「皆で押さえつける?」ゾロの提案にナミが眉を寄せた。

「そんな乱暴な事、出来るわけないじゃない。」とゾロの意見に反対を唱えた。

だが。
ルフィはゾロの意見に
「そうだな。それがいい。」とあっさり賛成した。

「ちょっと、あんたまで何言うのよ。」とルフィにも
ゾロの意見に賛成しかねるナミはつっかかった。

「なんで、駄目なんだ?」とルフィはナミに尋ねた。
その眼が真剣だったので、ナミは一瞬言葉に詰まる。

鎖で拘束するより、ずっといい。
仲間の手でサンジを助ける事が何故、乱暴な事になるのか、ルフィには理解できない。

ナミも、ルフィのその瞳を見て、なんとなく納得した。

押さえつけられて、どんな暴れ方をするか全く見当がつかない。
もしかしたら、舌を噛むこともあるかもしれないと チョッパーが危惧したので

薬と飲ませる時は口を無理矢理こじ開ける役をチョッパーが、
体を押さえつけるのはナミとウソップが、
一番 凶器とも言える足を拘束するのは ルフィとゾロという事になった。



クソ、眠い。

ずーっと、眠い。

寝てるはずなのに、体が眠くて、起きあがれねえ。
チョッパーの薬の所為だ。

ああ、ナミさんが俺の体の上に乗っかってる。
もっと、強く抱きしめてくれねえかな。

うわ、チョッパーの手だ。
口に突っ込んで来やがった。

ああ、やっと起きれるみたいだ。

あれ、なんか余計に眠たくなってきたぞ。
まあ、いいか、寝ちまえ。

・ ・・・気持ちいいから。



薬を飲ませても、しばらくサンジは覚醒しなかった。

仲間に攻撃をしたがる体を理性で押さえつけていた所為で、サンジの神経は
ひどく消耗していた。

解毒剤を飲み、ようやく 体がほぐれて 緊張していた神経が休もうと
サンジを無理矢理 穏やかな眠りに引き摺りこんだのだ。

サンジが目を覚ましたのは、まる2日もたった後のことだった。


その間。

ヒュウは、ガン・クレージーに仲間たちの催眠を解かせた。

人形のようだった彼らは、もとの荒荒しく生命力に溢れた海の男に戻り、
麦わらの一味の元へ礼を言いに来た。

「これから、この偉大なる航路(グランドライン)のどこかであんたらが
窮地に立ったという噂を聞いたら、必ず加勢する。」と殊勝なことを口にする。

「それはない!。」とルフィが答える。

「窮地になんて、立たない。だから、加勢もいらねえ。」ときっぱりと
ヒュウの心ばかりの礼の言葉も突っ返した。

「それじゃ、俺達の気がすまねえ。」と申し訳なさそうに言うのへ、
ルフィは、歯を剥き出して笑った。

「次に合った時には、海賊同士、大喧嘩をしようぜ。絶対負けねえけど。」
「お前らが礼をしたいなら、その時に遠慮なく潰しにかかって来い。」

「未来の海賊王に潰された海賊の名前のうちに入れてやるから。」

ヒュウは、その言葉を呆気に取られたような顔で聞いていた。
そして、大きな声で笑った。

「気にいったぜ、麦わらの船長!!」
ルフィの体をバンバンと乱暴に叩く。

「ああ、忘れてた。」ルフィが、唐突に表情を真面目なものに変えた。

「もし、どこかで オールブルーの話しを聞いたら、教えてくれ。」
「え、オールブルー?」
ヒュウの顔も、真剣な顔になった。

「オールブルーって、伝説の海ってやつだな?わかった、約束する。」

ナミには、礼だと言って大きな宝石をくれた。

「あいつ、どうした?」とゾロはヒュウに尋ねた。
事の発端である、「ガン・クレージー」のことだ。

「ああ、あいつね。あいつの薬で、あいつを「善人」だと思いこませるように
催眠をかけてやったんだ。そしたら、すっかり 聖人君主さ。」
「自分のやったことなんか、すっかり忘れて海軍の催眠を解きに行ったよ。」と可笑しそうに答えた。

「海軍がちゃんと動き始めたら厄介ね。もう、船を出しましょう。」とナミは
暗にヒュウに話しを切り上げるよう、促す。

「ああ、うちもそろそろ行かなきゃな。じゃあ、またどこか出会おう。」
「コックにも、礼を言いたかったんだが。」

ヒュウは別れ際に、ぼんやりした意識の中でも、口にした食事が とても美味かった事を
ちゃんと覚えている、といった。


ヒュウ達の船とわかれ、その島を後にして数時間後、サンジは眼を醒ました。

その傍らには、当たり前のようにゾロがいた。

「・・・やっと、起きたかよ。」労わりの言葉ではないが、その口調にはその感情が
ちゃんと含まれている。

サンジは、全部覚えている。
だが、体が嘘のように軽くて、爽快だった。

そうは言うもののいきなり ハイテンションで喋るほど 能天気でもない。

第一、何を喋ればいいのかよく分からなかった。
(・・・おはよう、っていうのもおかしいよなあ。)

黙ったまま、ゾロを見上げているサンジの顔をゾロは覗きこむ。

「おい、大丈夫だろうな?」と声をかけた。

(・・大丈夫なんだが・・・。ああ、そうだ、とりあえず。)
「煙草。」なにも考えないほうが、会話を滑らかに進展させられそうな気がした。

「あ?」覚醒して第一声が命令口調だ。
ゾロは呆れて 負けじと横柄な態度で聞き返す。

「煙草って言ってんだ、聞こえなかったか、クソ剣士」
いつもどおりの、生意気で 全く可愛げのないサンジの様子に、
ゾロは苦笑しつつ、胸を撫で下ろした。

(良かった、元に戻っている。)




ガン・クレージーは ゾロに言った。
「素直で可愛い恋人はいらないか、」と。


ゾロは答えた。
「言いなりになるあいつなんか、ゾっとする。」と。


サンジは元に戻った。

意地っ張りで、
わがままで、
口が悪くて、
素直に言うことを聞いてくれる事など殆どない。

何を考えているのか 時々分からなくなるけれど、
却ってそれが何時も新鮮で目が離せない。


素直で可愛い必要などない。

海賊として、コックとして、サンジという1人の人間として、
その生き方、その全てがゾロを惹きつけているのだから。

(終り