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No.5 既存木造住宅の耐震診断の現状

2003年2月


1. はじめに

2003年2月の時点において、わが国の木造住宅における既存住宅の耐震診断技術で、唯一の公的な技術資料としては、(財)日本建築防災協会編集の「木造住宅の耐震精密診断と補強方法」があるだけで、その内容は改正建築基準法の内容に比べて、まだまだ曖昧な部分が多く有り、品確法の技術基準に比べると、中古住宅の診断が非常に多くの問題を含んだまま、曖昧な調査と曖昧な診断で、曖昧な耐震補強がなされているのが現状である。

そして、その必要性が叫ばれるようになったのは、1995年1月17日に起きた「兵庫県南部地震」であり、近代において初めての大都市直下型の内陸断層型地震であり、その被害は甚大で、6000余人の人々が犠牲になった。

その内、木造軸組構法の住宅で亡くなった人が大半であり、日本全国では現行建築基準法における既存不適格(これは建築行政用語であり、その意味は法律で定めた安全性能がなく、大地震時においては倒壊又は大破の危険性が高いレッドマークの建築であり、都市防災においては、一刻も早く改善してもらいたい建築物)と言われる住宅で、その数はまだまだ多数ある。

それらの住宅は、将来起こると思われるプレート型地震や内陸直下型地震に対し、早急に対策を取る必要があるが、個人の資産への耐震対策は、公共と違いまだまだ遅れており、その事が建築行政としての最大の課題でもある。

木造住宅の耐震対策においては、耐震調査・耐震診断が重要になってくるが、前記で述べたとおり、技術基準として曖昧な診断法であり、一つの目安にしか過ぎないのである。

現状の既存木造住宅における耐震診断法では、診断を易しくするためにかなり簡略化されているが、その曖昧な方法だけが一人歩きしてしまい、簡略化の際に前提としている条件や、診断方法の原理等が広く認知、理解されていないため、正しい診断が行なわれているかどうか、施主や第三者が見てもはっきりとわからない。

また、評価していない箇所で壊れてしまう可能性があるといった問題がある。

筆者が約20年前に京阪神地区で木造2階建て軸組み住宅の耐震構造面において、危険性を訴えていたが、誰一人耳を貸す人がいなく、「兵庫県南部地震」が起こり、その後評価されたという辛い過去を身をもって体験したから声を大にして忠告する。

マスコミ等では、地震学者や都市防災の学者は、「来るべき大地震に対して、備えをしましょう」というが、それは何ら具体性をもたない、つまり、「一番死者の発生率が高い木造軸組み住宅の耐震診断を、木構造を専門とする構造家に依頼し、安くて安全な耐震補強をしましょう」というのが正しい忠告の仕方だと筆者は思う。

なぜ、木構造の専門の構造家なのかというならば、20世紀に建築士となった多くの人は、建築学の講義において、木構造の教科はほとんど習ってなく、実務について初めて参考書や大工職人等に教えてもらいながら、その場しのぎのことをやっていたに過ぎない。

また、「兵庫県南部地震」以前の木造住宅における耐震構造技術資料等は、非常に細かい要素のことが書かれており、全体像がわかる技術資料でなかったことが、構造技術者に興味を持たせないようになっていたと思われる。

さらに、木造軸組み住宅の2階建てにおいて、構造設計を必要としない簡便法(壁量計算)があり、意匠デザイン設計者がつじつま合せの計算で、大工職人に「お任せ構造躯体」としていたのである。


上記のような多くの問題点を抱えたまま、20世紀の木造軸組み住宅は成り立っており、特に危険な住宅が存在するのも、こういった点にあると思われる。

これは、いつ来るかわからない「東海地震」・「東南海地震」・「南海地震」、その他の地震に対し、国が重点地域に対し、公的な資金で対策を立てているが、個人住宅にはほとんど反映されてなく、おそらくまた多くの死者が出ることは間違いないであろう。



そこで、筆者が(財)日本建築防災協会編集の「木造住宅の耐震精密診断と補強方法」では、補い切れない要素をどのように改善したらよいか私見を踏まえて説明する。

「木造住宅の耐震精密診断と補強方法」の耐震診断法では評価しきれない、既存木造住宅における耐震性能とその問題点を列挙する。

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 ©Tahara Architect & Associates, 2003