とにかく、一旦、喧嘩になり、それの収拾がつかなくて、お互いムカついたままだと、
相手のやる事なす事、腹が立って、普段なら気にも止めない事がイチイチ気に障って、
頭ごなしに否定したくなる。
そんな事をしたら余計にコジれるのに、そうせずにはいられない。
相手がムカつけばムカつくほど、こっちの腹がすっきりする様な気がして、
相手が必死になっている状況を鼻で笑ってみたり、相手の価値観をバカにしてみたり。
いつもなら、絶対にそんな愚かな事はしないし、それはただの意地悪で、
本心とは全く違うのに、そんな態度を取ってしまって、
ますます相手との空気が悪くなってしまう。そんな事がある。
どんなに深く分かり合っている間柄でも、いや、わかり合っている間柄だからこそ、
そこまで幼稚にぶつかりあっても、お互い無意識に、
(ま、そのうち機嫌も治るだろ)とタカを括っているので、余計に周りの者から見ると、騒々しく、見苦しい諍いが無駄に長い時間続く。

「てめえなんか、魚の餌になれば良かったのに」
「てめえこそ、潮の渦に巻き込まれて一生グルグル回ってりゃ良かったんだ」

嵐の日に、海に投げ出され、必死に近くの島に泳ぎ着けば、そこにサンジがいた。
多分、海流が自然にその島に漂流物を運ぶようになっているのか、ゾロも
瓦礫に掴まって海を漂っているとごく自然にその小さな無人島に流れついて、
お互いの顔を見た途端、縄張りを侵された野犬の様に歯を剥き出して罵り合う。

喧嘩の発端は、ゾロから見れば、「サンジが約束を破った」で、
サンジから見れば、「ゾロがナミさんから預かった大事な金を落とした」事。
待ち合わせ場所に大幅に遅刻して来たサンジをゾロがなじり、それでも、
必要な買い出しを済ませて、誰にも気を使わない場所へ行って、
落ち着こう、と言う事になり様々な物資を買いに行った所、
「なにイ?金がねえ?ナミさんから預かってたんじゃねえのか?!」
いざ、金を払おうとした時、ゾロがその金の入った財布を何時の間にか無くして
いた事にサンジがまるで、泥棒を責める役人のような顔つきで、
さっき詰られた仕返しとばかりにゾロをなじった。
「いつ来るかわからねえてめえをじっと待ってる訳ねえだろ、あちこちウロウロ
してる間に落としたんだ!てめえがさっさと約束の時間通りに来てりゃ、
俺だって時間つぶしなんかしなくて済んだんだろ!」と、
お互いが自分の正当性を主張し、自分の非は相手の落ち度の所為だと言って譲らず、
この無人島にまでその喧嘩は持ち込まれた。

「この線からこっちは俺の領地だからな、入って来るなよ!」
「誰がマリモ王国なんかに入るか、そっちこそ、一歩でも俺の領地に入って来るんじゃねえぞ!」
貝殻の破片でびっしりと覆われている海岸にゾロは流木で長い線を引き、
小さな無人島を二分に分ける。
(謝るまで顔も見たくねえ)とお互いが思っているので、その線を境にフイと
顔を背けて好き勝手な方向へ歩き出した。

とても小さな島で・・島と言って言いのか分からない程その島は小さく、
ゾロがブラブラと歩いて島を回っていると、反対側から歩いてきたサンジと
2時間後に島の裏側の磯で鉢合わせになったくらい、その島は小さい。
「てめえ、その岩からこっちに入って来るなよ!」とサンジはゾロの顔を見るなり、
いきなり、少し大きめの岩を指差してそう怒鳴った。
「ああ?!」さっきの線からどこをどう考えて、なんの根拠があって、この磯を
自分の領土だと言い張るのか、ゾロはサンジに高圧的に何かを言われた、ただそれだけで腹が立って頭に血が昇って、こちらも訳のわからない理屈を捏ねた。
「この岩からそっちがてめえの領土だって誰が決めた?!」
「てめえこそ、でかい面して人の領地に入って来んじゃねえよ!」と言い返す。
「フン」とサンジはゾロを小鼻で笑った。
「この磯で何か食えるモノを見つけられるのか?」
「見つけられても、食える様に出来るのか?マリモ王国の王様よ」
「俺にエラそうに言って、飲み水を確保出来るのか?」
「てめえに助けてもらわなくても、ナミ達が来るまで余裕で生き延びられる!」と
ゾロは喚いた。
「助ける気はねえよ、食いモノの水も輸出してやるって言ってんだ」とサンジは飄々と
言う。
「輸出だあ?」とぶっきらぼうに聞き返すと、相変らず、人を馬鹿にした様な態度で
「マリモ王国の王様が俺に謝ったらな。"俺が間違ってた。お前が正しい"ってな」と
言うから、またゾロの頭にカっと血が昇った。
「なんで俺がてめえに謝らなきゃならねんだ、フザけんな!!」

何がなんでも相手に謝らせてやる。お互いがそんな執念と意地を剥き出しにして
一歩も引かない。
とにかく、相手のやる事なす事腹が立つ。

その割りに、サンジがその磯でずっと食料を摂っているのをゾロは側で見ていた。
不思議なもので、ある程度の距離を取っていれば、サンジはゾロに何も言ってこない。
まさに「縄張り」に入って来るか、来ないか、その差だけらしい。

その磯の岩盤はやたら固いらしく、長い年月の風雨や潮の浸食も殆ど見られない。
普通なら、不規則に穴があいていたり、脆くなって崩れたりするものなのに、
頑丈そうな岩が姿を一切変えないままに、デンと居座っている。

「お!」と「サンジの領地」の方の岩陰からサンジの声がした。
ゾロは無関心を装う為に岩の天辺でごろりと横になっていたが、その声で体を
起こした。(何か珍しいモノでもあったのか?)とすぐ側には行かず、
サンジの姿が見える場所まで岩場を伝って移動してみる。

サンジは大きな岩と岩の間を覗き込んでいた。
その目線の先にはヌラヌラと光る灰色の尾びれが見える。
「イルカだ、いや、鯨の子供かも知れねえ」とサンジはゾロが聞えている、
自分を見ている、と確信しているのか、その生物を見据えたままでそう言った。

(だからどうした)とゾロはサンジが自分の行動を全てお見通し、と言う態度なのが
まず、気に入らない。返事もせず、じっと身を屈めたサンジの後ろ姿を見ていた。

「挟まって動けねえんだ。魚ならともかく、潮が満ちてきて、挟まったままだったら
死んじまう」と言ってやっとサンジは振りかえった。
「知った事か」とゾロは顔を背けた。
「お前、刀は?」とゾロの態度など全くお構いなく、サンジはゾロにそう尋ねる。
「船に置いてきたに決ってるだろ」と憮然と答えると、サンジの眉間が険しく曇った。
「それでも剣士かよ、使えねえな!」と言われて、ゾロは咄嗟に言い返せない。
どんな時でも例え、刀一振りでも身につけて、いつでも戦える状態でなければならないと言うのは間違っていないからだ。
「泳いでるうちに靴、失したし・・・結構、固エし・・でも、仕方ねえな」
「おい」サンジがブツブツ言いながら、イルカの子供が挟まった岩の硬さを
手で確認したので、ゾロは思わず「蹴り砕く気か」と聞いた。
「お前エには関係ねえだろ」と今度はサンジが顔を背ける。
「そんなイルカ助けてなんの得があんだよ」とゾロは苦々しい顔を装ってそう言った。
「この磯に来て、岩に挟まって死ぬって言うのが自然の摂理とかってヤツだろ」

普段なら、ゾロもきっといたいけな子供のイルカを見捨てる事はないだろう。
とにかく、相手のやる事は間違っていて、自分が正しい、と常に正反対の意見を
どう正当に言い切って相手を理屈でねじ伏せて、「俺が間違ってた」と言わせるか、の
勝負になっている。
常に自分がサンジよりも正しいのだと言いたくて、それを主張する事しか頭になかった。
恐らく、今、ゾロが「俺が助けてやる」と言ったら、サンジはもうそのイルカを助けようとはせず、「岩場から抜け出したら、食っちまう」と言い出すに決っている。
そんな事で頭が一杯になっているのだから、ゾロに「放っとけ」と言われたら
足がどうなろうと、意地でもこのイルカを助けずにはいられない、とばかりに
サンジはますます意固地になる。
「俺がコイツを見つけたのも、自然の摂理だ」と言ったかと思うと、サンジは足を
大きく振り上げた。そして、一度、二度、三度、・・・と10回ほど素足のままで
異様に硬い岩盤に踵を打ち付け、どうにかイルカの子が挟まっている岩を蹴り砕く。
膝まで浸かった海水にサンジの血がゆらゆらと浮かんでくる。
それにも構う事無く、サンジはイルカの子の尾びれをギュ、と脇に挟んで
ズルズルと岩場から引きずり出した。拘束から自由になった途端、イルカの子は
ビチビチと元気に身をくねらす。サンジはそっと、その体を海に浸し、ゆっくりと
手を離した。
「ピ・・・・――――」と長く、笛を吹くような声がそのイルカの子を沖合いから
呼んでいる。その声のする方向へイルカの子は一直線に泳いで行く。
サンジの踵は割れ、そして岩の破片で切れて血まみれだ。
ゾロは岩の上で自分の靴を脱いだ。
「輸出か、これは?なら要らねえぞ」とまた可愛げの無い事をサンジは言う。
「謝らなくてもいい。履け」
「いざって時にちゃんと使える様に武器ってのは大事に扱うもんだ」と言って
岩の上からサンジを見下ろし、ポイと一つにまとめてサンジに投げた。
サンジはそれを片手で器用に受取り、まだ何か言い足りない様な顔つきをしていたが、
恐らく、(それに関しては間違って無い)と思った様で、そのまま、ジャブジャブと
岸まで歩いて行き、ゾロの靴を履いた。
「それでも剣士かよ、使えねえな!」と批難されて、納得して言い返せなかったゾロと
全く同じ気持ちだったに違い無い。

だが、それだけで仲直り出来る程、二人とも単純ではないし、甘くも無い。
サンジはそのまま、礼も言わずに勝手にスタスタと歩いて、森の中に入って行った。
サンジが何をしに森に入ったか、(水か、水に替わる食いモノを)探しに行ったのだ、とそれくらい、いちいち尋ねなくても、ゾロには分かる。

それから、数時間後。もう、日が傾き、空が朱鷺色と夜の色が混ざり始めた頃だった。
ゾロは、少しでも自分達を探す仲間の目印になるようにと、大きな火を焚こうと
海岸に流木を集めて積み重ねていた。
(そういや、あいつと空島で樹を組んだっけ・・・)とふと、そんな事を思い出す。
もうそろそろ、憎々しい顔で見られるのも、罵られるのも、飽きて来た。
だが、謝るのはあくまでサンジで、自分は一切、謝るつもりはない。
(どうしたもんか・・・)と高く積み上げた流木を見上げ、腕を組んで、ゾロは考える。
(あの意地ッっぱりが頭を下げてくる訳ねえし)自分が飽きているのだから、きっと
向こうも飽きている。それでも、自分が謝る気がないのと同じで、サンジも絶対に
ゾロに謝ろうなどとは思っていない筈だ。

腹が減ったな・・・と自分が引いた境界線の際に座り込んで、ゾロはふと、サンジが
入って行った森の方へと目を向けた。
暗くなって来たし、もうそろそろこの海岸へ戻ってくると思うのに、まだサンジの気配は感じられない。

(・・・ん?)
さらに自分の感覚を磨ぎ済ましてサンジの気配を探ると、森から只ならぬ怒りの気配が漂って来る。(なんだ・・・?この気配は)と気に掛ってゾロは立ち上がった。
積み上げた流木から、1本だけ扱い易そうな棒を選んで手に握る。

この島には、サンジと自分、そして森の中に獣がいるだけだ。
この島に住む獣を、別の獣が怒り狂って追い駆けているにしては、異様過ぎる敵意に
追われているのは(あの野郎、)サンジだと確信して、ゾロは松明も持たずに
小さな貝殻の破片を素足で蹴散らして、どこよりも闇が深い森へと走った。

森に足を踏み入れれば、その気配はますます強くなる。気配だけでなく、樹木がざわめく音や、獣の咆哮などもずっと近く感じた。
そして、やはり追われているのはサンジだ、と言う事もはっきりと分かる。
(なにやってんだ、あいつ)とゾロはサンジの気配を頼りに森の中を突っ走る。

森全体が唸った。そんな音がすぐ側で獣の咆哮が聞こえた。
「このクソ馬鹿犬!」とサンジの怒鳴り声も。だが、その声には苦痛を堪えるような
響きが混ざっている。
森の樹木を掻き分け、掻き分け、ゾロは突き進む。
素足に樹木の根っ子や石コロが痛いが気にしてはいられない。

サンジは大きな樹の上に駆け上がっていて、太い枝の上から巨大な犬を見下ろしていた。
犬は渾身の力を篭めて、その樹の幹に体当たりを繰り返している。
その度に、サンジが登っている樹がグラリ、グラリと大きく揺れ、サンジもバランスを
なんとか樹から落ちないまいと必死になっている様だ。

「なんだ、そんな犬ッコロ一匹、倒せねえのかよ」とゾロが樹の上のサンジに
そう怒鳴って声を掛ける。
サンジは息を切らせて、その上汗まみれだ。それでも「てめえはすっ込んでろ!」と
怒鳴り返して来た。
犬、と言っても異様にでかい。犬ではなく、狼と言ってもいい種類だろうが、
それにしても、象ほどは大きいから、普通の人間なら本気で襲われたら、
逃げるより先に喉笛を噛み砕かれて死ぬだろう。
それでも、サンジなら顎を蹴り砕くとか、狼の肝臓を体の外から蹴り潰すとかして
簡単に倒せると思うのに、何故、噛み傷なのか、シャツの肩あたりがベットリと
血に濡れる程の怪我を負っているのか、ゾロには判らない。
判らないが、その「犬ッコロ」がサンジの肩を噛み、傷つけた、と言うだけで
腹の立つ対象がその瞬間、サンジからその「犬ッコロ」に移った。

樹の上でバランスを取っているだけにしてはサンジが辛そうな顔をしている。
それでゾロは急に昼間のことを思い出した。(足が痛くて踏ん張れねえのか)
それが分かった以上、サンジにとやかく言わせない。「犬っコロ」を一撃で
叩きのめしてやる、と一歩前に足を踏み出した。

「すっ込んでろっつっただろ!」とサンジが喚いた。
その途端、一際大きく樹が揺れ、サンジがその揺れを利用して力強く枝を蹴る。
そして、その勢いのまま、「犬ッコロ」の脳天へ踵を打ち下ろした。
「だめだ、浅エ!効いてねえぞ!」とゾロは思わず声を上げる。
「・・・ッチ・・・」サンジは舌打しつつ着地したが、大きく顔を顰める。
着地の衝撃で足に激痛が走ったのだ。「犬ッコロ」素早く身を翻し、
サンジに歯を剥き出し、向き直り、すぐにサンジに襲いかかった。

ゾロは手に持っていた流木を力任せに「犬ッコロ」に投げつける。
「ギャン!」と思いの外、強い打撃を与えたのか、「犬ッコロ」は悲鳴を上げた。
そのまま、ゾロは一気に距離を縮めて、「犬ッコロ」に起き上がる暇さえ与えず、
拳で横っ面を張り飛ばした。
サンジはその攻撃を止めない。「脳震盪を起こした程度だな・・・」とペタリと
地面に座り込んで、「犬ッコロ」が白目を剥いて悶絶している様子を見て、
ほ、とした様に溜息をつく。

「説明しろ」とゾロはサンジの前に仁王立ちになり見下ろして尋ねた。
「何を」とサンジは肩の傷を手で押さえ、不服そうにゾロから目を逸らした。
「この有様はなんだ」
「なんだっていいだろ」とサンジはふて腐れた様にそう言って口を利かない。
「そうか、じゃ、この犬、食っていいんだな?」とゾロは顎で「犬ッコロ」を差した。
「ダメだ!」「なんでダメなんだ、訳を言え。でないと俺が食うぞ」

そう言われて、サンジは渋々話し始めた。

磯でも碌な食いモノがなかったから、森に入ったんだ。
そしたら、こいつの縄張りに踏み込んじまって、ちょうど、子供を生み落としたばっかりで気が立ってたこいつに襲われた。
まあ、母乳を出すのに栄養が要るから、俺を食おうと思ったんだろうけど、
こいつを蹴り殺したら小さなベビーウルフが腹を空かせて死んじまうだろうし、
それで、なんとか、脳震盪でも起こさせて逃げきろうとしたんだ。
でも、・・・足の踏ん張りが利かなくて、逃げるにしても足が言う事を聞いてくれなくて振りきれなかった。
殺すつもりで一発で仕留めるなら簡単だったんだが、間違い無く脳天に、
頭蓋骨蹴り潰さない程度の蹴りを入れる程高く跳べねえから、樹に登って
チャンスを伺ってたんだ。

「アホか、お前」とゾロは溜息をついた。
「それで噛み殺されたら洒落になんねえだろ」
「それより、」サンジはゾロを見あげて、ニヤリと笑う。
「俺は自然の摂理に従ってれば、あの馬鹿犬に噛み殺されてた筈だぜ?」
「なんで、お前はそれを助けた?自然の摂理に従うのが正しいんじゃなかったのか?」
そう聞かれてゾロは答えに困った。
数秒考え、「俺がお前に死なれたら困る、って思うのも自然の摂理だ」
「俺はそれに従っただけだ」とブツブツ呟くように言うと、サンジはますます
ニヤニヤと面白そうに笑っている。
「何がおかしい」と言いながらゾロはサンジの足からズルっ!と自分の靴を
引っ手繰る様に脱がせた。
「おい、今、足が痛いから苦労したって話したのに、靴を脱がせるのかよ?」と
サンジは眉を顰めたが、ゾロは構わず、サンジの体を乱暴に引っ掴んで肩に担いだ。
「その犬ッコロが目を覚ます前にここから離れなきゃまた追い駆け回されるだろ」
「大人しく、担がれてろ」と言うと、サンジは冗談めいた口調で肩に担がれたまま、
「俺を担ぎたかったら、まず、謝れ」と言う。
「サイフを無くしたのは俺がイラついてウロウロしてたからだ、俺が悪イ」
「これでいいか」と靴を履きなおしたゾロが億劫そうに聞こえる様な口調を装って
そう言うと、「あ・・・あ、それでいい」と拍子抜けしたようなサンジの声が
返って来る。もう、とっぷりと日もくれて、月明かりと星の明かりだけがたよりの
森の中をゾロはズンズン海岸目指して歩いた。
(お前も謝れ、と言ったらこいつは絶対謝らねえ)とゾロはふと、そんな事に気づいて、
「お前は謝らなくていい。女にかまけて俺をないがしろにするのもお前だからな」
「どんなに時間が遅れても、これからは怒らねえ。必ず来るなら、許してやるよ」
そう言うと、サンジはしばらく黙り込む。
ようやく、海岸について、何時の間にかゾロが引いた境界線が夜の帳の所為で
見えなくなり、積み上げた流木が全て燃え尽きた夜明け前にようやく、サンジは
「これからは・・・約束の時間には出来るだけ早く行く」とボソリと呟いた。

これでようやく、胸の痞えがスッキリする。
仲間が二人を見つけた次ぎの日の昼過ぎには、そんな仲違いの事などすっかり
忘れたかの様な、いつも二人に戻っていた。

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