哲学 :2010.9.20
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 「これからの正義の話をしよう」(マイケル・サンデル:早川書房)より

第1章 「正しいことをする」
 ◎便乗値上げの是非・・・2004年ハリケーン・チャーリー通過後の便乗値上げ
   物資値上げ、修理代値上げ
  →法外な価格によって必要な商品を増産するインセンティブが働く
  ・便乗値上げ禁止法への賛成と反対の理念
  (反対)@幸福の最大化 ・・・市場擁護
       A自由の尊重
  (賛成)B美徳の促進

 ◎企業救済への怒り・・・AIG幹部への高額ボーナス
  ・アメリカ国民の批判は、強欲に報酬を与えるからでなく、失敗に報酬を与えるから。
  ・破綻した企業のCEOたちは制御不能な「金融津波」の犠牲者だと主張した。
   しかし、壊滅的な損失の原因が圧倒的な経済の力にあるとすれば、以前の利益も
   そうした力のおかげだと言えるのではないか。

第2章 「最大幸福社会---功利主義」
 ◎人を殺して食べて生き残ることの是非
   1884年4人乗りの船乗りが漂流。食べ物がなくなり体の弱った雑用係を
   殺して食べて生き延びた。
   →弁護士の主張:誰も殺されず、食べられなかったら全員が死んでいた。
   ⇒これに対する2つの異論
     @雑用係を殺して得られる利益は、全体としてコストを上回っているか。
       ・・・功利主義的アプローチ
     A利益がコストを上回っているとしても、道徳的に間違っているのでは。
       ・・・道徳的アプローチ

 ●ジェレミー・ベンサムの功利主義
   ・道徳の至福の原理は幸福(苦痛に対する快楽の割合)を最大化すること。
   ・あらゆる道徳的議論は暗黙のうちに幸福の最大化という考えに依存せざるをえない。
   ⇒反論
     @個人の権利を尊重しない。(満足の総和だけを気にする)
     事例:古代ローマではコロセウムでキリスト教徒をライオンに投げ与え娯楽に
         していた。(見世物から多数のローマ人が快楽を得るとしたら良いのか)
     事例:テロ容疑者の尋問において拷問は正当化されるか。
         (一人の人間に激しい苦しみを与えても大勢の死を防げるなら正当化されるか)
     A道徳的に重要なこと全てを単一の尺度に置き換えるのは誤り。

 ●ジョン・スチュアート・ミルの自由論(功利主義からの逸脱)
   ・他人に危害を及ぼさない限り、自分の望むいかなる行動をしても自由であるべき。
   ・効用は個別の問題ごとではなく、長期的観点から最大化すべき
    個人の自由を尊重することが長期的には人間の幸福を最大化することに繋がる。
   ・人生の究極の目的は、人間としての能力を完全・自由に発展させること。
    快楽に質の高いものと低いものがある。
    ⇒功利主義から逸脱

第3章 「私は私のものか?---リバタリアニズム(自由至上主義)」
 ◎富の再配分
  例:ビルゲイツから100万ドルを取り上げ、100人の貧困者に配ること
  →幸福の最大化の観点では支持される。
  ⇒自由至上主義(リバタリアニズム)からは反対

 ●リバタリアンの思想・・・政策や法律に関して
  ・パターナリズム(父親的温情主義)の拒否
   例:シートベルト着用義務法に反対・・・リスクを自分で取る権利を侵害
  ・道徳的法律の拒否
   例:売春禁止に反対・・・成人が同意の上で行う行為を禁止することに反対
  ・所得や富の再分配の拒否
   ・・・貧しい者を助けるために富める者に課税することは富める者への強制
      それは自分の所有物を自由に利用するという権利の侵害になる
     「誰かの労働の成果を奪うことは、その人の時間を奪うこと」
     「働いて得た収入に対する課税は強制労働と同じ」

   リバタリアンの見方によれば、
    課税(=個人の稼ぎを取り上げること)が、強制労働、奴隷制(=私が自分
    自身を所有していることの否定)までが連続している。

    
  ・ノージックによる財産形成の公正の2つの要件
    @初期財産の公正:お金を稼ぐために用いた元手が合法的に入手されたかどうか
      (盗んだものを売って資産を築いた場合は、資産への権利は無い)
      →判断が困難な場合がある。
       例えば、所得や富が数世代前の暴力・不法な奪取を反映したものかどうか
            アフリカ系アメリカ人の奴隷化、先住民からの強制的土地収用
    A移転の公正:資産形成手段のことか?
  ・自己所有権という概念には説得力がある。
   自由放任主義の経済を否定する人の多くが、別の領域では自己所有権の概念に訴える。
   福祉国家に共感する人々が、妊娠中絶において自分の体について女性は自由で
   あるべきと主張する場合もある。
 ◎臓器売買は自由か?
 ◎幇助自殺を許容するか?

第4章 「雇われ助っ人---市場と倫理」
 本章では自由市場を扱う。お金で買えないもの、買ってはならないものはあるか?
 あるとすれば、それは何であり、なぜなのか
 ◎徴兵と傭兵
  ・南北戦争時の1862年にリンカーンは徴兵制を導入した(南軍は導入済み)。しかし、個人主義を重んじる伝統に逆らうことになるため、徴兵されたが兵役に就きたくない者は代理を雇ってよいことになっていた。身代わりを探す新聞広告も出されたそうだ。
「富める者の戦争で貧しき者が戦う」という不満が強まり、従軍しない場合はお金を支払えば良いことになった。実際に徴兵された20万7千人のうち、免除費を払った者が8万7千人、身代わりを雇った者が7万4千人で、兵役に就いた者は2割強の4万6千人に留まった。
次の3つの兵士の集め方のうちどれが最も公平か。
 @徴兵制
 A身代わりを雇ってよい徴兵制
 B志願兵制(市場方式)

 功利主義的な観点では、取引により互いに利益を増やすことができることから、Aは@より優れている。また、身代わりを雇ってよいなら兵士を募集した方が良いということから、志願兵制が最も良いと考えられる。
  リバタリアンなら強制である徴兵制は不公平であり、やはり志願兵制が最も良いことになる。

 この考えに対する反論として、限られた選択肢しかない人間にとって自由市場はさほど自由でないという言い分がある。志願兵と言っても経済的圧力による強制の場合もある。実際に志願兵は低所得者層から中所得者層が多く、新兵の25%以上が高校を卒業していない。
 別の反論として兵役を市民の義務とする考えももちろんある。



第5章 「重要なのは動機---イマヌエル・カント」

第6章 「平等をめぐる議論---ジョン・ロールズ」

第7章 「アファーマティブ・アクションをめぐる論争」

第8章 「誰が何に値するか?---アリストテレス」

第9章 「たがいに負うものは何か?---忠誠のジレンマ」

第10章 「正義と共通善」