真冬のオールブルーは、自分達しかいない。

お互いの声、お互いの眼差し、お互いの温もりだけがここにある。

「なんだ?」

どこへ行くのも、一緒だ。
どれだけ、側にいても時間は有り余る。

甘えてみたり、甘えさせたり。
午後からは、降り積んだ雪を掻き出す作業に時間を割かれるけれど、
雪を照り返す眩し過ぎる光の中で、他愛ない事で笑い合い、また、

下らないことで罵り合い、雪にまみれてじゃれ合う。

一日に、数えきれないほど、キスをする。

目が合うと、
嬉しいと、
照れ臭いと、
楽しいと、
自分の心の中の思いを唐突に伝えたくなると、

言葉の替わりにキスをする。

それなのに、ある晩、急にゾロの姿が見えなくなった。
サンジの自室のライティングデスクの上に、小さなメモが置いてあるのを
見つけて、サンジはそれを読んで、眉を潜めた。

それには、レストランと一緒にサンジが経営しているオールブルーの
小さなホテルの中のテナントの名前が書かれてあるだけ。

正確な位置を把握されないように、外海から大きく迂回してやってくる客達は、
レストランの料理だけではく、オールブルーを観光するのも目的だから、
そのニーズに答える為の施設だ。

もちろん、三食全て、レストランのコックが作るので、
レストランの料理を出しているのと同じだ。

「全ての人に自分が作った料理を」と思うものの、なかなかそこまで
手が回らないのが歯痒いサンジだけれど、

このホテルの昼食だけは、間違いなく、自分の手だけで作ってきた。
昼食を食べてから、帰路に着く客が殆どだから、
オールブルーでの最後の食事がサンジの作ったもの、という事になる。

それはさておき。

ゾロがいるらしいそのホテルは、昨日雪かきをしたし、なんの異常もないのは、
確認済みなのに、なぜ、唐突にそんなところへ出掛けたのだろう。

そのホテルの地下には、ボン・クレーの店の支店がある。
もちろん、冬は営業していない。ここも、サンジの選んだ酒、サンジが
考えたレシピのカクテルと、軽食を出す。

賑やかなショーと楽しいおしゃべりとおいしいお酒で寛いでもらおう、と言う
店なのだが、サンジのホテルの中で唯一、どことなく
イカガワシイ雰囲気の部屋になっている。

「そこで酒でも飲むつもりか?」と首を捻りながら、
外の風に髪がほつれないように、乱れかけた髪を括りなおし、
上着をひっかけて外に出た。

サンジは、吹きつける雪交じりの風に目を細め、
タバコが風に吹き飛ばないように噛み締めながら、歩く。

会う度に、最初の一回のキッカケをお互いに探り合う。
初めてお互いの肌に触れ合うわけでもないのに、当たり前に
抱き合う事に躊躇いがある。

離れている時間に、相手がたくましく、また、美しくなっているだけ、
自分はどうなのだろうか。

雰囲気に流されてしまえばそれで済む事なのに、ゾロも敢えてそれをしないのは、
サンジのそんな繊細なプライドを尊重しての事だと判っていても、
中々、ふんぎりがつかないでいた。

そして、ただ、気持ちイイだけのセックスは嫌だとも思う。

ゾロしか知らないけれど、だからこそ、ゾロに満たされたいし、
満たしてやりたいと思う気持ちも確かにあるのに、今だに素直になれない自分の
臆病さをサンジは、自分自身でも 持て余していた。

(そんなにグダグダ考えるほどの事じゃねえのになア。)といつも
後になってゾロは笑う。

最初の一回をクリアすれば後はなんの問題もないのに、その一回目の
キッカケが今回の帰省ではまだ 掴めない。

けれど、今は、そんな事よりもゾロがなぜ、自宅から離れたそんなところへ
行ったのか、意味が判らないまま、サンジは雪道を歩いていた。

ゾロは、部屋を暖めてサンジを待っていた。

(しっかし、なんだ、この部屋は。)と周りを見渡す。

サンジの趣味では絶対にないだろうが、
金属製の棒が天井と床に突き立っていて、紫色の壁と狭い通路を隔てている。

(監獄みたいな造りだ。)、なにかを監禁したくなるような。
と、ゾロはそう思った途端、なんの考えもなくこの場所を選んだにしては、
(おあつらえむきだな)とほくそ笑んだ。

断じて、サンジとセックスをするだけが楽しみで帰って来た訳ではない。
けれど、帰って来る度に悶々と我慢するのも辛い。

オールブルーに帰ろう、と決めた時から サンジの肌が恋しくて仕方がないのに、
当のサンジはいつも、どう言うわけかとても慎重だ。

会う度に、目を奪われてしまうほど美しくなっていて、
一緒にいると自然に目がサンジを追う。

些細な意地や恥じらいがあるから、今でも サンジを初々しく、瑞々しく、
感じるのも悪くはないけれど、

それを取り払った時の艶やかさを知っているだけにもどかしくて仕方がない。

自分の体が、仕草が、声がどれだけゾロを惹きつけているか、
(いい加減、思い知らせてやらねえとな、)と、思いながら、
ゾロは勝手に棚に並んだままの酒を一人、待ちながらサンジを待っていた。

やがて、サンジの足音が聞こえてくる。

ドアが開かれた途端、外の冷気が一瞬で流れこんできた。

「一体、どういう趣向なんだ。」と笑っているけれど、
怪訝な顔でゾロに尋ねるサンジの肌は冷えきっている。

触れなくても 判る。
雪を被った髪が温かな室内の温度にとけてしっとりと濡れている。

「土産を渡そうと思ってな。」とゾロはソファに腰掛けたままサンジの手を
掴んで引き寄せた。
「わざわざ、こんな所でか?」とサンジは空いている手で上着を脱いだ。

そのまま、ゾロはサンジの腰を引き寄せる。
無造作にサンジは脱いだ上着をソファに乗せると僅かに抵抗するように
ゾロの肩に添えた手に力をいれて、離れようとする仕草を見せた。

(頑固だな。)とゾロはその躊躇いがちな抵抗が、却って自分を煽っているのに
気がつかないサンジの鈍さを苦笑する。

「張り込んだんだ。いらねえ、とは言わせねえからな。」と構わずに
サンジの背中に手を回して無理矢理自分の体に密着させた。

「張りこんだって何を買ったんだよ。」と渋々ゾロのしたいようにさせる、という
感じながら、冷えた体にゾロの体温は心地良いので、
サンジはそれ以上抵抗しないで体をゾロに預けた。

「それより、今それを身につけて欲しいんだが。」といつになく、
丁寧にゾロはサンジの機嫌を伺って見た。

「身につける?宝飾品か?」とサンジは少し体をずらしてゾロの顔を、
表情を探る。

「ああ、今、すぐ、にお前がそれを身につけたのを見てえんだ。」と
ゾロが言う言葉に、サンジはなんの警戒もしなかった。

指輪か?
首飾りか?
腕輪か?

「そんなの、別に構わねえが。」と答えると、ゾロがにんまりと笑った。
「本当だな。」と言うと、やっとサンジの体を離して、おもむろに立ちあがった。


「これはどうやって身につけるンだよ」とサンジは渡されて困惑した。

「脱ぐんだよ、服を。」とゾロは堂々と答える。

それを聞いて、(これをキッカケにするつもりなんだ、)とサンジはすぐに判った。

「スケベだな、相変らず。」と憎まれ口を叩いて、恥じらいを隠す。

「ああ、多分、俺はお前が思ってる以上にスケベだぜ。」
「ここに帰って来る途中、お前をどうやって抱くか、そればっかり考えてるんだ。」

(単刀直入、どストレートに)言われてしまうと、サンジは今まで
自分が躊躇っていた事が急にバカバカしくなって、思わず笑い出してしまう。

「俺だけ、脱ぐのか?」とサンジはシャツのボタンを半分ほど寛げてから、
ゾロに笑いかけた。

「嫌か。」とゾロは口元は笑っているけれど、もう、熱の篭った目つきをしている。
「当たり前だろ、変態。」とサンジの気分もだんだん盛り上がってくる。

「見たきゃ、お前も脱げよ。」

そのサンジの言葉には、もう戸惑いも躊躇いもなくて、
とても艶っぽい。同じ人間とは思えないほどだ。

(このギャップが)ゾロには堪らない。

ゾロに背を向けたまま、サンジのシャツが滑らかな肩口から
床に滑り落ちる。


「これでいいか。」とゾロの贈った鎖を身につけて振返ったサンジを見て、
ゾロは思わず、生唾を飲まずにはいられなかった。

扇情的で、妖艶で、魂を鷲掴みにされるかと思うほど、美しく、
ぴたりと当て嵌まる言葉をゾロはなにも思い浮かばず、視線を釘付けにされて
離せない。


ただ、自分の心臓の音だけがやけに耳障りだ。

うなじにかかる髪の束を掌で掬いながら、滑らかでまだ
少し冷たい肌を撫で、背中から抱き寄せる。

チャラリ、と幽かに鎖が揺れる音が立つ。

柔らかな耳たぶを甘く噛み、舌先で耳の後をなぞる。
右手で鎖を絡めとり、指に絡ませたままで、浮きあがった鎖骨を撫でた。

口付けをねだるように、サンジが僅かに顔を傾け、伏せた目で
ゾロを誘う。

その唇はまだ冷たかったけれど、差し入れた舌を受け入れる咥内は滑らかに艶めいて、
ゾロの愛撫に柔らかく応える。

宝珠のような玉を指で軽くつまみ、それを敏感な突起に押しつけて
優しくこねるように擦ると、腕の中に捕えたサンジの体は
ビクンと大きく波打った。

鼻から抜けるサンジの喘ぎ声と自分の荒い息使いが混ざって、ゾロは全身に
滾るような欲情を覚える。

まだ、完全に勃起しきらないサンジの男性器に鎖を軽く巻きつけた。
その動作を悟られないように、ゾロは激しい口付けと、胸への愛撫を強くする。

「こんなの、反則だ。」と口付けから逃れ、乱れた吐息を吐きながら、
サンジが上ずった声でゾロを批難する。

「どっちが。」とゾロは構わずに、大きなソファへサンジを押し倒した。

「っん。」
感じれば、感じるほど、
緑色と紺碧の宝石がちりばめられた金色の鎖がサンジに絡みつき、
締め上げる。その痛さにサンジは喉から甘いうめき声をあげた。

ゾロは手首から首に長過ぎるほどの余裕を持って繋がっている鎖をまとめ、
サンジの両手をぐるぐると一まとめにして、無理矢理うつ伏せにする。

止めろ、と言う声を無視して、甘噛みよりもわずかに強い力で
白い背中に歯をたてながら、鎖に囚われたサンジを握りこみ、
指先だけでそこを焦らす様にくすぐった。

猫のようにサンジは、背中を丸めてゾロの手を振り払おうとするけれど、
堪え切れない声を漏らしている様が、ますます、ゾロを煽る。

快感と痛み、初めて感じる感覚に怯えているその様子にゾロは堪らなくソソられ、
背中に寒気に似た衝動が突き抜けて行く。

もっと、サンジの知らない感覚を与えたい。
自分の知らないサンジを見たい。そんな欲求が激しくゾロの中に生まれて、
頭で思うより先、
手が、
指先が、
唇が、
サンジに触れているゾロの肉体の全てが自動的に動き始める。

背中に腕を回して、ゆっくりとあお向けにさせ、また深く口付ける。
苦痛に顰められた顔なのに、乱れた髪とわずかに赤みがさす肌の色と、
額に滲んだ汗のせいなのか、
むやみに淫靡に見えて、また、ゾロは思わず、息を飲んだ。

うなじに手を添えて、頭を持ち上げ、唇を押しつける。
小さな頭、力一杯握りこめば折れそうな華奢な首、熱が篭って汗ばんだ肌、
絡みついた金色の髪の感触をゾロは掌に感じてどうしようもなく、この肉体が
愛しくなる。

「めちゃくちゃにしてえ。」と頭に浮かんだ感情がそのまま、
高熱にうなされたような声になって零れた。

言葉なんか忘れるくらい無我夢中になって、自分の名前だけを呼ばせて、
縋り付く姿が見たい、と言う思いが究極に短く、濃く、凝縮された言葉だった。

もう、なんの強がりも拒絶も言わずにサンジは、ゾロの与える感覚に身を捩らせ、
震え、濡れている。

それでも足りない。

首から、足首へと続く長い鎖をゾロは指で摘んで、口に含んだ。
その作業をしながら、サンジのアナルをゆっくりと指で穿つ。

ここに触れるのも、触れられるのも本当に久しぶりだから、とても頑なで、
指の先端さえ拒む。

けれど、唯一、自分の体の、その部分を許しているゾロに触れられている、
そして、目を閉じても聞こえるゾロの荒ぶった息遣いに、サンジの心も
体も興奮し、けれど、それが増せば、増すほど、
鎖が自身に食いこむ苦痛に声が殺せない。

「解いてくれ。」と思わず、喘ぎを押えて切れ切れに懇願しても、ゾロは
痛むその部分の先端を舌先で突付いて刺激し、ますます痛みを課しただけ。

ゾロは側にあった、濃厚な酒を開けて鎖を濡らした。
自分の唾液だけではヌメリが全く足りないと思ったからだ。

その酒を含んだ口で自分の指を湿らせ、また、サンジの奥を解す。
解しながら、両足首を繋ぐ二本の濡れた鎖を2重に寄り合わせ、1本の鎖として、

その先端から、結び目の一つ、一つをゆっくりとサンジの体に埋めて行く。

「バカ、なにやってんだ。」と言い欠けたサンジの口を
体をズリ上げて口付けで塞ぎ、
指先の感触だけで鎖を少しづつ、サンジの中へと突っ込んで行く。

よほど、嫌なのだろう、サンジは体を激しく捻ったり、捩ったりして、
抵抗するけれど、鎖とゾロの腕と愛撫に体を拘束されて、
その抵抗は ゾロにとって愛撫に悶える姿となんら変わらない。

やがて、両方の足首が体に僅かに無理矢理引っ張り寄せられて、
膝が軽く曲がる。

男性器へ巻かれた鎖が食いこむほどになった時、
ゾロは、やっと、その拘束を解いた。

途端、トロリと透明な液体が零れ落ちる。
けれど、その出口を今度は指で押えて、最も敏感な周りの皮膚を強く
残りの指で締め付けた。

「ッ。ックソッ。」と甘く、苦しげな喘ぎが漏れて、サンジの肩がビクビクと震える。

「どんな面してイクのかじっくり拝んでやるよ。」とゾロは
サンジを煽るように額に浮かんだ汗を唇で拭ってやりながら囁いた。

悔しげに睨みつけるサンジの目つきが妖しいほどに色っぽい。
その目に火を着けられた様に、大きく一つ、深く呼吸を吸って、
吐き出してから、ゾロの動きが唐突に性急になる。

サンジを虐めていた手を離し、両手でその足首を鷲掴みにし、
一気に縮められざるを得なかった足を引っ張って伸ばした。

「ううああっ。」

サンジの背中が仰け反り、体の中に埋められた鎖が奥の敏感な部分を
緑と蒼の宝石が引っかきながら引きずり出されて、

頭の中と目の前が真っ白になる。
脳味噌も、内臓も、血も溶けてそれが全部混ざったモノが
凄い勢いで自分の先端から迸る感覚。

その強烈な快感は信じられない程長く、サンジの体を支配し、貫いた。
自分ではどうしようもない痙攣に、体を縛る鎖が鳴る。

ゾロはサンジの青い瞳が見開かれたまま、達するのを初めて見た。
自分の突き上げてくるような凄まじい興奮を鬱陶しいほど乱れた呼吸で自覚する。

まだ、自分はサンジからなにも与えられていない。
与えるばかりで、その姿態を見、声を聞くだけなのに、
それだけで、自分は異様なほど興奮し、感じている。

サンジのアナルにそのまま、自分の雄を押し当てた。
このまま、繋がって、深く、深く、奥まで抉って、もっともっと、
乱れさせたい、という思いだけが体を突き動かす。

ゾロの手を濡らし、瞳をきつく閉じて、ゾロから避けるように上半身を捻ってソファにうつぶせになり、
肩で息をしているサンジの背中にゾロはまた、甘く噛み付く。
「っハッ。」と聞き取れない程の声でサンジが小さく喘ぎ、首を仰け反らせた。