生きている間は毎年必ずその日は訪れる。
年を重ねると言う事はそれだけ死ぬ日に確実に近付いている事を思い出させるだけで
別に大して目出度くもない。今や、奇跡の海と呼ばれるオールブルーに在り、
レストランを営むオーナーとなったサンジは何度目かの誕生日を今日迎えた。

だが、「おめでとうございます」と言われても、少しも嬉しくもないし、有り難いとも思わない。
いつもと少しも変らない、ただただ忙しなく時間が過ぎた一日だった。

けれどいくらサンジがそのつもりでも、常連客や古株のコック達はサンジの誕生日を祝いたがる。
レストランの営業終えても、遠方から訪れる客の為に建てたホテルの中のバーは
朝方近くまで開けているから、そこでサンジの誕生日を祝う為に常連客や、
常駐している海軍の幹部などの呼び掛けで大勢の人間が集まった。

空が白みはじめる頃、サンジは酔った体を着のみきのままでベッドに倒れこむ。
勢いがつきすぎてベッドが跳ねて軋んだ。
(・・・疲れたな)酔いと肉体と精神の疲れにすぐに眠りにひぎずり込まれた。

酒の酔いと疲労でほてった体からやがてそのどちらもが薄れ、消えかける頃サンジは寒さを感じて目を覚ました。

(どのくらい寝ちまってたか)と傍らの時計にあくびをしながら目をやる。
時間にして一時間も眠ってはいない。だがもう一度寝直すには時間がない。

ホテルに滞在している客の朝食の仕込みと店に運び込まれる食材の鮮度と品質を確認しなければならない仕事がある。

(あ・・・)
さっきは足下さえおぼつかない状態だったから気付かなかったが、
部屋の片隅にはたくさんのきらびやかな箱が山積みにされていた。
それはサンジにとって気怠い寝起きの頭を目覚めさせるだけの単調な作業だった。

差出人の名前を見、包み紙を破く。箱を開く事もなく、中身も見ない。
添えられている紙切れにも興味がなかった。
どうせこの華やかな贈り物を掻き分けて探し回ったところで欲しいモノが思いがけなく見つかる訳もないから、サンジはまだ半分ぼんやりした頭のままでただ、床に座り込み、手と目だけを動かしていた。

華やかな包み紙の箱の群れを裸に剥いて、サンジは最後の箱を手に取ろうとふと顔をあげた。
今まで大仰過ぎるほどの大きな箱や華美な包装がなされた箱ばかりだったのに、最後の一つ、
床に転がっているかのようにしか見えない小さな小さな薄汚れてへこんだ包み紙が目に飛び込んで来、その瞬間、半分しか起きていなかったサンジの感情が突然大きな心臓の鼓動に揺さぶられて
完全に目ざめる。

差出人も中身も確認する必要などなかった。
サンジはそっとその武骨な包みを拾いあげる。「アホか、あいつ・・・」

愛しさや嬉しさ、恋しさがサンジの心の中を隅々までもゆっくりと暖めていく。
勝手に口許に笑みがこぼれた。中身はたばこ、送り賃の方が中身より高い。
それでも、そのどこにでもある、ありふれた煙草をたった一箱だけを送りつけてきた男の手のぬくもりが染み込んだような気のする包みをサンジは膝の上に乗せて見つめる。

これを皺くちゃながらも必死で包んでいた時、世界の中のどこの誰でもなく、その心は
自分が独り占め出来ていたとサンジには確信出来る。

不格好に包まれた中身を選ぶ時も、自分はその男の心を全て握っていたに違いないとサンジは思う。
お前の事は忘れないでいる、と言う声が包み紙に添えている自分の手のひらから
心の中へと染み込み、頭の中に直接聞こえたような気がした。



豪華なモノでもない、言葉ですらなかった。
けれども、それが出来ないゾロの精一杯の形がサンジの手の中にある。

それだけで何もいらないと思えるくらい、サンジの胸の中は暖かな空気で満たされた。
(安上がりな野郎だな、俺ア)とこんなちっぽけな包み一つでこれほど、温かく、幸せな気持ちに
させられてしまう自分が、サンジは笑えるくらいおかしかった。

(終わり)