小泉首相靖国参拝と世論 :2005.10.31
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10月17日に小泉首相が靖国神社を参拝した。今年どこかで小泉首相が
参拝することは予想されたことだから、特に驚くニュースではなかった。
ただし、9月末に大阪高裁で、2001年の小泉首相の参拝が違憲とする
判断が下されたこともあり、中国・韓国との関係以外に政教分離という意
味で注目されていた。
この参拝に対する朝日新聞の世論調査結果が19日に載っており、参拝
に賛成が42%、反対41%とほぼ同数であった。参拝賛成の理由として
1番目が「戦死者の慰霊になるから」37%、2番目が「外国に言われてや
めるのはおかしい」24%であった。
前者の「戦死者の慰霊になるから」というのは、不思議な選択肢のように
感じる。靖国神社に祀られているのは、軍人だけであって、空襲で戦死し
たような民衆の死者は含まれない。また、よく言われることだが、明治政
府に反乱を起こした西郷隆盛などは祀られておらず、天皇側に立って戦っ
た人のみが祀られている。天皇側に立って戦った軍人だけの施設の慰霊
を行うというのは、自然な感情というよりも政治的意図を持っていると考え
るべきではないか。
この調査では、参拝賛成の2番目の理由となっている「外国に言われてや
めるのはおかしい」という意見が最近多くなってきているように感じている。
共同通信の世論調査では「他国によって影響されるべきでない」という理
由が参拝賛成の53%を占めていたそうだ。これはかなり危険な状況になっ
てきていると判断すべきだろう。中国や韓国が反対を表明するからこそ、賛
成している人たちもいるかもしれない。
「権力は失敗して成功する」という言葉があるそうだ。例えば、アメリカで
9・11事件が起こった。この事件は、それまでに取ってきたアメリカのテロ
対策が失敗した結果として起こった事件ともいえよう。しかし、この事件に
より、国民はテロ対策を行う国家権力に頼らざるを得なくなり、結果的に支
持率は高まり、その後イラクに大量破壊兵器がなかったことが明確になった
にもかかわらずブッシュ大統領は再選された。このように権力の失敗が権
力への国民の依存を強化したり、外国への敵対性を強めナショナリズム強
化につながることにより、権力は支持を高め成功するというわけである。
その流れでいうと、小泉首相はアジア諸国との外交に関しては全く失敗し
ているのだが、その失敗により国民のナショナリズム強化を導き、アジア
諸国との断絶により態度の一貫性を評価され、選挙で勝つという、まさに
「失敗して成功する」という言葉どおりのことが起こっている。
でも、こういうことは日本国民にとって初めてのことではないだろう。アジア・
太平洋戦争において、日本国民は反対の意思を持っていたのだろうか。
1943年以降に戦局が極端に悪化してからは変わったのだろうが、日中戦
争の頃は戦争に反対する声はきっと小さかったのだろう。
アジア・太平洋戦争の誤りを認めて進んできた日本人の意識が大きく変化
してきている。最近の世論調査や選挙結果を見ると、私自身の考えが少数
派になってしまったことを強く感じる。