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(6) 〇 月夜の森の梟 (小池真理子 :朝日文庫) 2024.3.23
   文庫本2024年2月刊行 (2024.3.2 啓林堂奈良店)  

小池真理子が作家と結婚していて、二人とも直木賞を受賞していることは以前から知っていた。そして夫の藤田宣永が亡くなり、その後にエッセイを書いていることも知っていた。そもそも朝日新聞の土曜別刷りに連載していたのだからちらっとは目にしていたはずだがなぜか読むことがなかった。でも、おそらく小池真理子という作家に興味はずっとあったので本書が文庫本になっているのを見かけてすぐに買うことにしたのだろう。
夫が亡くなって数か月後から連載を始めたわずか文庫本3ページも満たないエッセイはどれも過去の積み重ねを感じさせるが、過去のみでなく現在も含んでいる。小説は作家がどれだけ登場人物に愛着を持っているかで価値が決まる面があると思っている。本書はエッセイだけれど愛着の強さは言うまでもなくとても強い。エッセイに関しても同じことが言えたんだと思うようになった。

小池真理子の小説はこれまでに4冊読んでいるが、2003年に3冊、2010年に1冊を読んで以来手に取っていないので内容はほとんど覚えていない。けれど2003年に読んだ「恋」はとても良かった記憶がある。久しぶりに読んでみたくなった。

(メモ)
彼は「闘病」ではなく「逃病」と称して、一切の仕事に背を向けた。書くことはもう、苦痛でしかない、と何度か私に明かしてきた。堂々と何もしないでいられるのは病気のおかげだ、とも言った。文学も哲学も思想も、もはや自分にとって無意味なものになった、とまで言いきった時は、聞いているのがつらかった。彼が求めていたのは、死に向かう際の、自身の心の安寧だけだった。

治療のたびに検査を受け、そのつど結果に怯えていた。劇薬の副作用にも苦しみ続けた。不安と怯えだけが、彼を支配していた。無情にも死を受け入れざるを得なくなった彼の絶望と苦悩、死にゆくものの祈りの声は、そのまま私に伝わってきた。その残酷な記憶が穏やかな時間の流れの中に溶けていくまでには、果てしなく長い時間を要することだろう。

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(5) □ 世界3月号 (岩波書店) 2024.3.10
   2024年2月刊行 (2024.2.19 アマゾン)  

重要な指摘はいくつも書かれてあった。振り返る時間が必要。

(メモ)
『長引く戦時の質問集(エカテリーナ・シュリマン)』
この質問集は以前ロシアで放送されていた番組を引き継いでドイツの報道局を借りてYouTubeで配信されている番組の質問コーナー
・(メディアが些細なことで異様に盛り上がる現象について)話者に遠慮して誰も笑えずにいるけれど、みんな笑いたくてたまらない。そのとき、別の誰かが椅子から転げ落ちかけて、どっと笑いが起きる。たいしたことではないのに、笑いたいというエネルギーがそこにはけ口を見出した。現在の状況はそれに似ているが、溜まっているのは笑いではなく敵愾心。怒りをぶつけるべき深刻な話題に対してその怒りをぶつけることが許されない状態にあるので、まずなにか自分とはほとんど関係のない些細な事柄に対して誰かが怒りをぶつけ、怒った人に対して他の人がまた怒り・・・という連鎖が生まれやすい状態になっている。
・(反プロパガンダ活動)「あえてアウェイな場所で意見を述べる」。つまり政府の主張を鵜?みにした意見が蔓延しているようなコメント欄をあえて選んで、正面から反対意見を書き込む活動。
・ヴィクトール・フランクルの言葉。「もしまだなにか、即座に弾圧されるわけではない行動が残されているのなら、その行動をしなくてはならない」

『派閥政治の核心;ジェンダー化された世襲がもたらしたもの(SHIN Ki-young お茶の水女子大教授)』
・2009年、2012年、2014年の衆院選で当選した世襲議員のキャリアパス;男性世襲議員の4割は議員秘書を経験、議員になる前に官僚だったものも2割いる。女性の世襲議員はいずれの前職も極めて少ない。もっとも多いのは政治家の妻だった。

『安倍政治の罪と罰;ツケを払うのは誰か?(上野千鶴子 東京大学名誉教授)』
・安倍長期政権を維持した罪で、その罰を今日受けているのはわれわれ国民である。


『ショアーからナクバへ、世界への責任 (高橋哲哉 東京大学名誉教授)』
・(10月7日ハマス越境攻撃について)「抵抗の暴力」が民間人にも向かうことを許容するのかという問題。
・民間人の犠牲に関して、ハマス戦闘員がかなり広範にレイプと女性への性的虐待を行っていたと、イスラエル政府は主張している。
・加害者や被害者の所属集団にかかわらず、「レイプはレイプである」という原則を曲げてはいけない。
・「抵抗の暴力」は可能な限り「倫理的」であってほしいと願う。
・イスラエルが「自衛権」を主張して「対テロ戦争」を発動した唯一最大の根拠は、ハマスの攻撃が「残虐なテロ」だったという断定。米国がただちに無条件のイスラエル支持を宣言し、欧州や日本がそれに追随した理由もそれ。民間人虐殺やマス・レイプの「残虐なテロ」という表象が崩れれば、これから見る理由でイスラエルのパレスチナ政策自体は変わらないとしても、国際社会に対する説得力を失っていく可能性が高い。
・イスラエル国家の暴力を問う際には、世界史的な植民地主義への批判という視座が不可欠と考える。
・入植者植民地主義;植民者が先住民のいた土地に自らの国家を建設し、支配者として先住民を二級市民に貶めたり、場合によっては追放、絶滅に至らしめるような植民地主義の一種を言う。
・21世紀に入って、植民地主義の不正が本格的に問われる時代が見えてきた。2001年国連ダーバン会議で、植民地主義は「それが起きたところがどこであれ、いつであれ非難されなければならないこと」、そして「再発防止に努めなければならないこと」が宣言された。これが21世紀の世界の基準となるべき認識。
・ベルギー、オランダ、フランスなどの国家元首や政治指導者は、旧植民地の人びとの前で直接、自国の植民地支配が「不正」であったことを語るに至っている。

『米中半導体戦争のなかのTSMC (土屋直也 ジャーナリスト)』
・2023年11月、中国のファーウェイがスマートフォンを発表し、そこに7ナノの半導体を搭載していることが判明。米国は中国に7ナノのような先端半導体を開発させまいと製造装置の禁輸措置を取っていたが包囲網を突破された。製造にあたったのは中芯国際。そこで7ナノを開発したのはTSMCの技師長だった人物。「辞めTSMC」がTSMCの脅威になっている。

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(4) 〇 ザリガニの鳴くところ (ディーリア・オーエンズ :ハヤカワ文庫) 2024.2.25
   原書2018年刊行 翻訳単行本2020年 文庫本2023年12月(2023.12.29 近鉄百貨店橿原店ジュンク堂)  

 2022年11月に映画「ザリガニの鳴くところ」が日本で上映開始され、その頃の映画紹介でこの作品を知った。その時に書店で単行本を手に取った記憶はあるが見送った。昨年末に文庫本が発売になったのを書店で見かけ、今回は読んでみることにした。前半は通勤の帰宅時に少しずつ、後半は3連休を利用してスピードを上げて読んだ。
 小説は読み終えた時に満足感が得られたかどうかが評価のポイントのように思う。本作品の読後の満足度は高かった。そういう意味で良い作品だ。
 
 裏表紙の紹介文
『ノース・カロライナの湿地で村の青年の死体が発見された。人びとは真っ先に”湿地の少女”カイアに疑いの目を向ける。6歳で家族に見捨てられ、生き延びてきたカイア。村の人々に蔑まれながらも、生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へ思いを馳せ暮らしていた彼女は果たして犯人なのか? みずみずしい自然に抱かれた少女の人生が不審死事件と交差するとき、物語は予想だにしない結末へ』

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(3) □ 世界2月号 (岩波書店) 2024.2.15
   2024年1月刊行 (2024.1.7 近鉄百貨店橿原店ジュンク堂)  

1月号に比べて、少しパワーダウンしているように感じられた。特集1の「リベラルに希望はあるか」は期待して読んだが、あまり面白くなかった。


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(2) □ 日本で軍事を語るということ (高橋杉雄) 2024.1.26
   2023年7月刊行 (2023.12.1 京都駅八条口ふたば書房)  

以前、本書が売れているということが新聞だったかに書いてあった。読んでみると、割と地味な本で全般的な説明をしている。なので今後軍事力について調べたいと思ったときにスタート地点の本として読み直すことがあるかもしれない。


(メモ)
・国際政治学におけるリアリズム学派とリベラリズム学派
・国際政治が完全な弱肉強食というわけではない。国家間の戦争が行われたとしても、敗れた側が主権国家としての地位まで失う事態はまず起こらない。ただし、それは主権そのものが侵害されていないということではない。
・国家の政策を立案し、展開していくことを「ステートクラフト」と呼ぶ。
・戦争の3つの要因:個人(政治家)、国家、国際システムのアナーキーさ
・経済的相互依存関係の深化は必ずしも国家間関係を安定させるわけではない。国家同士のパワーゲームの材料ともなる。
・パワーと相互依存の関係を考察する2つの概念:感受性(相互依存関係が切断された場合に短期的に受ける影響)と脆弱性(長期的に受ける影響)
・国家間の利害対立を解決する過程で、軍事力が重要な役割を果たすような状況は実は限定されている。
・「軍事的合理性」:軍事行動は、軍事的に有効か否かという点にのみ沿って決められるべきという考え方
・しかし、軍事力は「軍事的合理性」だけでなく、政治的目的に沿った形で使用されなければならない。
・「戦場の霧」:戦場では状況を完全に把握することができず、「霧」がかかった状態にある。それでも戦場の指揮官は決断をしなければならない。提唱されたのがOODAループ。「観察」「判断」「意思決定」「行動」からなるサイクル。
・意思決定を「行わない」リスク

・軍事組織全体が軍事的合理性のみを優先させてしまうと、破壊そのものが自己目的化しかねない。それではステートクラフトの手段としての戦略上の目標を達成することに寄与しなくなってしまう。
・湾岸戦争。政治サイドはイラクそのものへの進攻は行わないという形での枠をはめた。イラクによるイスラエルへの弾道ミサイル攻撃後、米国はイスラエルにパトリオット地対空ミサイルをイスラエルに供与するとともに、イスラエルに反撃しないように説得した。軍事的合理性が優先されたケースと考えられている湾岸戦争においても、政治的ニーズと軍事的合理性は相互作用していた。
・物理的破壊の目的:傷つける力と征服する力。例えば、航空戦力が行う戦略爆撃は「傷つける力」。陸上戦力は、基本的に「征服する力」として使用。

・「C3I」:指揮、統制、情報、通信
・現在では「C3I」に代わり、「C4ISR」:コンピュータ、監視、偵察を追加

・正規軍対正規軍の戦争:@域外大国の軍事介入の形を取る戦争・・・湾岸戦争、2003年イラク戦争、2015年ロシアのシリア介入 A域外大国の直接的な軍事介入のない戦争・・・2021年ナゴルノカラバフをめぐるアゼルバイジャンとアルメニアの紛争、ロシア・ウクライナ戦争
・正規軍対非正規軍との戦い:一般社会に潜伏しながら正規軍へのテロ的な攻撃を行う。正規軍側が一般市民を巻き添えにしたり、誤情報で攻撃したりすると、本来味方にすべき一般市民が敵に回る可能性がある。攻撃すればするほど、敵が減らないどころか増えていく可能性がある。
・内戦:民族的憎悪が戦いのベースになってしまうと、政策の道具として軍事力を使うのではなく、破壊そのものが目的となってしまう。

[陸上戦]
・戦車はイギリスで開発。1916年9月、ソンムの会戦で史上初めて実戦投入
・「膠着状態」:小康状態に近いイメージを持つ人もいるが、激しい戦闘が行われているが、結果として攻撃側が防御側の戦線を突破できずに戦線が動かない場合もあり得る。
・戦線を突破された場合、速やかに撤退して後方に戦線を再構築するか、あくまで抗戦を続けるか。ロシア・ウクライナ戦争で2022年5月から6月にかけて続いたセベドネツク攻防戦で、ウクライナは難しい選択を迫られた。最終的にはセベドネツクを放棄した。
・現代戦において重要な作戦概念が「諸兵科連合戦術」:異なる兵科(歩兵、戦車、砲兵など)を連携させて戦う戦術。
・2022年戦略3文書と称される「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」策定。それまでは「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」で示されていた。
・10年後の兵力構成を示したのが「防衛力整備計画」

[海上戦]
・「中央位置」の重要性。例えば、シンガポールを拠点とすることができれば、南シナ海とインド洋の双方に対して、一つの艦隊でにらみを利かすことができる。スリランカを拠点とできれば、一つの艦隊でインド洋の東部と西部の双方ににらみを利かすことができる。できなければインド洋の東部と西部に艦隊をそれぞれ配置しなければならなくなる。
・「SLOC(sea lane of communication / 海上交通路)」:シーレーンと似た概念だが、有事における海上交通路を指すことが多い。
・海上における大規模な戦闘は、SLOCを巡って発生する蓋然性が高い。第2次大戦時のガダルカナル島を巡る激しい海戦はガダルカナル島で陸戦を行う日本陸軍と米海兵隊へのSLOCを巡る攻防
・海上における探知。ネットワーク中心の戦い
・戦後の海上自衛隊は、対潜戦(ASW)能力を優先して構築されてきた。他の能力は米海軍に依存する形で分業体制。現在は他に弾道ミサイル防衛、東シナ海のグレーゾーンの事態へのバックアップも重視
・東シナ海において、中国が現状を変更しようとしているのではと懸念されている。ただし、中国は海軍ではなく、海警と呼ばれる沿岸警備隊を前面に出している。日本も同じく沿岸警備隊である海上保安庁が中心に対応している。

[航空戦]
・近年の航空機において考慮すべき要素として、巡航ミサイルや弾道ミサイルの精度の著しい向上がある。優秀な戦闘機でも1日の8割以上は地上にいる。戦闘機が地上にいる間に撃破を狙う。
・相手の飛行場を撃破するために行われる作戦を「攻勢対航空作戦」、自軍の飛行場が撃破されないように行われる防空作戦を「防勢対航空作戦」と呼ぶ。
・対空ミサイルの脅威への対抗作戦を練り上げてきたのが米軍。対空ミサイルはレーダーで敵の飛行機を探知し、ミサイルで迎撃する。レーダーを破壊できれば対空ミサイルを無力化できる。レーダーを作動させれば位置を特定できる。レーダー誘導の対空ミサイルを元にしたHARMというミサイルを米軍が開発。HARMを恐れて電波の発振を止めれば対空ミサイルも使えなくなる。
・ロシアの爆撃理論は米国と異なる。都市爆撃の思想。

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(1) □ 世界1月号 (岩波書店) 2024.1.7
   2023年12月刊行 (2023.12.8 京都駅八条口ふたば書房)  

岩波書店の「世界」がリニューアル。編集長は少し前から38歳の女性らしい。今まで数年に一回買う程度で、買っても2,3つの文章を読むだけだった。今回はかなり気合を入れて8割くらいを読んだ。

(メモ)
『最後は教育なのか?(武田砂鉄、仁平典宏)』
・トンデモな話を信じていそうな人を見ると、私たちは、正しい知識による教育が必要だと考えがち。ところが1930年代前半にピーター・ドラッカーがナチス党員に取材したら、その教義に対して「あんなの本当に信じているヤツいんの?」というだったそうです。

『宝塚の悲劇 何がカナリアを追いつめたのか(川崎賢子)』・・2023年9月30日に劇団員が命を絶った
・2.5次元もの・・・漫画やアニメ、ゲーム(2次元)を原作とした作品を舞台やミュージカル(3次元)で再現しているもの。
・遺族側の問題提起は大きく分けて、@過重労働の問題、A現場におけるパワーハラスメントの問題
・自主的な話し合いの陥穽。第三者の介在なしに行われた話し合いの直後、故人は過呼吸症状を発したらしい。
・21世紀のパトロネージュ(芸術支援)のありようも問われている。

『意見が嫌われる時代の言論(大澤聡)』
・現代の人びとは解釈や意見に接したとき、それをまさに「優越を押し付けるように感ずる」傾向にある。
・最近の若いひとはLINEで句点「。」がついたメッセージをうけとると、相手が怒っているのではないかと不安になるらしい。
一文や一語を細切れに連投するのがデフォルト。そんな画面に句点が顔を出せば、わざわざ「。」を打ち込んだ意志として受け取られる。その意志はフォーマルな装いや敬語など、相手と一定の距離をおくというメタ・メッセージとして瞬時に解釈されてしまう
・「××と思っていて」と語尾を閉じずにふわっと流れさせる若者の口調が気になる人は少なくないよう。「思っています!」と自己完結した主張を相手へ押し付けることに対する無意識裡の回避の作法なのだろう。
極端に客観的な言葉(専門家のデータ)と極端に私的な言葉(当事者の体験)との両極にジャーナリズムの言葉は引き裂かれ、その中間帯の機能を見失っている。

『ガザ、人類の危機(中満泉、聞き手:国谷裕子)』
中満泉氏は国連事務次長、軍縮担当上級代表。女性だということを記事の写真で初めて知った。
・10月7日以降、ヨルダン川西岸でもパレスチナ人が150人以上殺害されている。(インタビューは11月11日)
・(国谷)
現在も状況が安定しない背景には、パレスチナ自治区内のユダヤ人入植地の存在と拡大があり、国連安保理でも国際法違反だと指摘されているにもかかわらず、それが放置されたまま改善されていないことがある
・人道支援については国連の活動が大きな役割を果たしてきた。しかし、
政治の側面でもっと様々な発信をすべきだったのではないかという思いは、今、イスラエル・パレスチナ問題に関与する誰もが抱えていると思う。
・(国谷)日本政府は、ハマスのテロ攻撃を批判し、人質の即時解放を要求してはいますが、他方でイスラエルのガザ攻撃については、深刻な憂慮を表明するにとどまり、国際人道法違反だという明確な認識は示していない。

『国際法と学問の責任 破局を再び起こさないために(根岸陽太)』
・1948年2つの文書を通して崇高な誓いを立てた年。世界人権宣言とジェノサイド条約
木を見て森を見ず。2023年10月7日以前の日常を「森」として俯瞰すべき。10月7日以後への注視を「木」。「木」を「森」から切り離してしまうことは国際法言説にとって重要な2つの問題を生じさせる。
・第一は戦争に関する国際法諸原則に焦点を絞り、それらの例外を広げることを可能にしてしまう。国際法規範は必ずしも確定的な基準を持つわけではない。イスラエルは9・11同時多発テロになぞらえて被害の大きさを強調することで自衛措置と武力攻撃との均衡性を主張し、例外を押し広げる強弁をしている。
・第二は「森」を見ないことにより、人道に対する犯罪やジェノサイドなどの国際犯罪が平時から地続きで生じていることが忘却される。

『この人倫の奈落において ガザのジェノサイド(岡真理)』
今ガザで起きているのは紛れもないジェノサイド
・首謀者はジェノサイドの意図を隠そうともしない。
民主主義を名乗る「西側」世界の諸政府はその無法ぶりを非難しないどころか、積極的にこれを支持し応援さえしている。
ロシアがウクライナで、市民の避難する学校や病院を爆撃したら、あるいは中国が新疆ウイグル自治区を封鎖し水や食料や燃料を絶ったら、「国際社会」はどんな反応を見せるか。国際刑事裁判所はただちに現地に入って調査を開始し、プーチンや習近平を戦争犯罪人に認定するだろう。
・主流メディアの報道は、イスラエルをもってユダヤ人を代表させ、イスラエルはホロコースト犠牲者であるユダヤ人の国だと語るが、これは、シオニストがそう主張しているという話に過ぎない。19世紀末のヨーロッパでシオニズムが誕生したときから、シオニズムはユダヤ教の否定であるとして正統派ユダヤ教徒から批判されてきた。
・イスラエルが葬り去りたいのは、
ハマースをはじめとするガザの戦争員たちの奇襲攻撃が、シオニズムによるこの歴史的に不正な暴力に対する抵抗暴力であるという歴史的事実である。
・「抵抗の暴力」は「対抗暴力」である。対抗暴力には、それを生じせしめるに至る、先行する暴力がある。
・イスラエルによる75年間止むことのない民族浄化の暴力がなければ、占領がなければ、アパルトヘイトがなければ、ハマースも「10月7日」もない。
被植民者の抵抗の暴力は、植民地国家によるとてつもなく凄惨な暴力を招来する
・植民地国家日本が、植民地支配からの独立を求める者たちを容赦なく殲滅したのと同様に、植民地権力による植民地国家維持のための剥き出しの暴力が、今、パレスチナの全土で生起している。
もし、メディアがガザに言及するたびに、「75年前にユダヤ国家建国によって故郷を暴力的に追われたパレスチナ難民が住民の7割を占めるガザで」とか、「イスラエルの違法な封鎖で、住民が16年以上も閉じ込められているガザで」とか、「イスラエルの封鎖により産業基盤が破壊され、230万人の住民の過半数が貧困ライン以下の生活で喘ぐガザで」と、つねに語っていたならば。・・・・「ならば」がたくさん示されています。
・今、ガザで起きていること、それは、植民地支配という歴史的暴力からの解放を求める被植民者たちの抵抗と、それを殲滅せんとする植民地国家が、その本性をもはや隠すこともせずに繰り出す剥き出しの暴力のあいだの植民地戦争である。

『イスラエルの焦り(錦田愛子)』
・ハマス突入の日、早期警戒システムで使用する観測気球7基のうち3基が不具合で代替対策なし。突入時に残りの4基を破壊した。監視塔をまず攻撃している。イスラエル側はパレスチナ人の抵抗する能力を奪うことに成功したと考えていた。
・戦時内閣の成立はネタニヤフ首相を延命させたが、それは逆に言えば、戦争が終わればネタニヤフ首相は政権の座を追われることを意味する。軍事作戦によって目覚ましい成果を出し、支持を取り返したいと焦る気持ちが、11月15日のシファー病院への突入に踏み切らせたと考えることもできる。

『正義論では露ウ戦争は止められない ウクライナからカラバフへ、拡大する戦争(松里公孝)』
・ロシアの兵士募集ポスターによれば志願すると一時金で100万円、月給は約30万円。物価が日本とほぼ同じ水準のロシアで物欲で入隊をそそられる金額ではない。やはり
ロシア政府は国民、若者の愛国心の高揚にある程度成功しているとみなすべき。
・危惧されるのは、露ウ戦争が環黒海やコーカサスの火薬庫地帯に火をつけること。すでに1991年以降アゼルバイジャンから事実上独立していたカラバフは建国後32年の歴史に幕を閉じることになった。

『2024年の世界と日本 (田中均、佐橋亮)』
・(田中)アメリカの強さとは、課題設定能力。戦後最も革新的だったのは「自由貿易」。現在の「専制主義対民主主義」は厳しい。
弱くなったアメリカを強くするために、日本がひたすら協力することが正しいことなのか、それとも弱くなったアメリカが建設的な力を発揮するためにアメリカに刺激を与えることが正しいのか。
・(佐橋)成長していくインドネシアの存在感、シンガポールの投資力などに刮目すべき。グローバルサウス外交もイコールインドではない。ブラジルも南アフリカもあるし、インドネシアは独自に外交を展開している。
・中国の潜在能力はまだまだ高い。

『「ふたつの戦争」と米国の世界戦略 (菅英輝)』
・(ガザに対する)過剰防衛批判がイスラエルに向けられ、人道危機に対処するため即時停戦を求める声が国際社会で高まった。だが、バイデン大統領はイスラエル支援を早々に打ち出した。このため、米国への二重基準批判が高まり、米田政権は2・24戦争で得た道義的優位を損なった。国際人道法違反が指摘されるイスラエルへの一方的な肩入れは、同政権が掲げる人権や民主主義の重視とも矛盾し、国際社会の信頼を失いつつある。
日本が日米同盟の強化に前のめりであるのに対して、米国は譲れない問題では激しく中国と対立しながらも、危機管理を重視し、日本以上に熱心に対話を重ねている
・日米の対応の差が、今後どのような形となって現れるか、注視していく必要がある。中国の不満は大国である米国に向かうのではなく、日本に向けられる可能性が高い。

『アムネスティ通信』
・2023年11月、オーストラリアで無期限の入管収容は違憲だとする最高裁の判決が出た。

『植民地主義者とはだれか 台湾とパレスチナのいまを貫く問い (駒込武)』
日本社会のマジョリティは「植民地主義者」
・戦争の悲惨がだれの目にも明らかなのに対して、植民地主義的な抑圧の構造はわかりにくく、植民地支配責任は戦争責任の内に曖昧に包摂されてしまいがち。
植民地支配とは「長期にわたる緩慢な大規模暴力の連続」であり、末端の実行犯として被植民者をも取り込むために戦争とは異質な複雑さがある。
・植民地主義者とはだれなのか? それはわたしであり、あなたである。

『国家が国籍を奪う 英国の経験 (柄谷利恵子)』
・ウィンドラッシュ世代:旧植民地である現在のコモンウェルス諸国出身者で、第2次世界大戦後から1973年までに英国にやってきた者およびその子孫。植民地出身で1973年までに英国で合法的に滞在していた者に対しては、移民法発効後も引き続き無期限滞在の権利が認められていた。ただし1973年までに合法的に入国したことを「証明」する必要がある。
・ウィンドラッシュ事件:ウィンドラッシュ世代の中で合法的な滞在を証明する書類がないことを理由に非正規滞在の疑いをかけられ、実際に英国から強制退去させられた者もいた。2018年時点で被害は6万人弱。
・1981年国籍法の制定(発効は1983年)。制定前は出生地主義に基づいていた。そのため、英国で生まれた子は親の国籍にかかわらず自動的に英国国籍を取得していた。しかし、1983年以降は英国での出生に加えて、親の英国国籍または合法的滞在資格の所持が条件に加わった。ウィンドラッシュ世代が法改正時に申請をしていなかったり、証書を紛失してしまったりしている。
・2012年に導入された「敵対的環境戦略」:目指すのは、英国に非正規で入国する者を思いとどめさせるだけでなく、すでに入国し非正規で滞在している者が英国で働き続けることが困難になる環境を作ること。
・2023年、ウィンドラッシュ事件発覚後に提案されたプログラムは次々と廃止されている。被害者に対する補償手続きに時間がかかっており、補償申請の結果が出る前に亡くなる者も増えている。「敵対的環境戦略」の有効性評価は完結していない。
・スーナク政権は非正規滞在者に対する取り締まりを強化している。2022年、英国に非正規に入国した者を第三国に送還し、その地で難民申請・審査をさせるという協定をルワンダと締結した。
・ルワンダとの協定の合法性は裁判で争われ、2023年11月最高裁はルワンダへの移送計画を違法と判断した。

・ウィンドラッシュ世代を排除に追い込んだのは「植民地出身」という背景。
・「ひとつの国民」という幻想


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