読書のコーナー(フィクション):2002年
最近読んだ本を紹介します
◆昨年(2002年)読んだ本
(◎お奨め ○まあまあ △とりたてて言うほども無い ×つまらない)
○雁の寺・越前竹人形 (水上勉) :2002.12.29
△火車 (宮部みゆき) :2002.12.21
最近非常に売れている作家なので読んでみた。終盤はおもしろかったが、人物像に深みがなく、
小説にするより、2時間ドラマにした方が良いように感じた。文章ならではの部分が無いと、小説の意味が
無いのでは。
○道頓堀川 (宮本輝) :2002.12.7
道頓堀川近辺に住む何人かの人々を描いていて、読む前に予想していた雰囲気そのままで、
失望もしないかわりに驚きもしなかった。できのよい日本映画のようで、「時代屋の女房」を少し思い出した。
物足りない面はあるが、質の良さ、高さを感じさせる作品だった。
△黄金を抱いて翔べ (高村薫) :2002.12.2
彼女の作品を読むのは、「照柿」に続いて2冊目だ。取材を綿密にやって、ノンフィクション風な記述をしながら
組み立てている。作者の技量があることは間違いない。でも、枝葉末節が多すぎる印象を持った。もっと描写を
省いて簡素化することによって、人の心をひきつける作品にできるのではないだろうか。
また、照柿もそうだが、描いている世界が特殊で、感覚的に汚い。人の感情も特殊で、共感できない。
◎死者の奢り・飼育 (大江健三郎) :2002.11.16
今回読んだのは新潮文庫で6つの話があった。1958年の作品のようで占領下での話が中心になっている。
外国兵が出てくる場面は時代を感じるが、決して古さを感じさせない。これほど濃密な短編をいくつも書けるというのは
すごい力だと思う。
○個人的な体験 (大江健三郎) :2002.9.22
脳ヘルニアで生まれた子供から逃れようとして、子供の死を待ち、その後、子供を殺す(自らの手ではなく、医者の
力によって)ことまでしようとしながら、最後には一転して子供を受け入れた鳥(バード)という渾名の男の話。
当然これは、大江氏の子供に対する思いをテーマに書き始めたものだろうが、最後に急変したのはなぜだろう。
逃げようとしていた自分がはっきり見えたからだろうか。
○沈黙 (遠藤周作) :2002.9.15
1966年の作品。先に読んだ「留学」の第2章を一つの作品としたようである。最終的な結果は見えているが
そこに至るプロセスを説得力をもって描いている。
△留学 (遠藤周作) :2002.9.4
著者のフランス留学経験をもとに書いている。戦後すぐの頃は日本は非常にレベルの低い国とみなされていて
留学生は外面的にも内面的にも苦しい思いをしたようだ。今は内面的な劣等感は感じずに済んでいるのだろう。
3つ目の話は、カフカの「城」を思い出させる箇所がある。留学して自分を省みる時、カフカ的な不安(自分の実態の
なさ)を感じるのだろう。遠藤周作にもカフカの影響があったらしい。
○海と毒薬 (遠藤周作) :2002.8.17
戦争末期のアメリカ人捕虜の生体解剖を扱った作品である。解剖に加わった後、良心の呵責にさいなまれる人と
変化のなさを不思議に思う人が描かれている。後者の方が淡々と殺人に手を貸すことになり恐ろしい。おそらく
心の中の大きな山を乗り越えることなく、人殺しに加担する人がいるのだろう。
○星の王子さま (サンテグジュペリ) :2002.8.11
3年程前にも読んでいたが、サンテグジュペリの作品をいくつか読んでいたら、また、読みたくなった。
もの哀しさが残るところが愛される理由だと思う。
作品中から引用 「心で見なくちゃ ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは目には見えないんだよ。」
○人間の土地 (サンテグジュペリ) :2002.8.8
「星の王子さま」を書く4年前(1939年)に書かれている。「人間というのは、障害物に対して戦う時にはじめて
実力を発揮するものなのだ。」と序文に書かれていて、全編この視点で描いている。
話は、サンテグジュペリが好きな郵便飛行についてであり、当時の危険な飛行を描いている。
作品中から引用 「たとえ、どんなにそれが小さかろうと、僕らが自分たちの役割を認識した時、はじめて
僕らは幸福になりうる。」
著者の作品にはところどころに引用したくなる文章がある。それが彼の作品の魅力なのだろう。
△燃えつきた地図 (安倍公房) :2002.7.8
1967年の作品。ドナルドキーンはこの作品を”安倍公房の傑作の一つであるばかりでなく、現代日本文学の
有数の傑れた小説”と誉めていたが、僕にはそのようには思えなかった。先に読んだ「砂の女」「壁」と近いところに
あって、自分とはなにかがわからなくなってくるという話だが、そこから何を見出すか、見出そうとするかが重要な
はずだ。カフカの感覚を再現しているだけで、それ以上の作品ではない。
△壁 (安倍公房) :2002.6.5
1951年の作品。芥川賞をこの作品で取ったらしいので、デビュー当時の作品になる。第1部は、カフカの「審判」に
内容も雰囲気もそっくりだと思っていたら、解説にカフカの影響を色濃く受けていると書かれていた。この当時、カフカの
影響を受けた人はかなり多かったようで、最近カフカを読んだ人間としては少し意外な気がする。
いくつかの短編からなっていて、非現実的な状況下で翻弄され、その中で自分とは何だったかを問うているものが
多い。しかし、その答えやヒントは示されていない。
×転落 (カミュ) :2002.5.26
カミュの数少ない小説の一つで、後期の作品である。43歳でこのようなものを書かざるを得なかったということは
不幸な人間だったと思う。実は最後まで読んでいないが、これ以上読むに値しないと判断して止めた。
○砂の女 (安倍公房) :2002.5.26
安倍公房は、名前しか知らず、ずっと敬遠してきた作家だった。なぜか読みにくいと思い込んでいた。
読んでみると、文章は平易でわかりやすい。この本は、砂丘に昆虫採集に来ていた教師が砂穴の底で
埋もれかけている一軒家に閉じ込められ、脱出を試みるが何回か失敗する。その後、逃げられる状況に
なっても、逃げようとしなくなる、という話である。何かを暗示しているようで、また、その暗示は平凡な内容にも
思える。
×マルテの日記 (リルケ) :2002.5.19
断片的な話が並んでいて小説と言えるものではない。リルケを好きな人がいろいろな背景を知ったうえで
分析しながら読む本なのだろう。
○南方郵便機・夜間飛行 (サンテグジュペリ) :2002.4.28
「南方郵便機」:サンテグジュペリの最初の作品。時間と場所が交錯するので少し状況がわかりにくかったが
整理しなおすとよくできているように感じた。映画のような構成で、最後の「郵便物は無事ダカール着」が
もの哀しい
「夜間飛行」:管理・経営側から見た姿を示しており、星の王子さまを書いた人とは思えない。
話は違うが、(新潮文庫)序文をジッドが書いていて、こんなに格調高い文を書く人だったのかと感心した。
△田園交響楽 (ジイド) :2002.3.30
孤児で盲人のジェルトリュードを育て教育していき、彼女は知的で美しい女性に成長していく。しかし、
開眼手術の後、川に身を投げ自殺してしまう。聖書の言葉や、キリスト教教義に関する部分の多くを
理解できず、残念だった。
△狭き門 (ジイド) :2002.3.21
以前に一度読んだことがあり、2回目だった。「背徳者」では無理に自由を求め、束縛を避けようとする人物の
不幸を書いていたが、この作品では、生きている間の幸福を神を忘れることととらえ、神に捕われることで
幸福を得られないアリサを主人公としている。2つの作品を見ると、ジイドは、神に囚われすぎても、神から
離れようとしてもどちらも不幸になる、ということを言いたいのではないかと思う。
△背徳者 (ジイド) :2002.3.13
×幸福な死 (カミュ) :2002.3.2
○異邦人 (カミュ) :2002.2.16
○ペスト (カミュ) :2002.2.6
○変身 (カフカ) :2002.1.16
○審判 (カフカ) :2002.1.13
○城 (カフカ) :2002.1.4