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一日の締め括りである晩飯の後、ゾロは後甲板に出た。

数日から続いた悪天候のせいで見張り台が損傷し、
修理中だから今夜はキッチンの灯が甲板に少しだけこぼれるこの場所で不寝番だ。

あけっぱなしの丸い窓からは中のキッチンでの様子が手に取る様に判る。

「ロビンちゃん、ナミさん、何か飲むかい?」媚びて甘える様な優しいサンジの声がする。

(俺にはンな事聞きもしねえ癖に)

ないがしろにされているのが面白くなくてゾロは
海を眺めていた視線をふりむいて丸窓の開いたキッチンに向けた。

ロビン達の影とサンジの影が薄い光源に照らされて壁に写りこんでいるのが見える。

華やかな笑い声、サンジの美辞麗句がしばし続き、やがてナミとロビンの声と影がキッチンから消えた。

一人きり、なのにサンジの柔らかな影はどこか楽しげに動きまわっている。

ちいさな頭、
長くしなやかな腕、

なめらかな動きはいつもの慣れた仕事をしているだけだろうに、
サンジの壁の板目さえ透けて見えるはかなげな薄い影は、まるでゾロを(誘ってるみてえだ)と思った。

壁を隔ててすぐ側にいると判っているのに顔のみえない影を見ているだけでは満足出来ない。

目で顔を

耳で潮風に邪魔されない声を、
手のひらに温もりを

唇に口付けを欲しくなった。

ゾロがキッチンに向おうと足を一歩踏み出した時、丸窓からヌッとサンジが顔を覗かせる。

(!)
それだけで自分の甘い欲求を見透かされたのかとゾロは狼狽する。
「おい、今呼んだか?」とサンジは聞いた。

呼んだつもりはない、だがゾロには自覚があった。

微妙に届かない丸窓の桟に手を掛け、腕に力をいれてぶら下がる。

「呼んだ」
「なんか用か」

サンジはいつもどうりにややぶっキラボウにゾロに尋ねる。
「ああ」とゾロは答えて、煙草を咥えたままの唇は避け、目の前の額に軽く唇を押しつけた。

「夜食と酒」

自分の行動が照れくさく、それをごまかす為に敢てゾロは横柄に言う。
そして、夜食を携えた柔らかな影の主が側に来るまで、ぞろはキッチンの中の影を眺めていた。

(終わり)


この作品は、夜行バスの中から、今回、ごとてもお世話になったSさんへお礼の気持ちを
篭めて送信したモノです。


ゴーイングメリー号に夜、乗った時、キッチンの裏側から丸い窓を見ていて、そこから零れる光りと
影を見て考えついたネタでもあります。