴったりと密着させると、サンジが僅かにビクンと体を強張らせた。
それでも、素直に足を割り開く。
本物の男性経験のない少女なら、男にこうして上から覆いかぶさられて、抱すくめられても、その男の体を挟むように足を開いたりはしない。
けれども、今、ゾロが抱いているのは年端もいかない処女の体であっても、中身はサンジだ。
体は成長過程でも、ゾロとの行為にはサンジの記憶で体を動かしている。
当然、今、ゾロの勃起した男性器と、サンジの陰毛さえまばらな秘所が触れている状態になった。
「…お前…相変わらず、…凄エな」呆れているのか、驚いているのか、おびえているのか
分からない複雑な声でサンジにそう言われ、
「…いきなりブチ込むような事はしねえよ」とゾロは余裕ぶって、その時は笑えた。
だが。
以前のサンジの体は、ゾロが弄くって快感を感じる様に仕込んだ箇所がいくつかあった。
例えば、乳首がその一つだ。
舌で転がしたり、吸いながら甘く噛んだり、指でつまんだり捏ねたりしたら、それだけで
雄の性器からタラタラと雫を零すくらいに敏感だった。
乳首以外にもそんな場所があるけれども、今のサンジの体は本当にまっさらで、
ゾロが開発した場所をどんなに愛撫しても、体には全く反応がない。
薄桃色で柔かく、愛らしい乳首の先端が少しピンと硬くなっただけで、喘ぎ声一つ出さない。かといって、「感じねえのか?」などとは男の沽券に関わる。死んでもそんな情けない事は聞きたくない。
(…仕方ねえ)
ゾロは自分を落ち着かせる為に、胸の中一杯に空気を吸い込む。
(…どうなってんのか、わかんねえけど、そこをなんとかすりゃどうにかなる…筈だ)
そう思って、毛布の上に横たえたサンジの体をもう一度、じっくりと上から眺める。
背けられた頬、細い首、丸い胸の膨らみ、滑らかな肌に穿った臍…と視線を移して、
ゾロの目は、サンジの両足の足の付け根の内側付近で止まった。
少し長いくらいの産毛が肌が透けて見えるほど微かに生えていて、これでは、まだ素っ裸で水浴びくらいはしそうな程幼い少女の体そのものだ。
それなのに、勝手に生唾が口の中に湧き出て、ゾロはそれをゴクン…と飲み込む。
(…ヤベえな。こんなガキの体に欲情するのって、相当ヤベエぞ、俺)
そう思ったけれど、すぐに(…いや。中身はあいつなんだ。別にヤべえ訳じゃねえ。俺がこんなになってるのは、…あいつだからだ)と迷いを振り切る。
そっと、産毛を撫でてながら、顔を近づける。
「…おい、…そんなトコ、見んのか」サンジが慌てて体を起こそうとするのを
「見ないで、弄れねえだろ。…ちょっと黙ってろ」とゾロは厳かに言って、押し留めた。
ゾロにしてもはじめて見る、初めて触るモノだ。柄にもなく、緊張している。
そこへ顔を近づけ、指を添え、そっと閉じた貝の様に見える薄い肉を開いていく。
「…ど…どうなってる?」
サンジはなすがままに横たわったまま、上ずった声でゾロにそう尋ねて来た。
自分の体と言っても、いや、この体になる前も、そんな若い女性の体の、そんな場所は見た事はサンジにもない。
今ひとつ、快楽を感じられず、ゾロとの行為に没頭しきれないでいたから余計につい、
興味がそそられたのだろう。
「…なんだか、美味そうだ」
ゾロはそう答えて、その中に唇を押し付けた。
中々自ら潤う事のないその幼い場所をどうにか湿らそうと、ゾロは唇と舌で底を深く、滑らかに愛撫する。飴玉をしゃぶるような音が立つ程、十分に湿り始めると、徐々にサンジの内太腿辺りが桃色に染まっていく。
その頃になると、もう、ゾロの頭の中は何も考えられなくなってきた。
サンジと一つになる事以外は、何も考えられない。
細い腰に手を添え、脇に足を挟んで、自分の先端をぐい、と十分に湿らせた筈の場所に押し付けた。
そのまま、力任せにねじ込もうと腰に力を入れた時。
「…いっ!」サンジの足が突っ張り、体が弓の様にしなった。
ゾロの体を断固として受け付けない、とでも言う様に、いくら押し付けてもねじ込もうとしても、その蕾は一向に解れそうにない。
無理だ。これが、こいつの体に悪いって言う事か…
頭では冷静にそう思うのに、体が言う事を聞いてくれない。
是が非でも、サンジの体に入りたい。体の一部をねじ込みたい。
つい、さっきまでは実に上手く均衡が取れていたのに、ついに制御出来なくなった。
ギチギチ…と肉が裂ける様な音がしていても、ほんの先端が入っているだけで、少しも気持ち良くはない。凄まじい圧迫感と、焦りと渇望とで、体が暴走していく。
もう理性だけでは制御出来ない、止められない。
「…痛エ!…も…ダメだ、無理だ…!」
毛布を握り締め、ゾロのなすがままにひっくり返されたりあお向けにされたりしていても文句も言わずに我慢していたけれど、とうとう、サンジが悲鳴をあげた。
「…無理じゃねえ!」と言いはしたけれど、どうしようもない。
けれど、毛布の上に数滴、真っ赤な鮮血が零れていたのに気付いた。
「…もう…ちょっとだから、我慢しろ」
そう言って、ゾロは横たわったサンジを抱き締めて、最初に交した深く、熱い口付けをする。
お前だから、欲情するんだ。だから、受け止めてくれ。
唇でそう伝えて、ゾロは熱と欲望の全部を、サンジの体に吐き出した。
「…最後までヤれなかったけど、…まあ、いいや」
「こうしてるのは最高に気持ちイイからな」
体を綺麗に拭ってから、お互いの服を身につけてから改めて横になり、どちらからともなく腕を伸ばして、自然に抱き合うと、ゾロの胸に顔を埋め、サンジはそう言って本当に安心したかのように目を閉じた。
その様子を見て、ゾロは胸を撫で下ろす。
サンジは安心したかも知れないが、ゾロの胸には言いようのない不安と焦りが込み上げてきた。
(…このままじゃダメだ。俺が…)全然満足出来てない。
それに、あんな行為で満足されてしまっても、これからどこまで求めればいいのか、何をすれば応えてくれるのかをいちいち考えなければならないのも、先々困る。
(…全く…)
煩わしいとは思わないけれど、どうしてこうサンジとの恋路は頭を悩ますような厄介な問題の連続なのだろう。
多分、そう言う運命なのだ。
厄介事と問題、そして試練の連続。その都度、それを越えて、絆を深めていく。
それが、ゾロとサンジの恋の本質なのかも知れない。
(仕方ねえ。そう思う方が、なんだって受け入れて行く方がきっと、楽だし、楽しいか)
ゾロはそう気を取り直し、腕の中で微かな寝息を立て始めたサンジの顔をそっと見つめる。
そうすると、不思議に気が安らいで、ゾロは静かに瞼を閉じた。
(終わり)