こちらは、日記にアップしたイラストの部屋です。
落書きなので、つらつらつら〜〜と
スクロールして楽しんでいただければ!
「ここにしか咲かない花」
何故、あの海に帰りたい、と思うのだろう。
今更、考えるまでもない。
桜が咲き乱れる島で偶然、出会い、でも、それはほんのつかの間で、
会えた喜びと、僅かでも二人、生きる時間が交差した幸せが大きかった分、
また思いがけなく別れなければならなかった事が、尚更辛かった。
そして、ゾロは約束した。
何もかもが片付いたら、必ず、帰る、と。
そして、サンジは答えた。
俺はいつでも、同じ場所でお前を待っている、と。
だから、ゾロはその海に帰る。
自分の夢と、自分を倒す事を夢見て追って来る剣士達の夢
自分がその二つを背負っている事、その重さを忘れさせてくれる、世界でたった一つの故郷、
世界で一番優しい海を目指して、旅をして来た。
夜とも朝とも言えない曖昧な時間にゾロはオールブルーに辿り着いた。
サンジの住む島まで送ってくれた若い海兵は、
「今は、初夏の気候です。朝夕涼しくて、私はオールブルーはこの季節が
一番過ごしやすくて、景色も美しくて、好きです、」とにこやかに話してくれた。
ここに住む住人の全てが幸せで、穏やかな顔をしているなら、きっと今、
サンジも幸せで、穏やかな顔をしている筈だ。そう思うと、ゾロは心が和む。
さざ波の音を聞きながら、ゾロはサンジとジュニアの二人が住む家へと歩く。
道すがら、別れたあの日の事を思い出す。
何度振り向こうと、サンジは桜の花が舞い散る中、微笑んで立っていた。
追って来てくれたら。引き返して、あの腕を掴んで、引っ張っていけたなら。
それが出来ない悔しさともどかしさに、唇を噛みしめた。
あの日から、ずっとサンジはゾロの心の中にいた。
けれど、声が聞ける訳でもなく、姿が見える訳でもない。
心の中で呟いていただけの名前が、遂に溢れて言葉に出てしまう事すらあった。
その名前を口にし、耳にその響きを捉えると、恋しさと、寂しい思いをさせている、と言う自責で心が傷んだ。
(・・・あの島で会わなきゃ、・・・・こうまで苦しい想いをしなくて良かったのに・・・)と何度思ったか
分からない。
それでも、今、やっとここにいる。
サンジの住む家の周りに、まるでサンジを悲しい事、辛い事、穢れた事から守るように、
白い花が咲き乱れていた。
初めてゾロが目にする花だ。
花などに全く興味はないが、あちこち旅をして来たのに、その凛とした花は見た事がない。
7枚の優しい黄色がかった白の花びらの中心はわずかに青みがかって、朝露を含んだ花びらは朝陽に透けてしまいそうに儚く見えるけれど、決して簡単には萎れそうにない生命力が、涼やかな匂いの中に感じられる。
こんなにサンジに似た、美しい花なら、一度見ていればきっと覚えている筈なのに、
ゾロにはその花に見覚えがなかった。
(・・・ここにしか咲かねえのか、この花は・・・?)
ゾロはその花を一輪、そっと手折って、サンジの部屋のドアの鍵を開けようとした。
(・・・ん?開いてる・・・)
ドアは既に開いている。それは無用心にドアを開けっ放しで寝てしまったのではない、と
ゾロは経験で知っていた。
サンジはもう起きていて、この家の中にはいない。
今日、生まれたての潮風を吸い、朝陽を受けて煌く海を見て、今日一日、また力一杯生きていく、
その為の活力を自分の中に生み出す為に、きっとこの近くの風景の中に佇んでいる。
サンジがどこにいるのか、ゾロの背中をそっと風が押して教えてくれた。
風に背中を押され、花の香りに手を引かれて、ゾロはただ、足を前に出すだけでいい。
サンジが毎朝踏みしめて歩く道は、昨夜少し降った小雨の所為で、少しだけぬかるんでいる。
けれど、それすら、サンジの足跡をゾロに教えてくれているようだ。
ここにしか咲かない花の香りに誘われ、ここにしか吹かない優しい風に体を抱かれて、
ゾロはサンジの元へ辿り着く。
小さな海岸に、サンジは一人、素足でゾロに背を向けて歩いていた。
片手に靴を、片手にゾロが手折った、あの花を束にして脇に抱えている。
白い砂浜を、波が洗う度にそこだけ色が変わる、その波打ち際にテンテンとサンジの足跡が
まばらに残っていた。
この海だから、サンジが生涯賭けて生きていく場所として選んだこの海だから、
そんな風景がとても自然で、何よりも美しく、かけがえなく思うのだろう。
駆け寄って行きたい衝動と、大声で名前を叫んでも、波音に掻き消されてしまいそうなくらいに
遠く離れたこの場所で、サンジが自分に気付くまで、ありのままに居る姿を見守っていたいという
気持ちが同時にゾロの心の中に込み上げてくる。
どんな言葉を言えば、募らせてきた恋しさをサンジは分ってくれるだろう。
どうやって、抱き締めれば、待たせ続けた日々を埋める事が出来るだろう。
そんな躊躇さえ、この海に吹く風と、優しく歌うようなさざ波は穏やかに包み、二人に手を差し伸べてくれる。
ゾロの手の中にある、ゾロの想いを充分に吸い込んだ花の香りをサンジの元へ、風が運んだ。
そして、サンジを振り向かせる。
瞬きをしたのだけを見て、ゾロは駆け出す。一歩、一歩がもどかしい。
「ホントに待っていてくれたのか」
まず、それを確かめたい。
信じているのに、聞かずにはいられないのは、別れている時間に感じる寂しさと同じ分だけ、
幸せを感じたいからだ。
ここにしか咲かない花の香りも、
ここにしか吹かない風も、ここでしか聞けない優しいさざ波の歌も、
その全てが二人に優しく、二人きりの光景を作り出し、そして、二人を素直にさせる。
ゾロがここに留まる日を待つのか、
サンジがこの海から旅立つ日を待つのか、この海は、そのどちらを望んでいるのか今は
ゾロにもサンジにも分らない。
けれど、多分、そのどちらを選ぼうとも、きっと、この海は、二人の想いを受け入れて、祝福してくれると、
ゾロは、信じている。
(終わり)
ここでしか咲かない花、って曲をどうしても使いたかったので、日記に書いてみました。
普段の小説は、何回か推敲して、読みやすく、変な言葉遣いのないようにするんですけど、
日記だから勢いで書いてしまいました。
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