自衛隊秘密漏洩 :2007.2.18
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2月16日の夕刊に、「自衛隊警務隊 秘密漏洩一等空佐を聴取」という記事があった。
これは、中国海軍の潜水艦が南シナ海で事故を起こし航行不能になっていると、2005年
5月に読売新聞が記事にしたことについて警務隊が捜査し、この情報を提供したのが防
衛省情報本部の一等空佐だったとみて自衛隊法違反(秘密漏洩)の容疑で調べている
ということだ。警務隊というのは、自衛隊内の警察組織らしい。なお、今のところ読売新聞
の記者への捜査は行なわれていないようだ。朝日新聞は、「報道機関側への情報提供者
をめぐる捜査は極めて異例で、国民の知る権利や報道の自由との兼ね合いで議論を呼び
そうだ」と書いている。
議論を呼びそうだと書かれているが、本当に議論が行なわれるかというと疑問がある。
秘密漏洩はいけない、ということで収まってしまうのではないか。
記者に対する捜査は行なわれていないとされているが、今後はわからない。過去には情
報を入手した新聞記者が起訴され有罪となった事件がある。
それは1971年の外務省機密漏洩事件だ。たまたまだが、この事件について澤地久枝氏が
1978年に書いた「密約 外務省機密漏洩事件」という本を今年読んだので、紹介する。
外務省機密漏洩事件というのは1971年の次の事件である。
1972年の沖縄返還に先立ち、前年6月に沖縄返還協定が調印された。この協定では日本
からアメリカに支払うお金とアメリカが日本に支払うお金があった。このうちアメリカが支払う
400万ドルを日本が肩代わりする密約があるのではないかと問題になった。社会党が密約文
書を入手し国会で追及するが、当時の佐藤内閣を追い詰めることができなかった。逆に、密
約を示す外交文書を女性外交事務官が毎日新聞記者に渡していることが発覚し、問題が2人
の男女関係へとすりかえられていった。そして国家公務員法の機密漏洩で起訴され、裁判では、
1審では記者無罪、事務官有罪。しかし記者に対する無罪を不服として検察が控訴し、2審有罪。
記者側は上告したが最高裁上告棄却で有罪が確定した。
つまり、報道側で情報を入手した新聞記者が起訴され、結局有罪となった事件である。1971年
の事件は、政府の密約という問題と絡んでいたことが今回の問題と異なるところではあるが、
公務員から新聞記者への情報提供による機密漏洩容疑という点では共通点がある。
1971年の事件では、密約を結んだ側が本来裁かれなければならないのに、その密約があったか
どうかも明確にされないまま、男女関係へと焦点をずらされてしまっており、昨年岩波現代文庫
として再刊された時のあとがきの最後に澤地は次のように書いている。
「本質を見抜けず、すりかえを許した主権者の責任は、現在の政治情況の前に立つ私たちに
示唆と教訓をのこしているはずである。」
防衛省が秘密情報管理を強化するのは当然と言えば当然だろう。しかし、適用範囲が少しでも
広がり新聞記者に対する動きが出てきたならば、抵抗しなくてはいけない。どこまでも後退して
いてはいけない。