「黒い夢の果て」

第一章 「苦痛と絶望」

そこは、暗い場所だった。
壁は石で覆われ、日の光は射さない。光源は、たった一つ、頼りなく揺れるランプの炎だけだ。
けれど、狭い空間は、湿った空気で満ちている。

恨み、憎悪、絶望、苦痛。
人を人が貶め、辱め、虐げる事で感じる歪んだ快楽。
それらが混沌と混ざり合った、熱く、生臭い空気が、時折か細いランプの炎を揺らし、
石の壁に移った黒い影を揺らめかせる。

この地下牢がどこの島にあり、どこから出て、どこから入るのか、
牢の鍵を持っているたった、一人の黒髪の男と、その同僚だけが知っている。

自分を謀り、あざ笑った金髪のあの海賊をルッチは許せなかった。
自分の任務は完全無欠だと言う誇りを踏みにじられた怒りは凄まじかった。

世界政府の力がどれほど偉大で、海賊風情の力がいかに脆弱なモノかを
骨の髄まで思い知らせてやる。
そう思い続け、策を労し、ついにルッチはその執念を叶えた。

「・・・拷問にかけて責め殺すのか?」と長年、行動を共にしているブルーノにそう
聞かれたが、ルッチはその単純な案を鼻で笑った。
「・・・俺達に立てつく様な海賊だ。相当ふてぶてしいに決まっている」
「どれだけ体を責め立てようが、うめき声一つあげまい。必死に鞭打つだけ体力が惜しい」
「無駄に腹を立てるのも馬鹿馬鹿しい事だ」

ルッチの言葉を聞いたブルーノは「・・・すぐに殺すのか」と淡々と尋ねる。
ルッチは口元を歪め、低く笑って答えた。
「・・・殺すつもりなら、こんな場所にわざわざ繋いだりするものか」
「・・・辱めてやるのさ。人間として、正気でいられないくらいに・・・」

人間の正常な神経を持つ男が、獣のオスに犯されたら、どれほど屈辱的だろうか。
身に着けていた服を全て剥ぎ取り、両手、両足を鎖で拘束した。
その上、首輪をつけた。

「まるで家畜だな」その姿をルッチはあざ笑った。
薄暗がりの中、男のしなやかに筋肉のついた裸体が浮かび上がっている。

壁に繋がれた手は、局部を隠す事も出来ない。
萎んだ性器が、髪の色よりも少し濃い陰毛の中に埋もれて見えた。

半獣型の体に変化したルッチはその姿を見て、思わず、舌なめずりをする。
じゅるり・・・と自分でもあさましい、と自嘲したくなるほど湿った音が口元で鳴った。

けれど、それは性欲を満たそうとする欲望の所為ではない。

獲物を弄び、その後、じわじわと弱っていく様を見ながら、生きながらその肉を貪り
食われる恐怖を目と、爪と牙でじっくり味わう。
そんな猛獣の残酷な食欲そのものだ。

まず、最初は、痛みだけを与えた。

細い筋が入った白い背中を鋭い爪の生えた手で押さえつけ、
両手を鎖で繋いだまま、後ろ手に引っ張り上げて、床に這いつくばらせる。
そうされて初めて、その男、麦わらの一味の一人、サンジは顔色をかえた。
「・・・てめえ、何をっ・・・」
「鞭や棍棒を使うだけが拷問だと思ったか?」
どこか見下したような顔付きだった男の顔が、怯えと恐怖に引き攣る様を見て、
ルッチの胸が歓喜に膨らむ。

体ごとのしかかって、身動きが取れないように押さえ込み、自由になった両手で、
強引にむき出しの二つの肉塊を割り開いた。

「・・・やめろっ・・・!」そう叫んだサンジの顔をルッチは頭の中で想像する。
きっと目を大きく開き、唇は恐怖で戦慄いている事だろう。

自分の犯した罪を痛みと屈辱を以って思い知るがいい。
ルッチはサンジの耳元で、さらに恐怖を煽るためにそう囁いた。
肉が裂けようと、その中の粘膜が傷だらけになろうと構わない。
ネコ科特有の、鋭利な性器をルッチは力任せに強引に狭い穴の中へねじ込む為に、
まず、その先端を押し当てた。

ヒクッ、とその穴はルッチを拒絶する様につぼむ。
その臆病な有り様がルッチの征服欲と復讐心を更に高まらせた。
口元から、思わず、唾液がポタリとこぼれて、サンジの背中に滴り落ちる。

「・・・これぐらいで・・・死ぬ程、頼りない体ではないだろう?」
「しっかり・・・痛みを・・味わえ」

言葉を区切る度、ルッチは腰を前後に大きく揺らす。
そうやって、少しづつ、サンジの体に先端を飲み込ませていく。

「・・ぁ・・・ぐぅっ・・・・」
粘膜を傷つけながら、体の中にねじ込まれていく人間のモノではない、獣の肉棒に
サンジは身を捩ってうめき声を上げた。
その声が上がる毎に、ルッチの体の先端をサンジは何かで握るように締め付ける。
その都度、ルッチの血が滾っていく。

最初は、痛みを与える為に強引にねじ込む、それだけのつもりだった。
だが、その血塗られた粘膜の湿り気と、滴り落ちる真っ赤な雫が立てる音に
ルッチのオスの本能に火が着いた。

サンジの中へオスの体液を吐き出した時には、サンジの体は冷え切っていた。
足先だけが数秒、ヒクヒクと痙攣していたけれど、それもやがて止まる。

真っ青な瞼と頬、なす術もなく空を掴んだ手を、ルッチは満ち足りた気持ちで
眺める。
獲物を食い終わり、獣としてとても満足していた。
復讐として、まずは最初の鬱憤を晴らした事にも。

(・・・まだまだこれからだ)
ルッチはサンジをそのままに放置して、次はどうやってサンジの人間性を
踏みにじるかを考えながら、その生臭い牢屋を一度、後にした。

※※※

ある時は、人間の姿のまま、またある時は豹の姿そのままで、
そして、半獣の姿で、ルッチは思うがままにサンジを犯した。
サンジを犯し続けた。

苦痛と屈辱を与え続けた人間が次にどうなるかを、ルッチは既に知っている。

その頃合を見て、ルッチはただ乱暴なだけの行為の趣向を変えた。

白い胸の上の突起を口に含み、舌で転がしてやる。
人間の体温と柔らかな皮膚の質感を、ずっと萎えたままだったサンジの性器に味あわせてやる。

サンジのその時の顔をじっくりと冷静に味わおうと、
鼻先が触れるほどの距離に顔を近づけた。

苦痛に歪んでいただけの顔に、戸惑いが走った。
きつく閉じられていた瞼が、痛みとは種類の違う恐怖に怯えて、唐突に開く。
「・・・何をするつもりだ・・・」
震えながら尋ねるサンジの声をルッチはニタリと笑って黙殺する。

サンジが怯える、その瞬間を狙っていた。
痛み以外の恐怖と、ルッチを憎む以外の憎悪をサンジに植えつけるために。

性器を握り、その先端を親指の腹で擦りあげた。
オスが快楽を感じる全ての場所を愛撫し、刺激した。

すぐに親指にグチュ・・・とした音がするほどの湿り気が立つ。
同時に、サンジの性器があさましく膨張するのを感じる。
痛みを堪え、ずっと詰めて、途切れ途切れだったサンジの呼吸がにわかに忙しなくなる。
「・・・はっ・・・はっ・・ああっ・・・」
切ないほど甘いその喘ぎに、ルッチは悪魔の様にほくそえんだ。

ずっと、苦痛だけを感じていたサンジの肉体は、
屈辱も、人間の誇りも、ルッチへの憎悪も敵対心も、何もかもを吹き飛ばし、
歓喜と快楽を貪ろうと震える。

どんなに心だけは穢されまいと気強くしても、こんなに簡単に体は心を裏切っていく。

それを思い知って、サンジはどんな絶望を味わうのだろう。
どれほどの自己嫌悪に苦しむのだろう。
どれほど、自分を裏切った肉体を憎むのだろう。

サンジの苦しみ、サンジの苦痛、サンジの絶望はそのまま、
ルッチには快楽となり、至福となる。

深い苦しみに喘ぎ、逃げられない絶望にのた打ち回れ。

それが、ルッチの望みだった。

※ ※※

「地下の囚人は、食事を摂っていないようだな?」
牢番をさせている部下にルッチは責めるような口調でそう言った。

「・・・あ、あの・・・それは・・・・・・」
そう言ってその部下は、首から三角巾に吊るされた腕を痛そうに摩りながら、
震え上がった。

「この二日で随分、消耗している。傷の治療もなされていない」
「牢番として責任を果たしていない事になるな」
「無理に食べさせようとして、近付くと、暴れて・・・。私も腕の骨を折られました」

それを聞いて、ルッチはすぐにサンジの意図を察した。

(・・・死ぬ気だな)
サンジがそう思い決める事もルッチは既に計算済みだった。
だが、そう簡単に死なせる訳にはいかない。

最初は確かに虐げ、辱めるのが目的でサンジを犯した。
もう何度そうしたか、サンジを捕えて何日経ったか、数えるのも億劫なほどだ。

ところが、その滑らかな肌の質感や、狭く、艶かしい圧力で自分を締め付ける体の感触を覚えて、ルッチの体は、その甘美な味に慣れて始めていた。
サンジを犯す目的も、その感覚を味わう事が目的に変っている。

憎しみや恨みを晴らすと言う目的も果たした。
殺そうと思えば、いつでも殺せる場所にサンジを飼っている。
生かすも、殺すも自分の胸一つ。

けれど、まだ、まだ、嬲り足りない。
もっともっと苦しみを味わい、絶望に沈んでいく姿をつぶさに見たい。
だから、今はまだ死なれて困る。

※※※

内臓は傷だらけの上、水も飲まず、サンジは壁に繋がれたまま、
力なく頭を垂れていた。

服を身に着けていたことすら、もうずっと過去のような気がしているかもしれない。
そんな動物のように扱われて、屈辱を覚えていたのも最初の内だけで、
今はもうそんな事を気にする余裕など失っているだろう。

ルッチは近付いて、サンジの顎を掴み、無理矢理顔を上げさせる。
その手に、かつて感じた事のない熱さをルッチは感じた。
高熱が出て、当然の状況だ。別に気に止める必要はない。

「・・・う・・・」サンジは辛そうに目を開いて、ルッチを見る。
命を諦めた者の絶望はその目にはない。
自ら死ぬ事で、ルッチの支配から自由になり、結果、ルッチに勝利しようとする、
そんな決意がその目には篭っていた。

(・・・笑止千万)、とルッチはその目を見返す。

「・・・食事も水も摂らずに死ぬつもりだろうが・・・」
「お前には死ぬ自由すら与えない」
「お前が死ぬ時は、俺が「死ね」と言った時だけだ」
それでも、サンジの目の力は衰えず、ルッチの言葉に何も答えない。
この期に及んで、まだそんな反抗的な態度を見せるサンジを見ていると、
(・・・退屈させないやつだ)ともっと嬲ってやりたくなる。

そして、鎖ではなく、サンジの過去で、サンジの魂を縛る。

「・・・東の海に、バラティエ、と言うレストランがあるそうだな」
「お前が勝手に死ぬのなら・・・そのレストランをコックごと、沈めるぞ」

「・・・バラティエを・・・調べたのか・・・っ」

負けた、と言う敗北の混ざった苦痛と悲憤の顔。
「悔しいか・・?これが世界政府の力だ」
「・・・くっく・・・くっ・・・」

サンジの顔を見て、ルッチは腹の底から笑いが込み上げて来るのを止められない。

さんざん高笑いして、そして、宣告した。

苦しみ、絶望を感じ続けるためだけに、生き続ける。
それがお前の運命なのだ、と。





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