何のために?



「よって、第4回、魔界統一トーナメント、優勝者は、飛影選手と相成りましたーーーーっっ!!」

 

たくさんの歓声が飛ぶ中、オレはそこに立ち尽くしていた。
観客席の目線が、オレにほとんど集中していた。
体は傷だらけだった。
最後の闘いから、もう7時間ほど経過している。
オレの勝利が決まり、審判がオレの勝利を宣言したところで、
倒れ、オレはそのまま眠った。冬眠だ。
そして今し方目覚めたところだ。
舞台の上に登り、オレのとなりに立った司会者が、やたら大袈裟にさっきの闘いの解説をしている。
オレは歓声の中にいた。
やかましくてかなわん。
だが、その騒音を聞きながら、オレは、何かがすっぽり抜けてしまったような喪失感を感じていた。

”この大会で、いつか必ず優勝してやる”
最初に行われた大会でオレは負けた。その時から、ずっとそう思っていた。
この大会は、最初の開催者の希望通り、いつも3年ごとに行われている。
あの時からもう9年経った。
魔界の様子もすっかり変わってしまっている。
…荒れていた魔界。
かつては、強くなることがオレの宿命だった。
”忌み子”としてこの世に生を受け、
周りに疎まれ、
魔界の森で妖怪共に命を狙われながら生き抜いてきたオレは、
闘うことが生きることだった。
だからオレは強くなった。
強くなろうとした。
闘って、闘って、オレは今まで生き延びてきた。
これからも、闘うことが、オレにとっての生きることだと、

信じていた……

 

今は、それがどうだかわからん。
何のために、強くなってきたのかがわからん。
この大会で優勝した今、オレは文字通り、魔界でいちばん強い存在となった。
この大会の覇者は、これから3年間、魔界をどのようにしてもいいということになっている。
だが、特にしたいことなどない。
オレには、なにも したいことなどなかった。

 


オレは………。
何のためにここまで強くなったのだろう。

幼い頃から妖怪どもを対象に殺戮を繰り返し、そのゴミどもの血を浴び続けて…。
オレは笑っていた。
オレの頭には、強くなることしかなかった。
強くなって生き延びることしかなかった。
……何のために、オレは生き延びたのだろう。
もともと価値のない、捨てられた命なのに。
殺戮に疲れたオレは、ある日故郷へ帰った。
凍りついた街、
そこで暮らす惨めな氷女ども。
もうずっと前に死んでしまったような街を、その時オレは静かに歩いていた。
何かを捜すように。
そして……。
 ーーーオレの母親の氷の墓標。
ここに眠る女は、もう永遠に、
目覚めることはないのだろう。
これから先、
何が、どうなっても。
オレが強くなろうと。
オレが生き延びようと、死のうと。
この女は
永遠に目覚めない。
オレが何をどうしようと、
オレがこの広大な全魔界の支配者になろうと。
この場所だけは
何も変わらない。
変わることなどない。
この空間は
これから先も時間がとまったままでずっとある。
オレが生きていても。
死んでも。

 

だが、

オレが生まれる前はこうじゃなかったはずだ。

 

オレがこの世界に存在することが決まった時点で、この場所は、永遠に時間をすすめることが出来ない、
変わることができないという運命を背負ってしまった。
オレがこの世界に生まれてきた時点で。

 

オレは、何のために
ここまで生きてきたんだろう……。

_____死んでも、何も変わらんからか?

魔界の果てまで全てひっくるめて、それ以上に強くなってしまった自分に虚無感を覚え、オレはそれに襲われてしまいそうになる。
もうオレは何をしてもダメだ。
これ以上は、
オレは、もう何も変えることが出来なくなったのだ。
これ以上は強くなれん。
それになったところで仕方がない。
なったところで、さらなる空しさが、オレの上に降りかかってくるだけだろう。
今この時よりずっと前からわかっていたはずだ。
オレはいつまでも、何かを変えることなど、出来んということを。
昔からよくわかっていたはずだ……。
オレが何をしようとしても、
あの場所だけは、
オレには、
絶対に、
変えさせることなんぞできん……。

オレにはなにもできない。

 

何のために……。


 



「なにをしているんだ」と聞くと、
「お花の種を植えてるの」と答えられた。
「なんの」と聞くと、
「なにかの」と答えられた。
ただ無心に少女は
スコップを握って地面を掘り返して、

オレはただじっとそれを見守って
居た。

オレは魔界一強い男だ。
自分でも、恐ろしいくらいに、強くなってしまった……。
オレの目の前にいる娘は、それを知らない。
ただ無邪気に地面を掘り返している。
オレに全く警戒する様子もなく、
少しずつ穴を掘っていっていた。

オレは強い。
魔界一を決めるあのトーナメントで優勝したものは、魔界一の強さの称号と、魔界を自分の思うがままに支配する権限を会得する。
強いが故、オレは
この世のなにもかもを、
気分次第で破壊することができる。
森も、家も、野原も、世界も、
何もかも。
それが魔界一強い者ができる権限のひとつである。
昔のオレなら、さぞかし喜んだことだろう。
そして何もかもを破壊していただろう…。
だが、今のオレが、
それができると感じた時、
絶対に、絶対に”こわしたくないもの”というのが
オレの前に現れる。
それをこわしてしまえば、
オレは、
一体どうなる?
何もかも壊せるはずのオレは、
それを、絶対に
守ろうとする…。
何故だ?
何者であっても 絶対にこれを破壊させん。
破壊などさせてたまるか。
そう思う自分がそこに居る。
自分でも信じられないくらい、
力を押さえようとしている自分が、いつでもそこに居る。

今も、ちょうどそれと似たような気分だった。
地面を掘り貸している少女のこの場所を、この風景を、絶対にこわしたくないと思った。
そしてオレはそれを傍らで見ていた。
少女は、お構いなく、ずっと地面を掘り続けていた。
何故だろう。
こんな気分にオレがなるのは…。
名も知らんただの人間のガキが、地面の隅に,花の種を植えるくらいのことで……

 


「金魚が死んだのよ」

少女は突然口を開いた。
オレははっとした。
「長いこと生きていたのよ。でも、昨日の朝、水槽を見たら、死んでたの」
オレはよく見た。その娘の横の小さいバケツの中に
赤い魚がゆらゆら浮いている濁った水がはいっているのを。
この娘は
気味が悪くないのか、とオレは思った。
それと同時に、
この気味の悪さは、何かに似ていると思った。
この中でゆらゆら揺れている金魚はもう二度と生き返らない。
少女はバケツを持ち上げて
水ごとその魚を穴の中に流し込んだ。
土を戻して軽くたたき
その上に
粉のような花の種をまいてまた土をかけ押し込んでいた。
ふう、と少女は息をついた。
そして、少しオレの方に振り向いて言った。

 

「このこはこれからお花になるの」

 

そう言って、少女はオレに微笑んだ。

オレにはできん笑い方だと思った。
金魚は死んでいる。
もうこの少女の前で、再び泳ぎだす「ことはない。
だが、これからこの金魚の墓からは、
芽が出て、
茎が伸びて,
花が咲くだろう。
変化がおとずれるのだろう。
少女はそれを想像して
こうも笑っていられるのだろう。

 

何故だ……?
ここは、死んだものが埋まっている場所だぞ!?
何故変化がおとずれる!?
 
答えが当たり前の疑問にオレはにわかに悩んだ。

少女は悲しそうではなかった。
当たり前のように笑っていた。
全く哀しみがないわけではないだろう。
だが少女は
これからの楽しみに胸をふくらませている。
ここの時間はしばらくは止まらん。
これから変化がおとずれる。
…オレにはできん…。
オレには、絶対にできん笑い方だ……。

 

オレは、今 この場所と、この微笑みを、ずっと守りたいと思った…。





 

END


可成前から企画してた短編小説群「出逢い」の第一回ですvv(予定では;;)
ずっと変わることのない氷菜さんの墓を思いながら、何かを変えたいと思って一心不乱に強くなる飛影。でも、何をどうしてもあの場所を変えることは出来ないと確信し、どうしようもない強さだけが残ってしまった飛影はその空しさに苦しみます。でもその時、お墓なのに、そこに変化をおとずれさせようとする、飛影にとっては魔法使い(?)のような少女に彼は出逢い、驚きます。そして昔から「空しさ」と一緒に持っていた「守りたい」という気持ちが彼の中で復活し、心機一転するような…そんなお話。のつもりだったのですけど、うまくできてるでしょうか?(^^;)
もともとは「もし飛影が魔界統一トーナメントでほんとに優勝しちゃったらどうなっちゃうのかね」ってとこから考えたんですけど、じゃあなんで飛影って優勝したがるの?ってなったら、仮説がいっぱい浮かんで来ちゃって
これはその中のひとつ「自分の強さによって変えられないものをこわしたかったから(ん?ちょっと違うな…;;)」です。
でもそれが達成できても、飛影は空しさ感じるだろうナァって思って、
まぁその飛影の空しさをtちょっと解消させる話みたいな〜〜
なんか自分でも書いててわかんなくなってきた;;
あ、「花」の方のシチュエーションは、公園のすみっこで穴掘ってるちっちゃい女の子に飛影が話しかけたってな感じにしておりやす;;(言うまでもないですけど、「何のために?」と「花」のお話は続いております)
現実味でるように書いたら 金魚の死体を肥料にして花を育てるってなちょっと怖い感じの話になっちゃうんですが(汗)
まさか氷菜さんの墓でそんなことしないだろう;;
まぁ、飛影にはもうちょい自分の命大事にしてほしいですね…。
ではでは、「主題がよーわからんぞ」などの厳しい突っ込みでもいいので(汗)いつでも感想お待ちしております.。

2003年10月23日 黒タカ


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