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No.5 既存木造住宅の耐震診断の現状

2003年2月


@重い

壁量計算で求められる地震に対する必要な耐力(=耐震壁量)は、その建物の固定荷重(屋根・壁荷重)に比例するが、その固定荷重が低めに設定されており、特に屋根形状が複雑なものや本瓦葺き(土有)に土壁等の伝統工法による建物の場合は、過小評価となっている。

地震力に対する必要壁量とその根拠

地震力に対する必要な壁量の算定は、次の前提による。

  屋根荷重: 重い屋根 90kgf/u

   軽い屋根 60kgf/u

  床の固定荷重: 床面積当り 50kgf/u

  壁荷重: 床面積当り 60kgf/u

  積載荷重: 床面積当り 60kgf/u

  床面積と屋根面積の比は1.3

  1階の地震層せん断力係数は0.2,2階はAi分布による割増とする

  非耐力壁部分の負担率 33.3%


建物荷重の算定

建築物荷重は単位床面積当たり、次の数値とする。

屋根の場合:

軽い屋根 (1.3×60+60/2)=108kgf/u

重い屋根 (1.3×90+60/2)=147kgf/u

ここで、

1.3 ;屋根面積と床面積の比

60,90 ;軽い、重い屋根の荷重

60/2;壁の床面積当たりの荷重を建物の階高の上半分とした値である。


居室の場合:

(50+60+60)=170kgf/u

ここで、50・60・60はそれぞれ床の固定荷重・積載荷重・壁荷重である。


上記より必要壁量の算定をすると以下のようになる。

軽い屋根の1階部分

0.2×(108+170)×2/3×1/130=0.29 → 29cm/u

軽い屋根の1階均し荷重=278kg/u

重い屋根の1階部分

0.2×(147+170)×2/3×1/130=0.33 → 33cm/u

重い屋根の1階均し荷重=317kg/u


上記が建物重量の過小評価の正体である。

これは日本建築学会出版の「木質構造設計規準・同解説」(1995年度版)のP114〜115に明記されている。

しかし、この重い仕様をはるかに超えるような重たいものは、土が乗っており、また、壁も土壁であるため、日本建築学会出版の「建築物荷重指針・同解説」を基に、まともに荷重を計算すると、1階の均し荷重は500kg/uを超えてしまうのである。

つまり、伝統的な非常に重たい仕様で出来た住宅は、現代工法である面材で出来た住宅よりも同じ面積であれば、1.5倍以上の地震力を受ける。

その為、夏過ごしやすいように開放的な造りで重たい伝統工法は絶対的に壁量がたらず、倒壊した例が多くある。

以上のように、軽い屋根の仕様であれば、特に問題はないが、重い屋根の仕様の場合、想定荷重である仕様は、桟葺き瓦程度の荷重想定である。

1995年1月17日に発生した「阪神・淡路大震災」では、倒壊した木造軸組み住宅の被害のうちで、想定荷重をはるかに上回る、非常に重い(土葺き瓦、土壁等)仕様の古い伝統的工法により建築された木造住宅の被害が、大半であった。

このことを考えると、きちんと建物荷重を算出し、その荷重に応じた地震力からくる水平力に対し、必要壁量を整備しなければ、耐震診断等におけるの精密な手法(許容応力度・限界耐力設計法等)が確立されたとしても、特に重たい仕様においては、危険側になる可能性を秘めている。



 

大変形が生じた土蔵

壁の量が非常に多い蔵のような建物でも、建物重量が非常に重くなるため、地震に対する大きな水平力を土壁で負担できなく大破した蔵。

土壁の厚さが20cm近くあっても、それ以上の重さからくる水平力に抵抗出来なかったのである。




倒壊した神社

いくら柱や梁が大きく、壁が土壁ではなくても倒壊するという一例。

職人の中には熟練した棟梁(宮大工)は、鉛直荷重に対し卓越した感覚を持ち職人技術のすばらしさを表現している建物もあるが、水平荷重に対し工学的に見れば、安全という概念からかけ離れたものもあり、致命的な欠陥を持ったものも存在するのである。

つまり、まともに大きな地震を目の前にしたら、多くの伝統的な木造建築は崩れ落ち、周りに残った神社仏閣はほとんどが鉄骨造や鉄筋コンクリート造というのが現状である。


現在、行なわれている既存木造住宅の耐震診断の技術指針である、(財)日本建築防災協会編集の「木造住宅の耐震精密診断と補強方法」では、このような非常に重たい木造住宅をどのように評価しているかといえば、そのような非常に重たい仕様の住宅は、評価外としているのである。

そのことは、上記の本のP25に明記されている表7である。

そこでは、所要有効壁長の算出方法が記されており、以下のようになっている。

軽い屋根(鉄板葺き、石綿板葺き、スレート葺き等)

所要有効壁長Lr=0.11A+0.18A・・・・軽い屋根の1階均し荷重=278kg/u

重い屋根(かや葺き、瓦葺き等)

所要有効壁長Lr=0.15A+0.18A・・・・重い屋根の1階均し荷重=317kg/u

,A:それぞれ1階,2階の床面積(u)

これは、前記に述べたように、非常に重い建物の重量を考慮していないため、土葺き瓦のような非常に重たい場合は過小評価となってしまうのである。

1995年1月17日に発生した「阪神・淡路大震災」での圧死等による死亡率の目安は以下のとおりである。


軽い屋根仕様・・・5%

重い屋根仕様・・・20%

非常に重い屋根仕様・・・75%


これを見てもわかるように、過小評価となっている非常に重い屋根の仕様での死亡率が最も高くなっている。

軽い建物についてはそれほど問題ないが、屋根や壁が重たくなればなるほど、構造計画及び構造設計が重要になることを十分に肝に銘じておく必要がある。

 
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 ©Tahara Architect & Associates, 2003