原子力=核と自由な社会 (京都自由大学講義 5/30) :2014.6.9
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 【日時】 2014年5月30日(金)19:00〜21:05
 【場所】 京都社会文化センター内(油小路通松原下る)
 【講師】 京都大学原子炉実験所 小出裕章氏
 【タイトル】 原子力=核と自由な社会

 小出裕章さんは、福島原発事故の前から原発に反対し、事故の前年には
 「隠される原子力・核の真実−原子力の専門家が原発に反対するわけ」と
 いう本も出版している。
 今回の講演は資料が無駄なく整理されていて、論理が明確であった。
 
 話のポイントは大まかに次のとおり。
 ・福島原発事故で放出された放射性物質は既に広島原爆の100発分以上に
  なっている、
 ・事故はまだ収束していない、
 ・法律で決めていた放射線基準をすぐに緩めてしまった。法治国家と言えるのか?
 ・原発の技術は核兵器の技術と共通する。
 ・原発は原爆技術維持が一つの目的になっている。
 ・原子力と核という言葉が発電と兵器で使い分けられている、
 ・原発反対が社会的制裁の対象になりつつある
 
 まずは本講演の科学的な事実関係を掴むことが大切だ。議論の出発点として
 参加した意義が十分あった。
 
 今回行った質問
 「福島原発事故直後は国民の意識が脱原発の方向に動いていたが、最近は
  原発再稼動に反対する声が小さくなっているように感じている。今も各地で
  講演される機会があると思うが、国民の意識の変化は感じているか?」
 (返答)調査では今でも再稼動反対の方が多いと思う。しかし、経済第1の
     声に脅されているような状態ではないか。
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(講演会内容:資料を基に記載、そのままでない箇所もある)
[導入]
 ・ビルケナウ強制収容所
 ・ヴァイツゼッカー大統領演説「歴史に目を閉ざさない」
   「問題は過去を克服することではありません。さようなことができるわけは
    ありません。後になって過去を変えたり、起こらなかったことにするわけ
    にはまいりません。しかし過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも
    盲目となります。」
[原爆]
 ・1945年7月16日(ポツダム会談初日)人類初の原爆:トリニティ
  米国ニューメキシコ州の砂漠、アラモゴルドにて
 ・1945年8月6日広島原爆投下・・・上記実験から1ヶ月も経っていない。
 ・1945年8月9日長崎原爆投下・・・広島の3日後
 ・広島原爆はLittle Boy・・ウラン型
  長崎原爆はFat Man・・・プルトニウム型
  両方のタイプを試したかった。
 ・米国の原爆製造(マンハッタン計画)での2つの道
  ウラン採掘→
濃縮→濃縮ウラン→広島原爆
  ウラン採掘→
原子炉(プルトニウム生成)→再処理(プルトニウム取り出し)
    →プルトニウム→長崎原爆
  原爆製造の3つの中心技術が、濃縮、原子炉、再処理である。
 ・濃縮で生じた残りのウランを劣化ウランと呼ぶ。再処理で残ったウランを
  減損ウランと呼ぶ。これを他国で廃棄するために兵器に用いたのが劣化ウラン弾。

[原発]
 ・1954年7月2日毎日新聞
   毎日新聞だけでなく、ほとんどのマスコミが下記のような報道をしていた。
   「原子力を潜在電力として考えると、まったくとてつもないものである。
    しかも石炭などの資源が今後、地球上から次第に少なくなっていくことを
    思えば、このエネルギーのもつ威力は人類生存に不可欠なものといって
    よいだろう。
    (中略)電気料は2千分の1になる。
    (中略)原子力発電には火力発電のように大工場を必要としない、大煙突も
    貯炭場もいらない。また毎日石炭を運び込み、たきがらを捨てるための鉄道も
    トラックもいらない。密閉式のガスタービンが利用できれば、ボイラーの水すら
    いらないのである。もちろん山間へき地を選ぶこともない。ビルディングの地下
    室が発電所ということになる。」
  ・原子力発電は効率の悪い蒸気機関
    上記のマスコミ報道とは異なり、原子力発電も蒸気でタービンを回すのは
    火力発電と同じ。
  ・大量に必要とされる燃料、大量に生み出される放射性物質
    広島原爆で燃えたウランの重量(生成した核分裂生成物の重量)=800g
    100万kWの原子力発電所1基が1年運転するごとに燃やすウランの重量
    (生成する核分裂生成物の重量)=1トン
  ・福島原発事故 今、進行中
  ・Mark-I型格納容器
    水素爆発発生、格納容器ベント・・フィルターなし、炉心の冷却が必要、
    プール冷却が必要
  ・事故は収束などしていない
    1号機から3号機 すでに溶け落ちた炉心が今どこにあるかすらわからない。
    ひたすら水を注入してきたが、汚染水が溢れている。
    元々、放射線水(radiactive water)と海外で呼んでいたものを、日本では汚染水と
    呼んでいる。きれいにできそうなイメージを持たせようとしているからかも。

    果てしない放射能の封じ込め作業と労働者の被爆
    すでに大量に放出された放射性物質
    今現在、そして今後も続く住民の被爆
    定期点検中で運転していなかった4号機
    その使用済み燃料プールの底には広島原爆1万4000発分を超えるセシウム137が
    ある。今後さらに大量放出の虞
  ・大気中に放出したセシウム137の量
    1号機:5.9E14(ベクレル)
    2号機:1.4E16(ベクレル)
    3号機:7.1E14(ベクレル)
    広島原爆:8.9E13・・・既に広島原爆168発分を放出
  ・汚染の広がり
    広い範囲で放射線管理区域にしなければならない汚染を受けた
  ・日本は法治国家か?
    日本では、一般人は1年間に1ミリシーベルト以上の被爆をしてはいけないし
    させてはいけない法律がある。
    放射線管理区域から1平方メートルあたり4万ベクレルを超えて放射能で汚れたものを
     管理区域外に持ち出してはならないという法律もあった。
     政府は福島原発事故が起きた後、それらをすぐに反故にした。

[核兵器と原発]
  ・外務省・外交政策企画委員会内部資料(1969年9月25日)
    「核兵器については、NPTに参加すると否とにかかわらず、当面核兵器は保有
     しない政策をとるが、核兵器製造の経済的・技術的ポテンシャルは常に保持
     するとともに、これに対する掣肘を受けないように配慮する」
  ・日本政府の公式見解(1982年4月5日の参議院における政府答弁)
    「自衛のための必要最小限度を越えない戦力を保持することは憲法によっても
     禁止されておらない。したがって、右の限度にとどまるものである限り、核兵器
     であろうと通常兵器であるとを問わずこれを保持することは禁ずるところではない。
  ・外務省幹部の談話(朝日新聞 1992年11月29日)
    「個人としての見解だが、日本の外交力の裏付けとして、核兵器の選択の可能
     性を捨ててしまわない方がいい。保有能力は持つが、当面、政策として持たない、
     という形でいく。そのためにも、プルトニウムの蓄積と、ミサイルに転用できる
     ロケット技術は開発しておかなければならない。
  ・意図的言い換え
    Nuclear Weapon    = 核兵器
    Nuclear Power Plant =  原子力発電所
    Nuclear Development= (北朝鮮、イラクがやれば)核開発、
                    (日本がやれば)原子力開発
  ・原子力基本法の改定(2012年6月20日成立)
    (基本方針 第2条)・・・・下線部が追記
    1.原子力利用は、平和の目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営の
      下に、自主的にこれを行うものとし、その成果を公開し、進んで国際協力に資
      するものとする。
    2.全校の安全の確保については、確立された国際的な基準を踏まえ、国民の
      生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資する
      ことを目的として、行うものとする。
  ・「平和利用」に隠れながら実質的な核保有国になった日本
    核保有国以外で、核兵器製造の中心3技術(ウラン濃縮、原子炉、再処理)を
    全て有する唯一の国=日本

[現在の社会]
  ・歴史は滔々と流れる
    特定秘密保護法の成立
    施行は1年後
    しかし、歴史は突然始まるのではなく、流れている。
    戦いは昔からそして今も続いている。多くの場合、気づいた時は手遅れになっている。
  ・四天王寺での講演会4日前の使用許可取り消し
  ・暗黒の時代に向かう流れは今もある
    原発について発言すること、原発に反対すること、デモに参加すること、それが
    罪になり、社会的制裁を受けなければいけないことなのか?
    国家による強権的、暴力的な弾圧はある。
    しかし、それ以前に、民衆自身による社会的規範の名による弾圧がある。
  ・大切な自己責任
    福島原発事故が起きた今、私たちがどのように生きるか、未来の子どもたちから
    必ず問われる。

[その他]
  ・過去の大気中核実験で放出された放射線量は福島原発の数十倍大きい。
   地球全体で見ると放射線汚染の第一要因は大気中核実験である。