京都自由大学講義 (5月21日) :2005.5.27
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【日時】 2005年5月21日(土)19:00〜21:00
【場所】 京都三条ラジオカフェ
【講師】 嚴敞俊(オム・チャンジュン)氏
【テーマ】 拉致問題をどう見るか:日朝、日韓の関係史から

拉致や核の問題に対する北朝鮮の態度に問題があることは言うまでもない。
この講義ではそのことを前提にしつつも日本サイドの問題を指摘し、北朝鮮側に
立った場合の見方を提供するものだった。
例えば、横田めぐみさんのものとされる遺骨を偽物と判断した根拠が、科学誌
ネイチャーによって批判されているにもかかわらず、政府は逃げの姿勢を取って
いることや、なぜ当初、拉致被害者の帰国期間を1、2週間としたのか、などの
6つの謎を考えながら、拉致問題の別の視点での見方を示した。

1回目の小泉首相訪朝時に北朝鮮が拉致を認めたことを、僕が最初に聞いた
時のことを思い出した。その時僕は北朝鮮が国交正常化に本気であることを強く
感じ、北朝鮮が歩み寄ってきた以上、国交正常化に向かうだろうと思った。
しかし、その直後に、拉致被害者の多数が亡くなっているとの北朝鮮からの通知が
報道され、非常に戸惑った。今までにないことだけに、どう捉えるべきかについて
今までの価値基準で判断できなかった。今思えば、これは僕だけでなく、多くの人
が同じだったのだろう。
そして、多くの人が自分の考えをもつことなく、社会の反応を待っている間の数日間に、
拉致に対して怒るべきだという世論らしきものが形成されてしまい、今もこの流れの
中にある。
ここから、重要なことを学ぶ必要がある。世論らしきものが形成されるのを待ってから
自分の意見を持ってはいけないということだ。それは自分で考えているわけではない。
待っていたら、単純で勇ましそうな意見だけが社会の雰囲気を作っていってしまう。
今回の講義のテーマはこの点とは直接関係ないが、僕にとっては大きな問題だ。

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■北朝鮮の立場
 ・1965年の日韓条約で韓国は戦後補償を放棄したが、北朝鮮はそういう形を
  とらないことに誇りを持っている。それは、金日成が抗日戦を戦った指導者だった
  のに対して、60・70年代の韓国の指導者は日米に妥協した指導者だったことが
  影響している。
 ・1990年に自民党の金丸氏、社会党の田辺氏が訪朝し、3党宣言をまとめた。
  その中では、植民地支配の謝罪への補償が謳われていた。
 ・2002年の平壌宣言で、北朝鮮は拉致を認めただけでなく、戦後補償を放棄し
  経済協力方式を受け入れた。これは3党宣言から譲歩し、国交正常化に向かおうと
  したことを示している。
 ・今のままでは将来がないことは十分認識している。

■拉致問題の見方
 ・明らかな国家犯罪で、徹底追求が必要。
 ・一方、1945年までの植民地支配を終わったこととする訳にいかない。
  拉致が現在で、植民地支配が過去とは呼べない。
 ・第1の謎:拉致をなぜ認めたか。・・・経済支援を得たいことは確かだろうが
                        さらに掘り下げる必要がある。
 ・第2の謎:悩む外務省・・外務省は「日本外交の大勝利」と捉えたが、世論との
                 ギャップがある。←世論については疑問あり。
 ・第3の謎:なぜ当初1−2週間の一時帰国としたか。
        ・・・日本を見てから帰国して家族等と相談する話になっていた
 ・第4の謎:小泉首相再訪朝時の粗末な持て成し
        ・・・金正日は怒っていて、平壌宣言を後悔していた。
           それは譲歩したのに、日本が約束を守らなかったから。
 ・第5の謎:横田めぐみさんのものとされていた遺骨は本当に偽物か
        ・・・ネイチャーが科学的根拠を疑っている。3箇所の鑑定のうち、
           DNA鑑定できたのは帝京大学のみ。普通の鑑定では1つしか
           結果が得られなかった場合、証拠としては採用されない。
          にもかかわらず、日本政府は偽物と断定し北朝鮮に抗議した。
          そして、海外での再鑑定に否定的。

■その他
 ・韓流ブームで、韓国に対する理解は深まるか。
  講師の方は、三浦綾子の「氷点」を読んで日本に関心を持つようになった。 
  だから、今の韓流ブームも理解を深めるきっかけになると考えている。
 ・北朝鮮に食糧援助をしても役人の私腹を肥やすだけとの批判に対して。
  そういう面は否定できない。しかし、それは援助物資が少ないから希少価値が
  生じてしまうわけで、横流しが意味を持たないほどの量を送るようにすれば
  問題は起こりにくくなる。

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【参考】1990年 日朝3党宣言

   以下から引用
   データベース『世界と日本』  戦後日本政治・国際関係データベース
   東京大学東洋文化研究所 田中明彦研究室


 自由民主党代表団と日本社会党代表団が1990年9月24日から9月28日まで
 朝鮮民主主義人民共和国を訪問した。
 朝鮮労働党中央委員会総書記金日成主席は自由民主党代表団と日本社会党代
 表団と会見した。 
 会見席上で、金丸信団長と田辺誠団長は朝鮮労働党の中央委員会総書記金日成
 主席に自由民主党の海部俊樹総裁の親書、日本社会党土井たか子中央執行委員
 長の親書を手渡した。

 訪問期間中、衆議院議員金丸信を団長とする自由民主党代表団、中央執行副委員
 長田辺誠を団長とする日本社会党代表団、党中央委員会書記金勇淳を団長とする
 朝鮮労働党代表団間の数次にわたる三党共同会談が行われた。

 三党代表団は、自主・平和・親善の理念にもとづき日朝両国間の関係を正常化し発
 展させることが両国国民の利益に合致し、新しいアジアと世界の平和と繁栄に寄与
 すると認めつぎのように宣言する。

 1.三党は、過去に日本が36年間朝鮮人民に与えた大きな不幸と災難、戦後45年
   間朝鮮人民が受けた損失について、朝鮮民主主義人民共和国に対し、公式的に
   謝罪を行い十分に償うべきであると認める。自由民主党海部俊樹総裁は、金日成
   主席に伝えたその親書で、かつて朝鮮に対して日本が与えた不幸な過去が存在し
   たことにふれ、「そのような不幸な過去につきましては、竹下元総理が、昨年3月国
   会におきまして深い反省と遺憾の意を表明しておりますが、私も内閣総理大臣とし
   て、それと全く同じ考えである」ということを明らかにして、日朝両国間の関係を改善
   する希望を表明した。

 自由民主党代表団団長である金丸信衆議院議員も朝鮮人民に対する日本の過去の植
 民地支配に対して深く反省する謝罪の意を表明した。三党は、日本政府が国交関係を
 樹立すると同時に、かつて朝鮮民主主義人民共和国の人民に被らせた損害に対して十
 分に償うべきであると認める。

 2.三党は、日朝両国間に存在している不正常な状態を解消し、できるだけ早い時期に
   国交関係を樹立すべきであると認める。

 3.三党は、日朝両国間の関係を改善するために政治・経済・文化などの各分野で交流
   を発展させ、当面は、通信衛星の利用と、両国間の直行航路を開設することが必要
   であると認める。

 4.三党は、在日朝鮮人が差別されず、その人権と民族的諸権利と法的地位が尊重され
   るべきであつて、日本政府は、これを法的にも保証すべきであると認める。

 三党は、また、日本当局が朝鮮民主主義人民共和国と関連して、日本のパスポートに記
 載した事項を取り除くことが必要であるとみなす。

 5.三党は、朝鮮は一つであり、北と南が対話を通じて平和的に統一を達成することが朝
   鮮人民の民族的利益に合致すると認める。

 6.三党は、平和で自由なアジアを建設するために共同で努力し、地球上のすべての地
   域で将来核の脅威がなくなることが必要であると認める。

 7.三党は、朝日両国間の国交樹立の実現と懸案の諸問題を解決するための政府間の交
   渉が本年11月中に開始されるよう強く働きかけることについて合意した。

 8.三党は、両国人民の念願とアジアと世界の利益に即して、自由民主党と朝鮮労働党、
   日本社会党と朝鮮労働党間の関係を強化し、相互協調をさらに発展させることを合意した。

1990年9月28日
平壌にて

自由民主党を代表して   金丸信
日本社会党を代表して   田辺誠
朝鮮労働党を代表して   金勇淳