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No.5 既存木造住宅の耐震診断の現状

2003年2月


C接合部

旧建築基準法では、仕口・継ぎ手の部分において、その存在応力を伝えるように「緊結しなければならない」とされていたが、その具体的な方法が規定されていなかった。

阪神・淡路大震災では、筋かいや柱ホゾが土台より抜け出して、壁が壊れたり、梁が外れたりして建物が倒壊した例が多くあった。

その理由を下記に説明する。



・筋かい接合部廻りの問題点




筋かいによる突き上げ


上図に示すような場合、柱脚にしか金物がないので水平力が作用する仕口部分で筋かいが突きあがり柱ほぞが抜けて壊れてしまい、筋かいの性能が発揮できない恐れがある。

また水平力は左右から加わるので、上図の場合反対側から力が作用すると引張筋かいとなるが、筋かい仕口に、その筋かいに対応した筋かいプレートがないとその引張力に抵抗できない。

改正建築基準法では筋かいプレートで仕口金物が規定され、さらに筋かいが取り付く柱と横架材の接合金物が規定され、筋かいの性能が発揮されるように改善された。

旧建築基準法では、筋かいの形状が規定されているだけであったので、実際の現場でも仕口金物の存在は「無」に等しいのが、現実であった。

一方、現在行なわれてる耐震診断法は、金物の有無や、すじかいの向き等実際の耐力に影響する要素が反映されていないので、危険性を含んでいる。




地震で倒壊した住宅に多く見られた、筋かいの釘1本止め。

このままではとても危険なことは、震災が証明している。





柱脚金物を取り付けるために、筋かいが欠き込まれてる。

これでは折角の角筋かいも、意味がない。



・その他の接合部

土台と基礎や、土台-柱、柱-梁接合部といった構造上重要な大きな力が生じる箇所にも金物が無い場合がみられる。

また、1階柱の直下に基礎人通口を設けるような、構造耐力的によくない施工がしばしば見られることもある。

細かい点で言えば、筋かいのかわりに使用する構造用ボード類を止めつける釘の類も正しい施工を行わなければ、所定の耐力を発揮できない。







上記の図が現実に行なわれている現場の写真

釘と合板の縁との距離がほとんどなく、おまけに釘が板にめり込んでしまっている。

釘の縁距離は最低20mm以上確保することが望ましい。



金物が必要な理由

まず、金物が必要な理由を説明しよう。

ホゾ差しなどの接合部を見てもらえればわかるが、一般的な木の接合部は引張に弱い。

そのため、引張力が生じる場合は金物などで補強しなければならない。

引張に抵抗できる木の接合部は形状がややこしいか、耐力が低い。

現在多く使われているのは柱では込み栓、梁では腰掛け鎌継ぎ程度が主であるが、引張耐力がそれ程大きくないので金物が必要とされる場合が多い。




柱の引抜きに抵抗する金物

木造軸組工法の建物は、地震力・風圧力に対しては耐力壁で抵抗する。

このときに、力の釣り合いにより柱に引き抜き力が生じる。




釣り合いによる柱の引き抜き力

つまり、引張力を処理できる金物がないと、構造上有効な床や壁が成り立たず、建物が成立しないのである。

このように、建物に生じる力は純粋に物理的な力のつりあいに支配されているので、引張力を伝達するために必要な金物は減らすことはできないのである。

耐震調査において特に耐力壁廻りの接合部及び、水平構面と鉛直構面への接合部において、水平力に対して有効に機能しない状態にあるのがほとんどの木造軸組み住宅で見られる。

それでもそのような接合部の評価を正しく評価しないで、耐震診断を行なっているのが現状である。

さらに、一般の設計者及び施工者は、耐震補強として、高倍率(4.0〜5.0倍)の耐力壁をつけることが耐震的になるのだと思い込み、接合部廻りの金物補強はほとんど付けないまま、施工を行なっている場合が多い。

また、無筋基礎に対し、「耐力壁を増強するのであれば、ホールダウン金物で接合部を補強するのが常識だ」と言って、基礎性能のことを考えずに補強している場合も少なからずある。

そういうほとんどの人達の口から出てくるのは、「テレビでやってるドラマチックなリフォーム番組なんか、耐震のことをまったく考えていない」などと、自分たちはそういった種類のお化粧直しのリフォームとは違うと自負しているようだが、どうも50歩100歩と見えて仕方がない。

震調査・耐震診断・耐震補強・補強後の評価の4項目は、本当は非常に高度な木質構造技術を必要とするエンジニアの領域であり、それが確実に行なわれている事例は非常に少ないと思われる。



新築における改正建築基準法で接合金物が増加した理由

次に、建築基準法改正以後、接合金物が増えた訳を説明しておく。

改正建築基準法前の壁量規定では接合部における規定が曖昧だった。

さらに近年における構法の変化・多様化により仕様が実情に合わなくなってきたため、修正・補足が行なわれた。

その結果として不足していた金物が追加され、仕様規定では以前より接合金物が増えたのである。

以下に、柱頭柱脚金物と梁端の金物について、簡単な説明を述べておく。



柱頭柱脚金物

改正建築基準法では、木造建築の様々な形態の変化に対しても安全性を確保するために、耐力壁の靭性を確保する、壁体先行破壊の考え方が導入された。

筋かいと面材との組合せなどの、変形の性状が違う要素を組み合わせている場合や、偏心により建物が振り回されて部分的に変形が進行する場合など、耐力壁に充分な靭性(ねばり)がないと変形の進行した部分が先に破壊してしまう。

特に柱頭・柱脚金物が破壊すると急激に耐力が低下して危険である。

そこで、耐力壁に十分な耐力を持たせる様に壁の最大耐力に見合った接合金物を設置するように建築基準法が変更された。





金物が必要な訳を簡単に説明したが、接合金物だけでなく、地震力・風圧力の低減、建物全体のバランスをよくする。

耐力壁の分散配置などの計画的要素や垂壁・腰壁類の効果、直交壁の効果なども含め含めて総合的に接合金物が必要なことを理解してもらいたい。

阪神・淡路大震災で直接木造住宅の圧死者を間近に見た木構造の構造設計者として、皆さんに再度問い掛けたい。

「金物を減らしたいと思っているあなた、それでもまだ接合金物を減らしたいですか?」


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 ©Tahara Architect & Associates, 2003