「もしも飛影が転校生だったら・・・?」



そいつの事なら、オレは前から知っている。
いや、見た事がある−−−そういった方がいいのかもしれない。
友達に囲まれて、いつも笑いさざめきながら、賑やかに電車に乗ってくるやつ。一際通る声で、
楽しそうに笑いながら、たわいもない話をしていた。最初は、五月蝿いなと声のする方を睨みつ
けながら見たオレが、文句も言わずに、そのまま、そいつの顔を見ていたのは、多分、そいつの
あまりにも無邪気な笑顔とクルクルと変わる表情のせいだろう。
だが、1人で乗ってくる時は、静かに窓の外を眺め、時には物思いに耽っていたりする。そんな
ギャップがまた不思議で、悟られないように、そいつを観察したりしていた。
そして、、、、。


             * * * * * * *


朝、授業が始まる少し前、、、、生徒達のおしゃべりでざわつくいつもの教室。
ガラッと教室の戸が開いて、担任の先生が入ってくる。

「えー、皆さん、静かに。今日から、1人、このクラスに仲間が増えることになりました。」

みんなのおしゃべりがピタッと止まり、転校生に視線が集中する。この時期に、この学校に転校
してくるなんて、異例のこと、、、。どんな子だろう?机の下で、こそこそと宿題の最終チェッ
クをしていた私も顔を上げた。

(あ!、、、、あの人だ、、、!!)

その顔を見て、心臓が止まりそうなくらい驚いた。時々、電車の中で見かけていた男の子。あま
り背が高くないせいか、普通だったら満員の電車の中で気づくはずもないのに、何故か私は気に
なっていた。いつも1人、そして、何となくまわりとは馴染んでいない空気を持つ人。その射抜
くような鋭い眼差しが、人を寄せつけないオーラでも発しているようだった。最初、その視線に
気づいた時、怒られるのかとビクッとしたくらい怖かったけど、同時にとても惹かれてしまい、
会える時を楽しみにしている自分がいる。何処の誰ともわからなかったのが、こうやって、目の
前に、しかも、同じクラスになるなんて、、なんか嬉しい。自然に頬が熱くなりながらも、顔が
ニヤけてしまうのを抑えきれず、また俯いてしまった。

先生に自己紹介を促され、彼が言った言葉はたった一言、

「、、、、、、、、、飛影だ。」

よろしく、というわけでもなく、何処から来たとか説明するでもなく、、。あまりの愛想の無さ
に、先生もオロオロしているし、クラスのみんなも、なんだあいつ?と呆気に取られている。本
人は全然そんな雰囲気などお構いなしのようだけど、、。彼の声をきいて再び顔を上げた私は、
何となく電車内の事を思い出してクスッと笑ってしまった。それが聞こえたのかどうか、、、
彼にはジロリと睨まれてしまったけど(汗)。

彼が座る事になった席は、私とは正反対の窓側の一番後ろ。気になるけど、わざわざ後ろを振り
返ってまで、彼を盗み見することはちょっと辛い。そわそわした気持ちのまま、あっという間に
1時間目の授業が終わり、休み時間になった。転校生の常として、まわりにワッと人垣が出来て
彼に色々な質問がされているようだ。私は遠巻きにそんな様子を見ていた。すると、いきなり、
その人垣が崩れ、彼が憮然とした顔で席をたち、教室を出ていった。

「なんだよ、あいつ、ほんと、愛想ねえでやんの。」
「何をきいてもさあ、ろくろく答えようとしないし、やな感じ。」
「クラスに溶け込もうっていう気がないんだよね、あれ。」
「たいしたこともきいてないのにさ、、。無視することないじゃんね?」
「いいや、あんなやつ、ほっとこうぜ。」

などとざわめくクラスメート達の声が聞こえる。一応、有名進学校のうちの学校に、学期半ばに
して転校なんていう珍しいパターンだったせいか、みんなの好奇心が強かったのかもしれない。
何となく、心配になって、彼が出ていった後を追い掛けてみようかとも思ったけど、他の友達が
来て話しはじめたのでそのままにしていた。
2時間目が始まる直前に、彼は席に静かに戻り、また、授業を受けた後は、みんなを避けるよう
に何処かにいってしまう。そんなことが、結局ずっと続いて放課後になった。
私は彼と結局一言も話せないまま、その後に待ち構えるものを考えて憂鬱な気分が増していた。

、帰ろう〜♪」
「ごめん、今日さ、先生に呼ばれてるんだ(苦笑)多分、この前の宿題のことだと思うんだけど
 、、、、、潔くお説教くらってくるわ。」
「あららら、、、そうなんだー。待ってようか?」
「いいよ、みんなと先に帰って。どうせ、長い時間かかるし、、。嫌味たらたらだろうけど、耐
 えてくるよ。」
「そっかあ、、がんばれよ〜。」
「うん。ありがと。」

宿題をたまたま提出し忘れたとか、そんな些細なことでも、厭味をネチネチ言う英語の先生に、
たっぷりと説教を喰らって解放されたのは、1時間半も後のこと。校舎を出ると、夕日が沈もう
としていた。

あーあ、、馬鹿馬鹿しい、、、。無駄な時間をこんなにとっちゃった、、。
もう、飛影くんはとっくの昔に帰っちゃったんだろうなあ、、、。

そんな事を考えながら、ちょっと落ち込んで駅までの道を歩く。帰宅部の子は、とっくにいない
し、部活をやってる子は、まだ学校に残っている、中途半端な時間のせいか、通学路で同じ学校
の生徒は見かけない。多分後ろからみたら、トボトボと孤独を引きずって歩いてるんだろうなあ。
そう、いつも友達といる時は、それなりに楽しい雰囲気を壊したくなくて、うるさいくらいに、
はしゃぐ私だけど、こうやって1人だとけっこう色々なことを考え込んで、自分の世界に入って
しまうのだ。多分何処かで無理して部分もあるんだろう、、。あの飛影くんみたいに、人の目な
ど気にせずに、自分の好きなようにできるのって、ちょっとうらやましかったりする。親からの
期待や、先生からの叱咤激励、そして、友達とのつきあい、そんなもの全部忘れてしまいたくな
る時だってあるんだけど、きっと誰も、私がそんなことを思ってるなんて考えたこともないんだ
と思う。なんせ、これでも学校でも家でもイイ子で通ってしまってる。今さらそのイメージを壊
す事もできず、足掻いてるという感じかもしれない。

「っつっ!」
「いってぇな〜、おめぇ!何処に目をつけてんだよ?」

ぼやっとしてたせいなのだろう。前から来た男の子2人(それもガラの悪そうな)とすれ違い様
に、ちょっとだけ肩がぶつかってしまった。

「あ、、ごめんなさい。」
「ごめんですんだら、警察なんていらねーんだよ。」
「そ、そんな、、。」
「こいつ、あの学校の生徒かだぜ?けっ、お高くとまってやがるやつらばっかいるとこだ。前か
 ら気にくわなかったんだが、詫びのかわりに、おれ達につきあえば許してやるぜ。」

まるでドラマに出てきそうな不良の絡み方だ、、。何処かでそんな事を思っている自分がいる。
でも、事態は最悪。いかにも頭の悪そうな、でも、腕力だけはありそうな2人が、私の腕を掴ん
で、細い路地に入った方へ連れて行こうとする。

「ちょ、ちょ、ちょっと、離して下さい!」
「なんだとぉ?抵抗する気かぁ?」
「おめぇ、あの学校にいってるくらいだ。遊ぶ金くらい、タンマリ持ってるんだろ?出しな。」
「もってないんなら、別に、違う方法でもいいんだぜぇ?」

ニヤニヤと笑いながら近付いてくる、ニキビ面の脂ぎった方が気持ち悪い。

「いやっ、やめて!」
「へん、おれたちゃ、ここらへんじゃ、ちょいと顔が売れてるんだ。誰も助けになんぞ来ない。
 みんな見て見ぬフリして通り過ぎるだけってやつさ。」
「そうそう、おとなしく言う事きいた方がいいぜ。」

片方にカバンをひったくられそうになり、もう1人に肩を鷲掴みにされて、路地にズルズルと引
きずりこまれそうになったその時、、、。


「貴様ら、何をしている?」


「!?」
「なんだ〜?おめえは?」
「ヘンッ、、チビには用はない。かえんな。」
「何だと、、、、(怒)」

ドカッ、バキッ、ボキッ、ドサッ、、、、、

ほんとに一瞬の事だった。私に絡んでいた2人があっという間に、地に這いつくばって、苦しそ
うな呻き声をあげている。そして、その前に立っている小柄な影は、、。飛影くんだ!!!!

「く、くそぉ、、おぼえてろっっ、、。」

そう言って、彼等が逃げ去っていくのを、呆然として私は突っ立ったまま見ていた。

「何をボサッとしている?」

私に投げかけられた言葉に、はっと我に返った。
飛影くんは、私のカバンを差し出して、怖い目をして睨んでいた。

「あ、、ご、ごめん、、。ありがとう、、。」
「ふん、、。」

緊張が解けて、私の涙腺も弛んだらしい。涙がジワッと出てきた。その様子を見て、慌てたのか
飛影くんが、近付いて私の手にカバンを持たせてくれる。

「泣くなっっ。うっとおしい。」
「ご、ごめん、、、、(ひっく)、、、だって、、、、だって、、(ひっく、ひっく)」

言葉はキツいけど、彼が立ち去る様子はなかった。そのまま、私が落ち着くまで、そばに黙って
いてくれた。ようやく言葉がまともに出てくるようになって、ふと彼が、何故ここにいるのか、
不思議に思ってきいてみた。

「でも、、どうしてここに?飛影くん、とっくに帰っちゃったと思ってた、、。」
「、、べ、別に、いつオレが帰ろうと、お前の知ったことじゃないだろう?(ちょっと赤面)」
「そうだけど、、、、、。」
「、、、、、、、、、、。」

会話が続かない(汗)やっと話せたっていうのに、、しかも御礼をちゃんと言わないといけない
のに、焦るとまた、言葉が出てこない。それでも必死で言葉を紡いでみた。

「ひ、飛影くんて、、、、喧嘩強いんだね?」
「あいつらが弱すぎるだけだ。」
「でも、学校の外でも中でも、誰かと喧嘩したなんてことがわかったら、大変だよ?」
「フンッ、喧嘩したらどうなるというんだ?退学か?(せせら笑う)」
「最悪は、そうなっちゃうよ、、。」
「そんなことはどうでもいい。」
「どうでもよくなんかない!!」

思わず大声を出した私を片眉をちょっとあげて見る彼。

「よくないよ、、。やっと話が出来たのに、、。」

「もしも、今のを喧嘩だっていわれたら、私を助けてくれたんだって、絶対に言うから。」

「だから、学校を辞めなくちゃいけないような事とか、危ない事とか、、しないで、、。」

なんでだろう?なんで、こんなに必死になってるんだろ?第一、彼が私の事を、クラスメートだ
というのを知っているのかどうかすら怪しいというのに。止まらなかった。そんな私の言葉をさ
えぎることもせず、黙って聞いていた彼だったが、耐えられなくなったのか、ついに口を開いた。

「校内規則だの、何だの、うるさいルールなんかクソくらえだ。それでもダメだというのなら、
 別に停学だろうが、退学だろうが、オレは気にしない。慣れてるしな。」
「な、慣れてるって???!」
「ちっ、、何でもない。」
「何でもないことないよ!そんな事言われたら、余計に気になっちゃうよ。」
「どうでもいいことだ。また、バカなやつらに絡まれないうちに帰れ。」

にべもなくそう言われて、睨まれた。それ以上の質問を許さないといったキツい目。
怖い、、、、。幾多かの修羅場をくぐってきたかのような彼の暗い部分を見たような気がした。
せっかく助けてもらったのに、彼の眼差しから逃げるように、私はその場を立ち去らざるを得な
かった。後ろ髪をひかれる思いとは、まさにこの事をいうんだろう。私の話し方いかんでは、も
しかしたら、一緒に帰れたのかもしれないのに、、、。
唇をかみながら、俯いたら、涙がまた、足元にこぼれ落ちる。

「おい、、、 、、、。」

重い足取りで駅に向って歩き始めた私に、不意に彼が声をかけた。

え?今、、って呼んだ?
どうして飛影くんが、私の名前を知ってるの??

驚いて振り向いた私と彼の目が合った。私の目にある涙を見て、彼はとまどったように言う。

「その、、なんだ、、ちょっと言い過ぎたかもしれんな。」
「え、、、。」
「とにかくだ、、。さっきの事は、誰にも言うな。オレがどうだとかこうだとか、勝手に噂など
 されるのはイヤだからな。」
「もちろん、言わないよ。」
「そうか、、、。それならいい。」
「あ、あの、、、。」
「なんだ?」
「飛影くん、私の名前をどうして知ってるの?ていうか、クラスが同じだってことも知ってた?」
「ああ、、、、。」

肯定する返事の後、飛影くんはプイッと顔を背けてまた黙り込んでしまう。重苦しい沈黙に耐ま
りかねて、私が口を開きかけた途端に、顔を背けたまま彼が言った言葉。

「電車であれだけ騒いでいれば、、、、、、、、、、イヤでも聞こえてくるぜ、、。」
「!!!」

通学電車で時々感じた視線、あれは彼?私の方が、彼を時々盗み見していたと思っていたんだけ
ど、、、、なんで、彼に気づいたのか、、、考えてみたら、確かに、イタイ程突き刺さるような
冷ややかな視線を感じたことがきっかけだったような気がする。
それだけ、私がうるさかったから印象に残っていたってこと?だとしたら、恥ずかしい、、、。
でもその最初の時にも彼と目は合ってないし、私がこそっと見る時はいつも、彼は目を閉じてい
たりしていた、、。私が彼に気づいてからも、時々感じる視線、、それが彼のものだったとした
ら、、、、。
そんな考えが頭の中にぐるぐると駆け回って、少しパニック状態に近くなっていた。

「フン、、相変わらず、表情がクルクル変わるやつだな。お前ほど、考えていることが顔に出る
 やつも珍しい(微笑)」
「ど、どういう、、こと?」
「別に、、。」
「飛影くんて、、、、、、、。」
「なんだ?」
「いじわるなのか、優しいのか、、よくわかんない、、。」
「まあ、オレはお前程、単純じゃないからな。」
「ひっどーい!」
「くくく、、、。まったく見ていて飽きないやつだぜ。」
「どういう意味よ?」
「そのまんまだ、、、。ぶっ(噴き出す)」
「ん、もうっ、、!」

ついには笑い出した彼を見て、結局私もつられて笑う羽目になった。素直じゃないのはお互い様
なのかもしれない、くらいなことは言ってやってもよかったかもしれない。ただ、少なくとも、
彼が私を無視していなかった事がわかっただけでも嬉しかった。そんな私の様子に気づいたのか
彼はまたぶっきらぼうに、怒ったような口調で私に言う。

「おしゃべりが過ぎたな。とにかく帰れ。」
「う、、、うん、、、ほんとに、ありがとう、。」
「じゃあな、、。」

数歩歩いたところで、彼を振り返って思い付いた事を呼び掛けてみた。

「ねえ、飛影くん。」
「、、、?」
「お願いだから、無茶して退学とか転校とかにならないでね?」
「ふ、、考えておく、、。」
「ありがとう!」

否定しなかったってことは、ほんとに考えてくれるってことだよね。よかった、、、、。

さっきよりは、私の足取りも少し軽くなったみたいな気がする。そうよね、一緒に帰るなんて、
そうそうできるもんじゃないよね、、。でも、いつか、飛影くんと一緒に帰れるようになるとい
いなあ、、と思いつつ、その場を後にする。
彼の事、まだまだ何にもわからないけど、でも、少しずつ知っていければいいかな、、?
まだまだこれから、いくらでもそういうチャンスはあるよね。きっと、、。
いつか飛影くんと肩を並べて下校する姿を想像したら、何となくおかしくて、顔がにやけるのを
とめる事は出来なかった。


             * * * * * * *

あいつが帰っていくのを確認してから、オレは違う道を通って駅まで先回りした。
まったくオレとしたことが、うっかり口を滑らせたもんだ、と自嘲めいた気持ちになる。多分、
今朝、同じクラスに、あいつの顔を見つけた時から、ペースが狂っていたんだろう。
そうでなければ、オレがあいつの事を知っているなどと言う事をおくびにも出すつもりはなかっ
た。だが、驚いていたな、、。
あいつが学校から帰るのが、こんなにズレるとは思わなかったし、つい、待ってしまったが、あ
のバカ共のお陰で、結局、口をきく事になったのがヨカッタのか悪かったのか、、、。
まあ、あいつのクルクル変わる表情を見れたから、よしとするか、、。
正直、泣かれた時は、どうしようかと焦ったが、オレの事を心配されるとは思ってもいなかった。
あいつが電車でオレに気づいていたのは知っていたが、けっこう気にしてくれていたのかもしれ
んな、、、、、、、、いや、そんなことはないか、自惚れてロクなことはない(苦笑)
だが、今日あんなことをしちまったということは、これからも、あいつの事は見ていないと、ま
たあのバカな奴等が仕返しに来るかもしれないしな。ちっ、全く世話のかかる野郎だぜ。
きっと、あいつはそんな事考えてもいないだろう。

ほらほら、、今頃、ホームに御到着だ。ふん、、。オレがここに着いてからでも、1台出ちまっ
たぜ。トロいやつだな、、(笑)
ん?、、オレに気づいたのか?こんなに距離をあけているのに?(汗)
あいつの顔が、ぱっと明るくなりやがった。こらこら、、そんなに慌てて駆けて来るな。
転びそうで危なっかしくて見てられん。

仕方ないな、、、。今日は一緒にこのまま帰ってやるか、、。
まあ、こんなのも悪くない、、。こいつなら、、な、、。

The End

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うききーーーー!!かの有名などり〜ま〜さあなさんから、こんな素敵なお話を頂いちまいました!
つっても、頂いたのは1年くらい前なんですが;;ドリームのやりかたわからなくて載せずじまいでした…。スミマセン;;
「通学中の電車で飛影と会ったら」っていう感じのリクをさせていただいたのですが、飛影と一緒に電車通いとか嬉しすぎです!!
なんだか余韻の残るお話ですよね…(-ヮ-)学生ものは苦手ということですが、それでもこんなに書けちゃうなんてすごいです!
人様からもらった「お話」というのはこのお話が初めてですので、それをHPに載せられるのも嬉しいです。許可いただけてありがとうですvv
また電車とか人混みとかで飛影捜しそうですわ(同じ学校でなくても;;)素晴らしい夢をありがとうでした!

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