日曜日の人間界の朝。いつもなら午後に起きるはずの幽助がもう起きてしまったのは、家の電話がずっとやかましく鳴りっぱなしでいたからだった。
「なーんだよ、うっせーなあ。オフクロまたいねーのかよ」
髪をくしゃっとかきまわしながら、幽助は面倒そうに受話器をとった。
「はいー、もしもし」
「幽助、やっと出たか。オレだ」
「躯!?」
改めて言うまでもないが、それは躯からの電話だった。
「なんだよ、こんな朝っぱらから」
「そうか?今ごろ人間界は10時すぎだなと思って、わざわざ時間を合わして掛けてやったんだぜ」
「だーオレはいつも午後に起きてるんだよ。で、一体何の用だ?」
すると、躯は急に声を小さくして言った。
「…………………………飛影、人間界(そっち)に行ってないか?」
「え?
飛影?」
「急にふらりといなくなってな…。もう10日になる」
「はあー。あいつがいきなりいなくなるなんてよくあることだぜ?そのうちひょっこり帰ってくるって」
するともう幽助は電話を切ろうとした。
「でも今日で11日目だぜ?今まであいつがそんなに音信不通にすることはなかったんだ」
幽助は面倒くさそうにまた受話器を耳に当てた。
「あいつが何かに巻き込まれたとでも言うのかよ」
「ああ その通りだ」
躯はあっさりと言った。幽助は少し面食らったようだ。
「幽助、心当たりはないか?」
「ないな。ここんとこずーっと飛影なんかに会ってねぇもんよ」
「そうか」
躯は少しがっかりした様子だった。
「…で オレにどーしろっていうんだ」
「とりあえず、人間界であいつ捜してみてくれないか。魔界の方はオレが捜している。蔵馬にも連絡しておいてくれ。心当たりが他にもあればそいつにも」
「そんなに心配かよ。取り越し苦労だと思うぜ」
「言い切れるか?誰にも何も言わないで行動するあいつだぞ」
「………」
「まあそういうことだ じゃあな」
「えっ おい待てよ!」
……ツーツーツーツー…
「ちっ!」
幽助は受話器を荒っぽく置いた。
「なんだよ、ったく面倒くせーなー…」
ー−□・◇◆○◆◇・□ーー
「さあ、心当たりないですね」
「だろーな。でもちゃんと捜さねーと躯に何言われるかわかんねーしなー。ほとんど命令口調だったぜあいつ」
幽助は相変わらず面倒そうである。無理もない、ぐっすりと気持ちよくノンレム睡眠していたときに、電話でいきなり起こされて、しかもわけのわからない 幽助にしてみればどうでもいいことを命令されたのだから。イヤになるのも当たり前である。しかし命令してきた者が者だから、幽助はやらざるをえないのである。
「でも、人間界で飛影が行くところといえば ある程度限られていますからね。そんなに時間は掛からないと思いますよ」
「そうか?そんならいいんだけど」
「まあとりあえず一緒に捜しに行きましょうか。今日は日曜だからオレは休みですし、幽助も時間あるでしょう?」
「…あ、あ」
本当は時間があればさっさと眠りたい幽助であったが、なんということだろう、蔵馬まで少しやる気ではないか。蔵馬に最初に電話したのはまずかったかもと幽助は少し思った。
「わかった。んじゃ蔵馬オレんちの前まで来てくれねーか」
昼の12時、二人はマンションの前で会った。しかし、なぜかそこには桑原とぼたんまで来ていた。
「なんでお前らが……」
「頼まれたのさ。まあ、あたしは前にも一回飛影捜索して、しかも見つけたことあるからね」
(躯の奴一体何考えてんだ…)
「でも、確かに捜す必要性はあるかもしれませんね。飛影がふらりといなくなることは普段でも大いにありえますが、もしもやっかいなことに巻き込まれていたりしたらまずいですからね」
「じゃーどうする?とりあえずイタコ笛でも使おうか?」
「?ぼたん なんだぞれ」
「普通の人間にはきこえない特殊な音波を発する笛!あんたにゃ説明したでしょ!」
「だってオレが霊界探偵だったのってもう何年も昔の話だぜ。いちいち覚えてられっか」
「単に浦飯の記憶力が悪いだけだろーがよ」
「んだと桑原!それはこっちのセリフだ!中学の理科のテストで7点しかとれなかったくせに!」
「でもオレはその直後53点とったんだぜ〜。とれるかぁ?おお浦飯?」
「なんだとこのタコスケー!」
「やーーめーーなーーってば」
ピィーーーーーーーーーーーーーーーーー! ! ! ! ! ! ! ! ! ! !
幽助と桑原はノックダウンした。
イライラしていたぼたんの空気にいち早く気付き、危ないと思いさっと耳をふさいだ蔵馬は無事だった。
「何のびてるんだい?さーて、これでもし飛影が人間界にいればきこえたはずだよ。返事してくれないかねぇ」
(強い……)
あっさりのびている幽助と桑原を見て、蔵馬は唾を飲んだ。
10秒……20秒……30秒……。そして1分待ってみたが、一向に誰も現れる気配はなかった。
「うーん、おかしいねえ。絶対きこえてるはずなんだけど。飛影がいるとしたらこの辺だろ?」
「へっ、圏外にいてきこえてねーんじゃねーの?」
「あたしの霊力が弱いってのかい?なんならもう一回吹いてあげようか?」
「げっ!いや、もう結構です…はい」
「…確かに、もしも人間界にいるとしたら、今のは必ずきこえてるはず。でも姿を現さないということは、やはり魔界にいるか、…オレ達に会いたくないか、会えないか……」
「どっちも可能性が高いな」
「ああ」
「…………」
「…手分けして捜す?」
「……ああ」
ー−□・◇◆○◆◇・□ーー
こうして4人は、幽助と蔵馬、桑原とぼたんの二組に別れた。
「いないいない。もうどうせいねーって。魔界にいるんだろ。もう帰ろうぜ」
昼の2時。幽助はまだ寝たい気分らしい。12時から2時間、ずっと歩きっぱなしなのである。そりゃ寝たくもなるであろう。
「もう少し真面目にしてくださいよ。いい加減にしたら躯に何言われるか分かりませんよ」
だだをこねる幽助を蔵馬は制した。二人はまた歩き始めた。
「心当たりは限られてるって言ったくせに」
「公園にも、山にも雑木林にもいなかったのは意外でしたね。てっきりいると思ったんですが」
「あと残ってる心当たりは?」
「…………」
「どうした?」
「………………ない」
「何!?」
「もう、心当たりはないんです」
蔵馬は、ふっと真剣な顔になった。
「ないか。じゃーやっぱり魔界にいるんだ」
「…だが、魔界では躯が、もう10日間もずっと捜し続けている。
魔界広しといえども 彼女の情報網で捜しても10日以上かかって見つけられないとしたら、魔界に飛影がいる可能性はかなり低い」
急に真剣な口調になった蔵馬に幽助は驚いた。
「そのうえ、人間界でいそうな所を2時間も二手に別れて捜してもいないとなると」
「………。
飛影が、何かの事件に巻き込まれてる可能性が高いってことかよ」
「……ああ…」
二人は立ち止まり、10秒ほど沈黙した。
「なー、とりあえず昼飯食べに行かね?オレ腹減っちまってさー」
「あ、そうですね。もう2時ですし…」
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それから後、再び彼らは探し続けたが、一向に飛影の姿は見つけられなかった。
あまりに気配を感じないので、幽助も蔵馬の危惧していることが気になり、いつの間にか真剣に探し始めていた。
だが、飛影の情報を全くつかめないまま、ただ時間は過ぎていった…。
夕方5時、4人は再び幽助のマンションの前に集合した。
「……いなかったな……」
「これだけ捜してもね…」
「まさか…」
「………」
西日が、4人を柔らかく照らした。彼らは下を向き、自分の長い影に目を落としていた。
「これ以上捜しても仕方ねーよ、らちがあかねえ。今日はいったん解散しようぜ。躯がもう見つけてるかもしれないし」
「いや、さっき躯には聞いてみた……結果は予想通りです……いなかったらしい」
「…………」
「もしや霊界に行ったなんてことないだろうな」
「まさか!霊界に行ったならあたしが絶対知ってるよ!それに肉体はこっちの下界に残るし」
「………」
結局、その場はお開きとなった。夜になっても、躯からの報告も、飛影の情報もなかった。
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「何っ!?まだあいつ見つかってないのか?もうあれから1ヶ月だぜ!?」
蔵馬は躯からの電話を受けて、幽助に電話していた。
「いよいよ本気でやばくなってきたってわけか…?」
「…そうですね」
「………」
「前とは別の意味で、心当たりはありませんか?」
「…ねえよ」
幽助は、なんとなく言うのが辛かった。
「…そうですか…。じゃあまた。気が向いたら捜しといて下さい」
そうして蔵馬は電話を切った。
幽助はなんとも言えぬ空気に飲まれつつあった。
あいつ…本当に一体どこ行きやがったんだ!?
「ああ、じゃあな」
桑原も、蔵馬からの電話を切った。
「飛影さん、まだ行方不明なんですか?」
心配そうに雪菜が尋ねた。
「そうらしいんすよ。まあチビの割にけっこー強い奴だから、大丈夫とは思いますけどね」
桑原は雪菜も同じくらいチビだということを忘れていた。
「そうでしょうか…。大丈夫でしょうか、飛影さん…」
雪菜の暗い顔に桑原はあせった。
「あっそだ!雪菜さん!あのー天気もいいし、一緒にお買い物にでも行きませんか!?姉ちゃんにも頼まれてるし…」
「あっええ!そうですね。行きましょうか」
ー−□・◇◆○◆◇・□ーー
桑原と雪菜は買い物にでかけた。桑原はもうるんるん気分である。
「えーと、雪菜さん、今日の夕ご飯なんでしたっけ?」
「今日はシチューみたいですね」
「シチューですかあ!雪菜さんのシチュー食べてみたいなあ〜!なんちゃって☆」
雪菜は(悪気はないのだが)桑原を完全無視した。
「買うものはですね…牛乳と、人参と、たまねぎと、じゃがいも…。あっっ!!」
そのとき、メモを見ながら歩いていた雪菜は、階段に気付かずズルッと足を踏み外してしまった。
「ゆっ雪菜さん!!」
桑原は突然の出来事に急に対処しきれなかった。
メモと雪菜の体が宙に舞う。
とそのとき、階段の横の並木からひゅっと出てきて、落ちてきた雪菜を地面の手前でがっしと受け止めた者がいた。
「えっ!?」
雪菜は目を開けた。
「……誰…ですか?」
と雪菜が言い切る前に、その少年は地面に雪菜を降ろすと、さっさとその場を離れていってしまった,
「なんだあのガキは?って言ってる場合じゃなかったっ!ゆきなさーーーーん!!」
桑原は階段をいそいで駆け下りた。だがあまりにも急いでいたため、桑原も雪菜のごとく階段から落ちてしまった。さらに、彼には助ける者がいなかったので、彼はコンクリートに顔を思い切りぶつけてしまった。最悪である。つぶれ顔がさらにつぶれてしまった。その上に、ひらひらとバカにしてるかのようにお買い物メモが落ちてきた。
「だッ大丈夫ですか和真さん!?」
「いだだ…。いえいえっ大丈夫ですよこのくらい!」
ひょいっと桑原は愛の力で立ち上がった。
「それにしても、今のスポーツ刈りのガキはなんだったんでしょう?白シャツ着て…いきなり飛び出していきなり消えて…」
「もしかしたら、あの人が出てきた瞬間に、たまたま私があの人の上に落ちてしまったのかも…。
そうだとしたら、あの人に悪いことしましたね…」
「うっ、いや、それは違うでしょー!きっと雪菜さんのお綺麗な顔がつぶれないように、親切で助けてくれたんだと思いますよ!そうっすよ絶対!」
すると雪菜は、にわかに微笑んだ。
「そうでしょうか。そうですね。ありがとうございます和真さん」
雪菜の笑顔で体温が上昇しつつある桑原だったが、実は内心あのスポーツ刈りの少年に対抗意識を燃やしていた。
ー−□・◇◆○◆◇・□ーー
「えっっ!?
飛影が……帰ってきた??」
捜索開始から2ヶ月、幽助から蔵馬に電話がかかってきた,
「らしい。ひょっこり現れて、なーんにもなかったかのようにまたパトロールに行ってるんだとさ」
「飛影はなんて?」
「なーんにも。躯が『この2ヶ月一体何してたんだ!?』ってきいたら、飛影は『さあな』だとさ」
「飛影になにか変わった様子は?」
「特に…。ただ髪がちょっとだけ形変わってるかなーってくらいらしい。まあ普通の逆毛らしいけど」
「なにか凄まじい闘いでもしてきたんでしょうか?」
「まっさかー。妖力は全然変わってなかったらしいぜ。
やっぱし取り越し苦労だったじゃん。心配することなかったんだよ。じゃーそんだけだから。あー桑原にも一応言っとかねーと。んじゃな」
そうすると、幽助は嬉しそうに電話を切った。ようやく一段落ついたのだ、嬉しくなるだろう。だが人にめちゃくちゃ捜させておいてあっさり出てくるのも、実は少し腹が立った幽助であった。
蔵馬は飛影が何か隠しているようでならなかった。この2ヶ月…。飛影に何があったんだ?
ー−□・◇◆○◆◇・□ーー
【なにか凄まじい闘いでもしてきたんでしょうか?】
…そう、飛影は戦っていたのだ。誰にも見つからないように、工夫しながらずーっと身を隠していたのだ。伸びるまで。
「飛影、なんだこれは?」
躯が持っていたのは、薄汚れた白いTシャツだった。飛影はどきっとした。
「お前こんなのも着るのか?」
飛影は何も答えなかった。
☆おしまい☆
この話はなが〜い「雪消三角草」のお話の休憩用に作ったものなんですが、
こっちまで長くなっちまった…意味ねーじゃん(汗)
まあ1話で終わってるから、
クッリスッ マ ス よっり はっ短 い と思いっ ま すがっ(なぜカタコト)
でもいっぺんに読むのはしんどいだろうな。読み直したくないもんこれ(おい)
まあ読み直しますが…。
え〜〜〜〜と 話わかったでしょうか?
飛影が……スポーツ刈りになってたのね………(爆)
髪のびてきてたから床屋に行ったら、何か知らんけどスポーツ刈りにされて、
髪がのびるまで身を隠してたんですね…。
ロンゲ飛影はまだ想像できるけどスポーツ刈りは想像つかん(汗)
この話の目的?目標?は
「飛影のセリフをいっこも入れないで飛影メインの話にする」ってことだったんだけどいけてますか?
最初の目的は「三角草のお休み用」だったんで、これで目が休まれば…休むはず無いな……まあ頭休憩させて、
三角草も読んでくださいね。
これ一日で書いたからしんどかった…あーまた目悪くなっちゃうよ(じゃやるなよ)
2003年1月19日