|
(50) ◎ パンとペン 堺利彦と「売文社」の闘い(黒岩比佐子:講談社) 2010.12.30
堺利彦は幸徳秋水と平民社を作った社会主義者として名前を知られている。
幸徳秋水が大逆事件で死刑となったのに対し、堺は生き延びた。大逆事件の
時、堺は監獄に入れられていたからだ。秋水らが捕らえられた後に出獄し、
面会に行ったり、刑執行後は遺体の引き取りや火葬、遺族への慰問に出かけ
ている。堺は常に尾行され、どこに行って誰と会ったかは内務省が記録していて
みすず書房から出版されたりしているので見ることができるらしい。
こんな時期に堺は売文社を設立する。社会主義者が弾圧されている状況で社会
主義者の仲間たちが生活の糧を稼ぐために作った会社だった。
監獄内で考えたという会社設立の趣旨案は次のようなものだ。
「小生は稍(やや)上手に文章を書き得る男なり。いづれ文を売って口を糊する
に亦何の憚る所あらん。今回断然奮発して左の営業を開始す。既知未知の
諸君子、続々ご用命あらんことを希望す。
一.新聞、雑誌、書籍の原稿製作
一.英、仏、独、露等諸語の翻訳
一.意見書、報告書、趣意書、広告文、書簡文、其他一切文章の立案、代作、
及添削
売文社々長 堺利彦」
これに基づき、1910年から1919年まで売文社を経営する。堺はもともと小説を
書いていた上、英語の翻訳もできた。また、読んだ本も洋書を含んで大変な数だ。
能力レベルが非常に高い。これは堺だけでなく、秋水、大杉栄、山川均ら当時の
社会主義者全体に言えることらしい。当時は海外の社会主義の本が読めないと
社会主義に触れることができなかったことも関係していたのだろう。
自分たちの言いたいことを少しでも言えるように自分たちの能力を生かして生活の
糧を得た。こういう考えは現代に生きる私たちにもとても重要なことのように感じる。
本書は綿密な調査の上に成り立っているうえに、読みやすさも考慮されており、
著者のレベルの高さが感じられる。残念ながら本書完成直後に、著者の黒岩氏は
癌で亡くなっている。とても惜しい。
(堺利彦年譜)
・1871年 堺利彦 小笠原藩藩士の三男として生まれる。
・1885年 中村千治の養子となる。
・1886年 英学塾・同人社に入る。秋、共立学校(現・開成学園)に転入
・1887年 夏、第一高等中学校(後の第一高等学校)に合格
・1888年 遊興に溺れ、月謝不納で第一高等中学校を除名される。
・1889年 長兄急逝。養家から離縁され、実家に復籍。小説書き出す。
夏、天王寺高等小学校の英語教員になる。
・1893年 2月、小学校教員を辞め、「大阪毎朝新聞」記者に。5月退社
11月 「新浪華」に入社
・1895年 2月母病死。9月「新浪華」解散、上京し「実業新聞」に入社
・1896年 「実業新聞」廃刊。2月父病死。堀美知子と結婚
5月「福岡日日新聞」に入社
・・・両親の死と結婚を機に、堺は遊蕩生活から心を入れ替えた。
・1897年 4月「福岡日日新聞」退社、上京し、毛利家の編集所に入所
10月長男不二彦誕生
・1899年 6月編纂作業終了し、編集所解散。
7月「萬朝報」に入社、幸徳秋水、内村鑑三を知る。12月長男病死
・1902年 1月自転車を購入し通勤に利用
・・・「萬朝報」記者の間で自転車が流行。当時の輸入自転車は高価
・1903年 1月長女真柄が誕生。4月由分社を設立し「家庭雑誌」創刊
10月日露戦争反対の意見対立から秋水、内村と共に「萬朝報」退社
同月秋水と平民社設立、週刊「平民新聞」創刊
・1904年 3月平民新聞第20号発行停止、起訴され、4月収監、6月出獄
8月妻美知子死去
11月平民新聞第52号発売停止、次号も発行禁止となり、起訴
・1905年 2月平民新聞発行禁止。西川光二郎、幸徳秋水入獄
「直言」が後継紙に。
7月「枯川」の号を廃す。9月延岡為子と再婚。「直言」も発行禁止、終刊。
10月平民社解散。再び由分社で「家庭雑誌」を中心に出版事業
11月秋水渡米 ・・・秋水、アナーキズム寄りの姿勢強める
・1906年 2月日本社会党を組織。3月電車賃金値上げ反対運動で同志10名検挙。
6月秋水帰国。10月由分社解散
・1907年 1月日刊「平民新聞」創刊 2月日本社会党結社禁止処分
4月平民新聞廃刊
・1908年 1月金曜会の屋上演説事件で1ヶ月半入獄
6月赤旗事件で2年間入獄
・1910年 入獄中に大逆事件で秋水ら一斉検挙。
9月出獄。12月売文社開業
・1911年 1月24日25日、秋水ら12人死刑執行。遺体引取りと火葬
3月-5月刑死者遺族と無期懲役囚の家族を慰問の旅
・1914年 売文社から機関紙「へちまの花」創刊
・1915年 9月「へちまの花」を「新社会」と改題
・1917年 1月衆議院選に立候補、25票で落選。
売文社を社会主義運動と分離、由分社で引き継ぐ。
・1918年 売文社を堺、高畠素之、山川均の共同経営にする。「新社会」の発行を売文社に戻す
山川、荒畑寒村が「労働者」発行、暮れから翌年春まで入獄
・1919年 3月、売文社を解散。名義は高畠が引き継ぐ(8月解散)
・・・解散の原因は高畠らの国家社会主義への傾倒
4月山川らと「社会主義研究」創刊
・1922年 1月右翼の暴行を受ける。7月日本共産党設立に参加
12月陸軍軍人に襲撃され重傷
・1931年 12月脳溢血で倒れる。
・1933年 1月死去(63歳)
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(49) □ 「夢の新製品」を生み出す10の鉄則 (町田尚:PHPビジネス新書) 2010.12.26
著者はベアリングメーカーである日本精工の前副社長で長年研究開発を
やってきた方らしい。奇抜なことは書いていない。でも平凡かと言うとそうでも
ない。研究開発をやってきた方が書いた本らしく具体性が感じられる。
(メモ)
[製造業の現状]
・不況になり需給関係が悪化すると旧来製品では売れなくなり、販売量が
低下し価格も下落する。そこで「新製品は出ないのか」ということになる。
・さらに強烈な市場変化の中では海外移転に議論が集中する。
すると国内に残った設備や従業員の維持が問題になる。そこで新製品が
どうしても必要になる。
[時代状況、変化を知る]
・2007年、世界人口は66億人。アジア40億人、アフリカ10億人、欧米10億人
・新興国の新市場は古い技術はスキップし、いきなり先端技術になってしまう。
(TVは液晶から。電話は携帯から。パソコンは当たり前)
[コア・テクノロジー]
・研究開発を論理的かつ継続的に行っている企業が結果的に新製品を生み出す。
・コアテクノロジーは特段珍しい技術である必要はない。
・コアテクノロジーはテクノロジー(技術)であって。プロダクツ(製品)であっては
ならない。製品には必ず寿命がある。
・コアテクノロジーを定義したら、社内にも社外にも発信しなくてはいけない。
・コアテクノロジーでは僅差でも勝つ。
[機能する開発組織]
・技術部、開発部、研究所に分けた場合、コアテクノロジーで絶対に負けては
いけないのが研究所。
・技術部門が機能的に区分されていないから、あっちでもこっちでも不完全な
新製品開発が行われるようになる。
[技術負債の返済・・・品質問題]
・年一度くらいの業務分析調査は絶対必要。何に時間を要しているかの分析
・技術負債を返済する時は、負債を持っているチームにやらせないことが重要。
自分たちで見つけられるなら最初から間違わない。
専門のプロジェクトチームを編成することが効果的。任期は最長6ヶ月と決め、
6ヶ月経ったらもとの職場に戻す。
・新製品の安全な設計基準を決めるにはFTA(Fault Tree Analysis)が用いられる。
例えば、飛行機はどうしたら墜落しないかを考えるのではなく、どうしたら墜落
するかと考え、墜落できる原因を分解していく。
[技術開発部門における見える化]
・ドイツの部品会社に行くと頻繁に見学者に出会った。来客数は多い方が良い。
・掃除や整理をしろと言っても簡単に進まない。そこでお客様の見学コースを決めて
コース内をガラス張りにしてしまう。電気をつけて明るくする。
・研究開発部門の成果をしっかり出すために、毎年新製品を何個出すと目標設定し、
社内、社外に公表する。
[知財戦略]
・2007年特許出願件数1位はアメリカ、2位は日本、3位は中国。
中国のプレゼンスが急激に高まっている。
・基本特許を中心に改良特許を出し続けることで最初の特許が失効した後も事業が
継続できる。この特許戦略を有効に展開しているのがキヤノン。
[若い技術者の育成]
・組織の活力を判断したければ技術部門の全技術者の年齢構成グラフを作るといい。
・数年放っておくと、技術人材の高齢化が進み、いつの間にか組織が硬直化してしまう。
・欧米の製造業の会社に行くと、調達、人事、環境、広報、営業に技術系出身が多数いる。
技術出身者を本社部門で活躍させるためには、技術系人材のキャリアルートをきちんと
作っておかなくてはいけない。そうしないと技術人材は技術部門にだけ滞留し高齢化が
一気に進む。
・内部の活性化の足らない部分は、外部のコンサルタントに頼むのが一番。
[情報力、コミュニケーション力]
・営業マンが運んでくれる新製品の種
・営業情報の中にある新製品開発の要素に気づくためには、新聞、雑誌、展示会、学会
情報が整理されて頭の中になくてはいけない。
[リーダー育成と役割]
・野心的人間は教育するというより資質を見抜くというほうが適切かもしれない。
[新製品開発のマネージメント力]
・3Mは自分の時間の15%は新しいアイデアの実現に使うべきであると15%ルールを
設定している。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(48) △ 夜明けの縁をさ迷う人々 (小川洋子:角川文庫) 2010.12.26
小川洋子の本ならハズレはないだろうと思って今年最後の小説に選んだのだが
期待に反して面白くなかった。小川洋子の異世界に入っているところまでは良い
のだが、気味悪いだけで終わってしまっている気がする。とても残念。
「曲芸と野球」 :本書内の9つの短編の中では一番良い。
「教授宅の留守番」 :怪しく感じられるところで止めておいたら良かった
「イービーのかなわぬ望み」 :これも行き過ぎ
「お探しの物件」 :瓢箪屋敷、丸い家はちょっと興味を惹いた
「涙売り」 :最後は少し気持ち悪い
「パラソルチョコレート」 :”裏側”が意味する所がわからなかった
「ラ・ヴェール嬢」 :最も小川洋子らしい作品
「銀山の狩猟小屋」 :これも小川洋子の不思議な世界だけど、最後がよく
理解できなかったため恐いだけに終わった。
「再試合」 :途中までは良かったんだけど。。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(47) △ 日記をつける (荒川洋治:岩波現代文庫) 2010.12.12
日記には数年前から興味があり、本書もタイトルに日記を含んでいたので購入した。
日記は「書く」よりも「つける」を多く使う。「つける」はしるしをつける、しみをつけると
いうように後々まで残す意味がある。
第2章の最初にこのようなことが書いてあり、この部分が一番印象に残った。
それ以外はさほど興味を惹かなかった。いろいろな人の日記が紹介されているが、
今ひとつ面白く感じない。なぜかこれを真似てみようという日記がなかった。
(メモ)
・日本人の日記は天気から始まるものが多い。外国人はいちばん印象的なことから
始めることが多い。
・一般的に書名は『 』、作品名は「 」でくくる。ただし、昭和初めまでは記号は
使わなかった。
・他人を幸せにしようと思っている人は、ものを覚えようとするもの。
なんにも覚えていない人は自分中心に生きている人が多い
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(46) □ 知的財産法入門 (小泉直樹:岩波新書) 2010.12.11
知的財産法(特許法、商標法、意匠法、著作権法などの総称)を比較的わかりやすく
解説している。ただ、特許については問題などに踏み込んでいないので表面的では
ある。
特許に関しては今の特許制度が今後何十年も続けていけるのかが気になっている。
特許には当然ながら発見や発明と呼べるものがある。けれどかなり多くは小さな改良や
組み合わせにすぎないように感じている。開発において特許調査は不可欠だが、細かな
違いの特許を見ていると、何だか人間の労力を無駄なところに使っている気がする。
何か間違っているという思いが以前からしているが、そういう観点の記述を見たことが
ない。僕の感覚がずれているだけなのだろうか。
(メモ)
・日本に最初に特許、著作権という考え方を紹介したのは福沢諭吉。幕末の頃。
・初代の特許庁長官(当時は専売特許所長)は高橋是清。
不平等条約によって治外法権が認められていた時、外国人に日本の法律の保護は
及ばず、著作権についても保護されなかった。これを条約改正時に交渉材料に使った。
・知的財産権の侵害罪の最高刑は懲役10年。窃盗と同等。
・医療行為は特許対象から外されている。(行為以外の医薬品や医療機器は対象)
・著作者の2つの権利:
著作権・・・経済的に利益を得ることに関する権利
著作者人格権・・・勝手な公表や改変によって人格が傷つけられるのを防止する権利
氏名表示権、公表権、同一性保持権
・商標登録は商品やサービスを指定。同じ名称でも異なる商品であれば別個の権利。
・意匠登録は図面だけ。文章で表現した権利範囲はない。
・他人の小説を無断で映画化したが、小説の具体的な表現は用いずアイデアに属する
部分だけを拝借した場合、著作権侵害にはならない。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(45) □ レディ・ジョーカー (高村薫:新潮文庫) 2010.12.6
ビール会社社長誘拐、社長解放後の身代金要求という事件を犯人グループ、
企業、新聞社、警察という複数の側から描いている。なかなかすんなりとは
読めない重厚な作品だ。
しかし、終わり方はいけないのではないか。裏の世界が世の中を動かしている
というような曖昧な決着で良いのか。僕には大きな不満が残った。
本書に一箇所だけ印をした箇所がある。刑事生活13年の合田雄一郎が任務を
告げられた後に考えたことだ。
「警察という組織のなかで、自分が常に、全体と噛み合わない歯車であり続けて
きたことは自分が一番よく知っていたし、今度こそ、この警察組織の秩序や価値
観に自分を合わせることが出来るのかどうかを、真剣に考えてみなければなら
ない、と思った。」
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(44) □ クラウドで会社をよくした13社 (中村輝雄:リックテレコム) 2010.11.29
クラウドについて実感を持って理解できるかと期待してアマゾンで買った。
読み始めて、日立ソフトの方が自社のクラウドシステムを使っている会社を
紹介したり、その会社の方にインタビューしたりしている宣伝の本だとわかった。
会社同士の関係があって悪いことは言えないだろうと思うので、公平性には
大いに疑問がある。
ただ、それなりに、利用価値はわかるように書かれている。特に対象を
大規模なIT設備導入を行いにくい中堅・中小企業にしたことが良かった。
@IT設備のコスト低減 ・・・導入コスト、管理コストが安い
A新規事業創出 ・・・スピーディに立ち上げ、臨機応変に増設
Bワークスタイルの変革 ・・・セキュリティを確保しつつ、在宅勤務も可能
C遠隔拠点間の協働体制 ・・・分散開発体制
D情報セキュリティ対策 ・・・自前より信頼できると判断される場合も多い
日立のシステムではサーバーにはUSBキーでアクセスするとなっている。
また、外部からの接続では印刷はできない設定になっている
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(43) × 1冊10分で読める速読術 (佐々木豊文:三笠書房) 2010.11.23
これもひどい本だった。
最初の方には速読の根拠が書いてあり、一応納得できるものだった。
その根拠は、理解能力と読書能力の差は目に負う所が大きいとするものだ。
日本人の平均的読書速度は500字/分くらいだが、プロのアナウンサーは
2000字/分で話をし、人はそれを理解できる。読書のスピードが理解力より
遅いのは目で字を追うスピードが遅いからだ、というようなことが書いてある。
では、文字を追うスピードを速めるにはどうすればよいか。
漢字だけを追う練習、音声化せずに文字を追う練習、正確に行を追う練習をする。
これが一番大切と思われるのに、ページ数はわずか8ページ。どのくらい練習すれば
成果が出るかの記述は無い。この練習は文章の意味の理解ではなく、文字を追う
だけだ。ひょっとしたら練習の時間を読書の時間に当てた方が有効かも、と思って
しまう。
この8ページ以降の内容はあまりにもひどい。
本書は部分読みじゃないと前書きに書いておきながら、結局は部分読みになっている。
新聞は見出しを読んで、詳しく知りたければ前文を読み、記事本文を読むかを判断する。
こんなの小学校で習ったんじゃないの。当たり前すぎて読んでいて恥ずかしい。
安易な本の選択をしないことも読書における重要な術だ。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(42) × 負け組が勝つ時代 (布施克彦:日経プレミアシリーズ) 2010.11.16
これはひどい本だ。小説以外は所々に線を引きながら読むのだが、
この本には線を引いて後で読み直そうという箇所は一つもない。
データもなければ、引用もない。だから参考文献も当然ながらない。
いい加減なおしゃべりがだらだら続いているだけ。
この手のいい加減そうなタイトルの本は普通は買わない。けれど、日本
経済新聞社出版だったら、こんなタイトルでも何か面白いことが書いて
あるだろうと思ってしまった。ネットで買うとこんな失敗をしてしまう。
買った自分が情けない。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(41) ○ 大逆事件 (田中伸尚:岩波書店) 2010.11.15
1908年7月に西園寺公望内閣が退陣して桂太郎内閣が発足する。桂太郎は
元老 山県有朋の意を受けて登場し、社会主義の弾圧を掲げる。桂政権での思想・
言論弾圧強化によって、社会主義者には昼夜とも尾行がつきまとうようになった。
夏目漱石の「それから」にこの状況を書いた部分がある。
「平岡はそれから、幸徳秋水と云う社会主義の人を政府がどんなに恐れているか
と云う事を話した。幸徳秋水の家の前と後に巡査が二三人ずつ昼夜張番をして
いる。 一時は天幕を張って、その中から覗っていた。秋水が外出すると、巡査が
後を付ける。万一見失いでもしようものなら非常な事件になる。今本郷に現われた、
今神田へ来たと、それからそれへと電話が掛って東京市中大騒ぎである。」
「それから」は1909年6月から朝日新聞に連載された。まさしく時期的に思想・
言論弾圧強化されたという第2次桂太郎内閣の期間に当たっている。
1910年の大逆事件では24人が死刑判決を受け、翌日に12人が恩赦によって
無期に減刑されている。本書は死刑で亡くなった方の遺族や無期に減刑された人の
その後をたどることで、大逆事件とは何だったかを描いている。
無期懲役になった中に坂本清馬という人がいる。坂本清馬は幸徳秋水宅に書生として
住んでいて、天皇暗殺の謀議に加わったとされて捕らえられた。彼は事件の当事者と
して獄中にいる時から再審請求を求めていた。しかし、大逆事件後の思想弾圧は大逆
事件時よりさらに厳しくなっていて、戦前には再審請求できる人材がいなかった。
ようやく再審請求できたのは事件から50年以上経過した1961年である。
では、この再審請求はどうなったか。東京高裁は1965年に再審請求棄却。最高裁に
特別抗告した後、最高裁は1967年に全員一致で特別抗告を棄却した。
大逆事件は明治時代の事件であるだけでなく、戦後、それも僕が生まれた後に裁判所が
判決の誤りを認めなかった事件でもあったのだ。
数人が関与しただけの事件に26人も有罪にし、12人を死刑にしたでっちあげ事件を、
私たち戦後の世代も否定することなく受け入れてしまったのである。過去の過ちを正して
いくことは他国との関わりだけでなく、国内においても必要だ。過ちを正さなかったことが、
それ以前に過ちを認めなかったことが、今の裁判所に留まらず、今の社会にどこかで
引き継がれてしまっているような気がする。
(メモ)
死刑
・宮下太吉 ・・・爆裂弾製造・試爆:25歳
・管野須賀子 :29歳
・新村忠雄 ・・・「東北評論」:23歳
・古河力作 ・・・園丁(東京):26歳
・幸徳秋水 :39歳
・森近運平・・・「大阪平民新聞」発刊、地元で助命運動が起きた:30歳
・奥宮健之 ・・・土佐、自由民権運動の闘士:53歳
・大石誠之助 ・・・医者(新宮):44歳
・成石平四郎 ・・・雑貨商(田辺)
・松尾卯一太・・・「熊本評論」:31歳
・新美卯一郎・・・「熊本評論」:32歳
・内山愚童・・・曹洞宗 林泉寺住職(箱根):36歳
無期 (死刑判決翌日に減刑)
・高木顕明 ・・・真宗大谷派・浄泉寺住職→1914.6秋田監獄で縊死(49歳)
・三浦安太郎 ・・・「大阪平民社」ブリキ細工職人→1916.5長崎監獄で死去(28歳)
・佐々木道元 ・・・浄土真宗本願寺派 即生寺住職の三男→1916.7千葉監獄で病死(27歳)
・岡本頴一郎 ・・・「大阪平民社」会社員→1917.7長崎監獄で病死(36歳)
・峯尾節堂 ・・・臨済宗僧侶(三重県紀宝町)→1919.3千葉監獄で病死(33歳) ・飛松与次郎 ・・・「熊本評論」に出入り⇒1925.5仮出獄⇒1948.6特赦→1953.9死去(64歳)
・崎久保誓一 ・・・元新聞記者(和歌山御浜町)⇒1929.4仮出獄
・成石勘三郎 ・・・成石平四郎の兄、薬種業⇒1929.4仮出獄(地元から請願書)→1931.1死去
・武田九平 ・・・「大阪平民社」金属彫刻業⇒1929.4仮出獄→1932.11事故死
・岡林寅松 ・・・病院職員(神戸)⇒1931.4仮出獄
・小松丑治 ・・・養鶏業⇒1931.4仮出獄→1945.10死去
・坂本清馬 ・・・幸徳秋水の書生⇒1934.11仮出獄⇒1961.1再審請求⇒1965.12東京高裁請求棄却
⇒1967.7最高裁大法廷 再審請求の特別抗告を棄却→1975.1死亡(89歳)
懲役刑
・新田融・・・宮下の同僚(明科製材所)⇒1916.10仮出獄→1937死去
・新村善兵衛・・・新村忠雄の兄⇒1915.7仮出獄→1920.4病死
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(40) □ 白夜 (ドストエフスキー:角川文庫) 2010.10.23
ドストエフスキー27歳の時の作品。ドストエフスキーの初期の作品は思想が
入り込んでおらず、感傷的なものが多いようだ。本書もそういう作品だ。
ただ、熱っぽさ、くどさ、しつこさというのは後期の作品と共通し、そこが
本書の魅力でもあり、欠点でもあるのだろう。
後期の作品なら、もう少し複雑な描き方をし、きっと少女ナースチェンカの
求めていた男性は現われず、かといって青年とナースチェンカもうまくいか
ない結末を迎えるのだろうという気がする。
もっと素直に読むべきかもしれないが。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(39) □ 夏目漱石と戦争 (水川隆夫:平凡社新書) 2010.10.20
夏目漱石の小説をたまに読み直すと、幸徳秋水の名前が出てきたり、
日露戦争の広瀬中佐の話が出てきたりする。昔読んだ時はあまり気に
ならなかったのだが、最近は漱石が書いていた時代を多少意識するように
なった。
漱石が「我輩は猫である」を連載開始したのが日露戦争中の1905年、
亡くなったのが第1次大戦中の1916年。「三四郎」「それから」「こころ」など
漱石の有名な小説は全部この間に書かれているのだから、戦争と無縁で
あるはずはない。
本書は漱石が戦争に関して触れている部分をいろいろ取り上げ、漱石が
戦争についてどう考えていたかを想像しつつ、説明している。
本書を読むと、漱石は国家主義と無縁ではない。日露戦争開戦時に「従軍
行」という戦争詩を発表したりもしている。
しかし、特に日露戦争後は否定的な見方を強めたようだ。それが、「三四郎」や
「それから」での記述に影響したのだろう。
ただ、正面きっての日本の戦争批判はしていないように見受けられる。
1908年に第2次桂内閣ができて表現に対する取締りが強化された環境に
おいて、政府批判めいたことを表現するのは、漱石にしても大変なことだった
のかもしれない。
(参考)
「それから」には下記の記述がある。
「広瀬中佐は日露戦争のときに、閉塞隊に加わって斃れたため、当時の人から偶像視
されて、とうとう軍神とまで崇められた。けれども、四五年後の今日に至ってみると、
もう軍神広瀬中佐の名を口にするものも殆どいなくなってしまった。英雄の流行廃は
これ程急激なものである」(主人公 長井代助の言葉)
*軍神広瀬中佐(広瀬中佐は旅順港閉鎖に参加、部下を探して退避が遅れて戦死)
「平岡はそれから、幸徳秋水と云う社会主義の人を政府がどんなに恐れているかと
云う事を話した。幸徳秋水の家の前と後に巡査が二三人ずつ昼夜張番をしている。
一時は天幕を張って、その中から覗っていた。秋水が外出すると、巡査が後を付ける。
万一見失いでもしようものなら非常な事件になる。今本郷に現われた。今神田へ来
たと、それからそれへと電話が掛って東京市中大騒ぎである。」
*幸徳秋水(本作品は明治42年掲載、幸徳秋水は明治43年逮捕、44年刑死)
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(38) □ 心の野球 超効率的努力のススメ (桑田真澄:幻冬舎) 2010.10.9
元巨人投手の桑田真澄氏が早稲田大学の大学院で1年間学び、その後
少年野球等についてインタビュー等で語っているのを新聞で読んだ。
僕は野球チームに入ったことがないけれど、正しいことを言っていると
感じていた。たまたま、東京出張時に八重洲ブックセンターに寄った際に
本を目にして購入した。
以前のインタビュー記事にも書かれていたように、練習は量ではないと
長時間の練習を否定し、勉強や遊びの時間も必要で毎日の短時間集中
型の努力を奨めている。
また、親が離婚した話、中学3年の3学期に転校せざるを得なくなった話
など、初めて知ることもいくつかあった。
ただ、後半はつまらなかった。18という数字にこだわって18章構成にしたと
書いているが、自己満足に留まり、内容の希薄な章も目立った。
前半の話が興味深かっただけに残念な気がする。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(37) ◎ 罪と罰 (ドストエフスキー:江川卓訳 岩波文庫) 2010.10.4
「罪と罰」は今までに2回読んだ。1回目は20歳の頃。2回目は先ほど調べると
ちょうど10年前。ともに昔の新潮文庫の米川正夫訳だ。(なぜか今の新潮文庫は
工藤精一郎訳に変わっている。)
最近、映画「悪人」を観て、もう一度「罪と罰」を読みたくなった。「悪人」の殺人を
犯した若い男と殺人犯から離れない女性という設定が「罪と罰」に似たところが
あるからということに加え、「悪人」では納得できない部分が「罪と罰」には書かれて
いるような気がしたからだ。
先ほど2回目に読んだのは10年前だと書いたが、実は僕はまだ3年くらい前だと
思っていた。HPに書いた読書記録を見直したのだが載っておらず、本の最後に
書き残した読み終えた日付を見て、2000年だったことを知った。つまり僕の中では
それほど久しぶりとは思わず、最近読み直したばかりという意識だった。それで今までと
違う人の訳を読んでみようと考えて、江川卓訳の「罪と罰」を読むことにしたわけだ。
訳の違いは比較していないのではっきりはわからないが、随分読みやすい気がした。
一つは以前の文庫本は上下2冊で字が非常に小さいが、岩波版は上中下の3冊で
文字が大きい。この影響も大きいのかもしれない。
前置きが長くなった。「罪と罰」はやはり超一流の小説だ。登場人物に自分自身が
見えてくる。それは特定の人物と言うわけでなく、さまざまな人物の中に僕自身が
見えるのだ。ラスコーリニコフはいうまでもなく、スヴィドリガイロフ、マルメラードフ、
ルージン、ラズミーヒンらもそうだ。
自分はこのまま何もせずに終わっていく人間なのか、こういう問いかけは若いから
内面に沸き起こるものではなく、むしろ年を経るにつれて強く胸を締め付けてくる。
初めて読んだときと同じ衝撃を受けることはない。しかし、今なお、「罪と罰」には僕を
苦しめる要素が含まれている。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(36) □ 海に住む少女 (シュペルヴィエル:光文社古典新訳文庫) 2010.9.21
10作品が収められている短編集である。
イエスの誕生の時にそばにいた馬を描いた「飼葉桶を囲む牛とロバ」、ノアの箱舟を
描いた「ノアの箱舟」は比較的わかりやすいが、死人を描いた「セーヌ河の名なし娘」
「空のふたり」はよくわからない。
わからないながらも、物語に雰囲気があり、僕は嫌いではない。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(35) ○ これからの「正義」の話をしよう (マイケル・サンデル:早川書房) 2010.9.21
邦訳40万部に達するベストセラーである。ベストセラーだから読みやすいかと
言うと必ずしもそうではない。文章は平易だが、中身は単純ではない。
部分的に再読しながら内容を整理中で、まだまだ時間がかかりそう。
整理したものは、メモ欄に追記していく予定。
内容は3つの思想をさまざまな事例に適応して考えている。
3つの思想は次のものだが、まだ僕にはABをうまく要約できていない。
@功利主義:幸福(苦痛に対する快楽の割合)を最大化する・・・ベンサム
A自由を重視する主義
自由至上主義(リバタリアリズム)、自律(動機を重視;カント)、
B美徳(アリストテレス)や道徳
単に主義だけ書くと、何のことかわからないが、適切な事例が多く紹介されており
よくわかる(ような気がする)。
前半は@とAを中心に書かれている。功利主義と自由重視は共通の主張になる
場合もあるが、対立する場合もある。
後半に取り上げられたBは、65年前の日本が行った戦争の責任は、その時に生ま
れていなかった私にもあるのかと大きなテーマに関係している。
メモ
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(34) ○ 内訟録 (細川護煕:日本経済新聞出版社) 2010.9.15
細川護煕元首相が在任中に付けていた日記を「内訟録」と名づけて出版した。
細川氏自身が昨年の総選挙の頃に出版を持ちかけたそうなので、今の政治
状況をかなり意識しているのだろう。
さて、本書の内容だが、政権発足当初の1993年8月頃から2ヶ月くらいは
記述が詳しくなくあまり面白くない。しかし、10月頃から非常に興味深くなって
くる。
当時から小沢一郎氏と武村正義氏の対立が報じられていたが、実際は報道以上
だったようだ。その中で細川首相は小沢氏との距離の方を縮めていったようだ。
でも、細川首相は自立性を失ってはいないように見受けられる。コメの市場開放や
政治改革法案成立、侵略戦争の明言、韓国・中国・ロシア・アメリカとの外交など
基本的な自らの考えを持って進んでいったようだ。
細川政権は8党連立政権で、政治改革以外は求心力を持っていなかった。そのため
政治改革法案成立後は崩壊せざるをえなかったのだろう。
当時は無責任な辞め方だと思っていたが、続けても何もできないと判断しての決断
だったようで、8党連立の限界を示していたと考えるべきなのだろう。
なお、本書には時々面白い言葉や思想家などの書物からの引用がある。細川氏が
冷静で知性的に見えるのは背景にこういう知識があるからなのだろう。
・55年体制というヘドロを洗い流すには清流をもってせずとも泥水にて足れリ。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(33) × 公務員の「壁」 (中野雅至:洋泉社新書) 2010.8.20
公務員制度の実態を知りたいと思って読んだが、具体的なデータが皆無で
漠然とした曖昧な話に終始している上に、同じことの繰り返しばかり。
全く役に立たない本だった。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(32) □ きつねのはなし (森見登美彦:新潮文庫) 2010.8.15
「きつねのはなし」「果実の中の龍」「魔」「水神」という4作品から成っている。
全てに芳蓮堂という名の古道具屋が登場し、不思議な雰囲気を醸し出している。
本書に関心を持ったのは、芳蓮堂が僕が一時期下宿していた京都一乗寺に
あるという設定だったからで、二十数年前の僕自身の感傷的な思いに触れる
ところがあるように感じたせいなのだろう。
小説としては不思議な雰囲気が現実からあまりに離れて嘘っぽく感じられて
しまうとつまらない作品になってしまう。
4つの作品の中では、「果実の中の龍」が最も面白く、次に「きつねのはなし」。
「魔」「水神」は最後が作り話っぽくて感心しない。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(31) □ 趙紫陽 極秘回想録 (趙紫陽:光文社) 2010.8.15
1989年の天安門事件への対応によって権力の座を追われた趙紫陽
元総書記が秘かにテープに残した回想録である。
中国という大きな国家も、数人から十数人程度の小集団の指導者の
関係によって進路が決まっていくという様子が窺えて興味深い。
未だにケ小平が進めた(経済)改革解放と、民主化阻止の路線が
続いている。経済大国化する過程で民主化は避けられないと一般的に
言われていたように思うが、そんなに単純にはいかなかった。
実際に方向を決めるのが小集団の人間だからなのだろう。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(30) △ 東京湾景 (吉田修一:新潮文庫) 2010.7.31
品川埠頭の貨物倉庫で働く亮介と、出会い系サイトで知り合った
美緒とのラブストーリー。
亮介の同僚の大杉、大杉の恋人のゆうこ、ゆうこの紹介で亮介と
付き合っている真理、小説家の青山などが登場するが、主人公を
取り巻く人たちの描き方がありきたりで実在感がしない。
そのため、中心人物の言動も深みがない。
さらに、話の展開として恋愛が軽すぎる。
高校生か大学生向けに軽く書いたのかもしれないが、僕には全く
面白くなかった。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(29) □ ドキュメント ひきこもり (池上正樹:宝島社新書) 2010.7.31
『「長期化」と「高年齢化」の実態』というサブタイトルが気になって買った。
現在「ひきこもり」のいる家庭は26万世帯と推計されている。長年ひきこもり
状態にある「大人のひきこもり」には「不登校からの延長上」の人たちと
「職場不適応」に人たちの2つに大きく分けることができると著者は見ている。
本書には多数のひきこもり経験者が登場する。ただ、実際に取材に応じて
いる方は、ひきこもりを脱したか脱しつつある人たちで比較的症状が軽い
人のように感じる。
ひきこもりを広く捉えること自体は間違いではないと思うが、もっと深くこもって
しまっている人を同時に表現しないと誤解を引き起こすのではないかと懸念する。
(メモ)
・2010年4月施行「子ども・若者育成支援推進法」(09年7月成立)
地方自治体が「地方協議会」を設立。地方協議会は施設や自宅で治療が
必要かどうかを判断し、相談しながら少しずつ社会復帰してもらい、最終的
には教育、雇用まで支援していくことを目指す。
・2010年5月厚労省公表「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」
ひきこもる要因の3割が発達障害
・発達障害:自閉症、アスペルガー症候群、学習障害、注意欠陥多動性障害等
通常は低年齢で発現
・厚労省研究班が作成した新たな「ひきこもり」の定義
「様々な要因の結果として社会的参加を回避し、原則的には6ヶ月以上に
わたって概ね家庭にとどまり続けている状態を指す現象概念」
・新ガイドラインでは、ひきこもりの多くに多様な精神疾患が存在していると指摘
(ひきこもりの原因になっている場合と、ひきこもりによって起こる場合がある)
・重篤なひきこもりはWHOのいう「生活機能障害」ではないかとの指摘もある
生活機能障害とは、人と会うことができない、ゴミ出しができない、回覧板を
回せない、金銭管理ができないなどの特徴がある。
・これまで、ひきこもりの人たちは障害手当などの対象になく、セーフティネットの
枠外に置かれてきた。生活保護も親と同居している限り、受給対象にならない。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(28) ○ 望みは何かと訊かれたら (小池真理子:新潮文庫) 2010.7.20
小池真理子の作品は2003年に代表作「恋」など3冊を読んだ。どれも一定
レベル以上の作品で、力のある作家の一人だと考えている。
ただ、彼女自身が「恋」を特別な作品と話していて、それ以上の作品はなさ
そうに思っていたため、それ以降は読むことはなかった。
それがどうしたわけか、背表紙に「植村沙織は30数年ぶりに秋津吾郎に
再会する」と書かれているのを見て、僕より年上の主人公の恋愛を小池
真理子はどういう風に描くのだろうと興味を持ってしまい読むことになった。
さて、本作品だが、主人公は54歳女性。大学生の頃に連合赤軍のような
左翼グループに入り爆弾を作っていたが、仲間のリンチ殺人を機に逃亡を
企てる。そこで出会った男性との関係が本作品の主題だ。
さらに30数年ぶりに再開し、昔の関係がそのまま再現されるところが何とも
美しくない。男女の仲はわからないと言ってしまえばそれだけなのだが、
何だか見たくないものを見せられているような気もする。50代では美しい
男女の関係を描くのは無理なのだろうか。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(27) □ 世界を知る力 (寺島実郎:PHP新書) 2010.7.19
5月に寺島実郎氏の講演を帝塚山大学で聴いた。講演内容をもう少し
深く知りたいと思って本書を買ったのだけれど、講演内容と同じレベル
であったのは残念だった。
ただ、大中華圏の話や日米関係は米中関係という話など、興味深い
内容が書かれているのでそれなりに読む価値はある。
(第1章)時空を超える視界:自らの固定観念から脱却するということ
・戦後、アメリカを通してしか世界を見なくなった。
・日露関係は日米関係よりも歴史的に深く長いかかわりを持っている。
ロシアのサンクトペテルブルグ大学の日本語学科設立は1705年。
ピョートル大帝の命令で設立。おそらく極東への野心
(ペリー来航の150年も前)
江戸時代に他国に流れ着いた日本人漂流民はおそらく数百人から
数千人。
1804年、ロシアの外交官レザノフ来航。通商関係を求めるが、幕府は
拒否。(ペリー来航の約50年前)
・アジア・ユーラシアとの歴史的連携の強さ
東大寺大仏殿に向かうペーブメントには日本の石だけでなく、インド、
中国、朝鮮半島の石も埋め込まれている。
空海が持ち帰ったのは教典だけでなく、さまざまな先端技術も多い。
・日本が戦争で「アメリカと中国の連携に敗れた」ことから目を逸らしては
いけない。
(第2章)相関という知:ネットワークの中で考える
・欧州人が「チャイナ」と言う場合、中華人民共和国の国民だけでなく、
台湾、香港、シンガポールなどの華僑(6000万人とも言われる)を
含んでいる。狭義には「グレータチャイナ」と呼ばれる。日本語では
「大中華圏」
・中国と台湾には政治的な壁がある。しかし、上海浦東国際空港に
行くと、台湾人専用の入国審査カウンターがある。それだけ台湾人の
出入国が多い。
既に100万人を超す台湾人が中国に移り住んでいる。
・2009年1−9月の日本の貿易を見ると、アメリカが14%弱、中国20%強、
大中国圏では30%を超える。またアジア全体では49%に達する。
・冷戦終結から20年になり、かつての社会主義国の多くが苦しんできた。
なぜ、中国が社会主義体制を維持しながら経済的成功も得られたのか。
2つの危機を乗り越えたことが今日に繋がっていると考える。
一つは、香港返還。もう一つは台湾問題。
・ロンドン、ドバイ、バンガロール(インド)、シンガポール、シドニーという
イギリス連邦の都市を結ぶラインを「ユニオンジャックの矢」と呼ぶ。
(第3章)世界潮流を映す日本の戦後:そして、今われわれが立つところ
・「アメリカについていくしか日本の選択肢はない」という思い込み
・「日米関係は米中関係である」(松本重治の言葉)
・アメリカの本格的なアジア進出は1898年米西戦争後にグアム、フィリピン
を獲得してから。
・アメリカの中国参入は、中国にとってウェルカムだった。
(新規参入者として理想主義を唱えていた)
・米中が連携して日本を倒したのが太平洋戦争だった。
・国共内戦後、イギリスは中華人民共和国を承認。アメリカは承認せず。
共産中国を封じ込めるために、日本を西側に取り込み戦後復興させるシナリオ
を描く。
蒋介石が中国全土を掌握し続けていたらアジアはアメリカと中国に仕切られ
日本の復興と成長は30年以上遅れたに違いない。
・この状況を忘れ、戦後の日本人は「アメリカのアジア政策は日本を基軸とする」と
いう幻想を持っている。
「日米の力で中国に対峙する」というのは歴史認識を欠いている。
(第4章)世界を知る力:知を志す覚悟
・「世界を知れば知るほど、世界が不条理に満ちていることが見えてくるはずだ。
その不条理に対する怒り、問題意識が、戦慄するがごとく胸に込み上げてくる
ようでなければ、人間としての知とは呼べない。」
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(26) □ 競争と公平感 (大竹文雄:中公新書) 2010.7.14
帯に「なぜ競争しなくちゃいけないの?」と書かれている。
「なぜ競争しなくちゃいけないのか」は非常に知りたいことなので本書を
買った。けれど本のタイトルや帯のコメントと本書の内容は全くと言って
良いほど合致していない。編集者がもう少し頑張らないといけなかった
ように思う。中公新書はレベルの高いものが多いだけに残念だ。
内容としては面白いデータや指摘が多く含まれているので、それなりに
読む意味はある。ただ、見解に納得できない箇所も多い。
(メモ)
・小泉政権の政策は市場主義と大企業主義(財界主導)が混ざっていた
ため、市場主義が大企業を保護するものと同一視されてしまい、反市場
主義に繋がっている
・多くの動物はオスがメスをめぐって争うが、メスがオスをめぐって争う種も
ある。進化生物学では潜在的繁殖速度がそれを決定すると考えられて
いる。潜在的繁殖速度とは精子・卵子の生産に要する時間や子育てに
要する時間の合計である。
メスが卵だけを産んでオスが子育てするチドリは、メスが余るのでメスが
オスをめぐって競争する。人間は女性が子育てをすることが多いので
男性が女性をめぐって競争し、男性の競争好きに繋がっているかもしれない。
・男女の競争に対する選好の差は性ホルモンによるという報告もあるが
文化的な要因の方が大きそう。
・子どもを「小さく産んで大きく育てる」は間違い。
出生時の体重が低いと成人になってから生活習慣病にかかる割合が高い。
(糖尿病、高血圧等)
胎児期に栄養が少ないと、飢餓状態に耐えるために体内に脂肪を蓄積
しやすい体質になる。
出生時の体重が低いことと、注意欠陥・多動性障害の発生率、教育水準の
低さに相関があるとの研究例がある。
・時間割引率:将来のことをどれだけ割り引いて考えるかの指標
時間割引率が低いとは、将来のリターンを重視することを意味する。
例えば、マシュマロを20分食べるのを我慢したらもう1個あげると言われて
20分待つというようなことだ。
学歴が高いほど、所得が高いほど、時間割引率が低いと実証されている。
遺伝的要素は20%程度で、家庭環境や教育の要素が大きい。
・日本人は、運や才能、家庭環境、学歴で所得が決まることに否定的。
努力を重視。
・非正規採用への規制強化は問題を解決しない。
正社員の既得権益にメスを入れること。(解雇規制の緩和等)
・ヨーロッパでは有休取得率が90%以上。日本は47%前後
ヨーロッパの労働者は有休を取得する権利はあるが、タイミングは指定できない。
・最低賃金を引き上げると生産性の低い人たちの就業機会が失われ、一番被害を
受けるので、格差はむしろ拡大する。
・外国人労働者受け入れは賃金を低下させる効果と資本所得が増加する効果が
ある。全体として自国生まれの労働者の賃金を下げるか否かは明確な結論が
出ていない。
高度労働の外国人の場合は高い所得に応じた税金を払い、福祉への依存が
低いが、単純労働の外国人の場合は逆になることから、多くの国で単純労働者の
移民を制限してきた。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(25) □ 「ねんきん定期便」活用法 (首藤由之:朝日新書) 2010.7.5
サラリーマンを対象に、年金の計算方法や「ねんきん定期便」を利用した
個々人の「稼ぐ力」「貯める力」の相対評価を紹介している。
はっきり言って大した内容ではない。調べようと思ったらネットで見つけられ
そうなレベルのことしか書いていない。
年金にはわかりにくいというイメージがあるので、ただわかりやすく書いた
だけでも一応本として成り立つようだ。
将来の年金が不安と言われるが、40代後半の私たちの年齢以上の人に
とっては職に就いていれば、支給額がはっきり計算できる。
つまり年金制度は崩壊してしまったわけではないことがわかる。
しかし、今の制度では保険料は平成29年まで上がり続けるが、そこからは
保険料は上がらずに支給額が下がる。制度として成り立っていても、国民の
生活が成り立ったなかったら意味はない。この制度を金額を含めてしっかり
理解して今後の制度改革の議論を聞きたい。
その第一歩として本書の役割があるように思う。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(24) △ いつか陽のあたる場所で (乃南アサ:新潮文庫) 2010.6.27
好きなホストに貢ぐために、伝言ダイヤルで見つけた適当な相手をホテルに
連れ込み薬を飲ませてお金を盗むことを繰り返し、その挙句に昏睡強盗罪で
7年間刑務所暮らしとなった小森谷芭子。
夫の暴力に10年間苦しめられ、子どもに暴力が及びそうになった時に夫を
殺害し、5年の刑を受けた江口綾香。
この二人が刑務所で知り合った後に、出所してからも親しく、社会で暮らしていく
様子を描いている。シリーズの第1作らしい。
軽いタッチで描きながら、心の奥深い部分にも触れるような作品を狙っているの
かもしれないのだが、僕にはあまり面白く感じなかった。主人公以外の登場人物が
型にはまった人物ばかりで、魅力的な人物がいないためかもしれない。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(23) ○ 一番じゃなきゃダメですか? (蓮舫:PHP研究所) 2010.6.25
蓮舫に関心のある方には非常にオススメです。
蓮舫の半生と政治家としての考えを、いかにも蓮舫らしく書いています。
蓮舫の半生としては、育った家庭環境、タレント時代の生活、報道への挑戦、
北京留学、出産、報道への復帰、そして政治家になるまでが書かれています。
政治家としては、事業仕分けを中心に、ツイッターやネット中継との関わりなど
にも触れています。
2月に懇親会で少しだけ彼女と話をした時に、TVや国会の時と同じ雰囲気を
強く感じた。外に出ている時は常に見られていることを強く意識して大変だな
とその時は思ったが、本書で「仕事をしているときの私とプライベートの私とは、
ほとんど同じキャラクターです」と言っている。特別無理しているわけではない
のかもしれない。
事業仕分けの時の事前準備についても書いている。資料を紙に印刷して
全部読み込む、と書いている。「読み込む」という言葉の「込む」に力が入って
いる。これは、2月にも聞いた言葉だ。
ここには非常に強い自負心が感じられる。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(22) □ 中島敦「山月記伝説」の真実 (島内景二:文春新書) 2010.5.13
本書の基本的な認識は次の2点だ。
@中島敦の「山月記」に登場する「李徴」は中島敦自身で、「袁サン」は第一高等
学校時代の友人である釘本久春、氷上英廣と読み取れる。
李徴の叫びは、中島敦の「己の作品を残してくれ」という叫びである。
A李徴の叫びを受けて、氷上英廣は中島敦全集の編集委員を務め、作品の
紹介に努めた。釘本久春は文部官僚として出世し、「山月記」の教科書への
採択に影響を与えた。
「山月記」を書いた時は無名だったし、「山月記」が世に出た年に中島敦は
病死している。友人として何とか世に出してやりたいという思いはあったの
だろう。でも、作者自身の境遇と作品の中身を強く結びつけすぎるのは
あまり良い読み方には思えないし、読むときにそういうことを思い出す必要も
ない。「山月記」は、中島敦の思いの有無にかかわらず、多くの人の心の奥底
にある未練や悔いを呼び覚まさせる力を持っているのだから。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(21) △ 永遠のとなり (白石一文:文春文庫) 2010.4.30
白石一文の作品はたぶん4冊読んでいる。読んでいる時はそれなりに
面白いのだが、後でどんな作品だったかを全く思い出せない。
どれもエリート風の出世した会社員が主人公で、どうも入り込みにくいことも
その理由の一つのような気がしている。
本書の主な登場人物は、40歳の時に肺がんになった「あっちゃん」と47歳で
うつ病になった「精一郎」である。二人は小学校、中学校の同級生で、48歳に
なった時も支えあっている仲のようだ。
ただ、結婚、離婚を繰り返す「あっちゃん」の心も、経済的に追い込まれている
「精一郎」の心も、今ひとつ伝わってこない。印象に残る場面や言葉もない。
どうやら白石氏とは縁がなさそうだ。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(20) ○ 「事業仕分け」の力 (枝野幸男:集英社新書) 2010.4.20
23日からの事業仕分け第二弾を前に出版された。著者は事業仕分け第1弾で
統括を務めた枝野幸男氏だ。現在は、行政刷新担当大臣で第二弾では責任者
になった。随所に第二弾での自信を感じさせる言葉がある。
事業仕分けが今までの政治文化を変えるきっかけになると強調している。
一つ目は、これまで国会議員の仕事は予算を獲得することと考えられてきたが
いかに減らすかというところに認識を転換させた点。
二つ目に、目的が重要なら非効率な税金の使い方でも許されてきたが、
目的の重要性と手段の効率性を区別して議論するようになる点。
三つ目は、事業は必要と主張する方に立証責任があると認識させた点。
興味深く感じたのは、今後の改善点として、評価人を国民から抽選で選んでも
良いと書いているところだ。
議論は国会議員や専門家にしてもらって評価を一般の国民がするというのは
非常に面白い。裁判員制度は選ばれたくないと言う人が多いようだけれど、
評価人なら選ばれたいと思う人は多いのではないか。国民も参加していく制度は
歓迎だ。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(19) ○ 食堂かたつむり (小川糸:ポプラ文庫) 2010.4.18
失恋のショックから声が出なくなった倫子は、おかんの住む故郷に戻り
食堂かたつむりを始める。客は1日1組だけ。そこで食事をした人は願いが
かなうといううわさが広がり、いろいろな人が訪れる。
前半は食堂にやってくる人の思いが中心に描かれ、後半はおかんとの
関係に話が移ってくる。
ふんわかした雰囲気だけでなく、しっかりした思いを感じさせる本で
好感を持った。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(18) △ ガンディーからの問い (中島岳志:NHK出版) 2010.4.16
2月に東京に行った際に、三省堂書店神保町本店に寄った。
帰ってきた後、三省堂書店のホームページを見ていると、「神保町の匠」という
書評のコーナーがあり、面白そうな本をいろいろ紹介していることを知った。
本書も「神保町の匠」で紹介されていた本である。
本書には「君は欲望を捨てられるか」というサブタイトルが付いている。
ただ、本書の中で直接「欲望」に関係するのは第三章「禁欲主義の矛盾」
だけだ。期待していた内容とは異なり、ガンディーの思想を浅く幅広く紹介
しているように感じた。
ガンディーは若い頃の反省から、あるとき禁欲主義になる。性欲抑制、菜食
主義、味覚の否定などに加え、西洋文明批判から、鉄道、弁護士、医者も
否定する。子どもが病気になった時も医者の言うことを聞かず、自分の信じる
方法で直そうとしたらしい。
本書にも、家族は不幸だったのではないかと指摘している通り、おそらくそう
だったのだろう。自分本位すぎるように見える人物がなぜ大きな影響力を持ち
えたのか、なぜインド人は彼を支持したのか。わからないことはたくさん残った。
インドもいつか調べないといけない。
(メモ)
・「インドはイギリス人にではなく、近代文明に踏みにじられているのです。」
・「非暴力は暴力よりも、もっと積極的です。」
受身であることの積極性
・「納得したら私たちはすぐに始めなければなりません。」
・ガンディーが祖国インドで独立運動を始めたのは46歳と遅い。
・「よいものはカタツムリのように進むのです。」
・イギリスが出したアウトカーストに一定の議席を与えるという法案に反対
→アウトカーストを特別扱いする法案を作ると、差別を固定化してしまう。
・ガンディーにとっての「自由」は、「欲望から自由になること」であって、
「欲望を自由にかなえること」ではない。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(17) △ クローズド・ノート (雫井脩介:角川文庫) 2010.4.12
大学生の女の子・香恵が、住んでいるマンションに残されていたノートを
通して成長していくお話。話は悪くないと思うのだが、心理の描き方に浅く
もう少し踏み込んでくれないと読んでいてつまらない。
たぶん著者の考えの範囲内に登場人物が収まってしまっているので、常に
著者に制御されていて意外なところが何も出てこないのだろう。著者を超える
ような迫力が欲しい。高いレベルを望みすぎかもしれないが。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(16) □ 中国的問題群1 党と国家 (西村成雄・国分良成:岩波書店) 2010.4.11
昨年岩波書店から「中国的問題群」というシリーズが刊行され始めた。
全部で12巻である。
出た時に購入を考えたのだが、なかなか実物を手に取ることができず
購入にまで至らなかった。2月末に神田神保町に行った時に本書を見て
これなら読めそうだと判断し、その後購入した。
しかし、残念ながら読んでみるとあまり読みやすい本ではなかった。
中国の歴史も人物の名前もあまり知らない僕にとっては、もう少し基本
的な説明を加えてほしかった。
さらに、時間の経過とともに、国家の形の変化した部分および不変の部
分を描くのが本書の目的と思われるが、それも把握しづらいように感じた。
知らないことだらけだから何度も読めばだんだんわかってくるのだろうが、
もうちょっと何とかなるだろうと言いたくなる本だった。
ポイント
・現在の共産党による政治の元は、国民党による国政(党国体制)にある。
・孫文は、軍政、訓政、憲政の3段階論を考えており、当面は党を国家の
上に置く必要性を強調していた。
中華民国は、国民党が国家を統治していたが、アメリカとの協調の必要から
終戦前後には憲政への移行を考えざるをえない状況にあった。
・中国共産党は国民党支配下では、複数政党が参加する政治協商会議
開催や民主連合政府樹立を求めていた。
・中国共産党は1950年ごろからソ連への傾斜を強め、一党支配になった。
(その後、ソ連から離れ独自路線に)
・中華人民共和国の歴代指導者は毛沢東、ケ小平、江沢民、胡錦濤の4人
だけ。
内容
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(15) □大量破壊兵器 廃絶のための60の提言 (大量破壊兵器委員会:岩波書店) 2010.3.19
本書によれば、大量破壊兵器委員会(WMD委員会)は、国連事務次長の
提案に基づき、スウェーデンの外務大臣の発議によって設立された。
委員長のハンス・ブリクスは、2003年のイラク戦争が始まった時、国連イラク
監視検証査察委員会の委員長として大量破壊兵器の査察に当っていた人物だ。
本書はWMD委員会が2006年6月に出した最終報告書である。
ということは、本書は査察が充分に受け入れられなかった経験を踏まえたものに
なっていると思われる。
日本語訳の出版は2007年9月。私が本書を買ったのは2007年12月。それから
2年余りが経って、アメリカ大統領もブッシュからオバマに代わった。
オバマ大統領の核兵器のない世界を目指すという演説で、世界に大きな希望を
与えたことは確かだ。でも、その方向性が固まったわけではない。日本では、
昔よりも「核の傘」という言葉が重みを増している。
しかし、日本を「核の傘」で守るということが正当化されると、中国も核で自国を
守る権利を有するし、北朝鮮やイランも核兵器で自国を守る権利を持つことに
なってしまう。どこかで、この考えを変えなくてはいけないことは明白だ。
本書の提言に奇抜なものは何も無い。進むべき方向はある程度決まっていると
いうことだろう。
まずは、核兵器を有する国が、核兵器の先制不使用(ノー・ファースト・ユース)を
宣言することから始めるべきだ。今、この宣言をしているのは中国だけだ。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(14) □ フリー (クリス・アンダーソン:NHK出版) 2010.3.11
最近学んだミクロ経済学によると、限界費用と価格が一致するところが
利益を最大にするところとなっている。
本書の基本的な考えは、インターネットなどで規模を大きくすると、限界費用は
限りなくゼロに近づくことから、価格ゼロはある種の必然だということのようだ。
フリーのビジネスモデルの4つの分類はわかりやすかった。
@直接的内部相互補助
(結局はみんなが何らかの方法でお金を払う)
例:DVDを1枚買えば、2枚目はタダ。
2年間の契約をすれば携帯電話端末がタダ。
A三者間市場
例:一般視聴者は無料でテレビを観て、広告主がお金を払う。
Bフリーミアム
例:基本ソフトは無料、プレミアム版は有料
C非貨幣市場
例:ウィキペディア・・・お金がもらえないのに情報を記載する
似た記述が多く出てきて、話が進んでいる気がしないのは残念。
ただ、確かにそういう例はあるな、という箇所はいろいろあった。
でも、一部の人だけの例に感じられる箇所もあった。例えば、曲を無料で提供し
聞く人が増えてコンサートで儲けたというグループが紹介されていたが、業界
全体で見れば、CD売上げが減る分は補えないように感じる。
今からはいろんなビジネスモデルが登場してくるのかもしれない。
それはフリーなのか、逆に有料化なのか。
それに応じて経済学は変わるのか。
その動きが、今までの経済学に欠けていた分配の公平性に向うものなら
歓迎なのだが。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(13) ○ 空白の戦記 (吉村昭:新潮文庫) 2010.3.4
吉村昭氏の作品はレベルの高いものが多い。
とにかく事実と思われる事件の内容がすごい。
『艦首切断』は、昭和十年に台風に遭遇した駆逐艦「夕霧」と「初雪」の
艦首が波により引きちぎられ流出した事件を扱っている。
流出した部分は、船の全長の3分の1から4分の1程度なので、大変な
ことだ。こういう事件があったことも初めて知って驚いたし、こんな状態で
沈没しなかったことにも驚く。
離れてしまった艦首部にも人は乗っていた。その部分は転覆した状態で
浮かんでいるのが発見されている。他の船で曳いていこうとしたが、
波の高い状態ではワイヤーが切れてしまった。そのうち、「夕霧」の
艦首部は沈んでしまった。
「初雪」の艦首部には、中央から「適当に処分」せよとの命令が下った。
それは機密情報を消滅させるために沈めろという命令だった。
艦首切断の原因は、新技術として採用され始めていた電気溶接の強度
不足だった。
この技術はアメリカ・イギリスも採用していたので、そのうち敵艦隊に大事故
が起こると期待されていたようだが、小さな事故しか起きなかった。
それだけ、「夕霧」や「初雪」が遭遇した波はすごかったと著者は書いている。
『転覆』:昭和9年に起こった水雷艇「友鶴」の転覆事故での艦底からの
人員救助について書いている。乗組員113人中生存者は13名
『敵前逃亡』:この作品はフィクション。捕虜から解放されて、戦力になるべく
戻ろうとする少年
『最後の特攻機』:8月15日正午の玉音放送の後、午後4時に特攻に出た
宇垣海軍中将ら23人の話。
『太陽を見たい』:沖縄本島から5キロの距離にある伊江島で、アメリカ軍
上陸から洞窟から出るまでを描いたフィクション
『軍艦と少年』:戦艦武蔵建造中に発生した設計図面紛失事件と犯人の少年
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(12) ○ ミクロ経済学 第2版 (伊藤元重:日本評論社) 2010.2.28
昨年の11月に中級レベルとされるミクロ経済学の教科書を買って読み始めた。
それなりにわかるので読み進み、ページ数では8割くらいまで進んだ。しかし、
どうも理解できているという実感が持てなかったので、急がば回れかと思い直し
初級とされる本書を購入し、再スタートを切った。
本書は非常にわかりやすい。数式は用いていないが、グラフが適切でとても良い。
今頃、教科書を読んでどうする?という思いも以前はあったが、今は今後きっと
役立つと思って学んでいる。
(メモ)
Part1 :需要と供給の理論
[第1章 需要と供給]
需要曲線、供給曲線
(例)白菜の豊作貧乏、鉄道開設と地価、消費税の負担者
[第2章 需要曲線と消費者行動]
需要の価格弾力性、消費者余剰
(例)石油輸出国の供給量制限による日本の石油輸入量変化
[第3章 費用の構造と供給行動]
供給の価格弾力性、総費用、限界費用、平均費用、生産者余剰
[第4章 市場取引と資源配分]
限界的評価、限界費用、総余剰最大
(例)米価問題、間接税、自由貿易の利益
Part2 :一般均衡分析
[第5章 消費者行動の理論]
無差別曲線、限界代替率、予算制約線
[第6章 消費者行動理論の展開]
需要の所得弾力性、代替効果と所得効果
(例)労働時間と余暇時間
[第7章 生産と費用]
生産関数、等費用線、等量曲線、利潤最大化行動
[第8章 一般均衡と資源配分]
ボックスダイアグラム、パレート最適、効用フロンティア
Part3 :ミクロ経済学の展開
[第9章 独占の理論]
平均収入曲線、総収入曲線
[第10章 ゲーム理論]
[第11章 市場の失敗]
ピグー税、費用逓減産業
[第12章 不確実性とリスク]
ギャンブラーと堅実主義者、リスクプレミアム、セントペテルスブルクの仮説
[第13章 不完全情報の経済学]
[第14章 異時点間の資源配分]
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(11) □ キンドルの衝撃 (石川幸憲:毎日新聞社) 2010.2.28
本はできるだけ本屋で実物を見て買いたい。実物を置く本屋で買わないと
本屋さんが置いてくれなくなることも恐れている。しかし、欲しい本を探しても
置いていないことが多く、どうしてもアマゾンで購入することが多くなっている。
その結果、僕にとってアマゾンは非常に身近な存在になっている。本だけで
なく電気製品を買うことも結構ある。
ただ、アマゾンとはどういう会社なのかをあまり知らないので興味があったことと
電子書籍は今後どうなっていくかを知りたくて本書をアマゾンで購入した。
書籍よりも新聞の記述が多く、ちょっと期待と違っていた面はあったが、いろんな
ことが書かれていて参考になった。
また、アマゾンの創業者のベゾス氏が、端末が気にならなくなって読書に集中
できることが望ましいという意味で「キンドルは消えなくてはならない」と語った
言葉が印象に残った。
(メモ)
・米国の郊外での新聞配達は大まか。配達員が車を降りずに車窓から投げる
ので歩道わきに着陸する。(・・・・本当?)
キンドルを使えば、朝起きたらその日の新聞がダウンロードされている。
・2004年 LAB126という名のベンチャー企業立ち上げ。
アップルやパーム(PDAメーカー)出身の技術者を中心に研究開発
3年で実用化に成功した。
・キンドルの販売台数は2007年以降、250万台前後と推測される。
2009年の販売台数は200万台、2010年には350万台に達すると予想される。
電子書籍を含めたキンドルの売上げは140億ドル(08年アマゾン売上げの4%)に
なる見通し。
・アマゾン創業者ジェフ・ベゾスが語ったキンドルの設計哲学
「本の最大の特色は、読み始めると消えてしまうことだ。本を読んでいる最中に
インクや糊や紙や綴じは気にならない。著者の世界にはまり込むわけだ。
4年前にキンドルを開発し始めた時にデザインの第1目標にしたのが、この
コンセプトだ。キンドルは消えなくてはならない。そうしないと読者が著者の
世界に入れないことになる。」
・キンドルの斬新さは、3Gワイヤレス機能の搭載。無線ネットワーク経由で電子
書籍や新聞・雑誌をダウンロードできる。ダウンロードは1冊60秒以下。
読書に必要な辞書内蔵。ウィキペディアでのチェックも可能。
著作権の切れた本は無料でダウンロードできる。ほとんどの本は9ドル99セント。
・キンドルは読者だけでなく、著者、出版社も変えるかもしれない。
通常、企画から出版まで1年半要している期間を大幅に短縮すると予想される。
・バーンズ&ノーブル(米大手書店) 2009年10月に「NOOK」発売
入力用タッチパネル、MP3プレーヤー装備
iRex(フィリップス系)、プラスチックロジック(シリコンバレーのベンチャー)とも連携
・iRexは399ドルのタッチパネル型電子書籍端末をアメリカで発売予定
ベストバイが販売、ベライゾン(大手通信事業者)が無線ネットワークを支援、
バーンズ&ノーブルが電子書籍を提供。
カラー端末を開発中。2011年までの商品化を予定。
・ソニー「リーダー」
・プラスチック・ロジック「Que」:プラスチック製
・スキッフ(ベンチャー):雑誌向け大型カラー端末を開発中
・規格の統一化が将来の課題。キンドルとヌックではデータ形式が異なる。
・将来の電子書籍の担い手として、教科書が挙げられている。
米市場では教科書市場が全体の売上げの41%を占める。
[新聞]
・新聞社のウェブサイトの利用者は驚くほど多いが、ビジネスとして成立していない。
・キンドルで週刊「ニューズウィーク」が月額1ドル49セント
(・・・日本語版が1冊450円で売っている。月4冊だと1800円。比べると圧倒的に安い)
・米国の新聞発行部数は長期低落傾向。
現在の発行部数は4840万部で1985年より1500万部減少。
・米国の新聞は、広告収入が総収入の80%を占める。(日本は30%)
広告収入は06年から前年割れ。
インターネットに広告を取られている。一例が「クラシファイド広告」(求人、中古車・
不動産売買の地域・目的別に分類された広告)
・新聞社の生き残りをかけてペーパーレス化が検討されている。
方策は、@ウェブサイトの有料化、Aウェブ無料化による広告収入増加、がある。
(*日本の新聞社のウェブサイトは印刷版の一部だけを掲載しているにすぎないが
ニューヨークタイムズなどは印刷版以上のコンテンツをウェブサイトに掲載している)
ウェブサイトの無料化は今までに行われてきたが、収益が低かった。
ウェブサイトを有料化すると、アクセス数が減少し、広告収入が激減することから
総収入が減少してしまう可能性がある。
このために、キンドルのような電子端末による課金を検討している。
[アマゾン]
・創業1994年。
創業者ジェフ・ベゾス。1964年1月生まれ。ヘッジファンドに就職し新規ビジネス
開拓を専門にし、インターネットを用いた商売を考えていた。
・2003年に初めて通年での利益を計上。
・「安定した戦略は、わが社の顧客は何を必要としているのかという問いから出発して、
その次に我々にはどんなスキルが欠如しているかを検討することだ。」(ベゾス)
[将来シナリオ]
・一つのシナリオ:専用端末の爆発的人気によりメディアのデジタル化が新次元に突入
専用端末の電子版は有料
→無料だったウェブサイトが有料化、または閉鎖
→検索エンジンにとって死活問題(複数ニュースを集約していた)
→グーグルなどが自身でコンテンツ・プロバイダーを持つ道を選ぶ
→新聞社等を買収
(ニューヨークタイムズの時価総額はグーグルの1%程度しかない)
→新聞社等がペーパーレスのデジタルメディアへと大変身
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(10) □ ルポ 貧困大国アメリカU (堤未果:岩波新書) 2010.2.20
2008年初めに読んだ「ルポ 貧困大国アメリカ」は衝撃の本だった。
「ルポ 貧困大国アメリカ」読書記録
サブプライムローン、肥満、医療、教育がそれぞれ戦争へと向かう
道筋となっていることが説得力ある文章で示されていた。
本書はその続編として、ブッシュからオバマに大統領が変わってからを
書いている。ただ、問題が複雑化しているせいなのか、どうすべきかの
方向が見えてこない。
(学資ローン)
国営だった学資ローンが民営化され、金儲け優先になり返済に苦しむ学生が増加
・学資ローンは1965年高等教育法改正により作られた制度(ジョンソン大統領)
1972年 金融機関から学資ローン債権を買い取る「サリーメイ」導入
サリーメイは完全国営(財務省管轄)だが、株公開。
・レーガン政権で公的教育予算は半減。学資ローン限度額は引き上げ。
サリーメイは政府保証学資ローンの3分の1を所有。
利益を伸ばすサリーメイに批判の声
・1993年クリントン大統領が、学生が直接国から融資を受けられる法に署名
利子の安い政府直接ローンプログラム(FDLP)が学生に人気。
・1995年 サリーメイのCEO反撃開始。サリーメイ完全民営化。
大学に多額の寄附、接待で、学生をサリーメイに誘導
1995年から2000年の5年でサリーメイの株価は1700%上昇。
・ブッシュ政権下で議会はFDLP予算凍結、サリーメイへの補助金拡大
FDLPシェアダウン、サリーメイ拡大。
・延滞の利かない学資ローンは延滞すれば利子が膨れ上がる。
不良債権化したローンは他の金融機関に売却され、サリーメイを離れる。
380万円→800万円(3年後)
・学資ローンには消費者保護法が利かない。
自己破産した場合の免責からも外れている。
・オバマ大統領の提言
政府保証の民間ローンを廃止(サリーメイへの補助金なくなる)
学資ローンはFDLPに一本化。ペル奨学金の年間援助額を500ドル増額
否定的意見と期待する意見がある。
(崩壊する社会保障)
・GMの退職者は、GMの提供する医療保険と企業年金を受け取っていた。
医療保険は無料で、歯科と眼科も適用。企業年金は27万円(2001年退職者)
・GM破産適用申請時、GMは退職者への医療保険提供を停止
高齢者用公的医療保険(メディケア)に移行。
掛け金(毎月夫婦で16000円)と処方薬代が自己負担に。
また、年金6割減(月の年金11万円)。
(医療改革)
オバマの医療改革の方向は国民皆保険制度ではなくなっている。
・ロサンゼルス南部のイングルウッドでの「フリー医療フォーラム」
無料で治療してもらえるイベント。内科、歯科、眼科の診察。
1週間で数千人が治療に訪れた。
・カリフォルニア州は財政破綻のために、メディケイド(低所得者用公的医療
保障)から歯科と眼科の適用を外した。
アメリカ全体で、歯科医療保険を持っていないのは3人に1人。
・アメリカの公的医療保険制度は、メディケアとメディケイドの2つ。
無保険者の大半は、65歳未満でメディケイドの受給資格を満たすほど貧困
ではない者。
・2009年に医療費が払えずに破産を申請した国民が90万人。そのうち75%は
医療保険を持っている。
・日本などの先進国の多くで採用されている単一支払い皆保険制度。
オバマ大統領もこれを導入すると言っていたのに、案から消えている。
・製薬業界がオバマの医療改革に支持を表明。
オバマとの間で、医薬品価格を10年間で800億ドル値下げすることで合意。
しかし、10年間の薬の総額は3兆6000億ドル。値下げはわずか2%でしかない。
しかも、代わりにメディケアの処方薬に関する値引き交渉を10年間見送ることに
なった。
(刑務所という巨大労働市場)
民営化された刑務所が囚人を安価な労働力として使って儲けている。
・ニューヨーク州のスリーストライク法は、犯罪者が3度目の有罪判決を受けると
自動的に終身刑にするという法律。
・アメリカの民営刑務所は19世紀までは普及していたが、劣悪な環境が問題になり
19世紀末にはほとんどの州で廃止された。
・1990年に5箇所だった民営刑務所は、10年間で100箇所以上に増加し、巨大
ビジネスに成長した。(2007年民営刑務所の収容人員10万人以上)
背景は市場至上主義の熱気と、連邦と州の財政難。
・安価な労働力として囚人労働者にスポットが当った。
第3世界並みの低価格で国内アウトソーシング。
業種は、電話交換手、一般データ入力、お客様苦情センター、電話予約係など
・電話交換手をインド人の労働者に外注すると、初任給で月額16000〜20000円で
昇給もある。
カースウェル刑務所で囚人労働者を雇えば、月額3600円〜最大でも18000円。
・パソコンの解体作業もやっていたが、有害物質の危険があり市民の講義を受けた。
リサイクル作業を依頼していたDELL社は契約を取り消した。
・連邦刑務所囚人数160万人、地方刑務所72万人。
全米で135人に1人が投獄されている。
・全米の刑務所運営維持費用は年間570億ドルを超え、教育予算420億ドルを上回る。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(9) ○ ゲーデルは何を証明したか (ナーゲル、ニューマン:白揚社) 2010.2.10
ゲーデルに関係した本は最近何冊も手にしたが、入門書としては
これが最適だと思う。入門書といっても決してレベルは低くなく、
もう少し説明してくれなくてはわからないところも多々ある。
けれど、おそらくそれを説明すると、混沌としてきて最後まで読むに
耐えないかもしれない。
基本から数学基礎論を学ぶ前に本書を読むことができたことで
少しは見通しよく学んでいけるのではないかを思う。
本書で初めて「ゲーデル数」というものを知った。これはすごい。
自然数論における全ての証明の一つ一つに番号をつけてしまうのだ。
どんな証明があるかの内容は問わずに、番号をつけてしまうなんて
そんなことができてしまうことが驚きだ。凄すぎてどう伝えてよいか
わからない。
[ゲーデル数]
まず、証明に用いる記号に番号を付ける。
@否定やイコールなどの「定項記号」に1から10の番号を付ける。
A数詞に10以上の素数の番号を付ける。
B文変項に10より大きな素数の2乗の番号を付ける。
C述語変項に10より大きな素数の3乗の番号を付ける。
例えば、(∃X)(X=sY)という式を考える。sはyの後続者を示す定項記号で
この式は、’Yの後続者であるXが存在する’ということを意味する。
この式に使われる記号は@〜Cに基づいて番号が付けられている。
つまり、 ’(’ :番号8、’∃’:番号4、’X’:番号11 というように番号が
定められていて、以降、9,8,11,5,7,13,9となっているとする。
各番号を小さいほうから並べた素数の指数とし、
28×34×511×79×118×1311×175×197×2313×299
と書く。
これがゲーデル数だ。全ての式がゲーデル数で表される。
さらに、ある証明を考えると、証明にはいくつかの式が続いている。
4つの式で証明が終わる場合、各式のゲーデル数を、m、n、p、qとすると
この証明のゲーデル数を
2m×3n×5p×7q
とする。すると、全ての証明がゲーデル数で表されることになる。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(8) △ 真鶴 (川上弘美:文春文庫) 2010.2.5
川上弘美の作品を読むのは、2005年に読んだ「古道具 中野商店」以来で
もう4年以上も前になる。
この作品は2006年10月に単行本として出版されているので、「古道具 中野
商店」を書いた翌年くらいの作品と思われるが随分と異なった作風となって
いる。
夫が10年以上前に失踪した40代の女性が主人公である。不思議な感覚は
初期の作品と同じなのだが、初期の作品にあった明るさがなくなっている。
何か暗い。最後は吹っ切れたような様子で終わっているが、読者はすっきり
しないと思う。
そういう意味において、「熊にさそわれて散歩に出る」とさわやかに書いていた
作品がなつかしく思える。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(7) □ 「無限」の考察 (足立恒雄:講談社) 2010.1.31
図書館で借りた本を最後まで読んだことはほとんどなかったが、本書は
比較的読みやすく読むのに時間がかからなかったので図書館で3分の
1ほど読み、残りを家で読んだ。
「解析における無限大」「幾何における無限大」「集合における無限大」と
いう3章から成っており、特に、最近関心を持っている「集合における無限
大」に面白い記述を求めて読んだ。全部が理解できたわけではないけれど
なかなか面白かった。
「幾何における無限大」は1対1対応の話が興味深かった。球面を平面に
置き換えるということは世界地図を描く場合に重要で、むかし社会で習っ
たいろいろな手法がある。
球を円筒で覆い中心から球面状の1点を結ぶ直線と筒との交点を描いて
いき、筒状の紙を広げれば世界地図ができる。ただし、北極、南極は円筒
上の点を対応しないので円筒と別に無限遠の点を2つ用意する必要がある。
また、南極点で接する平面を考え、北極点から球面上の点を結ぶ直線と
先の平面との交点を描けば別の地図ができる。ただし、北極点に相当する
点は平面上に存在しないので、別に無限遠の点を1つ用意する必要がある。
このように、異なる図形の点が1対1対応すれば、2つの図形は「同相」で
あると言うそうだ。
何でも同相になるかと言うとそうではなく、ドーナツとボールは同相ではない。
1対1対応というのは数学での分類としては非常に重要らしい。
たとえば、上で地図を描いた方法を逆に用いると、無限の広さを持つ平面
+無限遠点1つを球面で置き換えることができてしまう。
この発想はたしかに面白いと思う。
「集合における無限大」は、普通の生活からは大きく離れた面白い考え方が
いろいろある。
たとえば、
自然数の集合{1、2、3、・・・}と、自然数を2乗した数(平方数)の集合
{1、4、9・・・}を考えると、平方数は自然数の中に含まれ、平方数でない
自然数は多数あることから、自然数の数は平方数の数より圧倒的に多い
ように見える。
しかし、1に対して1×1、2に対して2×2、3に対して3×3とペアにすると
平方数は自然数と同じ数だけあるようにも見える。
ここから、ガリレオが「等しい、多い、少ないという属性は有限量にのみあって
無限量にはない」と指摘しているというのだから発想がすごい。
こういったことを踏まえて、全体集合が部分集合との間に1対1対応がつく
場合、全体集合を無限集合と呼ぶのだそうだ。
そして、有限集合の定義は、「無限集合でないこと」となっている。
こういう定義の仕方は、集合論で有名なカントールの理解者であり優秀な
数学者であったデーデキントの業績と言うことだ。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(6) △ しがみつかない生き方 (香山リカ:幻冬舎新書) 2010.1.26
昨年後半に出版され、よく売れているのは知っていた。でも、何となく安直な
気がして手に取らないでいた。
それなのに、2週間前の仕事帰りに田原本の宮脇書店に寄った時、ふと手に
取って買ってしまった。
本書が話題になったのは、最終章のタイトルが「<勝間和代>を目指さない」と
なっていることが最大の理由のようだ。
勝間氏の本は1冊も読んだことがないので、批判する資格はない。ただ、「断る
力」なんてタイトルの本を見ると、「引き受ける力」や「引き受ける勇気」が普通の
人にとっては先のはずなのにと思い、読んでみようという気になれなかった。
さて、本書の話に戻る。言いたいことはある程度わかる。特にお金に成功を求め
る風潮に対しての批判は賛同できる。でも、そうするなと言うだけでは何も変わ
らないのではない。読んだ人にこうしてみようというインパクトを与えなくては
本を書いた意味がないのではないか。
勝間氏の本が売れているのはひょっとしてそういうインパクトを持っているから
かもしれないと、香山氏の本を読んで思った。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(5) □ 不完全性定理 (ゲーデル:岩波文庫) 2010.1.21
ゲーデルが1930年に書いた論文が最初の46ページに載っている。
これはわからないという以上に、全く読めない。日本語訳なのだが
記号、言葉そしてそれらの繋がりを目の前にして手も足も出ない状態だ。
それで昨年あきらめたのだが、論文の後に解説が240ページほどあり
少しは雰囲気がつかめそうだったので無理して読んでみた。
何を学べば理解できるのかを知りたかったのだが、本書の解説を
読んでもそれすら未だわからない。解説も前半は何となく読めたが、
後半は文字の上を目が追っているだけで何も理解できなかった。
とにかくわからない。でも不思議と何かわくわくするものがある。
わかったからといって何も役に立たないかもしれないが、それでも
人間の到達した限界領域にあるこの成果を知らずにはいられない。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(4) □ バスジャック (三崎亜記:集英社文庫) 2010.1.16
昨年、三崎亜記の「となり町戦争」を読んだ。となりの町との戦争が
始まるが戦争が本当に行われているかどうかさえわからない。にも
かかわらず戦争に巻き込まれていく人を描いていた。
本書には7つの作品が収められているが、どれも普通とは異なる設定が
なされていて、それを認識し受け入れるまでにある程度ページ数を読ま
ないといけない。本書が読みやすく書かれている割には読んで疲れる
のはそのためなのだろう。
記憶がなぜか異なっている2人の結びつきを描いた「二人の記憶」は
読後感が良い。
大事な人の喪失を受け入れる過程を変わった形で描いた「送りの夏」も
まずまず。
「二階扉をつけてください」「動物園」も悪くない。
ただ、何か物足りなさを感じる。もう一歩、深いところに到達して欲しい
気がする。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(3) △ はじめての言語ゲーム (橋爪大三郎:講談社現代新書) 2010.1.11
いっぱい書かれているけれど、確かなことは何も理解できなかった。
どこかを読み直せば理解できるのかもわからない。
ただ、ウィトゲンシュタインという哲学者の名前を覚えたことは今後に
多少影響があるかもしれない。
*ウィトゲンシュタインの思想については、「問いの魔力(表三郎著)」を
見直すとうまく整理されていた。以下に抜粋しておく。
・(ウィトゲンシュタインは)言葉というのは世界の写像だと考察している。
写像というのは数学の用語で、二つの集合があったとき、一方の集合の
各元に対し、もう一方の集合の元を一つ指定して結びつける対応関係の
ことを指す。ごく簡単にいえば、関数などに見られる1対1対応のような
ものだ。
つまり、言葉というのはこの 世界に存在するさまざまなものに、1対1で
きちんと対応しているということである。
ところが、実際の言葉には「現実には対応していないもの」もある。その
代表は、神の存在や善悪といったものだ。
ウィトゲンシュタインは、こうした現実に対応していないものは正確に語る
ことができないのだからという理由で「語りえないものは語ってはいけ
ない」 とした。
・ウィトゲンシュタインが「論理哲学論考」でいいたかったのは、語りえない
もののほうではなく、「言葉というものは、実在感のみをとらえることが
できる」ということなのだ。
・(どこかに矛盾を感じ、哲学者をやめ、小学校の教師に転向)
・彼は校庭で子供たちがボール遊びをしているのを見ていて、あることに
気づいた。
それは、ボール遊びをしている子供たちが、遊んでいる最中にいう「ボール、
ボール」という言葉と、それ以外の人がいう一般的な「ボール」とでは、言
葉の意味がまったく違うということだった。
子供たちが遊びながら使った「ボール、ボール」という言葉は、「ボールを
早くこちらに投げてよこせ」という意味を持っている。しかし、遊びに参加して
いない人、つまりそこにあるボール遊びのルールを知らない人のいう「ボー
ル」は、たんなる物としての意味しか持たない。
このことに気づいた彼は、それまでの、1対1対応で世界の諸現象に対応
するのが言葉だという自説が間違っていたことに気づく。そして、言葉その
ものに意味など内在しない、言葉とはゲームの規則のようなものだったのだ、
と考えるようになっていく。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(2) □ 大臣 増補版 (菅直人:岩波新書) 2010.1.11
1998年に厚生大臣だった経験をもとに旧著を出版し、昨年の政権交代後、
民主党政権の進めている改革を追加して新著としている。
官僚依存からの脱却、政治主導というのは、かなり大変なことだというのが
本書から伝わってくる。
昨年12月に本書は出版されたが、財務大臣になった今、菅氏の考えを
知り行動を見る上で実にタイムリーな出版となった。
(メモ)
・内閣が官僚にコントロールされている理由の一つは歴史にある。
内閣は明治18年創設。帝国議会は明治23年創設。
官僚制度は内閣よりも古い。
このため、官僚が先に国の統治権を握っており、新憲法後も
官僚意識は変わらなかった。
・「イギリスでは大臣室は各省の役所の中にはなく、国会内にある。」
「国会内閣制を名実ともに構築するためには、意外とこのような単純な
ことから始めるほうが分かりやすく、内閣の実質を変えることになるの
かもしれない。」
・「日本には大臣に国会出席義務があるが、イギリスには答弁のため
の出席義務はない。」
・「(イギリスでは)クエスチョンタイム以外は、基本的には総理が国会で
答弁することはない。」
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|
|
(1) △ マインドマップが本当に使いこなせる本 (月間ASCII編集部) 2010.1.4
会社でマインドマップの話が出たので少し調べてみようと思い、
アマゾンで1冊買ってみた。
本書のサブタイトルは「ペンとノートで発想を広げる”お絵描き”ノート術」
となっている。
マインドマップとは何かをあまり知らないのだが、中心にイメージ図を
描いて枝を伸ばして書きながら自由に発想していくというものらしい。
中央のイメージ図を時間をかけて描き、カラーペンで色をたくさん使い、
文章は用いず単語だけを枝の上に載せていく。
知的作業を伴うものなら何にでもマインドマップを用いることができる、
というのだが、どうも怪しい。
例として示されているマップによって、どういう発想が新たに生まれてきた
のかが全くわからない。数十個の単語が枝の上に描かれているだけで
どこに脳が活性された成果が出ているのか不思議だ。
このマップは自由な発想というより、普段整理していないことを整理する
のに向いているのではないだろうか。
例にあった中でやってみようかと思ったのは、「1年の計画」と「本の内容
整理」の2つだ。ともに、新たな発想を得るという目的でなく、情報整理だ。
別にマインドマップである必要はないかもしれないが、単なる表よりは遊び
感覚が入るので良いように思う。
なお、本書に掲載されているマップを見ても、描いた人の考えは全く伝わって
こない。おそらくグループでマインドマップを用いる場合の最大の欠点は、
他人が書いたマインドマップは全く理解できないということだろう。
2010読書記録トップへ 内容一覧トップへ
|