読書のコーナー(ノンフィクション):2003年
  最近読んだ本を紹介します


◆今年(2003年)読んだ本
 (◎お奨め  ○まあまあ  △とりたてて言うほども無い  ×つまらない)


  ○真の独立への道 (M.K.ガンディー) :2003.12.31
    インド独立運動でガンディーが取った非暴力・不服従主義を扱ったNHK TVが1、2ヶ月前にあり
     もう少し知りたいと思って、ガンディーの書いた本を探すと、この本が見つかった。(というよりこれ以外に
     見つからなかった。)
     書いたのは1910年で、独立のかなり前になる。この時期はガンディーが南アフリカにいて、南アフリカでの
     インド人の問題に取り組んでいた時期で、将来のインド独立運動の行方は全く見えていない段階だったので
     理念を知るうえで適している。
     中身は僕の予想とはかなり異なっていた。イギリスの文化を否定し、鉄道や機械を否定し、弁護士・医者を
     不道徳なものとして否定している。当時どのくらいのインド人にこれらの主張が受け入れられたのか。日本は
     欧米化を進め、その方向を多くの人が信じていたと思うので、日本人には受け入れがたかっただろう。しかし
     インドは、ヒンズー教、イスラム教の文化圏にあり、基本となる考え方に差があったので、ひょっとすると、
     かなりの人に受け入れられたのかもしれない。
     この本を読んで、欧米の文化以外にも、アジアなどの文化の中に目指すべきものがあるのかもしれないと
     いう気が少しした。
 
  ○核拡散 (川崎哲 :岩波新書) :2003.12.7

    こういう本は、大学の先生か、新聞記者が書くものという思い込みがあったが、この本の著者は
    35歳のNGO活動家だ。内容は、NPT(核不拡散条約)体制を中心に、1990年以降の状況を
    解説していて、状況を把握するのに適した本だと思う。
    今、世界から平和が失われてきているように感じがちだが、国連周辺を舞台にして、核軍縮を
    進めようとする力があることを知った。僕自身が非常に遅れていることを感じさせられたと同時に、
    世界の流れが変わる可能性に期待を持った。


  ○日朝関係の克服 (姜尚中 :集英社新書) :2003.12.1
    2002年9月の日朝平壌宣言を積極的に評価し、これをもとに、国交正常化交渉を
    進めるべきと主張している。平壌宣言のポイントを次の点に置いている。
    @「ありのままの北朝鮮」を交渉相手とすること。
      一部に、交渉は現在の金正日体制を延命させるだけという議論もあるが、現政権が
      覆される道筋が見えていない状況下で、放置しておくことは、拉致問題、安全保障問題の
      両面でマイナスだろう。したがって、現実には、これしかないだろう。
      なお、中国の変革を捉える際に、経済発展が先に進みながら、徐々に社会的・政治的に
      変革が進むという考え方がある。また、韓国でも、独裁政権下での経済成長が、後の変化に
      つながった。民主化の進み方は、ヨーロッパ型だけでないことは認識しておくべきだと思う。
     A朝鮮半島における多国間的な安全保障体制
      北朝鮮は、今まで米国のみを交渉相手としていて、日韓は、その路線でのみ見ている面が
      あった。日本も日米関係に縛られてアジア不在の外交を行なってきた。著者は、日朝交渉が
      この状態を転換するきっかけとなることを期待している。
     なお、この本は、今の世間の流れからすると、北朝鮮を好意的に見すぎていると批判があるかも
     しれない。また、感情を抜いたような淡々とした記述はやや表面的な気もした。しかし、長い目で
     見れば平壌宣言に沿って進めていくことが好ましいと思う。
     (平壌宣言には、「拉致」という言葉は入っていない。もう少し、盛り込むべきだったと思う。)

  ◎
「拉致」異論 (太田昌国 :太田出版) :2003.10.19
    帯には、”「救う会」の扇動政治的発言と嵐のような排外主義に抗して” と書かれていて
    救う会の批判を中心にした本と思って読んでみた。実際には、北朝鮮との関わりについて
    冷静に捉えようとしていて、明治以降の日朝関係を振り返りながら、戦後の左翼系の人々の
    北朝鮮賛美(もしくは韓国の独裁政治批判に比べた場合の批判の欠如)により、北朝鮮の抑圧
    体制の深刻な問題点を見逃してきたことを批判するとともに、そこをスタート地点にしない限り
    植民地支配時代の謝罪・賠償を忘れた情動的ナショナリズムに立ち向かえないという姿勢を
    貫いている。
    その意味で、僕が北朝鮮問題で違和感を持ってきたことを考えるうえで、この本がその再スタート
    地点となるだろうと思う。(詳細は、別途、HPの別コーナーに書く予定)
    この本は、第1章が書き下ろしで、2章、3章が今までに書いてきたものを集めているため、
    重複する箇所が目立つなどの欠点はあるけれど、多くの人に読んでもらいたいお奨め本だ。

 △天皇の戦争責任・再考 (小浜逸郎、小谷野敦他:洋泉社)  :2003.10.5
    昭和天皇の戦争責任について、7人の意見を収めた今年7月に発行された本。
    この本の中で、戦争責任は、敗戦責任(国民に対する責任)と開戦責任(国外に対する責任)に
    分類されている。論点がずれているものもあってはっきり書きにくいが7人の意見を無理に分けると
    下のようになる。
                   敗戦責任       開戦責任    
      小浜逸郎         有り          有り
      池田清彦         有り          無し
      井崎正敏         有り          有り
      橋爪大三郎        ?           ?  (天皇について論じていない)
      小谷野敦         有り(?)       有り(?) 
      八木秀次         無し          無し
      吉田司           有り(?)       有り(?)
    敗戦責任は国民に対する責任だが、国民に責任を追及しようとする意思がなかったので
    事実上、議論してもあまり意味が無い。今、戦争責任と言う場合、他国に対する責任の方、 
    つまり開戦責任(侵略責任含む)を問題にすべきだろう。開戦責任は敗戦国だから問われると考える場合も
    あるので、もし勝っていたと仮定しても残る罪はあるのかと考えてみたらどうだろう。アメリカに対しては、
    宣戦布告前の攻撃と一部の捕虜に対する扱いを除いて(他もあるかもしれないけれど)、責任は無くなる
    ように思える。でも、アジアに対する侵略責任は残るだろう。
    そして、日本国に戦争責任がある以上、天皇にも責任があると考えるべきである。

    なお、日本が戦った戦争の名称を、学校で「太平洋戦争」と習ったが、これは米国との戦争を指していて
    中国を始めアジアの国を巻き込んだことが抜けている。大東亜戦争の方が正しいようには思うのだが、これは
    戦争を正当化する意味で用いられる場合が多く、抵抗がある。歴史研究者の間では、「アジア太平洋戦争」
    という名称が用いられることが多くなっていると別の本に書いており、アジアを含んだ戦争であったことを
    忘れないためにもこの名称が良いのではないかと思う。

 ×ホンモノの思考力 (樋口裕一:集英社) :2003.9.16
    以前に読んだ同じ著者の「ホンモノの文章力」と同じ内容で、お金を損した。

 ○ネオコンの論理 (ロバート・ケーガン:光文社) :2003.8.15
    主張は明確。アメリカとヨーロッパの最近の主張の違いは、軍事力の差によるものである。
    ヨーロッパがカント流の平和主義を主張できるのは、アメリカがヨーロッパの範囲を越えたところで
    ホッブス流の戦いを行っているからである。
    ここで、ヨーロッパを日本に置き換えれば、日米安保の話になる。ここは、平和主義を考えようとするものに
    とって、一番重要な点だが、対抗する考えを示せていないと思う。
    ヨーロッパは、独・仏を含む平和な共同体を作り、さらに西欧・東欧の壁も取り払ってきている。一方
    東アジアはそれができていない。このあたりは、ヨーロッパに学ぶべき点が多々あるのだろう。

 △翻訳夜話2 サリンジャー戦記 (村上春樹、柴田元幸:文春新書) :2003.7.29
    この本を読む少し前に、村上春樹訳の”ライ麦畑でつかまえて”を読んでいたので、その流れでこの本を
    買った。いろいろな作家の名前が出てくるけれど、知らない人が多く、意味がわからない箇所が結構あった。
    また、僕にとってあまり印象に残っていない人や場面に、非常に大きな意味を感じているようで、訳す人の
    こだわりと、読んだ僕の意識に大きな差があることがわかった。

 ○答えが見つかるまで考え抜く技術 (表三郎:サンマーク出版) :2003.7.26

    おそらく駿台予備校で表先生に習ったことのない人は、僕が持った感想とは全く違う感想を持つのでは
    ないかと思う。それだけ僕にとってはインパクトのある先生だった。だから、この本を出版した後の
    「日経ビジネス」のインタビューで、予備校では「はったりを言った」という記事を読んだ時は、裏切られた気が
    した。以前は社会に立ち向かっている姿勢だったのに、今はリラックスしてしまっている。表先生ですら
    持ちこたえられなかったということが、僕の心を重くする。
    さて、気を取り直して内容であるが、一見ノウハウ本だが、耳を傾ける価値のある言葉が含まれていることも
    事実だ。
    「考え抜く」「考えを変えるには言葉を変える」「頼まれたことは引き受けろ」「3冊並行読書法」(僕は
    去年から2冊並行法を意識的に取っているので、似たことが紹介されていてうれしかった)「アイデンティティの
    確立が、”自分はこういう人間である”というように自己の可能性を限定することならしないほうがまし。”他人に
    ない固有の自己を実現する”と捉えず、自己表現と捉えるべき」

 △非戦の哲学 (小林正弥:ちくま新書) :2003.7.20
    言葉は多いが内容が伴っていない。ただ、戦後平和主義に対する認識は正しいと思う。この本では
    革新勢力が衰滅していったのは、社会主義イデオロギーが崩壊したためではなく、戦後平和主義が
    思想的魅力を失ったからだと書いている。つまり戦後平和主義は敗北し、終焉を迎えたために社民党が
    弱体化したというわけだ。また、冷戦終了により、戦争=核戦争=人類終焉という論理が成り立たなくなって、
    戦争が手段としての意味を回復したとも書いている。では、ここからどうやっていくべきかについては、役立つ
    ことは書かれていない。イデオロギーに無関係な平和運動を作るにはどうすればいいのか。僕はインターネットが
    運動の主流になるとは思っていない。

 ○癒しのナショナリズム  (小熊英二、上野陽子:慶応大学出版会) :2003.7.12
    僕は、昨年、社会や政治について話し合う継続的な場を作ろうと考えていた時期がある(実現しませんでしたが)。
    この本に出てくる「新しい歴史教科書を作る会」のメンバーは、そういった場を企画したり、参加したりしそうな人が
    多いようなので、興味深い。「新しい歴史教科書を作る会」の運動に参加している人は、従来の保守運動と無縁だった
    人が多く、不安と空虚さを抱える普通の市民個人の集まりである。では、こういった人々が、保守の言葉に集約されて
    いくのはなぜか。著者はいわゆる”左”をより嫌うためだと考える。僕も革新運動に思想的魅力がなくなったことが
    要因にあると思う。以前ならこういう人たちは、革新側が取り込めたはずだから。

 ×バカの壁  (養老孟司:新潮社) :2003.7.6

    これだけ売れる本はたいてい買わないのだが、つい買ってしまった。どの部分もあいまいな議論しかしていないので
    反論されることもないのかもしれない。この本を読んで、役に立った人はいるのだろうか。

 ○靖国の戦後史 (田中伸尚:岩波新書) :2003.5.1
    昨年出版された時から気になっていたが、ようやく買って読んだ。靖国に関する情報が整理されていて、
    後で調べるのに使える本だ。国家が戦死者を追悼する施設を持つべきかについて、僕は自分の意見を
    持っていない。

 △軍事データで読む日本と世界の安全保障 (草思社) :2003.4.18
    各国の比較データが載っていたので買った。知らないことも多く、その中でも、武器輸出の世界3位がドイツで
    フランスやイギリスより多いことは一番意外だった。あと、最大の輸入国が中国であることも注意しておく必要が
    ある。

 △日本海・軍事緊張 (中山隆志:中公新書ラクレ) :2003.4.18
    自衛隊の力がどのくらいと考えるべきかが知りたくて、そういう本を探していた。「普通の国」にしたいという
    著者の意識が表に出ていて、僕の考えと違うことはわかっていたが、他に見当たらなかったので、この本を
    選んだ。多少、参考になるデータ・情報はあったが、軍事用語は実感としてわかりにくい。国民が国の防衛に
    ついて話すとき、どういう言葉を使って、どういう視点から話すべきなのか。国民が使う言葉の必要性を感じた。

 ○敗北を抱きしめて (ジョンダワー :岩波) :2003.3.29

    いろんなことが書かれている。日本人は自分たちのことを優れた正直な国民と信じている面があるが、戦争終結直後に
    起こったことは、全く自己中心的であり、それはそういう時期に特有のものではないだろう。という箇所が一番印象に
    残った。昨年読んだ朱建栄の本に、中国人も経済成長し、市民社会が民主化されるにつれて、モラルが向上してくる
    だろうという予想をしていたが、この本を読むと日本人もそうだったかなという気がする。

 ◎戦争とプロパガンダ (E.W.サイード:みすず書房) :2003.1.25

    ニューヨークに住むアラブ人のサイード氏が、9・11、パレスチナ問題について書いた本である。彼はアメリカ・イスラエル
    批判と同時に。アラブの指導者を批判している。彼の主張の中に、「西洋とアラブの対立という構図で見てはいけない。
    ビンラディン一派をオウムのようなカルト集団と見るべきだ。」という箇所がある。僕たちは、必要以上に文明の衝突と
    考えすぎている。また、パレスチナ問題については、「我々が道徳的に優位にあることを示していこう。」と述べ、自爆テロを
    止めて世界に道徳を訴えることを主張している。

 △夜と霧 (フランクル:みすず書房) :2003.1.16
    昔から気になっていたが、重苦しいように感じて今まで避けてきた本だ。読むとあまり説得力がないことに驚いた。
    新訳で読んだのだが、旧訳のほうが良かった?

 ○首相公選を考える (中公新書) :2003.1.3
    今までに聞いた議論とは少し違う観点で論じられていて参考になった。
    




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