どうも、皆さん、へそ。
やっと、このスカイピアももとの静かな生活を取り戻し、私も以前と変わりなく、
娘と穏やかな日々を送って、すみません。
あの賑やかな彼らは、今ごろ何をしているでしょうか。
彼らの遥か上空に暮らしていても、その姿を空から眺めるような訳ではなく、
可愛い娘と二人きりで寂しいと言う事もありませんが、少々、暢気過ぎる生活に
退屈しはじめて、すみません。
最近、「映像ダイアル」と「電信ダイアル」「音ダイアル」合体した
「テレビジョンダイアル」なるものがこのスカイピアに登場しました。
歌やら、演劇やら、エンジェル島のさまざまな出来事を1日中流しています。
そして、コニスさんには言えませんが。
夜中になると、ちょっと色々大人な番組も放送されたりするのです。
娘に隠れてそんなモノをこっそり見ているなんて、いい大人が恥かしい事です、
すみません。
けれども、そう言った娯楽的な番組を作って生活の糧にしている人達もいるのですから、
見てあげないと、その人達はどうやってお金を稼ぐと言うのでしょう。
そう考えると、これも一つの人助けと言えない事もありません、へそ。
もちろん、猥雑なモノが好みなのではなく、私はただ、お子さん方には少し、判り難いかな、と言う微妙な人間の機微をついた、ただ、無邪気なだけではない毒の含まれた
笑いが、今まで見たことがなかっただけにとても新鮮で、つい、夢中になって
見てしまうのです。
自分の単調な生活では決して起こり得ない刺激を、わたしはその映像と言葉、音楽から
提供される情報で得て、夜中にコニスさんが起きないように、クスクスと声を潜めて
笑っているだけなんです、すみません。
それに、こういった深夜に流される情報の中には、コニスさんと話題を共通できる事柄が多く含まれています。どんな洋服が流行っているのか、どんな歌が流行っているのか、
今最新のウエイバーはどんな形なのか、など。
そして、私の楽しみはもう一つ、こう言った深夜番組では、番組を見ている我々に
プレゼントをくれる事があるのです。ああ、勿論、誰にでもじゃあありません。
トーンダイアルに自分の声を吹きこんで、その番組を作っている所へ送ると、
抽選で色々、珍しい物、高価なモノをくれるのです。
(コニスさん専用のウエイバーがあれば)と私は思っていました。
私が使っているモノはコニスさんにはちょっと危ないのです。
もっと、安全で、もっとお洒落で、可愛らしく、扱いやすいモノがいいと思っていたけれど、自慢じゃないですが、うちは貧乏で、そんな贅沢なウエイバーなどとても
買えません。
たまたま、見ていた、好きな番組がありました。
このスカイピアではもう、今は知らない人はいないだろうと言うくらい有名な
若い男性二人が色々バカなゲームをしたり、未知の経験をしたりするだけの番組なのですが、台本のない、自然で馬鹿馬鹿しいやりとりが大好きで、いつも私はその
番組を見ていました。時々、水着の若い女性が出てくるので、コニスさんには恥かしくて、そんな番組が好きだなんて言えませんが。とにかく、その番組で、
女性用の可愛らしいピンク色の塗装をされたイルカの形をモチーフにした水陸両用の
ウエイバーをプレゼントしてくれる、と言うのです。
いくらエンジニアだと言っても、材料がなければウエイバーを作ることなど出来ないから、私は目を皿のように、耳の穴を大きくするくらいの気持ちで、そのウエイバーを
貰う方法を知ろうと必死になりました。
一つ、二つくらい、音ダイアルを送ったところで、とても貰えないでしょう。
私は、全部で20個もの音ダイアルにコンコンと娘の可愛さ、
そのウエイバーがいかにコニスさんに似合うかを吹きこんで、その番組に送りました。
当選したか、そうでないかは送ってくるかこないか、それだけしか知る方法がありません。「当選の発表は商品の発送を以って替えさせて頂きます。」と言うのですから、
私は、毎日、毎日、そのウエイバーが届くのを待ちました。
「父上、ありがとう。」とまだ、当たってもいないのに、コニスさんは私に
礼を言ってくれました。
「いや、まだ当ってないんですよ、すみません。」
「父上が私に、と送って下さったんですもの、それが嬉しいんです。」とコニスさんはスーを抱いて、ニコニコと笑っています。
「ところで、父上、なんの番組ですか?」と聞かれて、私はつい、
「お昼にやってる、人生相談の番組の懸賞ですよ。」と答えてしまいました。
下らない見栄を張る父親ですみません。
でも、待てど、暮らせど、そのウエイバーは届きませんでした。
満足に娘のモノを買ってやれないばかりか、娘の為に懸賞を送って、博打のように
モノを手に入れる事しか出来ない自分の不甲斐なさ。
「もっと、しっかりした父親にならねばなりませんね。」と言った私に、
コニスさんは、「懸賞が当たらないくらいで、そんなに落ち込まないで下さい。」
「美味しい野菜が取れて、毎日、太陽を浴びて暮らせる事以上に」
「幸せな事はありませんよ、父上」と言って、下らない事で落ち込んでいた私を
励ましてくれました。
そんなある日。
「パガヤさん、荷物ですよ~」と言う元気な配達屋さんが我が家に大きな荷物を
運んできてくれました。
一人では抱えきれないくらい、大きな荷物です。
もしかして、やっと、コニスさんのウエイバーが届いたのでは、と私は
歳がいもなく、ドギマギしました。
「コニスさん、開けて見ましょうか。」と箱に手をかけた時、(おや、)と思いました。
送り先の名前が私ではなく、コニスさんになっているではありませんか。
「ええ、父上。」とコニスさんは恥かしそうになぜか、モジモジしています。
箱を破いて見ました。
「これは、」と私はびっくりしました。
最新型の「テレビジョンダイアル」でした。
「どうしたんです、これ。」とおどろいて、コニスさんに尋ねました。
「父上がコッソリ、夜中に起きてテレビジョンダイアルを見てたでしょう。」
「だから、もっと大きくて立派なモノをプレゼントしたくて。」
「でも、私そんなお金ないから、父上のように、懸賞に応募してみたんです。」
「夜中の番組のプレゼントのコーナーに。」
どんな番組かなんて、とても父上には言えません、とコニスさんは恥かしそうです。
詳しく聞くよりもなによりも、コニスさんが私の為に、と応募してくれた事が
とても嬉しかったのです。
きっと、コニスさんの事ですから、よその空島のお洒落な情報系の番組に違いありません。
「ありがとう、コニスさん。」私はその懸賞品を調整しながら、心からコニスさんに
お礼を言いました。
「父上、そんなに面白い番組なら、折角こんなに立派なモノが手に入ったんですから、」
「今度から一緒に見ましょうね。」
そう言って、無邪気に笑うコニスさんですが、父親として夜中にバカ笑いしている姿を見せるのはやっぱり抵抗があります、すいません。
「コニスさんの好きな番組ってどんなモノなんですか?」と何気なく尋ねると、
「知りません。」と言ってやっぱり教えてくれませんでした。
きっと、私と同じ様な理由なのでしょう。
コニスさんも若い女性なのですから、多少はエッチな番組を楽しんでも、
それはそれで健康的な事で恥かしい事ではないでしょうが、それを父親に知られるのは
やっぱり、恥かしいのでしょう、こんなオクユカシイ娘を持って幸せですみません。
いつか、コニスさんもお婿さんを見つけて、私のところから巣だって行くのでしょう。
その日のことを考えると、いつまでもこうして仲睦まじく暮らしていたいと思うけれども、例えば、深夜に何度も繰り返し放送される、つい、夢中で見入ってしまって、ポロリと涙を零してしまう、ラブロマンスの演劇のような恋をして、誰よりも幸せになって欲しいとも思うのです。
さて、今日はどんな深夜の番組を見ましょうか。
ちょうど、歳頃の娘を嫁にやる、父親の悲哀を喜劇仕立てにした劇をやるようです。
今夜はこれを見て、ひっそりと笑ったり、しんみりと涙したりして、楽しむ事にします。