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(18)□ ドイツ・ナショナリズム (今野元:中公新書) 2024.10.6
   2021年刊行 (2022.12.30 近鉄百貨店橿原店ジュンク堂)
”西欧的=「普遍」的価値”が正しいとされる世界と、対抗する「固有」の価値、という視点でドイツの歴史を見直している。
”西欧的=「普遍」的価値”とは、西欧固有の政治理念でありながら、西欧の影響力が大きいことによって「普遍」的と主張されている価値のこと。”西欧的=「普遍」的価値”を推進する勢力が進歩派(左派、リベラル派)、それを抑制し固有の価値に重点を置くのが保守派(右派)と分類している。ただ、「普遍」対「固有」は対立するが、他にも「西欧的」と「非西欧的」または、「西欧的普遍」と「西欧に限らない普遍」という対立軸もあると思うが、西欧的以外の「普遍」的価値には触れていない。

ドイツは二度の世界大戦での壊滅的な敗戦により、国家主義が否定された。戦後の国内でもドイツの「固有」の価値は自らが否定することになった。しかし、東西ドイツの再統一により、国内でドイツ「固有」への回帰が目立ってきた。それは、例えば、歴史博物館建設ラッシュや、貴族の称号の継続、王宮や教会堂の復元などに表れている。そういう中、”西欧的=「普遍」的価値”と「固有」との論争が起こっている。

”西欧的=「普遍」的価値”はあくまで西欧を第一としている。「西欧的」はどういう時に問題になるのか。例えば、移民・難民問題がある。多様性を認める、移民・難民を受け入れるということは、普遍的価値に合致する。しかし、移民・難民を大量に受け入れると非西洋系住民が増え、そのことによって、”西欧的=「普遍」的価値”を有するドイツ社会が変質してしまうのではないかという危惧が生じている。社会の変質を避けるために移民・難民の受け入れに反対するという勢力が強くなってきている。

著者は、「”西欧的=「普遍」的価値”の優等生とされるドイツも、アメリカのオバマ政権からトランプ政権へのような転換をいつ引き起こすかわからない状態にある」と書いている。
日本ではドイツが防衛費GDP2%に引き上げたことを世界の主流のように扱い安心材料にしているが、ドイツも変貌しつつあるかもしれない。アメリカとともにドイツの変化にも警戒が必要だ。

(メモ)


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(17)〇 なぜ働いていると本が読めなくなるのか (三宅香帆:集英社新書) 2024.8.25
   2024年4月刊行 (2024.8.3 近鉄百貨店橿原店ジュンク堂)
明治以降に本がどのように読まれてきたかをずっと書いている。僕が成人した以降についても10年ごとに変遷を書いている(1980年代、1990年代、2000年代、2010年代)。そんなに単純か、と思う箇所は多いし、それほど指摘が適切だと思わないところも多い。しかし、最終章「全身全霊」をやめませんか、に至って笑ってしまった。なんだか僕を肯定してくれているように感じたから。「半身」の働き方でいいではないか。なかなか言えないけど、僕もそんな気がする。

(メモ)
・明治時代初期に「黙読」が誕生した。江戸時代に読書と言えば朗読だった。
・黙読によって読みやすい表記が求められ、句読点が明治10年代後半から20年代に急速に増加した。
・日本初の男性向け自己啓発書「西国立志編」。1871年刊行のベストセラー。明治末までに100万部を売った。
 「男性たちの仕事における立身出世のための読書」の源流
・自己啓発書をめぐる日本の階級格差:自己啓発書を冷ややかな目で見るエリート層
・大正時代に日本の読書人口は爆発的に増大。
・大正時代の3大ベストセラー:「出家とその弟子」「地上」「死線を超えて」・・・社会不安を感じる
・大正末期「円本」:全集のこと。1冊1円。当時の単行本は2円から2円50銭が相場。全集の1冊には4〜5冊分が収録されているので10分の1ほどの値段で格安。
・1961年インテリ向け岩波新書に対抗してカッパ・ブックス刊行。役に立つ新書の誕生
・1970年代文庫創刊ラッシュ。講談社文庫、中公文庫、文春文庫、集英社文庫
・1970年代、企業内教育において「自己啓発」という言葉が使用され始めた。
・1980年代、出版業界の売り上げはピーク。80年代の出版バブルを支えたのは、雑誌
・自己啓発書の特徴は、「ノイズを除去する」姿勢。アンコントローラブルな外部の社会をノイズとして除去し、自分がコントロールできる範囲(感情)をコントロールする。
・本を読むことは、働くことのノイズになる。
・自己実現という言葉がある。趣味で自己実現しても良いし、子育てで自己実現しても良いはずなのに、現代の自己実現という言葉には、「仕事で」というニュアンスがつきまとう。2000年代以降、日本社会は「仕事で自己実現すること」を称賛してきた。
・90年代後半、「夢」を追いかけろと煽るメディアが氾濫。学生が想像できる「夢」、つまり楽しそうな進路は「服飾・家政」や「文化・教養」など就職率の低い領域であることも多かった。しかしそういったリスクを伝えず、高校のキャリア教育は夢を追いかけることを推奨した。結果として「やりたいことが見つからない」若者や、「やりたいことが見つかっても、リスクの高い進路を選んでしまう」若者が増えていった。
・新自由主義改革のもとではじまった教育で、私たちは教養ではなく「労働」によって、その自己実現を図るべきだという思想を与えられた。
・情報とは、ノイズの除去された知識。
・市場という波にうまく乗ることだけを考え、市場という波のルールを正そうという発想はない人びと。それが新自由主義的社会が生み出した赤ん坊だったと言えるかもしれない。
・「働いていても本が読める」社会

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(16)□ 自壊する欧米 ガザ危機が問うダブルスタンダード (内藤正典、三牧聖子:集英社新書) 2024.8.6
   2024年4月刊行 (2024.4.27 啓林堂奈良店)
イスラムの本をよく出している内藤正典氏と、最近名前をよく目にする三牧聖子氏の対談を中心にした本。
アメリカ、ドイツなどの西側諸国のイスラエル支援を厳しく批判している。強く同意する。G7は道義的正当性を失い、世界の少数派になってしまった。日本はG7の中で共に生きる途しか表明できていない。これで良いはずがない。

(メモ)

・ハマスは明らかにテロ組織である。もちろん同じことはガザ市民を無差別に虐殺したイスラエル側にも言える。その意味でイスラエルはテロ国家である。イランはハマスを支援するテロ支援国だが、同じように
アメリカもイスラエルを支援するテロ支援国と言える。
欧米諸国がイスラエルに断固とした姿勢を取らない理由の一つはガザからは難民が流出しないからだ。大規模に難民が流出すると、欧米諸国の政権は難民の到来によって治安が悪化し、野党から批判されるのを恐れる。だから嫌々でも何らかの対応を迫られる。ガザは封鎖されているので難民の流出の心配をする必要がない。
・アメリカの著名な女性たちがイスラエルの軍事行動を支持してきた。
フェミニズムとは、いかに弱い人間でも、あらゆる人びと、とりわけ守られなければ暴力にさらされてしまう弱い立場にある人々の生命と尊厳を守ろうとする思想であるはず
・暴力やテロによって事態の打開を求めることを批判するならば、暴力によらずに事態を打開できる政治的希望を示さなければならない。
中東では、中国がイランとサウジアラビアの国交和平を仲介するなど、存在感を増してきている。世論調査でも、アラブ諸国では、アメリカより中国を歓迎する声が大きくなっている。アラブ諸国からすれば欧米のようにいきなり軍事攻撃をしてくることもなく、まだマシという感覚があるのではないか。
・アメリカは単に経済的な意味だけでなく、国際社会における道義的な立ち位置についても、優位性を失いつつある。地域によってはもはや失っている。
・「人道」とか「法の支配」とか常日頃言っている国々が、まったくガザの状況に関心を持たない。それどころかイスラエルの無差別攻撃を擁護している。
・2023年12月12日の国連総会の緊急特別会合で、即時停戦に反対しているのはアメリカとイスラエルなど10か国にとどまり、残りの圧倒的多数は賛成している。
インドネシアやマレーシアの首脳が、アメリカの大統領に対して、「やっていることがダブルスタンダードですよ。やっていることがおかしいですよ」と、そういうふうに言える時代になっている
・宗教色のないPLO(ファタハ)が、いつまでも成果をあげられず、イスラム主義のハマスに引き寄せられた。
・ハマスは2006年のパレスチナ評議会の選挙で勝利し、ガザを実効支配することになった。
ハマスは選挙で選ばれているアメリカはアフガニスタンに侵攻して選挙を教え、さんざん宣伝した。それがパレスチナで選挙をやったらハマスが出てきた。その選挙結果を尊重せずに、ハマスを全部消してしまえというのか。ひどいダブルスタンダードだ。
・今、アメリカで起こっているのは、反ユダヤ主義的な思想の持ち主が、「反ユダヤ主義を取り締まらなければならない」と、とりわけリベラルな大学に対して監視の目を光らせ、リベラルな学長を突き上げている。そういう異様な事態になっている。

アメリカでは、福音派よりもむしろユダヤ系のほうが、イスラエルに対して複雑な感情を持っていて、入植政策に批判的ですらある。とりわけ若いユダヤ系では、40歳以下だと3分の1以上がイスラエルの行為はパレスチナ人に対する「ジェノサイド」とする意見に同意している。(2021年世論調査)
・ウクライナをめぐっては「自由や民主主義を守るのだ」と言っておきながら、ガザの問題になると批判できない。
EUの主要な加盟国が何か言うときは「イスラエルには自衛権がある」、その繰り返しだ。それでも、アメリカが拒否権を使い否決された2023年12月8日の安保理ガザ即時停戦決議案には、フランスは賛成した。西欧の常任理事国の中でフランスは唯一賛成。イギリスは棄権。2024年2月20日の安保理も同じ。
・アメリカは根拠となる安保理決議無しで大量破壊兵器を所持している可能性があるとしてイラクに戦争をしかけた。そういうアメリカの独善的な行動と、不処罰がもたらした国際規範の緩みをプーチンは見ていた。
・グローバルサウス諸国はウクライナ戦争に際し、多くの国がロシアの侵略行動を非難しつつも対ロ制裁に加わらず、ロシアと関係を持ち続けている国も多い。こうした態度を西側諸国は批判してきた。これらの国々から見ると、イラクに戦争をしかけ、この20年ほどで数十万のイラク人を死に追いやってきたアメリカと、ウクライナで侵略戦争を続けるロシアとの差は相対的なものであって本質的ではない。
・ヨルダン河西岸に移住し、イスラエルの入植政策に加担しているアメリカ人がいる。そうした人々は、現在進行中のイスラエルの「入植」を、自分たちの祖先による「入植」を重ね合わせ、崇高な使命として支持している。もっとも、「入植」という言葉は、実際に起こっている非人道的な事態を隠蔽しかねない言葉で、もともと住んでいる住民からすれば「侵略」であり「植民地化」に他ならない。
アメリカもイスラエルも「セトラーコロニアリスム(入植植民地主義)」を通じて打ち立てられた国。だから今、同じことを繰り返しているイスラエルの残虐性が見えない。イスラエルの入植政策の問題に気づかないというのは、自分たちの建国の歴史にまつわる暴力をきちんと見据えていないことに由来するところもあるのではないか
・アメリカで今、「イスラエルを守れ」「反ユダヤ主義はいけない」と声高に叫んでいるのは、「多様性」や「異宗教への寛容」といったことにもっとも背を向けてきた人たち。強者側に立つ主張であり、彼らのイスラムフォビアを反映した主張でもある。
・「民主主義国」は必ずしも「平和を愛する国」ではない。第2次世界大戦後の歴史において、対外的にどれだけ人を殺してきたかということを指標にすれば、アメリカが突出していることは否定できない。「民主主義のためにやった」「テロとの戦いだった」というような言葉で、過去の殺戮を正当化し、目を背け続けてはいけない。
・人道に反する罪、戦争犯罪を思い浮かべる時に、21世紀はナチスに代わってイスラエルが記憶されることになる。
・韓国の林志弦教授が「犠牲者意識ナショナリズム」という概念を提示している。「犠牲者ナショナリズム」とは、戦争や植民地支配、ジェノサイドといった前の世代の集団的な犠牲の経験や記憶を継承した後の世代が、自分たちも悲劇の「犠牲者」だとして、今の自分たちの政治的な立場を正当化するナショナリズムのこと。日本も、アジア・太平洋戦争に関する公的記憶においては、空襲、沖縄戦、原爆など、自らが被害者であることが強調され、アジア諸国に対する加害への注意や認識が相対的に希薄な「犠牲者ナショナリズム」の一例として分析されている。
ホロコーストの「悲劇を繰り返すな」はユダヤ人だけを対象とするものであっていいはずがない。「ネバー・アゲイン」を「ネバー・アゲイン・フォー・エニーワン」という普遍的なものへと高めていかないといけない。
・パレスチナは、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)ではなく、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)が所管。1951年の難民条約採択時にUNHCRはできるが、パレスチナ難民はその前にいた。UNRWAは「救済して就労機会を作る」救済事業機関という名前。だから学校を含めて全部UNRWAがやることになっている。
・難民というのは、難民条約以降の定義では、自分の国で迫害されて”国境を越えて他の国に行った人”を指している。パレスチナ人はパレスチナにいる権利があり、しかもパレスチナにいる。国外に行った難民もいるが、パレスチナにいる人はいわゆる難民ではない。
・意外に、トランプの時に戦争被害が少ない。金にならないという実利に徹する姿勢は平和に繋がることもある。
・ウクライナ戦争でロシアが核使用をほのめかした時は、G7は即、「核の脅しは許されない」と批判した。しかしイスラエルが原爆投下をほのめかすどんな過激な発言をしてもスルーする。
・イランは少なくともIAEAの査察を一時は受けたけれど、イスラエルは受けたことがない。今回を機会に査察を受けてもらおうと日本の首相が言うべきではないか。
・国連無力論を助長しているのが、平和に対して最も責任を負うべき常任理事国。
欧米から「民主主義的でない」「人権を大事にしていない」と批判されている国の方が、難民を圧倒的に多く受け入れてきた。ウクライナの難民をポーランドが受け入れる前はトルコが圧倒的に多かった。ウクライナに限らなければトルコは最大の難民受け入れ国。
・民主主義のランキングを表す指標の中に「人殺しをしない」という基準を入れると良い。がらりと順位が変わる。アメリカは大いに順位を落とす。「殺さない」という大原則をもっと評価すべき。
・現実にイスラエルがいかに凄惨な軍事行動を展開していても「イスラエルこそが犠牲者だ」とみなす思考。市民を無差別に巻き込むイスラエルの軍事行動すら、「自衛」だと支持する思考。これらの思考は今日のバイデンにもそのまま受け継がれている。

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(15)〇 マンガで読む 資本とイデオロギー (クレール・アレ、バンジャマン・アダム:みすず書房) 2024.7.27
   2024年5月刊行 (2024.6.21 イオンモール京都 大垣書店)
ピケティの大著「資本とイデオロギー」はハードルが高いので、マンガ版を読んだ。「自然、文化、そして不平等」に記載されていたこともたびたび出てくる。「自然、文化、そして不平等」の後に読む本として最適では。
ただ、文字数は限定されているので、もう少し説明してほしい箇所もある。それは原著を読まなければいけないのだろう。

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(14) □ 日本の財政 破綻回避への5つの低減 (佐藤主光:中公新書) 2024.7.4
   2024年5月刊行 (2024.5.25 啓林堂奈良店)
一読したときはあまり面白いとは思わなかったけれど、読み返すと為になることが多々書かれている。

(メモ)
[財政の3つの機能]
@
資源配分機能:市場経済に任せていると供給されないサービス等を政府が供給・・・道路・橋のインフラ整備、生活ゴミ回収など
A
所得再分配機能:課税と給付で格差を是正
B
経済安定化機能:景気悪化時に政府が財政支出を増やして需要を喚起→財政拡大の常態化

[経済学者と一般国民の問題意識(アンケート結果から)]
・経済学者も一般国民も、今後の日本の経済成長を楽観視していない。
・経済学者も一般国民も、財政赤字を問題視している。
・財政赤字の原因について認識が異なる。経済学者は、社会保障費を挙げ、次に政府の無駄遣いを挙げている。
一般国民は政府の無駄遣いを一番に挙げ、次に高い公務員の人件費を挙げている
・消費税の認識も異なっている。経済学者は安定財源、経済活動に歪みの少ない効率的な税と捉えているのに対して、一般国民は景気に悪影響、逆進性で不公平という捉え方が強い。

[日本の現状と課題]
・社会保障の財源は大きく消費税と社会保険料から構成される。社会保険とは、年金保険、医療保険、介護保険、雇用保険、労災保険の総称。社会保障給付金131兆円(2022年度予算)のうち、保険料が74兆円、公費が52兆円。政府は社会保険料であれ消費税であれ、負担増の実施には慎重。結局、国債頼みが続いている。
・財政出動を繰り返し、一度緩めた財布の紐を締められない状態が続いている。(非常時には財政の総額を機動的に高める一方、平時には元の水準に戻せること、このコントロールができていない)

[財政赤字の何が問題か]
・国の財政赤字は、国債残高の増分に等しい。国債残高の増分とは、政府による民間からの資金調達にあたる。一般的には政府の資金調達は民間の企業や家計と競合するし、資金の競合=需要増は金利上昇に繋がり、企業・家計の投資を減じてしまう。・・・クラウディングアウト(締め出し効果)という。
・日本では、長引くデフレ経済の中、民間投資は低迷し、資金余剰が常態化。このため、財政赤字による金利上昇・民間投資減(クラウディングアウト)は観察されていない。デフレ下で税収が低迷→財政赤字を拡大させながら景気対策。一方で、民間のカネ余りが国債残高増加を容易にした。デフレ経済は財政赤字の原因であるが、巨額の財政赤字を支えてきたのもデフレ経済。しかし、いったんデフレから脱却すると潮目は変わる。

[財政政策の奇策]
・MMT(現代貨幣理論):主張の核心は、通過を発行する権限があり自国通貨建て国債を発行する政府は、財政政策において財政赤字や債務残高を考慮する(財政再建に努める)必要はない、というもの。米国ではリベラル派を中心に根強く支持される。なぜ、財政的な制約がないのか?それは政府の財政赤字を中央銀行が通貨を増発して引き受ける「財政ファイナンス」で賄うことができるから。MMTは政府の支出を貨幣の放出、課税を貨幣の回収とみなす。問われるのは、貨幣に対する「信用」。国が信用を担保できる限り、貨幣は何でもよい。問題はまさにここにある。デフレ下では民間に資金が余り、国債を増発しても金利上昇にならず、むしろ政府の支出が新たな雇用と所得を生み出し、消費・投資を含む民間需要を回復させる好循環に繋がる。しかし、平時でも財政赤字を続けると金利上昇やインフレのリスクがある。MMTではインフレ時に増税で貨幣を回収することになるが、柔軟に財政を緊縮させることができるかに疑問がある。
・シムズ理論(物価水準の財政理論FTPL):政府が基礎的財政収支をあえて改善しないとすれば、増税予想が無くなり消費を喚起し脱デフレ。インフレが発生することで結果的に公債残高の実質価値が下がる。つまり、デフレと借金の圧縮が同時に実現する。仮に脱デフレが確認できるまで消費税増税を先延ばしするとして、脱デフレが見通せないまま財政が悪化、公債残高が増え続けたならば、人々の不安は増すばかりとなってしまう。良い方にいくか悪い方にいくかはわからない。
・ヘリコプター・マネー:中央銀行が貨幣を発行して国債を引き受けてしまえば、国の債務が帳消しになるという理屈。通常の金融政策では中央銀行が民間の金融機関と国債などを売買することで市井の貨幣量や金利に影響を及ぼす。金融機関が貨幣を受け取っても家計や企業への貸し出しに回らなければ市中の貨幣量は増えない。そこでヘリコプターからマネーをばらまくように家計などに現金を配るという考え。中央銀行が民間に対して負う現金・準備預金には金利が付く。金利引き上げを迫られると中央銀行の財務状況が危うくなる。
・上記のような理論が政治的に都合よく利用されてきたことが問題。結局、痛みを伴う財政再建をしないで済む理屈であれば何でも良いのかもしれない。奇策が正しいという確信があるのではなく、そうあってほしいという願望もあるのだろう。

[近年の財政健全化策]
・1997年橋本政権:「財政構造改革法」2003年度までに国と地方合わせた財政赤字対GDP比を3%以内にし、赤字国債発行をゼロにする。→アジア通貨危機を契機にした国内金融機関破綻など経済状況悪化により98年12月施行停止。
・2006年小泉政権:2011年度までに国と地方を合わせた基礎的財政収支(プライマリーバランス)黒字化目標→リーマンショックで目標先送り。
・2010年民主党政権:「財政運営戦略」2015年までに国・地方の基礎的財政収支を半減。2020年度までに黒字化目標
・2015年安倍政権:「経済・財政再生計画」2020年度までの基礎的財政収支黒字化目標変わらず。→2025年度に先送り。
・内閣府見通しでは、経済成長実現ケースで2025年度黒字化。→今後を見通す前提が成長実現ケース・・・何とかなるという風潮
・甘い経済見通し、国債への矛盾した信認が重なり、危機感を失わせた。
民間が金融資産を持っているから国の債務は問題ないというのは、見方を変えると、いざとなれば国は金融資産に課税をして債務の返済に充てればよい、という無制限の課税権を許容しているともいえる。

[財政赤字の政治経済学]
・建設国債の60年償還ルール:満期10年の国債を6兆円発行したとする。10年後の満期時に6兆円のうち1兆円を償還し5兆円を新たに借り換える。次の10年後には5兆円のうち1兆円を償還し4兆円を借り換える。これを繰り返して60年後に完全償還する。一般会計から毎年、国債発行残高の1.6%を償還費として「国債整理基金特別会計」に繰り入れることが法律で決まっている。
・国債の海外投資家の保有割合は14%。
・一国全体で見れば、国債保有者としての国民と、その元利償還費を負う国民は概ね一致する。だから国債の元利償還のために増税しても、国民にとっては納税者のポケットから国債保有者としてのポケットにお金が移るだけと言える。しかし、見方を変えれば、増税しても国民の手元には何も残らない。
・財政再建の必要性が叫ばれてきたが実際には進まなかった。財政再建は増税や歳出削減を伴うので、既得権益を有するステークホルダーからの反発を受けやすい。一般国民も既得権益者だ。各権益者にとって最良なのは、自社の権益を放棄することなく、他の誰かの身を切って目的を達すること。結局、皆が既得権益に固執して財政再建が先送りされる。
・日銀は年間80兆円のペースで市中金融機関等から国債を買ってきた。このため、投資家・金融機関は、日銀が高値で買ってくれることを前提に額面価格より高い値段で国債を購入する動きも出ていた。
財政錯覚:税制を含む財源の仕組みや政府支出を決める予算制度が複雑になると、有権者=国民は自分たちが受益するサービス(学校境域や医療サービスなど)とその費用の出所との関係が明らかでなくなる。このため、公共サービスの真のコストを過小評価し、提供費用は低いものと「錯覚」してしまう。→財政錯覚は財政規律を弛緩させる。
行動経済学のプロスペクト理論:人々は利得局面では不確定な利益よりも確実な利益を好んでリスク回避的に行動する一方、損失局面では損失を確定させるより状況が改善する可能性に賭けるリスク愛好的な行動をとる。例えば、株価が上がると売却して利益を確保しようとするが、下落すると売却せずに現状を回復する可能性を期待して売り惜しみする。財政再建でも先延ばしして現状が維持される可能性に賭ける意思決定をするかもしれない。
・財政破綻:政府が資金のやり繰りに窮する状態→国債金利上昇→政府支出増加→借金増加
・国際通貨基金(IMF)の管理下に置かれるシナリオ→歳出カット等厳しい改革を強いられる・・・IMFが融資可能な額に比べて日本の財政赤字は大きすぎる
・中央銀行の財政ファイナンスのシナリオ(中央銀行が国債を引き受ける)→ハイパーインフレにより実質的な負担を解消・・・日銀引き受けと財政インフレは解決策としては劇薬
債務不履行(デフォルト):国債の元利償還を停止または先延ばし→国内金融機関の損失となり金融危機に連鎖するリスク高い。国債が国民自身への社金に過ぎないという安心感はいったん危機が起きれば、その危機を増幅させる要因になる(財政危機が金融危機に)
・最後に残るのが政治的な抵抗が強い財政再建


・一国の経済力は需要サイドの消費や投資などを合計したGDPで表されることが多い。一方、成長力は、供給サイドから見た潜在的な生産量「潜在GDP」で評価される。潜在GDPは、利用できる資源量(機械設備等の資本と労働力)と生産性(技術力)によって決まる。潜在GDPがGDPと一致しないのは、需要動向に応じて設備の使用率や雇用が変わるから。
・マクロの需要不足「デフレ・ギャップ」は、潜在GDPと実際のGDPとの乖離に等しい。日本の潜在成長率を内閣府が試算した数値で見ると、4.26%(1980年代)→1.91%(1990年代)→0.63%(2000年代)→0.59%(2010年代)と下がっている。低い潜在GDPの要因の一つは、労働人口の減少。投資の伸びも少ない。しかし、経済成長への楽観論は消えていない。財政の試算時は経済成長が議論の前提となり、高い成長が実現すると財政再建も実現されるという主張にすり替わっている。



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(13) ◎ 自然、文化、そして不平等 (トマ・ピケティ:文藝春秋) 2024.6.9
   2023年7月刊行 (2024.6.1 イオンモールアルル喜久屋書店)
ページ数も文字も少なくすぐ読める。でも内容は詰まっている。グラフのおかげでとてもわかりやすい本になっている。お奨めです。
スウェーデンは世界で最も平等な国のひとつとされているけれど、長い間ヨーロッパで最も不平等な国の一つだった。1930年代に社会民主系の政権になって急速に変わった。このことから、ピケティは文化的な要因で社会が決まるのではなく、政治によって変化するものだと言う。そして、経済や歴史の知識と知恵を共有することによって、平等な社会にする運動に関わることを呼びかけている。

7月13日アムネスティ奈良グループで本書を紹介
紹介資料


                   2024読書記録トップへ   内容一覧トップへ
(12) □ 財政と民主主義 (神野直彦:岩波新書) 2024.6.6
   2024年2月刊行 (2024.3.2 啓林堂奈良店)
4章以外は面白く感じず、目を通すのがつらかった。ただ、4章は多くのことを得ることができた。
現金給付と現物給付、日本は現物給付が少ない。税金と社会保障、日本は税金が安い。日本は年金が充実しており、年金で高齢者は生活支援サービス(現物)を購入することが想定されている。年金は賃金が高かった人が多いので賃金が低かった人は年金が少なく、サービスを十分受けれず生活保障にならない。これは年金(医療、介護も)が社会保障でまかなわれ、現物給付が不足していることによる。
日本の社会保障は社会保険に依存しすぎ、税負担が小さすぎる。税と社会保険の一番の違いは「無償性」(対価があるかどうか)。社会保険料は支払えば給付に繋がるので日本では受け入れられやすい。
国民負担率(租税負担率+社会保障負担率)をOECD諸国で比較すると、日本は低い方になる。租税負担率だけで見ると極めて低い。租税負担率が低いのは国民が政府を信頼していないから。税も社会保障も現役世代の負担が多くなるが、それが日本では低い。現役世代の公的な負担が少ないがゆえに、現役世代の私的負担が大きくなり、現役世代の生活が苦しくなっている。現役世代の私的負担とは、年少世代の扶養・教育や高齢世代の扶養を家庭内で担わなければならないことを意味する。租税負担が低いことが「保育所・幼稚園費用負担」や「学校教育費の保護者負担」など税以外でも負担に繋がっている。


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(11) □ 世界5月号 (岩波書店) 2024.5.18
   2024年4月刊行 (2024.4.13 啓林堂奈良店)
第1特集:「地方対中央」
第2特集:「暴力の起源 〜植民地主義を問う」
最近あまり耳にしなくなった地方分権の観点で沖縄問題を見るなど、第一特集は興味深かった。第二特集はよくわからなかったものも含めてあまり得るものがなかった。

(メモ)
『事件に飢えた公安警察と司法の歪み(対談:青木理、高田剛)』大川原化工機事件が問いかけるもの
・捜査は不正輸出を担当する公安部外事一課の第五係。常に不正輸出のネタを探しているが現実にはそう多くない。問題にされた噴霧乾燥機は規制がつくられて間もないうえに省令の文言に曖昧な点があった。事件を作りやすいという判断が捜査幹部にあったのでは。
・「経済安保」への関心が強まり、事件への「期待」が高まっていた。公安警察の政治性が際立つ。
⇒専門家として能力を持っているはずの官僚が、強引に政府と同じ方向に向かおうとする。こんな問題が多くなっている。

『最後は教育なのか?(武田砂鉄、西倉実季)』 ルッキズム
・経済学の研究で、外見のよしあしによって収入が異なるとの調査結果がよく紹介される。
・「ルッキズム」に託された意味は、@本来、外見に関係しないはずの場面で外見が評価され、不利な状況に置かれる人が出てくるのは問題 A外見のよさは抽象的なものでなく社会のマジョリティのありかたと強く結びついているという点。
・しかし、
日本では、「外見だけで人を判断すること」と単純化され、「内面も評価しましょう」となっている。
⇒以前ミスコン反対の声があったが、僕はあまり反対ではなかった。むしろ、外見だけでなく内面も含めて評価する方が人間全体をランク付けするという問題をはらんでいると思っていた。日本でルッキズムを外見だけでなく内面も、という方向で見てしまうと大きく方向を間違えてしまう。

それでも沖縄は声をあげ続ける(玉城デニー、片山善博)』 ・・・地方分権の問題として
・行政不服審査法という国民の権利や利益を守るための法律を濫用して沖縄防衛局が私人になりすまして審査を申請。県が法律にのっとって提起すると門前払いし、、国は法律を恣意的に歪める。
・2000年の地方分権改革で、国が地方自治体を下部機関のように扱っていた「機関委託事務」はなくなった。この事務は知事はまるで大臣の部下のようで、一定手続を取れば知事を罷免することもできた。分権改革でその点は前進し、国が県に指示する場合には法律の根拠が必要になった。機関委託事務をなくした代わりの妥協の策として「法定受託事務」という概念が導入され、罷免もなくなったが代わりに代執行がある
全国知事会は法定受託事務の見直しを迫る運動を展開すべき。国が私人になりすまして法を適用するのはおかしいということを知事会で整理するとよい。
・災害や感染症など非常時に国が自治体に指示を出せるように地方自治法を改正する法律案が国会に提出されている。全国知事会は「憲法で保障された地方自治の本旨や地方自治改革により実現した国と地方の対等な関係が損なわれるおそれもあると表明
⇒沖縄問題は地方分権の問題として捉えると全国共通の問題として捉えられやすくなるかもしれない。

『人口減少時代の課題がひらく未来(田中輝美 島根県立大准教授、永岡里菜 株式会社おてつたび)』
関係人口:長期間暮らす人びと(定住人口)、観光に短期間来る人びと(交流人口)と異なり、特定の地域に継続的に多様な形で関わる人びと
・人口が集中する都市で生きる中では自分自身を代替可能な存在としか思えなかったとしても、人口の少ない小さな場所であれば、自分の役割は相対的に大きくなるかもしれない。
人口が増えることを前提につくられてきた社会システムが、人口減少の時代に適合していない。論点が人口減少を食い止めるという方向に集中してしまっている。
・地域の存続ありきでなく、人が幸せに暮らせる地域をどう構想するかが大事。
・どの自治体もトレンドにのって同じような施策を行っている。
ロンドンのピープルズスーパーマーケット。会員制で1か月に4時間ボランティアとして働くことによって商品を割引で購入できる。その結果、消費者は供給者側の立場にも立つことになり互いに顔の見える関係でコミュニケーションが成り立っていく。
⇒ピープルズマーケットは脱成長社会へのヒントになる。

『分権型社会への遠い途 (金井利之 東大教授)』
・1993年、国会両院にて地方分権推進決議
2000年地方分権一括法施行(第一次地方分権改革)。国・自治体関係を上下・主従から対等・協力とする分権型社会を目指した。
第1次分権改革は、機関委任事務制度の廃止と係争処理制度の創設。これが到達点と限界を示している。機関委任事務制度の廃止は、法令の根拠なき行政的関与に、権力的な強制性を否定したもの。係争処理制度は国と自治体の間に意見の相違がありうることを前提に、自治体が法的に争うために第三者機関に係争処理を依頼できるようにしたこと。第三者機関とは国地方係争処理委員会や裁判所。「法治主義」の発想によるものだが、逆に言えば、法的権力さえ獲得すれば国はいかようにでも自治体を統制できる。
⇒20年くらい前はもっと道州制とか地方分権に関していろんなことが言われていた。最近は中央集権を強める話ばかり。それで良いのかを問わなければ。

『ふるさと納税という幻想 (土山希美枝 法政大教授)』
・ふるさと納税は、利用する人と指名される自治体と介在する事業者たちによる「あなたとわたしで税金を美味しく食べましょう」という仕組み。
・財政力指数が1を割る全国のほとんどの自治体は、流出した額の75%が交付税から補填される。(25%は実損になる)
・地方交付税があてられることは問題。「ふるさと納税」の補填のために新税を創設されることを想像すれば地方税で行っていることが不毛なことがわかるだろう。
地方税は、納税者の任意で、自治体Aから自治体Bに付け替えができるものであるべきではない。この制度設計の正当性が問われるべき。
⇒国も地方も借金がある中で、トータルとして税収が減る政策をなぜやってしまったのだろう。

『プーチン再選と個人支配のゆくえ (大串敦 慶應大教授)』
・戦争を行っている現在、
ロシアを守る指導者としてロシア国民はプーチンを支持している。ロシアの多くの人々が現在の戦争を対西側もしくは対NATOの戦争とみなしている。対西側との戦争と認識されているからこそ、国の実存的脅威に対して大国ロシアを守る指導者としてプーチンが支持された。
・ロシアの国民の経済生活は維持されている。人びとの消費生活に戦争以前とほとんど変化がない。物価は上昇しており決して楽な生活ではないが、1990年代のような苦しい経済情勢とはまったく異なっている。
・プロパガンダでプーチンの支持が拡大したという見方もあるが疑問だ。メディアの統制が加速したのは事実だが、西側のニュースには簡単に接することができ、インターネットも中国のような厳格なインターネット統制とは程遠い。
⇒ウクライナ戦争の初期とは状況が変わってきている。プーチンの支持も根強い。欧米はガザ問題を通して世界の支持を失った。

『女性の過労死はなぜ見えないのか (竹信三恵子 ジャーナリスト)』
・精神障害による労災の申請件数で、女性は男性にほぼ拮抗しつつある。
・一方、過労自死での女性比率や認定件数は男性より大幅に低い。1割程度。
・男性以上に過酷な多重負荷を課せられる
組織の中で「重要」で「人材の価値が上がる」とされている仕事は男性がやり、そうじゃない仕事に女性が就く
・女性の仕事が軽く見られ、女性の過労死をなかったことにしてしまいがち


『就職氷河期世代の現在とこれから (近藤絢子 東大教授)』
・ひとまず、1993年〜2004年を就職氷河期とする
・就職氷河期より前のバブル世代は、以降の年代と比べて年収が高い。
・バブル世代の次に年収が高いのは氷河期前期世代(93〜98年卒業)。ポスト氷河期世代(05年〜09年)の年収は氷河期後期より若干高い程度。今なおバブル世代より少ない状態が続いている。非正規雇用の割合が上昇している影響もある。
⇒就職氷河期と言われた世代以降、まだバブル世代より年収が少ない状況が続いているとは。。

『ロスジェネとは誰のことか (浅野智彦 東京学芸大教授)』
・世代の問題であるはずのものが若者論として消費されてしまった。
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(10) 〇 ジョン・ロールズ 誰もが「生きづらくない社会」へ (玉手慎太郎:講談社現代新書) 2024.5.5
   2024年4月刊行 (2024.4.27 啓林堂奈良店)
ロールズの「無知のヴェール」という考え方が広まれば、世界は変わるはず

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(9) □ イスラエル軍元兵士が語る非戦論 (ダニー・ネフセタイ:集英社新書) 2024.5.3
   2023年12月刊行 (2024.3.2 啓林堂奈良店)
ダニー・ネフセタイは1957年イスラエルの生まれ。空軍パイロットを目指して18歳で空軍に入隊。養成学校の訓練でパイロット候補生はふるいにかけられ、パイロットになれたのは候補生600人の中の20人。著者はパイロットになれず、レーダー部隊に転属になった。自信を失っていたがレーダー部隊で自信を取り戻した。当時は最後に頼りになるのは軍隊だという「力への信仰」ができていた。21歳で兵役を終えた。
1982年9月「サブラとシャティーラ虐殺事件」が起こる。レバノンのキリスト教右派民兵が難民キャンプでパレスチナ難民を虐殺。イスラエル軍は夜間照明弾発射などで協力。国連総会は「ジェノサイド」として非難する決議を反対無しの賛成多数で可決。イスラエル国内でも批判。40万人大抗議デモ(当時の人口400万人)ベギン首相とシャロン国防相辞任。
事件後の1983年、予備役のレーダー部隊としてレバノンに派兵される。
1984年総選挙。左派とリクードなどの右派の大連立内閣。右傾化していくイスラエル国民に徐々に疑問を深めていく。
同年から日本在住。
1987年パレスチナの人びとによる占領支配への抗議・・第1次インティファーダ。強硬路線では鎮圧できず。1992年総選挙で労働党が政権獲得しラビンが首相。1993年にオスロ合意。1995年ラビン首相暗殺。交渉進まず。
2000年第2次インティファーダ。パレスチナ側はロケット弾、迫撃弾を使用、自爆攻撃も続発。イスラエル軍は戦車、戦闘ヘリ、爆撃機。

2005年からガザ地区からのイスラエル人入植者の退去を進める。2006年ヒズボラがイスラエル兵を拉致殺害、報復としてイスラエルはレバノン侵攻(第二次レバノン戦争)。ベイルートを次々に爆撃。まだ、イスラエルの戦争は正しいという観念に囚われていた。
2006年ガザ地区を含めたパレスチナ立法評議会選挙でハマスがファタハに代わって第一党に。欧米諸国はガザ地区への援助を停止。2008年イスラエルはガザに侵攻


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(8) 〇 資本主義の次に来る世界 (ジェイソン・ヒッケル:東洋経済新報社) 2024.4.16
   2023年5月刊行 (2023.12.29 近鉄百貨店橿原店ジュンク堂)

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(7) □ 世界4月号 (岩波書店) 2024.4.10
   2024年3月刊行 (2024.3.9 啓林堂奈良店)
特集1は「トランプふたたび」。背景に民主党の左傾化を指摘する声も。新聞とは違う視点の議論もあった。
また、ガザ侵攻反対の米国大学生のデモによって逮捕者が多く出て大学側が処分していることが報じられている。これについては林教授の論考が参考になる。

(メモ)
『なぜトランプなのか(座談会)』
遠藤乾(東京大学教授)、渡辺将人(慶應大学准教授)、三牧聖子(同志社大准教授
・ウクライナで割れていた共和党がイスラエルを軸にまとまり、民主党はウクライナ支援では一致していたがイスラエルでは割れている。
・バイデン政権はガザ危機で価値外交の欺瞞が露わになっている。
バイデンが勝ってもトランプの政策の大部分を踏襲した政権になるかもしれない。
・トランプが台頭する背景に民主党の左傾化もある。主に気候変動、LGBTQの権利、人種正義といった文化・社会政策。2020年大統領選で本戦でのバイデン支持と引き換えにサンダーズ陣営の要求を丸?みしたため。

『大学不信と多様性へのバックラッシュ(林香里東大教授)』
米国の多くの大学は、政府の補助金や授業料収入に加え、卒業生からの膨大な非課税寄付金に依存している。大学は寄付金を株式や債券など様々な形で運用し、その運用益を収入源とする基金方式をとっている。例えばハーバード大学の場合、52億ドル(約7800億円)の収入のうち、約4割の20億ドルが大学基金からの運用益。ちなみに東大の総収入は1855億円。
ヘッジファンドマネージャーや高額寄付者の強い意見が再三登場する。

『イスラエルにジェノサイド防止の暫定措置命令(長有紀枝 立教大教授)』
・南アフリカの提訴後、ICJ(国際司法裁判所)は2024年1月26日にイスラエルにジェノサイドを防止するあらゆる措置をとるよう求める暫定措置命令を出した。
南アフリカの主張:イスラエルのジェノサイドはパレスチナ人に対する75年にわたるアパルトヘイト、56年におよぶ占領、16年におよぶ封鎖状態という広い文脈の中で捉えるべき
・ICJに執行力はない。唯一の手段は安保理による強制措置だが、現実的ではない。
・17人の裁判官のうち、イスラエルとウガンダを除く15人の裁判官が賛成票を投じた。この中には米独の裁判官も含まれる。
・日本はジェノサイド罪を対象犯罪とする国際刑事裁判所(ICC)規程には加入しているが、ジェノサイド条約には加入していない。ヘイトスピーチなど、平時の犯罪を看過しないことを含め、ジェノサイド条約加入は日本に求められる責務

『人権は「身近で小さな場所」から始まる(江島晶子 明治大教授)』
「当事者が声を上げないと始まらない」のが日本の人権保障の実態
・憲法の「国家は国民の人権を侵害してはならない」というルールが私人にも及ぶのかという問題について、裁判所も学者も慎重な立場を取ってきた。それを認めると国家が憲法を使って私人の権利を制約でき、濫用の危険性があるから。
・そこで裁判所は憲法を私人に直接適用するのではなく、私人に適用される民法を解釈する際に憲法の価値(人権)を読み込む(間接適用)ことができるという考えを取ってきた。
・しかし、現実は、国家も私人も規制する必要がある。また、私人に慎重にというのは裁判所の話であり、国会は常に社会を観察し必要な人権救済立法を行うべき。
・国内人権機関と個人通報制度は必須


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(6) 〇 月夜の森の梟 (小池真理子 :朝日文庫) 2024.3.23
   文庫本2024年2月刊行 (2024.3.2 啓林堂奈良店)  

小池真理子が作家と結婚していて、二人とも直木賞を受賞していることは以前から知っていた。そして夫の藤田宣永が亡くなり、その後にエッセイを書いていることも知っていた。そもそも朝日新聞の土曜別刷りに連載していたのだからちらっとは目にしていたはずだがなぜか読むことがなかった。でも、おそらく小池真理子という作家に興味はずっとあったので本書が文庫本になっているのを見かけてすぐに買うことにしたのだろう。
夫が亡くなって数か月後から連載を始めたわずか文庫本3ページも満たないエッセイはどれも過去の積み重ねを感じさせるが、過去のみでなく現在も含んでいる。小説は作家がどれだけ登場人物に愛着を持っているかで価値が決まる面があると思っている。本書はエッセイだけれど愛着の強さは言うまでもなくとても強い。エッセイに関しても同じことが言えたんだと思うようになった。

小池真理子の小説はこれまでに4冊読んでいるが、2003年に3冊、2010年に1冊を読んで以来手に取っていないので内容はほとんど覚えていない。けれど2003年に読んだ「恋」はとても良かった記憶がある。久しぶりに読んでみたくなった。

(メモ)
彼は「闘病」ではなく「逃病」と称して、一切の仕事に背を向けた。書くことはもう、苦痛でしかない、と何度か私に明かしてきた。堂々と何もしないでいられるのは病気のおかげだ、とも言った。文学も哲学も思想も、もはや自分にとって無意味なものになった、とまで言いきった時は、聞いているのがつらかった。彼が求めていたのは、死に向かう際の、自身の心の安寧だけだった。

治療のたびに検査を受け、そのつど結果に怯えていた。劇薬の副作用にも苦しみ続けた。不安と怯えだけが、彼を支配していた。無情にも死を受け入れざるを得なくなった彼の絶望と苦悩、死にゆくものの祈りの声は、そのまま私に伝わってきた。その残酷な記憶が穏やかな時間の流れの中に溶けていくまでには、果てしなく長い時間を要することだろう。

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(5) □ 世界3月号 (岩波書店) 2024.3.10
   2024年2月刊行 (2024.2.19 アマゾン)  

重要な指摘はいくつも書かれてあった。振り返る時間が必要。

(メモ)
『長引く戦時の質問集(エカテリーナ・シュリマン)』
この質問集は以前ロシアで放送されていた番組を引き継いでドイツの報道局を借りてYouTubeで配信されている番組の質問コーナー
・(メディアが些細なことで異様に盛り上がる現象について)話者に遠慮して誰も笑えずにいるけれど、みんな笑いたくてたまらない。そのとき、別の誰かが椅子から転げ落ちかけて、どっと笑いが起きる。たいしたことではないのに、笑いたいというエネルギーがそこにはけ口を見出した。現在の状況はそれに似ているが、溜まっているのは笑いではなく敵愾心。怒りをぶつけるべき深刻な話題に対してその怒りをぶつけることが許されない状態にあるので、まずなにか自分とはほとんど関係のない些細な事柄に対して誰かが怒りをぶつけ、怒った人に対して他の人がまた怒り・・・という連鎖が生まれやすい状態になっている。
・(反プロパガンダ活動)「あえてアウェイな場所で意見を述べる」。つまり政府の主張を鵜?みにした意見が蔓延しているようなコメント欄をあえて選んで、正面から反対意見を書き込む活動。
・ヴィクトール・フランクルの言葉。「もしまだなにか、即座に弾圧されるわけではない行動が残されているのなら、その行動をしなくてはならない」

『派閥政治の核心;ジェンダー化された世襲がもたらしたもの(SHIN Ki-young お茶の水女子大教授)』
・2009年、2012年、2014年の衆院選で当選した世襲議員のキャリアパス;男性世襲議員の4割は議員秘書を経験、議員になる前に官僚だったものも2割いる。女性の世襲議員はいずれの前職も極めて少ない。もっとも多いのは政治家の妻だった。

『安倍政治の罪と罰;ツケを払うのは誰か?(上野千鶴子 東京大学名誉教授)』
・安倍長期政権を維持した罪で、その罰を今日受けているのはわれわれ国民である。


『ショアーからナクバへ、世界への責任 (高橋哲哉 東京大学名誉教授)』
・(10月7日ハマス越境攻撃について)「抵抗の暴力」が民間人にも向かうことを許容するのかという問題。
・民間人の犠牲に関して、ハマス戦闘員がかなり広範にレイプと女性への性的虐待を行っていたと、イスラエル政府は主張している。
・加害者や被害者の所属集団にかかわらず、「レイプはレイプである」という原則を曲げてはいけない。
・「抵抗の暴力」は可能な限り「倫理的」であってほしいと願う。
・イスラエルが「自衛権」を主張して「対テロ戦争」を発動した唯一最大の根拠は、ハマスの攻撃が「残虐なテロ」だったという断定。米国がただちに無条件のイスラエル支持を宣言し、欧州や日本がそれに追随した理由もそれ。民間人虐殺やマス・レイプの「残虐なテロ」という表象が崩れれば、これから見る理由でイスラエルのパレスチナ政策自体は変わらないとしても、国際社会に対する説得力を失っていく可能性が高い。
・イスラエル国家の暴力を問う際には、世界史的な植民地主義への批判という視座が不可欠と考える。
・入植者植民地主義;植民者が先住民のいた土地に自らの国家を建設し、支配者として先住民を二級市民に貶めたり、場合によっては追放、絶滅に至らしめるような植民地主義の一種を言う。
・21世紀に入って、植民地主義の不正が本格的に問われる時代が見えてきた。2001年国連ダーバン会議で、植民地主義は「それが起きたところがどこであれ、いつであれ非難されなければならないこと」、そして「再発防止に努めなければならないこと」が宣言された。これが21世紀の世界の基準となるべき認識。
・ベルギー、オランダ、フランスなどの国家元首や政治指導者は、旧植民地の人びとの前で直接、自国の植民地支配が「不正」であったことを語るに至っている。

『米中半導体戦争のなかのTSMC (土屋直也 ジャーナリスト)』
・2023年11月、中国のファーウェイがスマートフォンを発表し、そこに7ナノの半導体を搭載していることが判明。米国は中国に7ナノのような先端半導体を開発させまいと製造装置の禁輸措置を取っていたが包囲網を突破された。製造にあたったのは中芯国際。そこで7ナノを開発したのはTSMCの技師長だった人物。「辞めTSMC」がTSMCの脅威になっている。

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(4) 〇 ザリガニの鳴くところ (ディーリア・オーエンズ :ハヤカワ文庫) 2024.2.25
   原書2018年刊行 翻訳単行本2020年 文庫本2023年12月(2023.12.29 近鉄百貨店橿原店ジュンク堂)  

 2022年11月に映画「ザリガニの鳴くところ」が日本で上映開始され、その頃の映画紹介でこの作品を知った。その時に書店で単行本を手に取った記憶はあるが見送った。昨年末に文庫本が発売になったのを書店で見かけ、今回は読んでみることにした。前半は通勤の帰宅時に少しずつ、後半は3連休を利用してスピードを上げて読んだ。
 小説は読み終えた時に満足感が得られたかどうかが評価のポイントのように思う。本作品の読後の満足度は高かった。そういう意味で良い作品だ。
 
 裏表紙の紹介文
『ノース・カロライナの湿地で村の青年の死体が発見された。人びとは真っ先に”湿地の少女”カイアに疑いの目を向ける。6歳で家族に見捨てられ、生き延びてきたカイア。村の人々に蔑まれながらも、生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へ思いを馳せ暮らしていた彼女は果たして犯人なのか? みずみずしい自然に抱かれた少女の人生が不審死事件と交差するとき、物語は予想だにしない結末へ』

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(3) □ 世界2月号 (岩波書店) 2024.2.15
   2024年1月刊行 (2024.1.7 近鉄百貨店橿原店ジュンク堂)  

1月号に比べて、少しパワーダウンしているように感じられた。特集1の「リベラルに希望はあるか」は期待して読んだが、あまり面白くなかった。


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(2) □ 日本で軍事を語るということ (高橋杉雄) 2024.1.26
   2023年7月刊行 (2023.12.1 京都駅八条口ふたば書房)  

以前、本書が売れているということが新聞だったかに書いてあった。読んでみると、割と地味な本で全般的な説明をしている。なので今後軍事力について調べたいと思ったときにスタート地点の本として読み直すことがあるかもしれない。


(メモ)
・国際政治学におけるリアリズム学派とリベラリズム学派
・国際政治が完全な弱肉強食というわけではない。国家間の戦争が行われたとしても、敗れた側が主権国家としての地位まで失う事態はまず起こらない。ただし、それは主権そのものが侵害されていないということではない。
・国家の政策を立案し、展開していくことを「ステートクラフト」と呼ぶ。
・戦争の3つの要因:個人(政治家)、国家、国際システムのアナーキーさ
・経済的相互依存関係の深化は必ずしも国家間関係を安定させるわけではない。国家同士のパワーゲームの材料ともなる。
・パワーと相互依存の関係を考察する2つの概念:感受性(相互依存関係が切断された場合に短期的に受ける影響)と脆弱性(長期的に受ける影響)
・国家間の利害対立を解決する過程で、軍事力が重要な役割を果たすような状況は実は限定されている。
・「軍事的合理性」:軍事行動は、軍事的に有効か否かという点にのみ沿って決められるべきという考え方
・しかし、軍事力は「軍事的合理性」だけでなく、政治的目的に沿った形で使用されなければならない。
・「戦場の霧」:戦場では状況を完全に把握することができず、「霧」がかかった状態にある。それでも戦場の指揮官は決断をしなければならない。提唱されたのがOODAループ。「観察」「判断」「意思決定」「行動」からなるサイクル。
・意思決定を「行わない」リスク

・軍事組織全体が軍事的合理性のみを優先させてしまうと、破壊そのものが自己目的化しかねない。それではステートクラフトの手段としての戦略上の目標を達成することに寄与しなくなってしまう。
・湾岸戦争。政治サイドはイラクそのものへの進攻は行わないという形での枠をはめた。イラクによるイスラエルへの弾道ミサイル攻撃後、米国はイスラエルにパトリオット地対空ミサイルをイスラエルに供与するとともに、イスラエルに反撃しないように説得した。軍事的合理性が優先されたケースと考えられている湾岸戦争においても、政治的ニーズと軍事的合理性は相互作用していた。
・物理的破壊の目的:傷つける力と征服する力。例えば、航空戦力が行う戦略爆撃は「傷つける力」。陸上戦力は、基本的に「征服する力」として使用。

・「C3I」:指揮、統制、情報、通信
・現在では「C3I」に代わり、「C4ISR」:コンピュータ、監視、偵察を追加

・正規軍対正規軍の戦争:@域外大国の軍事介入の形を取る戦争・・・湾岸戦争、2003年イラク戦争、2015年ロシアのシリア介入 A域外大国の直接的な軍事介入のない戦争・・・2021年ナゴルノカラバフをめぐるアゼルバイジャンとアルメニアの紛争、ロシア・ウクライナ戦争
・正規軍対非正規軍との戦い:一般社会に潜伏しながら正規軍へのテロ的な攻撃を行う。正規軍側が一般市民を巻き添えにしたり、誤情報で攻撃したりすると、本来味方にすべき一般市民が敵に回る可能性がある。攻撃すればするほど、敵が減らないどころか増えていく可能性がある。
・内戦:民族的憎悪が戦いのベースになってしまうと、政策の道具として軍事力を使うのではなく、破壊そのものが目的となってしまう。

[陸上戦]
・戦車はイギリスで開発。1916年9月、ソンムの会戦で史上初めて実戦投入
・「膠着状態」:小康状態に近いイメージを持つ人もいるが、激しい戦闘が行われているが、結果として攻撃側が防御側の戦線を突破できずに戦線が動かない場合もあり得る。
・戦線を突破された場合、速やかに撤退して後方に戦線を再構築するか、あくまで抗戦を続けるか。ロシア・ウクライナ戦争で2022年5月から6月にかけて続いたセベドネツク攻防戦で、ウクライナは難しい選択を迫られた。最終的にはセベドネツクを放棄した。
・現代戦において重要な作戦概念が「諸兵科連合戦術」:異なる兵科(歩兵、戦車、砲兵など)を連携させて戦う戦術。
・2022年戦略3文書と称される「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」策定。それまでは「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」で示されていた。
・10年後の兵力構成を示したのが「防衛力整備計画」

[海上戦]
・「中央位置」の重要性。例えば、シンガポールを拠点とすることができれば、南シナ海とインド洋の双方に対して、一つの艦隊でにらみを利かすことができる。スリランカを拠点とできれば、一つの艦隊でインド洋の東部と西部の双方ににらみを利かすことができる。できなければインド洋の東部と西部に艦隊をそれぞれ配置しなければならなくなる。
・「SLOC(sea lane of communication / 海上交通路)」:シーレーンと似た概念だが、有事における海上交通路を指すことが多い。
・海上における大規模な戦闘は、SLOCを巡って発生する蓋然性が高い。第2次大戦時のガダルカナル島を巡る激しい海戦はガダルカナル島で陸戦を行う日本陸軍と米海兵隊へのSLOCを巡る攻防
・海上における探知。ネットワーク中心の戦い
・戦後の海上自衛隊は、対潜戦(ASW)能力を優先して構築されてきた。他の能力は米海軍に依存する形で分業体制。現在は他に弾道ミサイル防衛、東シナ海のグレーゾーンの事態へのバックアップも重視
・東シナ海において、中国が現状を変更しようとしているのではと懸念されている。ただし、中国は海軍ではなく、海警と呼ばれる沿岸警備隊を前面に出している。日本も同じく沿岸警備隊である海上保安庁が中心に対応している。

[航空戦]
・近年の航空機において考慮すべき要素として、巡航ミサイルや弾道ミサイルの精度の著しい向上がある。優秀な戦闘機でも1日の8割以上は地上にいる。戦闘機が地上にいる間に撃破を狙う。
・相手の飛行場を撃破するために行われる作戦を「攻勢対航空作戦」、自軍の飛行場が撃破されないように行われる防空作戦を「防勢対航空作戦」と呼ぶ。
・対空ミサイルの脅威への対抗作戦を練り上げてきたのが米軍。対空ミサイルはレーダーで敵の飛行機を探知し、ミサイルで迎撃する。レーダーを破壊できれば対空ミサイルを無力化できる。レーダーを作動させれば位置を特定できる。レーダー誘導の対空ミサイルを元にしたHARMというミサイルを米軍が開発。HARMを恐れて電波の発振を止めれば対空ミサイルも使えなくなる。
・ロシアの爆撃理論は米国と異なる。都市爆撃の思想。

                   2024読書記録トップへ   内容一覧トップへ                    

(1) □ 世界1月号 (岩波書店) 2024.1.7
   2023年12月刊行 (2023.12.8 京都駅八条口ふたば書房)  

岩波書店の「世界」がリニューアル。編集長は少し前から38歳の女性らしい。今まで数年に一回買う程度で、買っても2,3つの文章を読むだけだった。今回はかなり気合を入れて8割くらいを読んだ。

(メモ)
『最後は教育なのか?(武田砂鉄、仁平典宏)』
・トンデモな話を信じていそうな人を見ると、私たちは、正しい知識による教育が必要だと考えがち。ところが1930年代前半にピーター・ドラッカーがナチス党員に取材したら、その教義に対して「あんなの本当に信じているヤツいんの?」というだったそうです。

『宝塚の悲劇 何がカナリアを追いつめたのか(川崎賢子)』・・2023年9月30日に劇団員が命を絶った
・2.5次元もの・・・漫画やアニメ、ゲーム(2次元)を原作とした作品を舞台やミュージカル(3次元)で再現しているもの。
・遺族側の問題提起は大きく分けて、@過重労働の問題、A現場におけるパワーハラスメントの問題
・自主的な話し合いの陥穽。第三者の介在なしに行われた話し合いの直後、故人は過呼吸症状を発したらしい。
・21世紀のパトロネージュ(芸術支援)のありようも問われている。

『意見が嫌われる時代の言論(大澤聡)』
・現代の人びとは解釈や意見に接したとき、それをまさに「優越を押し付けるように感ずる」傾向にある。
・最近の若いひとはLINEで句点「。」がついたメッセージをうけとると、相手が怒っているのではないかと不安になるらしい。
一文や一語を細切れに連投するのがデフォルト。そんな画面に句点が顔を出せば、わざわざ「。」を打ち込んだ意志として受け取られる。その意志はフォーマルな装いや敬語など、相手と一定の距離をおくというメタ・メッセージとして瞬時に解釈されてしまう
・「××と思っていて」と語尾を閉じずにふわっと流れさせる若者の口調が気になる人は少なくないよう。「思っています!」と自己完結した主張を相手へ押し付けることに対する無意識裡の回避の作法なのだろう。
極端に客観的な言葉(専門家のデータ)と極端に私的な言葉(当事者の体験)との両極にジャーナリズムの言葉は引き裂かれ、その中間帯の機能を見失っている。

『ガザ、人類の危機(中満泉、聞き手:国谷裕子)』
中満泉氏は国連事務次長、軍縮担当上級代表。女性だということを記事の写真で初めて知った。
・10月7日以降、ヨルダン川西岸でもパレスチナ人が150人以上殺害されている。(インタビューは11月11日)
・(国谷)
現在も状況が安定しない背景には、パレスチナ自治区内のユダヤ人入植地の存在と拡大があり、国連安保理でも国際法違反だと指摘されているにもかかわらず、それが放置されたまま改善されていないことがある
・人道支援については国連の活動が大きな役割を果たしてきた。しかし、
政治の側面でもっと様々な発信をすべきだったのではないかという思いは、今、イスラエル・パレスチナ問題に関与する誰もが抱えていると思う。
・(国谷)日本政府は、ハマスのテロ攻撃を批判し、人質の即時解放を要求してはいますが、他方でイスラエルのガザ攻撃については、深刻な憂慮を表明するにとどまり、国際人道法違反だという明確な認識は示していない。

『国際法と学問の責任 破局を再び起こさないために(根岸陽太)』
・1948年2つの文書を通して崇高な誓いを立てた年。世界人権宣言とジェノサイド条約
木を見て森を見ず。2023年10月7日以前の日常を「森」として俯瞰すべき。10月7日以後への注視を「木」。「木」を「森」から切り離してしまうことは国際法言説にとって重要な2つの問題を生じさせる。
・第一は戦争に関する国際法諸原則に焦点を絞り、それらの例外を広げることを可能にしてしまう。国際法規範は必ずしも確定的な基準を持つわけではない。イスラエルは9・11同時多発テロになぞらえて被害の大きさを強調することで自衛措置と武力攻撃との均衡性を主張し、例外を押し広げる強弁をしている。
・第二は「森」を見ないことにより、人道に対する犯罪やジェノサイドなどの国際犯罪が平時から地続きで生じていることが忘却される。

『この人倫の奈落において ガザのジェノサイド(岡真理)』
今ガザで起きているのは紛れもないジェノサイド
・首謀者はジェノサイドの意図を隠そうともしない。
民主主義を名乗る「西側」世界の諸政府はその無法ぶりを非難しないどころか、積極的にこれを支持し応援さえしている。
ロシアがウクライナで、市民の避難する学校や病院を爆撃したら、あるいは中国が新疆ウイグル自治区を封鎖し水や食料や燃料を絶ったら、「国際社会」はどんな反応を見せるか。国際刑事裁判所はただちに現地に入って調査を開始し、プーチンや習近平を戦争犯罪人に認定するだろう。
・主流メディアの報道は、イスラエルをもってユダヤ人を代表させ、イスラエルはホロコースト犠牲者であるユダヤ人の国だと語るが、これは、シオニストがそう主張しているという話に過ぎない。19世紀末のヨーロッパでシオニズムが誕生したときから、シオニズムはユダヤ教の否定であるとして正統派ユダヤ教徒から批判されてきた。
・イスラエルが葬り去りたいのは、
ハマースをはじめとするガザの戦争員たちの奇襲攻撃が、シオニズムによるこの歴史的に不正な暴力に対する抵抗暴力であるという歴史的事実である。
・「抵抗の暴力」は「対抗暴力」である。対抗暴力には、それを生じせしめるに至る、先行する暴力がある。
・イスラエルによる75年間止むことのない民族浄化の暴力がなければ、占領がなければ、アパルトヘイトがなければ、ハマースも「10月7日」もない。
被植民者の抵抗の暴力は、植民地国家によるとてつもなく凄惨な暴力を招来する
・植民地国家日本が、植民地支配からの独立を求める者たちを容赦なく殲滅したのと同様に、植民地権力による植民地国家維持のための剥き出しの暴力が、今、パレスチナの全土で生起している。
もし、メディアがガザに言及するたびに、「75年前にユダヤ国家建国によって故郷を暴力的に追われたパレスチナ難民が住民の7割を占めるガザで」とか、「イスラエルの違法な封鎖で、住民が16年以上も閉じ込められているガザで」とか、「イスラエルの封鎖により産業基盤が破壊され、230万人の住民の過半数が貧困ライン以下の生活で喘ぐガザで」と、つねに語っていたならば。・・・・「ならば」がたくさん示されています。
・今、ガザで起きていること、それは、植民地支配という歴史的暴力からの解放を求める被植民者たちの抵抗と、それを殲滅せんとする植民地国家が、その本性をもはや隠すこともせずに繰り出す剥き出しの暴力のあいだの植民地戦争である。

『イスラエルの焦り(錦田愛子)』
・ハマス突入の日、早期警戒システムで使用する観測気球7基のうち3基が不具合で代替対策なし。突入時に残りの4基を破壊した。監視塔をまず攻撃している。イスラエル側はパレスチナ人の抵抗する能力を奪うことに成功したと考えていた。
・戦時内閣の成立はネタニヤフ首相を延命させたが、それは逆に言えば、戦争が終わればネタニヤフ首相は政権の座を追われることを意味する。軍事作戦によって目覚ましい成果を出し、支持を取り返したいと焦る気持ちが、11月15日のシファー病院への突入に踏み切らせたと考えることもできる。

『正義論では露ウ戦争は止められない ウクライナからカラバフへ、拡大する戦争(松里公孝)』
・ロシアの兵士募集ポスターによれば志願すると一時金で100万円、月給は約30万円。物価が日本とほぼ同じ水準のロシアで物欲で入隊をそそられる金額ではない。やはり
ロシア政府は国民、若者の愛国心の高揚にある程度成功しているとみなすべき。
・危惧されるのは、露ウ戦争が環黒海やコーカサスの火薬庫地帯に火をつけること。すでに1991年以降アゼルバイジャンから事実上独立していたカラバフは建国後32年の歴史に幕を閉じることになった。

『2024年の世界と日本 (田中均、佐橋亮)』
・(田中)アメリカの強さとは、課題設定能力。戦後最も革新的だったのは「自由貿易」。現在の「専制主義対民主主義」は厳しい。
弱くなったアメリカを強くするために、日本がひたすら協力することが正しいことなのか、それとも弱くなったアメリカが建設的な力を発揮するためにアメリカに刺激を与えることが正しいのか。
・(佐橋)成長していくインドネシアの存在感、シンガポールの投資力などに刮目すべき。グローバルサウス外交もイコールインドではない。ブラジルも南アフリカもあるし、インドネシアは独自に外交を展開している。
・中国の潜在能力はまだまだ高い。

『「ふたつの戦争」と米国の世界戦略 (菅英輝)』
・(ガザに対する)過剰防衛批判がイスラエルに向けられ、人道危機に対処するため即時停戦を求める声が国際社会で高まった。だが、バイデン大統領はイスラエル支援を早々に打ち出した。このため、米国への二重基準批判が高まり、米田政権は2・24戦争で得た道義的優位を損なった。国際人道法違反が指摘されるイスラエルへの一方的な肩入れは、同政権が掲げる人権や民主主義の重視とも矛盾し、国際社会の信頼を失いつつある。
日本が日米同盟の強化に前のめりであるのに対して、米国は譲れない問題では激しく中国と対立しながらも、危機管理を重視し、日本以上に熱心に対話を重ねている
・日米の対応の差が、今後どのような形となって現れるか、注視していく必要がある。中国の不満は大国である米国に向かうのではなく、日本に向けられる可能性が高い。

『アムネスティ通信』
・2023年11月、オーストラリアで無期限の入管収容は違憲だとする最高裁の判決が出た。

『植民地主義者とはだれか 台湾とパレスチナのいまを貫く問い (駒込武)』
日本社会のマジョリティは「植民地主義者」
・戦争の悲惨がだれの目にも明らかなのに対して、植民地主義的な抑圧の構造はわかりにくく、植民地支配責任は戦争責任の内に曖昧に包摂されてしまいがち。
植民地支配とは「長期にわたる緩慢な大規模暴力の連続」であり、末端の実行犯として被植民者をも取り込むために戦争とは異質な複雑さがある。
・植民地主義者とはだれなのか? それはわたしであり、あなたである。

『国家が国籍を奪う 英国の経験 (柄谷利恵子)』
・ウィンドラッシュ世代:旧植民地である現在のコモンウェルス諸国出身者で、第2次世界大戦後から1973年までに英国にやってきた者およびその子孫。植民地出身で1973年までに英国で合法的に滞在していた者に対しては、移民法発効後も引き続き無期限滞在の権利が認められていた。ただし1973年までに合法的に入国したことを「証明」する必要がある。
・ウィンドラッシュ事件:ウィンドラッシュ世代の中で合法的な滞在を証明する書類がないことを理由に非正規滞在の疑いをかけられ、実際に英国から強制退去させられた者もいた。2018年時点で被害は6万人弱。
・1981年国籍法の制定(発効は1983年)。制定前は出生地主義に基づいていた。そのため、英国で生まれた子は親の国籍にかかわらず自動的に英国国籍を取得していた。しかし、1983年以降は英国での出生に加えて、親の英国国籍または合法的滞在資格の所持が条件に加わった。ウィンドラッシュ世代が法改正時に申請をしていなかったり、証書を紛失してしまったりしている。
・2012年に導入された「敵対的環境戦略」:目指すのは、英国に非正規で入国する者を思いとどめさせるだけでなく、すでに入国し非正規で滞在している者が英国で働き続けることが困難になる環境を作ること。
・2023年、ウィンドラッシュ事件発覚後に提案されたプログラムは次々と廃止されている。被害者に対する補償手続きに時間がかかっており、補償申請の結果が出る前に亡くなる者も増えている。「敵対的環境戦略」の有効性評価は完結していない。
・スーナク政権は非正規滞在者に対する取り締まりを強化している。2022年、英国に非正規に入国した者を第三国に送還し、その地で難民申請・審査をさせるという協定をルワンダと締結した。
・ルワンダとの協定の合法性は裁判で争われ、2023年11月最高裁はルワンダへの移送計画を違法と判断した。

・ウィンドラッシュ世代を排除に追い込んだのは「植民地出身」という背景。
・「ひとつの国民」という幻想


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