脱原子力社会をつくるために (京都自由大学講義 6/6) :2014.7.19
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 【日時】 2014年6月6日(金)19:00〜21:05
 【場所】 京都社会文化センター内(油小路通松原下る)
 【講師】 東北大学大学院教授 長谷川公一氏(環境社会学)
 【タイトル】 脱原子力社会をつくるために

 講師の長谷川氏は社会的な面から脱原発を論じた。
 最初に責任論から始まった。私は今回の話だけでなく、マスコミなどにも強くある
 菅元首相や東電の責任について違和感が持っていたので質疑応答の際に次の
 趣旨のことを話した。
 「脱原発を進める立場からは、菅首相や東電会長の責任を問うのは適切ではない。
  責任を問うということは、菅首相が適切に対応すれば原発事故は起きなかったと
  いうことである。今後も適切に対応すれば原発事故は起きないという理屈になり
  原発再稼動の論理に利用されてしまう。」
 講師がこれに対する返答をする中で、講演中に触れた戦争責任をどう考えるかと
 いう大きな問いが私に対してあった。私は自分でも想定していなかった返答をした。
 正確ではないが、大まかには次のようなことを話した。
 「以前、高市早苗が戦争責任に関して、戦争時に生まれていなかった戦後世代に
  戦争責任はないという発言をした。戦争中にいなかった人に戦争をやめさせることは
  できないのだから責任はないという考えに賛同するところがある。
  回避する能力がない人に責任はないという考えに基づくと、戦争時の個々の国民に
  戦争回避の力はなかったのだから責任はないということになる。
  しかし、戦争反対の声を上げた国民は非常に少なく、反対の声は自分たちで抑えて
  いた。つまり戦争反対の意見を広げることをせず、弱い立場に居続けた。戦争反対に
  影響できる力をつけようとしなかったことにより、戦争への責任が生じている」
 この自分のそれまでの考えを越えた発言は当然ながら自分自身に跳ね返ってくる。
 講義を受けてから記録をHPにアップするまで1ヶ月以上要してしまったのも、先の
 発言を自分の中でどう捉えるべきかに迷いがあったからだ。まだ明確な形には
 なっていない。けれど一つの方向性は見えてきたように感じている。


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(講演会内容:資料を基に記載、そのままでない箇所もある,分類は私が勝手に記載)
[導入]
 ・1989年6月6日 サクラメントの住民投票
  翌7日 ランチョセコ原発閉鎖
 ・4つの問い
  @福島原発事故について、いまだに何が論じ残されているのか?
  Aなぜ日本では脱原発が困難なのか?
  B安全保障と原発・核燃の関係は?
  C原発がなくなると何がよいのか?
[責任]
 ・「無責任の体系」(丸山真男)・・・「超国家主義の論理と心理(1946)」
  「然るに我が国の場合は、これだけの大戦争を起こしながら、我こそ戦争を
   起こしたという意識がこれまでの所、どこにも見当たらないのである。何と
   なく何物かに押されつつ、ずるずると国を挙げて戦争の渦中に突入したと
   いうこの驚くべき事態は何を意味するのか。」
  ”戦争”を”原発事故””原発推進”に置き換えて読む
 ・「既成事実への屈服」と「権限への逃避」(丸山真男)
  「既成事実への屈服とは何か。既に現実が形成せられたということでそれを
   結局において是認する根拠となることである。殆どすべての被告の答弁に
   共通していることは、既に決まった政策には従わざるをえなかった、或は
   既に開始された戦争は支持せざるをえなかった云々という論拠である。
   (中略)終始「客観的情勢」にひきずられ、行きがかりに捉われてずるずる
   べったりに深みにはまって行った軍国日本の指導者(中略)」
  「東京裁判の戦犯たちがほぼ共通に自己の無責任を主張する第二の論拠は、
   訴追されている事項が官制上の形式的権限の範囲には属さないということ
   であった」
  丸山真男「軍国支配者の精神形態」(1949年)
 ・4つの偶然で空前の大惨事を免れた4号機の燃料プール
 ・誰か責任をとったのか?一人も正式には責任をとっていない。
   菅(元)首相、
   勝俣(元)東電会長、
   斑目(前)原子力安全委員会委員長、
   近藤(前)原子力委員会委員長
[原発と社会]
 ・体制全体の多くの病根を照らし出した(1986年チェルノブイリ事故)
  「従来のシステムがその可能性を使い尽くしてしまったことをまざまざと見せ
   つける恐ろしい証明であった。」
  「チェルノブイリはわが国体制全体の多くの病根を照らし出した。このドラマ
   には長い年月の間に積もりつもった悪弊がすべて顔をそろえた。異常な
   事件や否定的なプロセスの隠蔽(黙殺)、無責任と暢気、なげやりな仕事、
   そろいもそろいの深酒」(ゴルバチョフ回顧録)
 ・体制全体の多くの病根を照らし出した(2012年5月28日国会事故調)
  「この原発事故を体験する中で、根本的に考えを改めた。かつてソ連のゴルバ
   チョフ氏が回顧録で、チェルノブイリ事故は、我が国体制の病根を照らし出した、
   と述べている。今回の事故は、我が国全体のある意味で病根を照らし出した、
   と認識している。」(国会事故調 菅元首相の参考人証言)
 ・福島事故は日本だから起きたのか?
   世界中どこでも起こりうる事故だったのか(ドイツ・メルケル政権の立場)
   原子力ムラ=原子力マフィア=アトミック・サークル
   日本だから起きたのか?
     地震・津波の危険性、
     規制当局と電力会社の癒着・依存、
     最悪の事態を想定せず。
 ・エネルギー選択と社会
   エネルギー選択は、未来をどのように選択するかという問題、社会像の選択の
   問題。単なる電力供給の問題にとどまらない。
   国際的に見ると、分権的な社会は、小規模分散型のエネルギー供給を好む
              集権的な社会は、大規模集中型のエネルギー供給を好む
 ・スイスでは原発15キロ圏内に住民登録時にヨーソ剤を配布
  緊急避難時情報
 ・日本は原発をどうすべきか?
   現代の政治的対立軸は?
   右−左? 保守−革新? 経済−福祉? 原発−脱原発? 憲法改悪−護憲?
 ・「原発ゼロ社会」への課題をどのように考えるべきか
   電気は足りるのか?
     ピークカットの抑制こそが重要
     スマートメーター+時間帯別料金制度の採用で20%カット
     大口需要家との「需給調整契約」の活用
     電力会社にとっても余剰設備を持たなくてよくなる
     北海道・東北間、東京電力/中部電力以西間の融通能力を高める
 ・日本全体の電源構成
   震災前2010年
         発電電力量の構成割合  設備利用率
   原子力    30.8%          70.0%→0%(現在)
   火力      59.3%          44.8%→68.1%(現在)
[脱原発ができない理由]
 ・なぜ「原発ゼロ」の決断ができないのか。
   野田首相 ビジョンの欠如
   小泉元首相の「発言」
   外貨流出や電力不足は口実
    脱原発を踏まえてスポット契約から長期契約に転換すれば安くなる
   料金高騰で産業空洞化?
    製造業の生産額に占める電気代の割合は1.44%。
    窯業・土石で3.71%、鉄鋼で3.51%、非鉄金属で2.58%(工業統計調査2009)
    人件費・為替コストの影響の方がはるかに大きい。
   最大の理由は
   @東電の再建・維持+電力会社の経営問題
   Aアメリカの意向
   B潜在的「核抑止力」としての原発・再処理
 ・「原発ゼロ」で誰が一番困るのか。
   原発は(20〜)40年で減価償却
    50基を再稼動せずに廃炉にすると、廃炉費用の積立金不足1兆2312億円
    残存簿価2兆8400億円
    計4兆円が電力会社の赤字に(東電・関電など4社が債務超過に)
   原発分離・国有化案(枝野経産相)・・税金投入になる
 ・アメリカ政府はどう考えているのか?
   日本の核武装は望ましくない(日米原子力協定による規制)
   日本の脱原発は望ましくない
    東芝-WH、日立-GE、三菱-アレバが弱まると、中国製原発が国際的に台頭
   2018年の日米原子力協定における再処理の取り扱い・・単純延長か改訂か
    現在再処理が認められているのは日本だけ(ドイツはやめた)
   韓米原子力協定(2015年期限切れ)は?  
    韓国は再処理を要望。韓国に再処理を認めると北朝鮮を刺激することになる。
 ・わが国の外交政策大綱(1969.9.29)
   「核兵器についてはNPTに参加すると否とにかかわらず、当面核兵器は保有
    しない政策をとるが、核兵器製造の経済的・技術的ポテンシャルは常に保持
    するとともにこれに対する掣肘をうけないように配慮する」
 ・読売新聞の主張
   「日本が今後もエネルギーを確保していくために、基幹電源の原子力をどう利用
    するか、食糧問題などと同様、国の基本戦略、安全保障にかかわるこの問題は、
    五十年先、百年先をにらんで総合的な政策を立案し、着実に取り組んでいくべき
    ものである」(2004.8.24社説)
   「日本は、平和利用を前提に、核兵器材料にもなるプルトニウムの活用を国際的
    に認められ、高水準の原子力技術を保持してきた。これが、潜在的な核抑止力
    としても機能している」(2011.8.10社説)
   「日本は原子力の平和利用を通じて核拡散防止条約体制の強化に努め、核兵器
    の材料になり得るプルトニウムの利用が認められている。こうした現状が、外交
    的には、潜在的な核抑止力として機能していることも事実だ」(2011.9.7社説)
 ・原子力規制委員会設置法
   原子力規制委員会設置法案の成立と原子力基本法の改正(2012.6.20)
   「国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資する
    ことを目的とする」(設置法第1条)
   「国家行政組織法第3条第2項の規定に基づいて、環境省の外局として、原子力
    規制委員会を設置する。」(設置法第2条)
 ・原子力基本法改正(2012.6.20)
   「第2条(基本方針)
    原子力利用は、平和の目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営の下に、
    自主的にこれを行うものとし、その成果を公表し、進んで国際協力に資するものとする。
    2.前項の安全の確保については、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の
    保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として、行うものとする。」
 ・潜在的抑止力としての原子力。
   原発問題は、単なるエネルギー源選択の問題にとどまらない。必然的に「安全保障」
   という側面を持たざるを得ない。
   「平和利用」(=原子力atomic)と「軍事利用」(=核nuclear)に厳密な境界はない。
   途上国が原発を所有したい動機
   原発推進派は、福島事故以後、推進論の根拠として、「核抑止」としての側面を
   さらに全面に出してきた。
[脱原発への道]
 ・どうやって止めるのか?脱原発を実現する政治的回路は?
   @政治主導で止める :菅首相の浜岡要請、メルケル首相のリーダーシップ
   A行政府の権限で止める:原子力規制委員会(もんじゅへの運転停止命令)
   B立法で止める:ドイツ2000年6月脱原子力合意、2011年の政策転換
   C地方行政が止める:日本では安全協定上、立地県知事・立地市町村長が
     拒否権を持つ場合が多い。
   D司法の力で止める
   E住民投票で止める
 ・原発がなくなると何がよいのか?
   より安全、より安心な社会に
   低炭素社会への本格的転換が進む
   エネルギーの効率利用に関する技術で、世界をリードする方向への転換
   エネルギー政策に関する社会的合意の基礎に
   エネルギー教育の進展
   放射性廃棄物問題への寄与(総量の確定)
   途上国の原発推進ムードにブレーキをかける
 ・使用済み燃料をどうするか?
   処理(処分)方法・処理技術は確立していない
   六ヶ所村の再処理工場をどうすべきか
   貯蔵プールには既に94%(2827トン/3000トン)が貯蔵されている
   再処理か、直接処分か、「中間貯蔵」(30年〜50年)か、「暫定保管」(数十年〜数百年)か