魔獣の発情期


「オマエな、あれっきりだと思ったのかよ。」

またか。
サンジは溜息をついた.

まだ、夕食の後片付け。
明日の朝の仕込み。

明日の昼には次に島につく、というナミの言葉がそのとおりになるなら、
(天候などで若干ずれることもある.)今夜のうちに
食料の整理をして、買い足すもののリストを作らねばならない。

それでなくても、野郎の洗濯物は干しっぱなしのままとりこんで
丸めてあるのも 気になっているし、やることはたくさん残っているのだ.

見張り台にいるはずのゾロがなかなか 席を立たないと思ったら
また、露骨に体を求めてくる。

「時と場所と、俺の気分を考えろ.」
サンジは相手にしない.

まだ、体の関係は一度しかない.

快感など感じる暇などなくて、緊張しているうちに終り、
あれのなにがいいのか 日にちが経つに連れ だんだん そんな風に思ってきていた.

女の子とやりてえな。

もっと、気持ちいいんだろうなあ.

口にはとても出せないが、まだ、見知らぬ女の体に憧れている事も
ゾロとの行為に躊躇する要因になっていた。

それにしても、二人きりになると、何時もこの調子だ.

もっと、他に言い方ねえのか、と言い返したくなるが
何を言われても 面映いので何も言い返さず、ただ、黙殺するか
嫌だの一点張りで やり過ごす.

ゾロにしても、無理矢理すると 後に 何をするか、何をされるか
見当もつかないので 無茶は出来ない.

キスだけでも、と腰に手を回せば 蹴り飛ばされ、
いい訳など 全く 聞こうともせず、ただ 暴れ狂うので 何時の間にか
痴話喧嘩だったはずが本気の殴り合いになってしまう。

一体、俺の何が気にくわねえんだ.

「・・・気分ってなんだ.」サンジのさっきの言葉の意味をとりあえず尋ねてみる.
きっかけはなんでもいい.とにかく、その気にさせる事にする。

「お前に抱かれてやってもいいな〜って気分にさせろ。」
サンジがシンクに貯まった水を排水溝に流し始める.
洗い物が終った合図だ.

「よし。」サンジは振りかえって、タバコに火を付けた.

「じゃあな、俺の言うこと何でも聞いたらヤラしてやるぜ.」
シンクにもたれ、ふーっと大きく煙草の煙を吐く.

サンジは軽く腕を組み、誘うような目つきをした。

まだ、一回しか経験していないくせに、ゾロを煽る表情を
まるで 生まれながらに知っているような サンジの態度に
ゾロは悔しいけれど 嬉々として従いたくなる
情けない 衝動にかられてしまった。

「なんだ。」

数分後、ゾロは食料庫で サンジに言われた食材の残りを
数えていた.

未来の大剣豪が酒樽の数や 小麦粉の袋の数を小さな紙切れに
無骨な指に握りこんだ鉛筆で書き込んでいる風景を
「鷹の目」のミホークが見たら なんというだろうか。

とにかく、ゾロの頭の中は、サンジがいいつけた雑用をこなす事で
一杯だった。


(これが済んだらヤれる。)


ただし、普段の生活ではサンジもだらしない方だが こういうコックとしての
仕事に関しては 非常に細かい。適当な事をして 後で ばれたら
また、厄介なのでゾロは何度も数え直す。

その頃、サンジは男部屋でウソップと洗濯物を畳んでいた。

「おい、ウソップ.なんか、雑用ねえか.どっか修理するとかさ.」
「いいよ、それでなくてもお前、忙しいじゃねえか.」

サンジはにやり、と笑う.
「俺がするんじゃねえよ。ハラマキにやらせるんだよ.」
「ゾロに?じゃあ、頼めねえよ.却って壊されちまう。」

サンジはふ〜む、と鼻から息を吐いた。
「・・・今晩は、他に何かねえかな。なんとか・・・・。」
そうこうするうち、だんだん 眠くなって来た.
ごろり、と横になってもウソップは咎めず、洗濯物を畳みつづける.

サンジが朝から夜まで 船を操舵する要員としての仕事もこなし、
コックとしても、働き詰である事を知っているからだ。

「お前、一体 ゾロに何をさせてるんだよ.」
ウソップがそう尋ねた時には、サンジは寝息を立てていた.



「よし、完璧だ.」
ゾロは、ようやく 倉庫の仕事を終え、キッチンに戻ってきた.

勝手にニヤニヤと笑えというやらしい筋肉が働いて 表情が弛んでいくのを
止められない.

しかし。
キッチンには 「待ってるぜ」と言っていたはずのサンジの姿はない.

「あの野郎〜〜〜。」(騙しやがったな。)

股間に集まっていた血が一気に頭に逆流した.

男部屋の扉を乱暴に開く.
思い掛けないほど大きな音がして、まだ洗濯物を畳んでいたウソップが驚いて
顔を上げた。

「なんだあ?」
素っ頓狂な声を出すウソップを無視して、床に寝転んでいるサンジに歩み寄った.

「う・・・・っ」
余りに毒気のないその寝顔を見て、頭に登ったはずの血がまた
重力に逆らうことなく ゾロの体の中を滝のように流れ落ちて一点に集中する.

ゾロの心臓は忙しく バクバク言い出した。

(俺は何やってんだ)
呆気にとられているウソップの視線が背中に刺さる.

「俺、邪魔か・・・?」
ウソップ一人が出ていったところで、チョッパーもルフィもいるのだ.
どうなるものでもないし、寝てるところを無理矢理・・・・それでは
強姦だ。そんな事まではしたくない.


ゾロの血相を変えた凄まじい性欲のオーラは チョッパーとルフィの目を醒まさせた。

「・・・何事だ・・・・?」
寝ぼけ眼で起きあがったルフィに ウソップが
「ななな、なあ ルフィ、この海域、流れ星がすげー見えるんだと、見に行こうぜ.」
とハンモックから引き摺り下ろした。


ルフィは鈍いが、チョッパーは聡い。
起きあがった途端、ただならぬ 雄の発情期の気配を察した。

「お、俺も流れ星みよっと.」
「俺は眠い〜〜〜。」「いいから、いいから。」
三人はばたばたと男部屋から 甲板へと出て行った。

発情期の魔獣は人を無言で退散させた。

サンジは、その一部始終を目を瞑って眠った振りをしながら
伺っていた.

(・・・こりゃ、逃げられねえな。)

そう思ったとたん、サンジの体が急に火照り出した.
ゾロの気配を側に感じる.

妙に緊張して来た。
(来るならさっさと来いよ。)

せっかく、その気になりかけてんだ、来いってば。

心の中でサンジは準備運動のようにゾロに呼びかけた。

しかし、ゾロはなかなか動かない.

(眠ってる顔をオカズにしとくか・・・)
起すのもなんだか 勿体無いような気もしてきたし、
起して機嫌が悪かったら それこそ 押し倒して無理やり ヤッてしまいそうな
勢いである。

1強姦、
2自慰。

この選択肢にゾロは迷った.
(ええい、駄目だ.2回目なのに 無理矢理はねえだろ。)

ゾロは2を選んだ.
オカズは頭の中でなく、目の前にある.

ゴソゴソと妙な服の衣擦れを聞いて サンジは
ゾロが一体何をはじめたのかと気になって うっすらと目を開いた.

その目がこれ以上ないほど 大きく見開かれる。



「馬鹿野郎!!」
サンジは真っ赤になって叫んだ.

「この変態!!死ね!!」
「一体、何考えてやがる!!」

「お前が寝ちまったからだろうが!!」
恥かしさなど 一瞬で吹き飛ぶ.というより、恥かしさなど 全く感じていない
発情期の魔獣は堂々と自分の意見を主張する。

「俺の寝顔にぶちまけるつもりだったのか!!この変態剣士が!!」
「床なんかに寝ッ転がってるからだ!!バカコック」
「バカはてめえだ、人の顔みりゃヤらせろ、やらせろってオーラぷんぷん出しやがって」

「仕方ねえだろ、俺はお前に欲情してんだからよ」

ゾロは自分のイチモツを指差し熱弁を奮う。
「言っとくがな、こうなるのはお前だからだ.穴があったら突っ込みてえって言うんじゃねえんだぞ。」

「はあ?」サンジは半ば呆れてゾロの熱弁を思わず 聞きなおす.

「俺はお前を抱きてえっつってんだよ。」

サンジの白い頬が真っ赤になっている.
しかし、口はへの字に曲げられ、煙草を忙しなく吹かしていた.
「突っ込みてえってのと、抱きてえってのとどう違うんだよ.」

経験の少ない、サンジらしい問いかけだった。
この問いかけで既に 承諾の合図なのだが まだ 2回目だし
ゾロも頭の中が すでに 人間の雄ではなくなっているので
判らない。バカ正直に答える。

「どうでもいいのと、どうでもよくないのとだ.」
「わかんね〜っ」ゾロの答えにサンジは首を振った。


「もう、いい。」
「てめえに言葉で説明しろって言う俺が間違ってるな。」
サンジが煙草を消した.


「仕方ねえ.体で説明してやる。」


ゾロは、起きあがっていたサンジの肩に手を掛け引寄せた。

そのまま 顔をぶつけるかと言うような勢いでサンジの唇に自分のそれを押しつける.
半開きだったサンジの口にねじ込むように舌を挿し入れて、
音が立つ程強く その中でサンジに快感を与える場所をさ迷って 忙しない愛撫を
施していく。

「んっ・・・・ふっ・・・・」
長い、長いその接吻で二人の唾液が混ざり合って顎を伝うまで溢れた。

ゾロは、サンジのシャツのボタンを途中まではずし、一気に肩口から
すべりおとし、その手を休ませずにバックルを外しにかかる.

とりあえず、素っ裸を早く見たくて気が急いていた。

サンジのものが勃っている事を指先に感じて安心する。
僅かに触れただけで、サンジが腰を少し引いた。

(やべ、頭がボーっとしてきやがった・・・)
口の愛撫だけでサンジの体から力が抜けていく。

ゾロは薄く目を開けて どんどん 艶っぽくなっていくサンジを見ていた。

あちこち 弄繰り回して 泣きそうな顔や 湿っていく肌や、
押し殺してもあがる 小さな嬌声などが 自分が 施している行為の為せる技だと思うと、
嬉しくて 同い年とはとても思えないほど しつこい愛撫になっていく.

「てめッ・・・俺を殺すつもりかっ・・・・っ」

息も絶え絶えに ゾロを本気で非難するサンジの声も 
ゾロを煽るだけだった。

「何処がいいんだよ、言えよ.」

強すぎる快感に頭が飛んでしまったサンジには 何がいいとか どこがいいとか
聞かれても 答えられるわけがない。

「わっ・・・・わかんねっ・・・・。」
「じゃあ、ここはどうなんだよ。」答えが明確にならない限り、ゾロは敏感な部分を
探しまわるのだ。

息が乱れて上手く喋れないのに、ゾロはサンジの答えを求める。
「いいのか、悪イのか、どうなんだ。」
「・・・いいのかもっ・・・・うっあ・・・・・」

一部分だけでなく、複数の個所を色んな強弱をつけて、さらに
サンジの快感を引きずり出す。

「ここと、ここ、どっちがいいか、言え.」
「っっ・・・・てめえ、っ・・・・」


行為が終わった後、サンジは ふやかした板ゼラチンのように
だらしなく 素っ裸で床に寝転んでいた.

頭が朦朧としている。

(・・・・こいつ・・・・本当に同い年かよ)
煙草に火をつけようとしたが、手が 戦慄いてうまく行かない.
仕方なく、火の付けないままで煙草を咥えた。

ゾロはというと、もう、寝息を立てている.

(毎度、毎度 これか・・・・?。冗談じゃねえぞ.)


ゾロに弄くられた部分が熱い。

体は 眠れ、というような 気持ちのよいだるさを感じているが、
ゾロを受け入れた部分や 触った部分が信じられないほど
敏感になっている.

(・・・俺の体をどうするつもりだ、こいつ.)


自分の体が ゾロを受け入れるたびに新しい快感を覚えていきそうで
正直 怖い気もするが 

(あそこまで露骨に欲しがるんだったら 仕方ねえよなア.)と
苦笑いをしてゾロの寝顔に目をやった。


(三回目はどんな風に 求めてくるのか、楽しみだ。)
サンジはゾロの側に体を寄せて 眼を閉じた。

心地よい眠りに落ちていく。


「な〜、流れ星なんて見えねえじゃん。」
「・・・もう、ちょっと、ここにいようぜ、なア、ルフィ.」
「そうそう、あ、しりとりでもしようか、ウソップ」

見張り台では 気の小さい狙撃手と船医と、鈍感な船長が
男部屋に戻る事もできずに ただ、降るような星空を見上げていた。

(終り)