Dokusyo-nissi Bessitu 2012-05-27 φ(-_-) ■[diary]web archive [小倉志郎] "沸騰水型原子力発電所 BWR の基本的システム" (11年 10月 4日) Ustream の録画から文字に起こしてみました (ひとまず最初の 20分だけ)。 http://www.ustream.tv/recorded/17672050 (video - 1 hr 10 min) 解説で使われてる BWR 概略フローシートはこちら、 http://www.scribd.com/doc/67577310/BWR-Flowchart (pdf file) 今、スクリーンに福島第一原発 2号炉のシステムの概略フローシートというのがでてい ます。このフローシートは一番基本的なシステム、原発を構成する基本的なシステムを 表しています。 f:id:sekiyo:20120527144849:image この基本的なシステムの中には原子炉を取りまく原子炉系のシステム、この真ん中から 左側のシステム、これが原子炉系。 それから真ん中から右側のシステム、これがタービン系です。 それからこの下に海水を供給するそういうシステムがありますが、これはサービス系の 一部になっています。サービス系というのは両建屋の中にも冷却系とかあるいは補給水 系とかいろいろな系統が含まれています。 その他にこの図には出ていませんけど放射性廃棄物処理システムというのがあります。 ですから原子炉系、タービン系、サービス系それから放射性廃棄物処理系というこうい う大きく分けて主要なシステムは 4種類あるということになります。 今日はその中で原子炉型、その一つ一つのシステムについて説明をしていきたいと思い ます。まず大ざっぱにどんな原子炉系のシステムがあるかをお話しします。 f:id:sekiyo:20120527144850:image 原子炉はここに少しピンク色で描いたものです。原子炉圧力容器と書いてあります。 そしてその原子炉圧力容器を囲むかたちで原子炉格納容器というのがあります。これも 容器ではありますけども一つの原子炉を守るシステムになっています。 f:id:sekiyo:20120527144851:image それから原子炉の中には核燃料がありますがその使い終わった核燃料を貯蔵する使用済 燃料プール、貯蔵プールというのがありまして、このプールの中の使用済燃料を冷却し そしてまたその冷却した水をきれいに保つ燃料プール冷却浄化系、このプールも含んで これ全体が一つのシステムになっている。 それからここに原子炉水浄化系というのがあります。これは原子炉の運転中に原子炉の 中の冷却剤すなわち水ですね、これを常にきれいな状態に保っておくためのシステムで す。 f:id:sekiyo:20120527144852:image これは原子炉の中から取り出した水をポンプで熱交換器を通し、その次にフィルターと かイオン交換樹脂なんかが入った脱塩器を通してきれいにします。 そしてその水を原子炉に戻す前にここに再生熱交換器というのがありまして、原子炉か ら抜いてきたホットな熱い水でろ過脱塩器を通ってきた水に熱を渡して、原子炉に戻る ときに温度がまた高温になるような状態にし給水ラインに合流させて原子炉に戻す。こ れは原子炉の運転中、常に運転しているという常用系のシステムです。 それから原子炉の下のところに制御棒駆動装置というのがあります。制御棒駆動装置と いうのはこの中の制御棒を動かす装置でこれはピストンとシリンダーでできてましてこ こに高圧の水が供給されます。ピストンを動かすためです。 その高圧の水を供給するのがここにあります制御棒コントロールシステム、かな? ... 要するに制御棒を動かすピストン/シリンダーに高圧の水を供給するポンプ、そういうも のからなっているシステムがあります。 f:id:sekiyo:20120527144853:image この水源は復水貯蔵タンクになっていてこの復水貯蔵タンクというのはタービンの方の 復水器から使ったものが補充されるようなかたちになっている。タービンの復水器があ りますけど、ここでもって少しずつ圧力をかけるんですがそのとき使った少量はそちら から補給する、そういうようなシステムです。 f:id:sekiyo:20120527144854:image それからこの原子炉というのは核反応を止める装置がこの制御棒のほかにもう一つあり ます。それは制御棒とはまた別の方式で核反応を止めることになっています。要するに 2種類の違った方法で核反応を止めるというのが設計条件になっています。 それがここにありますホウ酸水注入系というもので、ここに水を貯めておきましてもし 制御棒が使えないときにはこのポンプ、高圧ポンプでもって原子炉の中にホウ酸水を注 入しそのホウ酸で中性子を吸収して核反応を止める。 f:id:sekiyo:20120527144855:image これも非常用のシステムですね。ですからこちらの浄化系や燃料プール浄化系とは違っ て普段は運転していません、これは。緊急時、非常用のときだけしか使いません。うっ かりとホウ酸水が原子炉の中に漏れ込んでしまうと大変なことになります。この原子炉 が運転できなくなっちゃいますから。 ここのバルブは普通のバルブと違って -- 普通のバルブですとシートがあって弁座にそ のシートが当たって押さえつけて止めるんですが -- このバルブでは完全に構造的に遮 断するように板でもって絶対にホウ酸水が入らないようになってていざというときには これを火薬でもって爆発させてその板を突き破る、そういう爆発弁と称するものが使わ れてます。ですから本当に最後の最後に使うシステムです。 それから残りのシステムはここにたくさんあります。これらは原子炉の冷却に使うそう いうシステムです。 f:id:sekiyo:20120527144856:image ここに RHR 系、残留熱除去系というのがあるんですがこの残留熱除去系というのはいろ んな機能があり、一つは緊急時ではないんですが原子炉の定常運転、普段の発電を例え ば定期検査のために原子炉を停止していくときに急いで冷やすことができない、ゆっく り原子炉を冷やしていくわけですけどその時に使うシステムです。原子炉は発電所が 100% 出力で運転しているときには核反応が 100% 行われていて蒸気も 100% 出力に必要 な流量がどんどん流れているわけですけど、原子炉を停止するときは電気出力それから 熱出力そういうものを徐々に下げていきまして核反応をだんだん少なくしていってそし て最後に発電を止めます。 止めた後でも原子炉の中は崩壊熱というんですが要するにウラニウムが分裂してできる 分裂生成物の崩壊熱によって発熱してますからこれを冷やさなければならない。その冷 やし方は最初の段階としてはここのバイパスラインを通りまして復水器で冷やします。 タービンは発電してませんから通しません。バイパスラインでもって復水器の方へ蒸気 を逃してそして海水で冷やしていく。 そしてある程度、温度圧力が下がった段階でこの残留熱除去系というものを生かして最 終的に原子炉の中の水を常温にもっていきます。 (常温って何度ぐらい?) 基本的には 30度が常温ですけど 100度以下ならば水は沸騰を止めますからよく冷温停止 だとかいいます。しかし定期検査ではこのフタを開けて作業するわけですから 100度と か 90度では作業ができません。だから一応 30度前後の常温にもっていってフタを開け て燃料プールと水がつながるような状態にして交換作業をするわけです。 そして、この RHR 系というのは熱交換器が 2つありその冷却側の水は海水です。海から 水をもち込んで原子炉水を冷やす。だから海水ポンプも動いてないといけませんし、原 子炉の水を熱交換器を通して原子炉に戻しまた回すためにポンプがいるんです。これが 残留熱除去系ポンプ、略して RHR ポンプと呼んでますけどこれが 4台あります。 それが RHR 系システムの一つの使い方です。 その他に RHR 系統には原子炉につながる大きな配管が破断して原子炉冷却材喪失事故が 起きたときに原子炉に水を供給するそういう働きがあります。 もう一つ、原子炉から格納容器の中に高温高圧の水が漏れて格納容器の中が水蒸気でい っぱいになったとき、RHR 系から水を格納容器の中にスプレーで噴射してこの中の蒸気 を凝縮させるそういう働きもあります。 その他にここの圧力抑制室の中に普段、約半分くらいの容積のところに冷水をためてい るわけです、常温の水ですけど。この水の温度が高くなったときこれを冷やすためにも このシステムが使われる。 だからこの RHR 系は非常に多目的に使われる。もう一つ用途があるんですが、これは後 でお話しします。 この他に原子炉の冷却材喪失事故、それに非常に重要なのがここに炉心スプレー系とい うのがあります。これは 2系統ありまして 2台のポンプがあって水源が圧力抑制室の水 、そして行き先は原子炉の炉心、燃料の真上のところにリング状のスプレースパージャ ーというのがありそこから燃料に直接、水をかける。これは炉心の水位が保てなくなり 燃料が露出してしまうかなり大きな配管が破断したとき、炉心を直接スプレーでもって 冷やせるということで非常に重要なシステムです。 f:id:sekiyo:20120527144858:image それからもう一つ安全系があります。これは高圧注水系といい、HPCI 系ともいわれます 。これは原子炉につながる小さな配管が破れたとき -- 冷却材喪失事故ではあるんです がしかし破れた箇所の穴が小さいために水はどんどん出ていくんだけども原子炉の圧力 がなかなか下がらない -- そういった時に原子炉の圧力よりもさらに高い圧力のポンプ でもって冷却水を原子炉の中に注入してやるそういうシステムです。 これの第一の水源はやはり復水貯蔵タンク。ここから正常な水を原子炉の中に出す。原 子炉に入れるにはここの給水ラインに合流させるかたちでいきます。ですから原子炉の 中の給水スパージャーから入っていく。 ポンプを回す動力としまして原子炉の蒸気を主蒸気配管から分岐したラインを通してこ このタービンにおくり、その蒸気タービンでポンプを回すということになっています。 そしてその排気ですね、タービンを通り抜けた蒸気はサプレッションプール、圧力抑制 室の方に入る。ですからこれは電源がなくてもこのポンプは運転できる、高圧注水系と いうのは。このシステムは電源が使えないときにも使えるということで他に動力を要求 しないというある意味では非常に信頼性があるわけです。 もちろんタービンですから電動機と違い回転数が変動しやすい。したがって回転数を制 御するためのいわゆる制御電源というのがいるんです。流量と回転数を監視していて要 求する流量より少なくなった時には蒸気の流量を増やす、そして回転数を上げるような そういう制御が必要なんで、したがってその制御には非常用の電源 -- バッテリーです ね -- 直流の電源を必要とする。だからバッテリーが生きてないとこの系統は使えない 、そういう弱点もあるわけです。 (つけたし) 中身がぎっしり詰まってる。思いつきでやるんじゃなかった ... oLr 2012-06-03 φ(-_-) ■[diary]web archive [小倉志郎] "沸騰水型原子力発電所 BWR の基本システム" (11年 10月 4日) 続きです、 BWR 概略フローシート http://www.scribd.com/doc/67577310/BWR-Flowchart それからあと残ってるシステムとして、ここに隔離時冷却システムというのがあります 。通称 RCIC システムといいますけどこれは HPCI システムと同じようにポンプと蒸気 タービンからできているんですが流量が約 1/10、非常に小さい。ただ原子炉の蒸気を使 って復水タンクからの水を原子炉に注入してやるという基本的な流れは HPCI 系と同じ です。 ただ RCIC 系の目的は原子炉の冷却材喪失事故に対する対応ではないんですね。これが ある目的は原子炉が何らかの理由でタービン系から切り離される、そういう事態に対応 するためのシステムなんです。例えば発電系統、発電機からつながている送電系統が送 電できないような状態になったら、もう発電止めてくれというような要請が来たときに 、発電を止めますとタービン系は蒸気が要らないわけですから原子炉からタービンへい くラインは急速に閉めてそして蒸気をストップします。つまりそこで原子炉がタービン 系から隔離されるわけです。 それはそのままほっとけない。というのはいくら核反応を止めても炉心では熱は出続け るわけです、崩壊熱によって。ですから出口をふさいでしまったらどんどん原子炉の中 の内圧が上がって何もしなければ原子炉は壊れてしまう。そういう状態になりますから 通常ですと主蒸気ラインに付いてます逃し安全弁、これが働いて -- ここには表示して ませんが -- その逃し安全弁を通して原子炉の中の高圧の蒸気が圧力抑制室に導かれて 冷やされる。そうしますと原子炉の安全は守れます。圧力は一応安全弁で下がりますか らオーバープレッシャーにならない。 しかし蒸気が出てくるだけ水位が下がってきます。この水位が下がってくるのを何とか 止めないと核燃料が水から露出してしまって燃料が壊れてしまいますから、その水位を 保つためにこの原子炉隔離時冷却系というのがあります。これがこのシステムの主目的 なのです。もちろん事故時にこれを使ってもいいわけなんですけど、主目的としては事 故対応ではなくて原子炉が隔離されたときの水位の低下を防ぐ。 それはどういう意味合いがあるかというと原子炉がホットなままで水位さえ保っていれ ば冷えちゃわないでこのシステムのおかげで高温のまま原子炉を安全に保つことができ る。そうするとこちら側の障害が取れてすぐに発電開始してくれといったときホットで 健全なまま保たれてますからすぐに発電が開始できる。そういう意味でこのシステムと いうのは生きてくるわけです。目的は事故時対応ではないです。 一応、原子炉系のシステム構成はこういうふうになっています。 それからもう一つ説明し忘れましたけどここに原子炉再循環系というものがあります。 これは一番中心の一番大事なシステムで最初に説明しようと思ったんですけど一番最後 になりました、すみません。 f:id:sekiyo:20120603164924:image これはごく簡単なポンチ絵でだいぶ省いてありますけどこれが原子炉ですね、そしてこ こに炉心があります。その上にセパレーターがあり、その上にドライヤーがあり、炉心 で発生した蒸気はここから出て行く、こういう流れになっています。 一方、炉心に入ってくる水はどこから来るかというと、タービン系から給水ラインを通 しスパージャーを通してこの炉心の回りのドーナツ型の領域、ここに給水が入ってきま す。 そしてその給水は一部を原子炉再循環ポンプというもので吸い込みまして -- 全量では ないんです -- 入ってくる水量の 1/2 とか 1/3 を原子炉再循環ポンプで吸い込みまし てそのジェットポンプの駆動水としてここへ噴射させます。 そうするとその噴射した水が回りの水もいっしょに引っぱり込んで、そしてジェットポ ンプを通過して炉心の下を回って炉心に行く。ですから給水はここから来てそのまま引 っぱり込まれていく水もあるし、もう一つは下まで行って再循環ポンプを通っていくの もある。ちょっと流れが複雑になります。これが原子炉再循環系の仕組みです。 なんでこんなメンドクサイことをするかというと ... 福島の第一発電所でいうと 1号機から 6号機まで全部共通のシステムになっています。 しかしこれ以前、日本で 1つ BWR ができてましてそれが原電敦賀の 1号機軽水炉、この ときにはジェットポンプはないんです。つまり給水ラインからこのエリアに入ってきた 水は全量 100% 再循環ポンプに引っぱり込みまして、そしてその水をそのまま炉心の下 にもってくる。給水が再循環ポンプを通ってくる流れとしては一通りしかなかった。そ ういうシステムだったんです、敦賀の 1号機は。 福島の場合には給水の 1/2 とか 1/3 を再循環ポンプに流せばよかった。敦賀のときは ポンプの流量が非常に大きく、外部に引き回す配管の口径も大きくなっている。太い配 管を格納容器の中で引き回さなきゃいけない。しかも敦賀にはこの再循環系のループが 3系統、3本あります。福島は全部 2系統です。 つまりそれだけいっちゃ悪いですがコストダウンになってるし、もう一つ安全面からい えば冷却材喪失事故いわゆる LOCA を考えるときに、最大の破断を仮定するとき破断す る配管の直径が小さくなるわけです。そうすると事故の規模を算定するとき大きな配管 が破れるより小さな配管が破断したほうが安全系の設計が楽になるんです。つまり非常 に大きな配管が切れるとすれば短時間のうちに原子炉水がほとんど出てしまう。それが 破れる配管の径が小さくなれば対応する安全システム、その設計も楽になる。そういう ようなことで敦賀のときはなかったジェットポンプを福島から設けたわけです。 その他にこのノズルの位置がかなり高いところ -- 燃料棒の長さが炉心の一番下から 4m あって -- これに対して 2/3 とか 3/4、そこまでノズルの高さがある。したがって原子 炉につながる配管が破れてもこの高さまでは、蒸発してしまうのは別として、炉心の水 位が保たれる。どんな大きな配管が破れたとしても瞬間的には出ていかない。炉心が水 面上に露出することはない。そういううたい文句がありました、福島 1号機を建設した 当時は。それでいいもんなんかな、なるほどと当時は思っておりました。 これが再循環系のシステムです。これは MARK I、つまり福島第一原発の 1号から 5号ま ではこういう形です。それから MARK II、つまり福島第二原発の 1号から 4号もこうい う形です。柏崎の 1号から 5号までもこの形です。 そして柏崎の 6号、7号からいわゆる改良型軽水炉アドバンスド BWR、ABWR という最新 型になります。原子炉の外側にポンプを置くのではなく今度は炉心を取り囲むかたちで 小さなポンプを 10台、ちょうど輪のように並べる。それは原子炉の中に回転する羽根車 があるのでインターナルポンプといってます。ですから柏崎の 6号、7号からまったく違 った形になってる、そういう再循環系の変遷があります。 一応これで原子炉系を構成するシステムに全部触れました。 あとサービス系のことなんですけど、サービス系というのは主要な系統をバックアップ する、助けるそういうシステムだということで、何かワンランク重要度が低いのではな いかという印象を受けます。しかし非常時に働かなければならない安全系が動くために は、実はこのサービス系の中でも特に海水を供給する系統は絶対必要なんです。そうい う意味ではけっして重要度が低いわけではありません。 f:id:sekiyo:20120603164925:image 例えば RHR 系、残留熱除去系ポンプあるいはコアスプレーポンプ、こういう重要な安全 系のポンプを回すためには、回転機ですから絶対に軸受けの冷却をしなければならない 。ですからその軸受けの油の冷却とかあるいは軸受けを直接冷やすために海水系は必要 です。 それから残留熱除去系の熱交換器にも海水がいるわけです。このへんの海水系は事故時 には絶対生きてないといけない。 それからここに非常用ディーゼル発電機がありまして、このモーターを動かすためにも 絶対に生きてないといけない。ディーゼルエンジンも巨大な回転機ですから当然、冷却 水が必要であるということでこのへんも生きてないとダメだと。 f:id:sekiyo:20120603164926:image ここには書いてないんですがディーゼルエンジンには燃料が必要です。その燃料は軽油 です。ですからこの建屋の外には巨大な軽油タンクがあります。そして軽油タンクから 軽油をディーゼルエンジンに送る燃料輸送ポンプがまた必要です。これも屋外、タンク のワキにあるんです。 わたしの想像では多分、今回の津波で燃料タンクの回りには海水が来て小さな軽油輸送 ポンプも水につかったんじゃないかと思います。 だから原子炉系の安全を守るためにこれだけいろいろなシステムがあるんですが、その システムだけではなくて、それをサポートするシステムもたくさんあってそれらが皆、 健全じゃないと原子炉の安全は保てない。こんなに複雑なシステムになっていて -- 安 全系は何重にもあって一つ働かなくてもダイジョウブなんだという説明がよくあります けど -- しかし逆の見方をすると、いろんなところに弱点がある、弱点だらけだという のが原子炉系です。 火力発電所だとこんなものはいらないんです。ボイラーの中の水を常にきれいにしてお くとかないですし当然、ホウ酸水注入系もいらない。それから止まった後冷やすための 残留熱除去系や炉心スプレーもいらない。 いかに原子炉系というものが普段は使わないけれども万一のときのためにある、そして それが有効に働くときは破滅的な状態、例えば LOCA、原子炉冷却材喪失事故なんて破滅 的な事故ですね、そういうときにしか役に立たないものをたくさんぶら下げているのが 原子炉系だということです。 これで原子炉まわりのイメージがだいたいつかんでいただけたでしょうか。 ま、まだある ... oLr 2012-06-10 φ(-_-) ■[diary]web archive [小倉志郎] "沸騰水型原子力発電所 BWR の基本システム" (11年 10月 4日) 続きです。 (再循環ポンプはジェット水流にするためにあるのか、そのへんをちょっと) 軽水炉、特に沸騰水型原子炉の場合の特徴なんです。つまり加圧水型ではこういうこと はあり得ない。 燃料棒全体が何百本も円筒形の炉心につめ込まれています。そして下から供給された水 が途中で沸騰して蒸気と水とが混合した状態になってこの上へ出ていく。加圧水型では 水のまま温度が上がるだけです。 f:id:sekiyo:20120609222719:image ところが沸騰水型の場合、途中から蒸気 = 気体に変わる相変化がある。そうすると原子 炉の核反応の原理からして水がないと核反応がすすまない。つまり核分裂によって発生 した中性子の速度が水、減速剤と呼ばれますが、水によって速度が落ち初めて次のウラ ニウムの核分裂に役だつ。ですからここで沸騰している水面が上下することによって炉 心の熱出力が変動する。 この原理を利用して逆に原子炉の熱出力のコントロール、制御することができるわけで す。それに実は再循環ポンプが役にたつわけです。 再循環ポンプの流量を増してやると水位が上がりそれによって熱出力が増す。このポン プの流量を減らしてやると蒸気が発生しますからどんどん水位が下がり出力は減る。 ですから再循環ポンプというのが沸騰水型原子炉においては出力調整装置にもなってる わけです。デリケートな出力調整は再循環ポンプがやっている。 制御棒ではほとんどやらない。実際の出力調整は再循環ポンプの流量コントロールが原 子炉の制御になっている。 だからタービンの方の負荷によって蒸気の流量を調整してほしいという要求がくれば熱 出力の調整をこれでやるわけです。この流量をどうやって変えるかというと ... ここに特殊な電源、直接ポンプのモーターにつながっている交流発電機がポンプ 1台ご とにあります。そして流体継手を介して電動機があってこの発電機には通常電源が入っ ている。そしてこちらの電動機は周波数が一定ですから回転数は変わりません。 しかしこの流体継手を調整することで出力側の発電機の回転数は変えることができる。 つまりここから出ていく電力の周波数を変えることができるんです。ある意味では周波 数変換器みたいなものです。 そしてその周波数に応じてポンプの回転数が変わり流量が変わる。ポンプの流量を流体 継手でコントロールする。これは羽根車が対抗して 2つあって油が入っていて油の量を 増やすと回転数が速くなる、そういう仕組みになっている。 前にお話ししたように福島からジェットポンプが追加されたというのはこの配管を細く するというむしろ経済性、ぼくの感覚では経済性がそうさせたんだろうと思ってます。 (サービス系の耐震基準は) 福島第一原発の 1号機、2号機の頃は非常用の系統をバックアップする海水系は耐震クラ スはやはり A でした。ただし使用済燃料プールのシステム、これはクラス B でした。 その後何号機からでしたか A に格上げされましたね。 (軽油タンクとかの設備は) 私はその頃ディーゼル発電機とか軽油タンクは担当してなかったのです。耐震クラスは どうでしたか。 ほとんどの機器系統は当時の通産省の管轄でした。ですから工事許可申請書も通産省に 出して製作とか据え付けとかをやっていたんです。へんな話ですがどういうわけか軽油 タンクというのは消防署の管轄なんです。危険物を貯蔵するという意味で通産省じゃな いんです、自治省なんです。自治省は消防法という技術基準があってそこにも耐震設計 があるんです。ですから別の基準で耐震設計をやっていた。 タテ割り行政の影響が原発にもきていて、官庁のタテ割りはきびしく他の省庁がやって たら絶対に口をださない。通産省がやってたら自治省はやらない、お互いの連絡がない 。そういう意味でも細かく見ていくと整合性がとれないことがあると思います。 (どれもがすべて動かないと) 設計もそれぞれ違うところがやってたりするし ... 順番があるわけです。最初に DG が 立ち上がって電圧が確立されたら次にいく。確立されないうちにポンプのスイッチを入 れると力が足りなくて発電機の方がダウンする。そういうこともあってたくさんある機 械のスイッチを入れていく時間と順番、これが決められていて何秒単位というかたちで そういう制御設計というのが、この図にはでてきませんけど、非常に重要なんです。原 子炉の圧力が水が入れられるだけ下がったら入れるとか。 特に非常系はそれもヒューマンエラーがないように人の判断じゃなく自動的に動くよう センサーの信号をコンピュータに入れ水位や圧力がこうなったらこの手続きのスイッチ が入る、そういう制御設計がからんでくる。 制御設計の人たちと実際のハードウェアを作っているところとは全然別の部門です。ほ んとうに分業でこの複雑なシステムができあがってますから逆にいうと全部を統一して 理解している人というのはほとんどいない。 (そうなんですか) 電力ケーブル、配電盤、スイッチとかいっぱいありますし。 (それぞれが担当するところしかわからない) それは若いとき、入ってから数年たったときに私は一度いわれたことがある。アメリカ の GE に行って 1年ぐらいいてエンジニアに混じって勉強して帰ってきた人にいわれた 。アメリカにはマネージャーがいて全部わかっててその仕事を細かく分け各部門にやら せる。全体の整合性はマネージャーが見てるから各部門は全体のことを知らなくていい んだ。 だけどそんなマネージャー、ぼくはいないと思う。全体のことがわかっていないのがほ とんど、私は全部だと。 例えば当局長さんは何人かのグループで運転して全体の責任をもっている。もちろん運 転手順書とかは細かく勉強するでしょうし原子炉取扱主任技術者の資格をもってるとい うことで一応、基本的なことは身につけてるとは思います。しかし機械の細かい設計ま では、その機械の弱点とかはわかってません。 最近の自動車はオートマティックになってて運転は簡単でしょうけど自動車の構造なん かわからない人も運転している。 (わたしも <- 沢井さん :-p ) どこが一番壊れやすいとかわからなくても自動車を運転している。それと同じようにこ れを運転してるからといって全部がわかってるわけじゃない。 ぼくらが入社した頃は制御系は IC 回路、集積回路なんてなかった。さきほどいった自 動制御は電磁石でスイッチを動かすリレーがたくさん並んでいてそれで制御できた。と ころがこの頃は IC、集積回路で中身は全く見えない。 むかしは誤動作したらどこのリレーが壊れたかは一つ一つ当たっていけばこのスイッチ が働かないとわかったんです。今はわかりません。スイッチが何百何千とチップに入っ ているのでどこのスイッチが誤動作してるかなんてわかりません。ということは今、制 御系が故障してもほんとうの原因がつかめなくなってきている。 (チップごと替える) そうです。そういうブラックボックスがだんだん増えてきている。便利になりコンパク トになりコストダウンされる良い面と反対にだんだん中身がわからない範囲が拡がって いる。わからないままに運転する。 (運転員の養成とかたいへんですね) 自動車教習所の教育程度では済みません。取扱説明書なんてキングファイルが棚の向こ うの端ぐらいまで並んでるほどですから、取扱説明書だけですよ。その構造とか設計の 中身ということになるともっとたくさんの図面をよまなければならない。 たしか BWR トレーニングセンターというのが大熊町にありますがそこの宿舎があって泊 まりがけで何ヶ月かいって運転の資格が得られる。 (今回のような事故になったら) 3月 11日のような事態になればマニュアルは使えず全貌をつかんでる人はいないから対 処療法的に目に見えてる異常事態に対して対応するのが精一杯だったんじゃないかと思 います、私の勝手な想像ですけど。 (あと 3枚目の図面ですが) f:id:sekiyo:20120609222720:image 普通の方はあまりこういう図を見ることはないと思いますのでちょっと説明しますと原 子炉圧力容器の中の炉心と呼ばれるのはこの部分です。 f:id:sekiyo:20120609222721:image この長さがちょうど燃料の長さに相当していて約 4m、ここに縦方向に燃料がつめ込まれ る。その燃料の間に差し込まれる制御棒がここにひかえている。そして燃料集合体を取 り囲んでいる円筒形のものがシュラウドと呼ばれシュラウドと原子炉圧力容器の間にリ ング状に空間ができていてそこにジェットポンプがある。 f:id:sekiyo:20120609222722:image そこから炉心にフタみたいなものがありフタの上にニョキニョキたくさん筒が出てるん ですがこれがセパレーター、汽水分離器と呼ばれるものです。この中には羽根がついて いてここで要するに旋回流をつくる。上がってくる蒸気の勢いで旋回流になって水の部 分が振り飛ばされここに穴があいていてここから下の隙間におちる。上にいくのは蒸気 だけになる。 f:id:sekiyo:20120609222723:image ところがその蒸気にもきわめて細かい水滴が残っています。それは湿分と呼ばれ完全に ガス化していない極小の水滴です。これはタービンに悪影響を与える。このドライヤー 、乾燥器にはクネクネ曲がったステンレスの板があり曲がるたびに湿分がカベに張り付 いて下に落ちる。ということで湿分が取れあとは蒸気だけになってタービンの方へいく 。 f:id:sekiyo:20120609222724:image 原子炉といっても単純な容器ではなくて中にこんなものがいっぱいつめ込まれている。 実際のところ燃料集合体だって非常に複雑な構造になってて燃料棒が何十本もタバにな ってその回りに四角いチャンネルボックスがあるし下には制御棒を案内するガイドチュ ーブ、ステンレスのチューブが何本も立っている。 ですから炉心がダメになる、メルトダウンしたとかいうんですが底へ落ちてくるといっ ても簡単ではない。実際この中がどうなってるかは 10年ぐらいして中に近づけるように なってからじゃないと ... ここはステンレスのパイプがぎっしりつまってますから人が 入れない、手も簡単には入れられないぐらいですから現状、炉心の中がどうなってるか は私にも想像がつかないですね。 お、終わった ... oLr