提言
長良川が置かれている現在の河川環境は、河川改修が進んだ昭和40年代から劇的に変化している。河川改修の結果、川幅が広くなったため水の流れが緩やかになった。また、河口堰ができたことで流量が安定するようになった。さらに河川改修は長良川上流にもおよび、魚の貴重な住みかである瀬や淵が失われることとなった。この反省に立ち、近年では多自然型河川造りが施工されるようになった。長良川本流は岐阜県と国土交通省が管理しているが、小河川や用水路は流域市町村が管理している。岐阜県関市では10年ほど前から多自然型河川造りによって失われた自然を取り戻す取組みを始めている。関市では市民と共に自然を取り戻す取組をしている。しかし、一部では自然の復元ではなく庭づく栗になっている。また、コンクリート護岸から土手に変更したところ、元のコンクリート護岸に戻して欲しいとの要望が市民の側から聞かれる。このことから、自然の植生と生態系のかかわりをもっと訴えていく行政側の努力が必要である。
長良川ではしばしば長良川河口堰が環境に影響を与えていると指摘されることがある。河口堰がアユの遡上に影響を与えている、というものである。しかし、現状のアユの資源量調査では、遡上数のばらつきは大きいものの、自然的要因による域をでない。また、稚アユの降下量と翌年のアユの遡上数に相関関係は見られない。さらに、河口堰を通過したアユは順調に中流域まで順調に遡上している。このことから、長良川河口堰は環境へ過大な負荷をかけているとは言えない。また、河口堰に設置されている魚道は十分に機能しているといえる。遡上は魚道で十分だが稚アユの降下は河川の全面にわたっているので河口堰が少なからず影響を与えているといわれるが、稚アユの降下量と翌年の遡上数に相関関係が見られない以上、河口堰の稚アユの降下への影響は小さいといえる。しかし、サツキマスの遡上数は確実に減少していえる。これは近年の河川環境の悪化が影響していると考えられる。サツキマスはアユに比べて大型なので、サツキマスが隠れることのできる岩の隙間が長良川流域全体で少なくなっているためだと考えられる。岩の隙間は土砂の流入で埋るので、土砂が河川に流れこみにくくするための工夫が必要である。この対策としては治山林の整備と人工的に淵と瀬を配置する方法が最も効果的であると考えられる。
こうしたことから、長良川本流でも瀬や淵を取り戻す努力が必要であるといえる。これは、山荒れなど里山や山林にもう一度人の手を加えることで山林を適度な状態に保全し、土砂の流出を抑える治山林としての機能を高める努力もあわせて必要である。河川への土砂流出を抑え、魚の住みかを適度な状態に保てるような河川環境を取り戻すことが急務である。長良川の山林や里山は人の手が加わることで保たれていた部分が大きい。行政が資金を出して、里山の保全事業など複合的な自然保護の施策が必要である。