魔物の餌





それは、案外、マヌケなエピソードから始まる。



「待ちやがれ、盗人が!」

ゴーイングメリー号のコック、サンジは遠雷が聞こえて来る古びた佇まいの街中を全速力で走っていた。



長い航海の途中、仲間達を飢えさせる事のない様に、少しでもたくさんの食料を限られた資金で調達しようと、市場の店員と交渉している最中、側に脱いで既に買ってあった荷物の上に置いていたら、
その上着を通りすがりの男に盗まれたのだ。

上着の中には、サイフは入っていない。
封の切った煙草の箱とライターしか入っていないのに、
サンジはカッと頭に血が昇り後先考えずに追い駆けた。



海賊がかっぱらいぐらいしか出来ないショボイ男に上着を盗られるなんて、
仲間から笑い者にされるに決っている。
それに、この上着は故郷でもある遠い東の海の海上レストランで副料理長となって初めて誂えた、特別に思い入れのある一着でもある。サンジにとっては たかが上着一枚とは言え、盗まれた、仕方ねえな、
と諦められる品ではない。



初めて訪れる島で街の地の利に暗いサンジに比べ、その男も必死にサンジを振りきろうと複雑な路地裏へと逃げて行く。人ごみを掻き分け、掻き分け、走るうちに徐々に人影はまばらになって来る。

サンジは全力疾走してその男を追い駆けたが、まるでネズミと猫の追い駈けっこの様に、追い付きそうなのに、なかなか追いつかない。

遠くに聞こえていた遠雷は、いつしか、すぐ上空まで近付いて来ていて、サンジがその男を崩れ落ちそうな廃屋まで追い詰めたところで堰を切ったように激しい雨が降って来た。
「出てきやがれ、でねえと建物ごと蹴り潰すぞ!」

サンジは廃屋の前で喚いたが、狭い路地の奥で、建物の壁に石畳に叩き付けられる雨の音と、稲光が走った途端にバリバリと凄まじい衝撃音を鳴らす雷の音が反射してサンジの声など掻き消してしまう。その廃屋は雨にさえ崩れ落ちてしまいそうな程、古びていて、その割りに大きく、壁一面をびっしりとツタで覆われていて、どうやら、石か、煉瓦で作られている様だ。崩壊すれば中にいる人間を押し潰してしまいかねない。だから、サンジは踏み込むのを本能的に躊躇したのだ。



(畜生、ナメやがって)サンジは自分の怒声に全く反応がない事に焦れた。

踏み込んで、(顔面を蹴り潰してやる)、と一歩、足を踏み出そうとした時。





鼓膜が破れそうな大音響がサンジの足元の石畳をビリビリと震わせた。

サンジに見えたのは、建物の屋根へ空からの降って来た光りの魂だけで、それ以外は眩し過ぎるほど真っ白な映像以外、

何もなかった。瞬間的に体を縮め、両腕で体を庇う。爆風かと思う様な衝撃がサンジの体をその廃屋の側から吹き飛ばした。



我に返った時、廃屋はブスブスと燻られる様な煙を吹いて、完全に崩れ落ちている。

(なんてこった)サンジはその悲惨な光景を見て愕然となる。(上着は無事なんだろうな)

焦げ臭い瓦礫を足で避けながら、サンジは崩れ落ちた廃屋の中をさっきの男を捜した。

「助けてくれ・・・」と苦しげに言ったのがその男の最期だった。崩れ落ちた瓦礫に頭を割られ、割れたガラスが運の悪い事に首元に食い込んでいた。



「おい、それ、抜くなよ」と思わず、サンジが側に駈けよってそう言い掛けた時、そのガラスを痛みに耐えかねたのか、男はその鋭利なガラス片を自分で抜いた。

「うおっ!」勢い良く吹き上がった鮮血にサンジは思わず、声をあげた。

顔といわず、髪といわず、降り続けている雷雨の雨にも混ざりきらず、狙いすましたかの様にその男の動脈血は鮮明な赤色でサンジを塗り潰す。



「・・・そりゃ、寝覚めの悪イ目にあったもんだな」



サンジはその1件を宿に帰ってから、ゾロにだけ話した。「宿の食事に手をつけなかったのは、その所為か」

「案外、繊細に出来てンだな。知らなかったぜ」と口ではからかうような事を言っていたが、それ以上、労わる言葉や態度もなく、その代わり、詳しく尋ねようともしなかった。



あの男が死んだのは、雷の所為でサンジの所為ではない。サンジ自身もその事については、なんの罪の意識も感じていないが、何故か、宿の食事を口に出来なかった。(食欲が無え訳じゃねえのに)、食べたいものではなかったから、不思議と食べる気になれなかった。サンジはそんな自分の行動に自分で説明がつけられない。

赤過ぎる血の色が脳裡に焼け付いて離れない、忘れたいのに、思い出さずにはいられない。その夜、サンジはなかなか寝つく事が出来なかった。



「第二話」



その島のログはおよそ180時間。1週間程の滞在になる。血まみれで宿に帰って来た翌日。

眠れなかった所為か、酷くサンジは頭が痛くて、起きる気になれなかった。

航海中なら食事の支度や船を操舵する為に、どんなに睡眠時間が少なくても平気だし、或いは疲れていても、いつまでも寝ている訳にはいかないのだが、陸の上では体を休めたければ、いくらでも休めていてもいい。



いつもなら、ゾロと陸の上の柔らかいベッドの上で肌を合わせ夜、その情事の後、ぐっすりと心地良く眠れるのに、昨夜はいつまでも寝つけなかった。



「素っ裸で寝たから風邪でも引いたか」と自分の顔を覗き込んで言うゾロの顔がぼやけて二つに見えた。

言い返す気力もない。

目が痛くて、熱くて開けていられないし、口の中がカラカラに乾いて、喉もなにか鉄の玉でも突っ込まれたかのように重くて、声が出せない。「寝てりゃ、治る」と言うつもりだったのに、何時の間にかそんな短い言葉を言う前にサンジは高熱で意識を

失っていた。



意識を取り戻したのは、チョッパーが自分を呼んでいる「サンジ、サンジ」と言う声がやかましくて、頭にガンガン響いたからだ。窓から差し込んでいる太陽の光りがもう、オレンジ色になっているのがぼやけたチョッパーの顔の向こうに見えた。

「今、夕方か?」と聞いた自分の声が自分でも聞き取れないくらいに掠れて、弱弱しいのにサンジはぼんやりしながらも少し、驚いた。

「そうだよ。サンジ、まる1日、熱でうなされてたんだ。今、計ったら40度以上ある」

「でも、すぐに下がるからね。」



(あれくらいの雨に濡れたくらいでこんな熱が出るワケねえし)

(血を見たショックか?ガキじゃあるまいし)と考えている間にまた、サンジは熱に脳味噌が蕩けてしまったかのように

知らない間に意識を失ってしまう。



そんな状況が三日続いた。食事を摂っても、一切体が受けつけない。

「原因が判らないんだ。薬も効かない」となんとかチョッパーがサンジの血液から原因を探ろうと必死になったが、四日目の朝に

なると、不思議な事にケロリと熱が引いた。



それは、サンジの体が内側から大きく変化した事を意味していた。

もうすぐ、出航だと言うのにサンジは自分のその体の変化を誰にも言えずにいた。



(クソ、腹減ってるのに)食べ物を見ても、何故だかそれを口に運ぶ気にならないのだ。

熱が下がってからも、仲間の前では何食わぬ顔をして食事をしている振りをしていても、誰にも気付かれない様に

全て吐き出していた。死にそうなほど、腹が減っているのに胃がまるで異物を飲み込んだかのように拒絶する。



頭の中に浮かぶのは、食べ物の事ではなく、自分の体に振りかかってきた夥しい赤色と咽返るほど生臭いと思った、血の匂いだ。

乾ききった喉を潤したいなら、水が欲しいと思う筈なのに、あの雨水に混ざった血を喉を鳴らしてゴクゴクと飲み干したいと

サンジは思い、その異常な思考に我に返ってゾっとした。



ひもじくて、ひもじくて、サンジはずっと血の事ばかりを考えている。

一緒に賞金首を狩っているゾロが側にいて、話し掛けてきても、禄に返事が出来ないくらい、サンジは飢えていた。



自分達が蹴ったり、斬ったりした男達の血を見ても、それを飲みたいなどと思わないのに、脳裡に焼きついたあの鮮血とその匂いはサンジの記憶の中でどんどん美化され、どんな豪勢な料理を想像するよりもはるかに美味な食べ物の様に思えて来た。



「おい、」と遠くでゾロの声がしたが、サンジは咄嗟に答えが返せなかった。

「おい!おい!」



ゾロのイライラしている声でサンジはハっと我に返った。10人ほどが血まみれになって自分の足元で悶絶している。その様子を

は瞬きも、身じろきもしないでじっと凝視していた様だ。そんなサンジの異様な目つきをゾロは酷く訝しく思ったらしい。



「なに、じっと見てたんだ。肉の丸焼きを見てるルフィの目つきにそっくりだったぜ」

「え」

サンジはゾロの言葉にまた鳥肌が立つような寒さを覚える。ゾロが一歩だけ、サンジに近付いた。

(あ、この匂いは)微かに匂った。記憶の中に焼き付いた鮮やかな赤い血の匂いがゾロの体から匂って来る。

(飛びかかって、首筋を食い破ってやれ、)頭の中で自分と同じ声がザワザワと囁いた。その声に体がピクリとサンジの意志と

関りなく反応する。

(何考えてんだ、俺は)と思わず、サンジは後退りした。

何に怯えているのか、全く判らない。判らないが、ゾロが近くに来たら、本当に飛びかかって噛みつきたくなる衝動を堪え切れなくなりそうで、また、その衝撃を堪える為に全身の血が凍りつきそうな緊張感が全身を震わせ始めた。



腹がとても減っている。

死ぬ程ひもじくて、気が狂いそうなくらいだ。

腹がイッパイになるくらいに食って、喉が潤い過ぎるくらいに飲み干せば、この猛烈なひもじさは消えるに違いない。



食いたくて、食いたくて仕方ない物が目の前にある。



「どうしたんだ、お前。真っ青じゃねえか」

ゾロの声を聞くと生唾が口の中に涌いて、サンジはそれをコクン、と飲み込んだ。

平静を取り戻せ、とサンジは普段と変わりない態度を取ろうと口に咥えていた煙草を指で挟んで、ゾロの視線から顔を逸らした。



何気なく見た、自分の指が蝋燭の様に真っ白で小刻みに震えている。



「まだ、治ってねえんじゃねえか」と言う、ゾロの声を聞くと眩暈がした。(なんで、こいつの体からあの血と同じ匂いがするんだ)とゾロの言葉よりサンジはその事が判らない。



「腹が減って死にそうなんだ」と口が勝手に本音を呟いた。

「何イ?」ゾロはますます不信な表情を浮かべる。



人の血を欲しがる者をバンパイヤと言うのなら、サンジはまさにそれだった。不思議なのは、他の誰の血でもなく、ゾロの血にだけ食欲を掻き立てられる事だ。

それ以外は、一片の食べ物も水さえも体が受け入れない。体力は自分が思う以上に消耗しているのか、サンジは足元が

ふらついていて、ゾロの肩に手を添えて、自分の体を支えた。だが、その手に力が全く入らず、倒れ込むようにゾロの体に凭れる。ゾロは当たり前の様にサンジを柔らかく抱き寄せた。

「お前が病み上がりだっての、すっかり忘れてたな。少しどっかで休むか」

ゾロのその言葉と一緒に香る息の中にサンジは飢えてどうしようもない血の匂いを嗅ぎとる。それを荒い呼吸を繰り返して何度も

吸い込むと、心の中は理性とそれを飲み込もうとする欲求が激しくぶつかりあっているのが息苦しくて、意識が途切れそうになった。

どこをどうやって、歩いてその部屋に運び込まれたのか、サンジにはさっぱり判らない。ずっと抱かかえられる様にして歩いて来たのだけは覚えている。



気がつけば、ベッドに腰掛けていた。寒かった筈なのに、体はシャツがぐっしょりと濡れるくらいに汗が滲んで、額に前髪が張り付いていて、気持ちが悪い。

歯の根が合わないくらいに震えているのは、寒さではなく、猛烈な空腹感に人間と言う種の、動物的な本能が目の前の獲物に今、

まさに牙を立てようとしている衝動の所為だとサンジには判っていた。



「寒イか」と腰掛けているサンジの前に跪いたゾロがサンジの手を温めるように擦った。

食欲と性欲はどちらも飢えと乾きを感じさせるけれども、どちらかでどちらかを埋めようとしても決して埋まらないものなのに、

サンジは眩暈がする程の強烈な食欲を性欲で誤魔化そうとゾロの手をしっかりと握り返し、強引にゾロを自分の胸に引き寄せる。

体中に渦巻いているワケのわからない欲望がサンジの意識を混乱させ、サンジの視界を歪ませた。



目の前の壁の柄がぶれて、ぼやけて、白く濁る。

誰も助けに来ないかも、と怯えながら生き抜いたあの青すぎる絶壁の孤島で見た海の風景が頭を掠めた。



「お前の体、冷た過ぎる。雪の中に埋められてたみてえだ」と驚いたゾロがサンジを抱き締める。

その腕の力はとても強くて、痛いくらいだった。「温めてくれよ、得意だろ」と無理に笑ってサンジはゾロの唇に顔を近づけた。



絡み合った舌先さえ、冷たい。

ゾロは異様な程冷たいサンジの体を包む様に抱き締めながらゆっくりと立ち上がり、ベッドにその冷たい体を押しつけた。



(どうなってんだ、一体)高熱が出て、それが治ったと思ったら、側にいてもどこか上の空で、目つきが妙だとは思っていた。

寒いから温めろ、なんて誘いをかけてくる事など今まで1度もなかったのに、サンジはゾロの頭に腕を回して、無我夢中で唇を

貪っている。



軽くサンジがゾロの唇を噛んだ。それに応える様にゾロも唇でサンジの唇を噛む。また、サンジがそれに応えて、軽くゾロの唇に

歯を立ててくる。



「・・・ふ、ふッ」と雄が発情に興奮している様な獣じみたサンジの乱れ、くぐもった吐息の音にゾロの肉体にも性欲が沸き立ってくる。ゾロの下唇をサンジの唇がその形を確認するかのようになぞった。

冷たく尖った舌先がゾロの唇の端をチロリと舐め、その部分の皮膚の柔らかさを確認するかのようにまた、

軽く歯が当たる。



「んぐ!!」



いきなり、それこそこれ以上ない程唐突にゾロは妙な呻き声を上げた。

が、サンジは一瞬、強張ったゾロの体を伸しかかられた姿勢のまましっかりと頭を抱き込み、離さない。



目を見開いたゾロの目とまるきり焦点が定まっていないサンジの目が合った。唇は接触したままだ。

ゆっくりとサンジの瞼が閉じる。

そうして、恍惚とした表情を浮かべて、ゾロの皮膚を噛み千切った場所から流れ落ちる微量の血をまるで、猫の様に器用に舌を使って舐めとっていた。



ゾロは愕然となす術もなく、されるがままになり、サンジの顔を見下ろす。(こいつ、意識ねえんじゃねえか)

しばらくそれを見下ろしていたが、サンジの白過ぎた顔に はっきりと判るほど鮮やかに血色が戻り、冷たかった手足に温もりが

戻って来ているのに気付いた。だが、サンジの意識はどこかに飛んでいる様に思えてならない。

今、無理にそれを呼び起こしてはきっとサンジは錯乱してしまうとゾロは理屈ではなく、性欲だけでも食欲だけでもない、何か、

動物が本来持っている全ての欲望を完全に満たされて、満足しきった、見たこともないくらいに幸せそうなサンジの顔を見て、そう思った。

理性を保っていれば、ここまで欲望を剥き出しにし、それに満たされた顔は照れや恥じらいがあって誰にも見せられないものだ。

まして、人一倍プライドの高いサンジはどんなにゾロがその肉体に歓びを与えようとしても、一方的にそれに溺れた事はなく、常にゾロがサンジに与えようとするモノに匹敵する歓びを生み出そうとして我を無くすなどと言う事は有り得なかった。



そのサンジが欲望に飲みこまれて理性を失っている。ゾロが戸惑い、驚くのは全く無理のない事だった。だが、ゾロは驚いてはいても、冷静を取り戻した訳ではない。

(後でじっくり考えるか)と決めて、ゾロはサンジが血を舐め終わるまでの間、掌でサンジの肌に温もりが戻ってくるのを確かめていた。

無意識に汗で濡れていたサンジのシャツのボタンを全て外していたし、自分の肉体ももう、中断など出来ない状態になっていた。何より、目の前のサンジは魔物じみて神秘的で不思議なくらいに妖艶だ。

(今、こいつを満足させられるのは、俺だけかも)性欲と食欲の両方で、サンジが理性を失うほどの飢えから救えるのは自分だけだと思うといつも以上にゾロの体に熱が篭った。

サンジの体を掌と唇でまさぐり、知り尽くしている敏感な部分をいつもよりも少し強く、執拗に愛撫すると細く泣くような声がサンジの喉から漏れてくる。



濡れて薄く開いた蒼い瞳はまだ、ゾロになにかをねだる様に甘い視線をこめて見上げている。ゾロは一旦、体を起こし、ベッドの側に立て掛けていた自分の刀のうち、一番取りやすい場所にあった「雪走」を手に取った。

左手で鞘を、右手で柄を持ち、ゆっくりと少しだけ抜く。柄を咥えて、右手の人差し指を研ぎ澄まされて銀色に光る刃の先端に押しつけた。プチ・・と小さく皮膚が破ける音がして、ほどなく、ポタリ、と一滴床に赤い雫が零れ落ちる。

ゾロはすぐに刀を納めて、また横たわったままのサンジの体の上に覆い被さった。

「これが欲しいんだろ。舐めろ」とホンの微量の血が滴る右手の人差し指でサンジの唇をなぞった。無言のまま、サンジはゾロの両手を包み込み、目を閉じて、その指の血を舐めはじめる。そうさせながら、ゾロは左手だけでサンジの深い場所を探り、愛撫する。

「・・・う・・・う・・うん・・」サンジが苦しそうに眉根を寄せた。

強過ぎる愛撫に身を捩る時の顔だ。ゾロはただ、指先を舐めさせていたのではなく、サンジの舌の特に愛撫に反応する部分を柔らかく擦ったり突付いたりしていた。

血はまだ止まらないが、右手を使わないときつそうなサンジのボトムを全て脱がせないので、ゾロはサンジの口から指を離して、

シャツは羽織らせた格好のまま、下半身だけを一気に剥き出しにする。

「・・うあっあ・・」

自分自身をサンジの体に埋没させていく最中、サンジは背中を反らせて、上ずった甘い悲鳴をあげた。

(・・熱・・・イ)ゾロはいつもながら狭さから来る圧迫感とその粘膜が吸い付くようななんとも言えない強烈な刺激に吐息を吐く。中はいつもよりもかなり熱い様な気がした。自分を包み込み、ヒクヒクと泣きじゃくる様にサンジの粘膜は蠢いてゾロをもっと奥へ、もっと甘美な刺激を分かち合おうと誘う。その誘いに抗う事無く、ゾロは激しくサンジの体を揺らした。

ゾロがサンジの体の中へ、サンジはゾロの腹へと精を吐き出して、乱れた呼吸のまま暫く体を抱き締めあっていたが、ゾロの背中に回っていたサンジの腕が唐突にパラリと解けた。



「ここ、どこだ」そう呟いたサンジの声にゾロは体を離す。

長い夢から醒めて何も判らない、と言った呆然としている表情にはやはり、不安が滲んでいる。

「やっと正気に戻ったな」とゾロは起き上がった。「隠し事一切無しで 俺が知ってる事、全部話してやる」



それから、二人は仲間にサンジの体の異常の事を話した。場所は、出航間近だった事もあり、ゴーイングメリー号のキッチンだ。



「サンジ、吸血鬼になったのか、すっげえ!」

ルフィはキラキラした目でサンジを見るが、サンジは沈痛な面持ちのままで何も答えない。

「心配無いわ、コックさん」とロビンはサンジにニッコリと笑い掛けた。「そうだよ、サンジ。俺も聞いた事がある」とチョッパーも何故か、楽観的な顔付きをしている。



「どういうこと、二人とも?」ナミが暢気そうなロビンとチョッパーに首を傾げて尋ねる。

「サンジは病気になっただけなんだ。」「昔は本当にバンパイヤになったって大変な騒ぎになった病気なの。」

「今は治療法も確立されているから、悲観的になる事はないわ」ロビンとチョッパーは代わる代わるそう答えた。

「病気?」とサンジは二人の言葉をもっと詳しく聞きたくて短く聞き返す。

「そうだよ。ある種の植物の種から取れる油で作った薬を飲めばすぐに治る病気」



「その植物を手に入れればいいんだね」とサンジの顔がパっと光りが差した様に明るくなった。

「どこにでも生えるってものじゃないけれど・・・ねえ、船医さん」

「ナミ、ルフィ、」ロビンに促され、チョッパーはナミとルフィに向き直った。

「島の名前は知ってるんだ。でもその島へ行くログホースがない」

「行かなきゃ、サンジはゾロの血しか飲めないんだから、サンジが干乾びて死ぬか、ゾロが干乾びて死ぬかのどっちかだよ」



「どっちも嫌だな」とルフィは顔を顰めた。「じゃあ、進路は?」とナミがルフィに確信を持った顔付きで尋ねた。

「んー」とルフィは暫く考え、「サンジ、治ったら肉パーティだぞ」とサンジの方へ顔を向け、ニっと歯を剥き出して笑った。

「それくらいお安いご用だ、キャプテン」

そうして、まずは、その「種の島」へ行く為のログホースを手に入れる事になった。

(続きは、新刊にて)

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