近年、おいしくて安全な水を求める人が増えている。スーパーやコンビニなどの店頭では必ず何種類かの「水」が陳列されている。人々の「水」に対する関心の高まりを受けて、行政も水環境を改善するために水源涵養林を指定して水源周辺の開発を禁止したり、都市河川では近自然工法による自然の再生が試みられたりしている。水源涵養林とは、水源の保護を目的として指定された森林のことで、保護林は治山や水源の保護などを目的としているので若干性質が異なる。日本における水源涵養林の指定事例は珍しく、いまだに脚光を浴びていませんが、ヨーロッパでは水源涵養林などの指定は当たり前として行われている。ヨーロッパ各国、特に環境先進国であるドイツでは水道水源となる流域の開発は法律で禁止されている。日本では、都道府県知事の許可さえ取れば、たとえ水道水を供給しているダムが近くにあっても、ゴルフ場などの開発は可能というのが現状だ。したがって、日本の「清流」と呼ばれるきれいな川は、もしかしたらあと数年で消えるかもしれない危険性がある。その消えそうな清流のひとつに「長良川」がある。「長良川」は「長良川河口堰」をめぐって行政と市民が対立している地域なのだ。
 長良川河口堰は治水と利水を目的に計画されたもので、既に稼動している。長良川の川底を掘る(浚渫する)ことで水がより多く流れるようにし、堤防を補強して大洪水に対応出来るよう計画された。浚渫(しゅんせつ)を行うと海水が上流まで遡上し塩害が発生する恐れがあり、塩害防止と正常な流水の機能の維持で国土の保全をはかるため、長良川の河口から5.4キロの場所に河口堰を設置することとした。これは国の水資源の政策として「水資源開発公団」が恩恵を受ける三重県・愛知県・名古屋市、それぞれに経費を負担してもらうことを約束したうえで設置したものである。この長良川河口堰は、昭和43年に着工して平成6年に稼動した。
長 良川河口堰を設置することにより毎秒7,500トンの水を安全に流下させることができる。また、川底を掘り下げ長良川の水をより多く流すことで洪水を防止できる。さらに、潮止めとして海からの塩水を止め、河口堰の上流域を淡水にすることで新たに水道用水や工業用水の水を取ることができる。この新たな水源は、愛知県、三重県、名古屋市が水道用水、工業用水を最大で毎秒22.5トンを取る予定になっている。
 最近の水質調査でこの長良川から発癌性が指摘されている大量の環境ホルモンが検出された。この事実は国も認めている。この発表を受けて長良川では、今でも鵜飼が行われている全国的にも珍しい地域ということもあって、水環境への関心も一気に高まった。この鵜飼が行われている地域は奥長良川と呼ばれており、岐阜県関市と岐阜県岐阜市がその地域にあたる。この地域はまた、「美濃鵜飼」や「小瀬鵜飼」と呼ばれている。鵜飼は奈良時代から続いていて、明治23年から宮内庁の直轄となっている。このような流れをふまえて、長良川水系の中流域の水環境をアユやサツキマスの資源量調査を中心に検証していく。

参考資料
長良川河口堰のはたらき(独立行政法人水資源機構長良川河口堰管理所)2004年
地球環境白書『最新 今「水」が危ない』(学研)2004年
はじめに
水質班