「花火が上がる」
花火が上がる。
流星が昇っていくように黒い空に星が飛んでゆき、
パアッと空一面に花火が輝く。
一瞬遅れて 撃たれたような凄まじい音が胸に響き渡り、
そのあと 光はなくなって、一瞬の 無音の空間がおとずれる。
は、人混みから少し離れたところで、ゆらゆらと明かりが揺れる水面(みなも)を見ていた。
(・・・どうしよう・・・・・・)
彼女は、河原の花火大会に一緒に来た友達二人と 祭りの中ではぐれてしまっていた。ついさっき、かき氷を買おうとして少し離れただけなのに、もうそれだけで、二人は人混みの中に紛れ、の前から姿を消してしまっていたのである。
10分近く捜した。かき氷を片手に持っているから、それが服に付かないように気を使って、人混みの中を縦横に歩き回った。
周りはワイワイと騒がしいことこの上なかったが、その中で、の名を呼んでくれる声は、ひとつもなかった。
それで彼女が行き着いたのが、このひとけのない淋しい河原だった。屋台の明かりもあまり届かない、暗い橋の近く。
二人を捜しているのに、こんな人のいないところに来て、私何してるの?と自分に聞きたくなるぐらい、そこは静かな場所だった。
かき氷をしゃくってみる・・・。
氷はすでに半分くらい溶けていて、口に入れるとシロップの味が冷たく口の中に広がった。
それはそれでおいしかったけど・・・・・・。
・・・・・・・・・。
二人とも、どこ行っちゃったんだろう・・・。
「お前、こんなところで何をしている?」
びくっとした。
ずっと騒がしい声を聞いていたのに、なんだか人の声を久しぶりに聞いたような気がした。
後ろを向くと、暗い橋の下から、黒いシャツを来て、鋭い眼をした男の子が現れた。
「こんなひとけのないところに何しに来たんだ?」
______飛影くんだ。
飛影は、と同じクラスの生徒で、いつも人を寄せ付けない雰囲気と鋭い目を持った少年だった。
でも、それを「怖い」とか、「嫌だ」と感じたことは一度もなかった。むしろ何処か不思議で、少し彼女が惹かれていた者の一人だった。
の胸が少し高鳴った。
「何してるって・・・。友達とはぐれちゃったから捜してたの」
は素直に答えた。
「・・・変な奴だな」
飛影は言った。
「人を捜すのに、こんなひとけの無いところに来るのか?」
はきょんとした。
暗がりの中で、飛影は全く表情を変えなかった。
いつもと同じ、必要なこと以外はしゃべらないで、無愛想な顔の飛影・・・・・・。
「うん・・・。私も変だと思う」
飛影も、一瞬きょんとした幼い目を彼女に向けた。
は地面の草原を見た。
「けど・・・なんだか知らないけどここに来たの」
橋の下から風が吹いてきた。飛影は後ろから、は前から冷たい風を受けて立っていた。
なんで、私ここに来たんだろう・・・・。それは・・・・・・。
「・・・誰も・・・私の名前を呼んでくれない、あの人混みが・・・凄く寂しかったから・・・・・・・・・」
風に吹かれる前髪の下で、の顔が少し曇っていた。
ふっと、飛影の腕が目の前にあることに気付いた。
「来い」
え?
「出店のところに行くんだ」
え、なんで・・・?私・・・あそこは・・・。
動揺するを外に、飛影はずんずん明かりのある方へ歩いていった。も、焦って仕方なくそれに続いた。また、ひとりになるのがいやだったから。
「金魚すくいはやれるか」
「うん・・・まぁ」
「よし」
飛影は、ズボンのポケットから黒い小銭入れを出して、店の人にお金を渡した。
は、もう一度買ったかき氷を二つ持っていた。そして、戻ってきた飛影に、その片方を渡した。すると、飛影は代わりに何かを差し出した。
「勝負だ」
「え?」
もらってきた 二本の金魚をすくう棒のうちの片方をに渡し、飛影は店の奥の水槽の前にしゃがんだ。もそこに行って飛影の隣りにしゃがんだ。
赤くて小さい金魚がたくさん泳いでた。飛影はかき氷を側に置いて、金魚をかき回し、金魚を隅に追いつめ徐々に棒を浮かしていった。
こうなってはしょうがない、もやり出した。彼女は金魚すくいはけして苦手ではなかった。小さい頃にこの祭りに来た時、ビニール袋にいっぱいの金魚を誇らしげに家に連れて帰ったこともあった。そのプライドもあるし、ここはひとつたくさん金魚をとってやろうという気に少しだけなった。
やり始めると、二人とも夢中になった。時々相手の持っている器を見て、丁寧に道具を扱いながら、確実に金魚を捕まえられるポイントを狙った。長い間水槽の前に居座り続けた。それでも器に入っている金魚は4、5匹だけだった。二人とも水面をじっと見ていた。金魚の動きにあわせて、二人の目がきょろきょろ泳いでいた。
「お前、もう破れてるぞ」
見ると、の棒の紙に穴が開いて、下にびらびらと細かい紙が垂れ下がっていた。
「いいの!」
「よくなどない。終わりだぞ」
「まだとれるっ!」
だが、みるみるうちに穴は輪の全体にひろがってしまい、金魚は皆するするとその間をくぐり抜けていった。
「・・・・・・」
「オレも終わりだ」
飛影は道具を見て立ち上がり、を見下ろした。も仕方なく立ち上がった。
「飛影くん何匹とれた?」
「9匹」
「うそ、負けた・・・」
がとったのは6匹だった。これでも 可成の時間をかけたのである。
「飛影くん 凄いね!」
「フン」
飛影はそっぽを向いた。は愛想笑いしてみたものの、悔しい気持ちがこみあげてきて、飛影の服のすそをくいと引っ張った。
「ねえっ、スーパーボールすくいしようよ。あれなら勝てる」
「好きにしろ」
は飛影の腕をぐいと掴んで、屋台の間を元気に走っていった。
その時、河原の方でヒュルルルという音がした。
「!」
も飛影も、すぐに河原の方を向いて空を見あげた。
ぱあっと花火が開き、ドンッという音が耳の奥で響いた。
「あっ、花火始まっちゃった」
は飛影に目で合図すると、河原の方に走っていった。飛影もそれについていった。周りにいた人々も、だんだん屋台から離れだした。
花火は、ひとつあがると、次々に空に放たれた。いちいちやかましい音がしたが、はそれを心地よいと思った。彼女は花火が好きだった。黒い夏の夜空に輝く、赤やピンクや緑の、鮮やかな光を放つ花火が好きだった。
「飛影くんも花火好き?」
「・・・・・・」
「飛影くんも、今日花火を見ようと思って、お祭りにきたの?」
「・・・・・・」
飛影は返事をしなかった。
も聞くのをやめた。
二人は、土手のところに並んで座っていた。は花火を眺めながら、手に持ったかき氷を崩して、口の中に入れた。さっき食べたかき氷と同じ味がした。
「うまいか」
飛影が初めてしゃべった。
の顔がぱっと明るくなった。
「うん!凄くおいしいよ!飛影くんも食べたら?」
は笑顔で答えた。
「・・・・・・」
飛影はまた黙った。けれどその口元は、微かに、笑っているよう______に見えた。
「・・・・・・?」
(・・・笑ってるの?)
は不思議そうな顔をした。失礼かも知れないけど、飛影が笑うところなんて、彼女はあまり見たことがなかったからだ。
何で笑ったのかな・・・・・・・。
また花火があがった。しゅるしゅると音を立てて、この空間全体に光をまき散らしていた。
手に持ってるかき氷を見て、は少し考えはじめた。
さっき・・・・・・。
さっき かき氷を食べた時もおいしかった。
けど、味は一緒のはずなのに、なんだか今食べたかき氷の方が、おいしい気がする・・・。
”おいしい”って 言える人がいなかったから・・・・・・?
騒がしい人混みから離れて、ひとりで食べた、かき氷の冷たさ。
お祭りっていうのは、誰かと行くから楽しいの。
みんなと騒いで、みんなとおいしいもの食べて、みんなと面白いことして、
それでお祭りなの。
ひとりでお祭りに来て、ひとりでおいしいもの食べてても、
・・・面白くなんかない・・・・・・。
「、どうしたんだ?」
はっと、彼女は顔をあげた。
空に見える花火がうるんで見えた。
(しまった・・・。感傷に浸りすぎた)
の顔が赤くなった。飛影が珍しそうな顔で、彼女の顔を見ている。
「なっ、何でもないの!」
は向こうを向いて、かき氷を持ってる手を持ち替えてごしごし目をこすった。
こすると、何故だかもっと涙が湧いてきた。彼女は必死に「止まれ!止まれ!」と心で叫んでいた。
は、飛影の方をむけなかった。
「」
飛影の声がしたので、が振り向くと、温かいものが、くるりと彼女の首を覆った。
は、自分の心臓の音が、そこら中に響き渡る花火の音より大きい様な気がした。
花火が上がる。
流星が昇っていくように黒い空に星が飛んでゆき、
パアッと空一面に花火が輝く。
一瞬遅れて 撃たれたような凄まじい音が胸に響き渡り、
そのあと 光はなくなって、一瞬の 無音の空間がおとずれる・・・・・・。
「・・・・・・・・・」
二人は、ずっと黙っていた。飛影は自分の腕をの首に回したまま、顔を下に向けていた。
は、ドッドッと鳴っている自分の心臓の音をずっと聞いていた。
肩の辺りに確かにある熱と、目のすぐ前にある柔らかい黒い髪と、心地よい感触を、彼女はじっと感じていた。
いつの間にか、彼女の涙は完全に乾いていた。
「・・・寂しがり屋め」
飛影がポツリと言った。
「たかが一瞬人とはぐれただけで、こうも泣くようじゃ、これから先ひとりになった時、一体どうするんだ」
彼は顔を下に向けたまま、に聞こえるくらいの声でつぶやいた。
「この先・・・。誰かと別れる事なんて、数え切れないくらいあるんだぜ・・・」
「・・・・・・」
それって、どういう意味なの?と少し聞きたくなったが、聞いちゃいけない気がした。それより、は飛影の問いかけに対して真剣に考えていた。
上を向くと、白い花火があがり、大きく空一面に輝いていた。パラパラと気持ちいい音がしていた。
飛影は花火を見ていなかった。
「うん・・・。そうだね」
が飛影の顔をのぞきこんだ。それに気付いたのか、飛影は少し顔をあげた。
「じゃあ、これから私強くなるよ」
飛影が顔をあげての目を見た。
はにっこりと微笑んだ。花火の光が彼女の顔を照らした。
「飛影くんに、心配かけちゃいけないもんね」
飛影は顔を横にむけた。同時に、ずっとのばしていた腕も戻し、前の方に向き直った。
「もう泣かないよ」
飛影は、顔を横に向けてをまっすぐに見た。赤い綺麗な目に、空の花火が映ってきらきらしていた。
「約束だぞ」
「うん・・・。約束」
二人は一緒に花火を見ていた。そろそろフィナーレにさしかかっているのだろう、綺麗で、人目をひくような鮮やかな花火がどんどんあがっては消えていく。
はその花火を見ながら、また目に涙が浮かんでいるのに気付いていた。それでも、は笑っていた。
(飛影くん・・・これ・・・。うれし涙なんだよ・・・)
はそう心で呟き、飛影の方を見た。飛影はずっと空ばかり見つめていた。
「?こんなとこに居たの!?」
はっとして振り返ると、そこには一緒に祭りに来た、彼女の友達二人が立っていた。
「こっちはずっと捜してたのに、何ひとりで花火見てんのよ。もう!」
「あ、ごめん・・・」
と言いかけて、はちらと横を見た。不思議なことに、飛影の姿はもうそこにはなかった。いつの間に消えたんだろう。
「あ、花火終わっちゃった。今日恐喝とか遭わなかったよね。大丈夫だった?」
「うん大丈夫」
「・・・さて、どうする?帰る?」
「そーね。もう花火終わっちゃったし・・・」
「二人ともごめんね、あたしのせいで・・・」
「いやいいのよ。しょうがないし,がはぐれたのあたし達のせいなんだから。こっちこそごめん!」
「ううんいいよ。 ・・・それどころか・・・・・・」
「え?」
「うーん何でもない!さ、帰ろ!」
は笑顔で二人を引っ張っていった。
二人は少し不思議に思いながらも、と一緒に、駅まで歩いていった。
飛影くん・・・・・・。嬉しかったよ。本当にありがとう・・・・・・・・・。
三人が去ったあとで、暗い橋の下からその光景を眺めていた飛影は、心の中で、こうに呼びかけていた。
(・・・強くなっても、それでも、寂しくて、泣きたくなった時は、オレのところに来い。また今日みたいに、いつでも慰めてやるぜ・・・・・・)
END
黒タカどりどり第一弾。
この話は、かなーり昔に、某超有名夢サイト様にリクのお返しで書いたものです。なのでもちろん持ち出し禁止(フフ)
実はこっちに掲載するには結構中身がヤバイ話なのですが(事情あって;;)
書いた日は2003年8月1日です・・・あしからず(何が!)
貰ったお話の続きみたいな話なので、そちらを先に読まれてもいいかと。
うちはねぇ買ったことのある漫画も全部少年漫画だし、恋愛ものにはとんと疎くて、ベタベタすぎたんじゃないかと思いまふけど;;
いかがだったでしょうか?
掲載するにはちょっと季節がずれましたね・・・;;
かんそーお待ちしてます〜;;
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