木構造建築研究所 田原


(4)接合部

建築基準法では長らく、仕口・継ぎ手の部分において、その存在応力を伝えるように「緊結しなければならない」とされていたものの、その具体的な方法が規定されていない状態であった。 阪神・淡路大震災では、筋かいや柱ホゾが土台より抜け出して、壁が壊れたり、梁が外れたりして建物が倒壊した例が多くあり、一般に施工されている仕口・継手の施工の多くに問題があることがわかった。

この問題に関しては、その後の建築基準法改正で、特に検討を行わない場合の接合部の仕様として金物による補強が明示される様に対処された。


接合部に金物が必要な理由

まず、接合部の補強に金物が必要な理由を説明する。

ホゾ差しなどの接合部を見てもらえればわかるが、一般的な木の接合部は引張に弱い。

そのため、引張力が生じる場合は金物などで補強しなければならない。

引張に抵抗できる木の接合部は形状がややこしいか、耐力が低い。

現在多く使われているのは柱では込み栓、梁では腰掛け鎌継ぎ程度が主であるが、引張耐力がそれ程大きくないので金物が必要とされる場合が多い。

柱の引抜きに抵抗する金物

木造軸組工法の建物は、地震力・風圧力に対しては耐力壁で抵抗する。

このときに、力の釣り合いにより柱に引き抜き力が生じる。


釣り合いによる柱の引き抜き力

 つまり、引張力を処理できる金物がないと、構造上有効な床や壁が成り立たず、建物が成立しないのである。

 このように、建物に生じる力は純粋に物理的な力のつりあいに支配されているので、引張力を伝達するために必要な金物は減らすことはできないのである。

次に、建築基準法改正以後、接合金物が増えた訳を説明しておく。

建築基準法の改正では、旧来の規定では接合部における規定が曖昧だった点や、近年における構法の変化・多様化により仕様が実情に合わなくなってきた点を修正・補足した。

その結果として不足していた金物類の仕様規定の追加・新設が行われ、以前より接合金物が増えるようになったのである。

以下に、柱頭柱脚金物と梁端の金物について、簡単な説明を述べておく。

改正建築基準法では、木造建築の様々な形態の変化に対しても安全性を確保するために、耐力壁の靭性を確保する、壁体先行破壊の考え方が導入された。

筋かいと面材との組合せなどの、変形の性状が違う要素を組み合わせている場合や、偏心により建物が振り回されて部分的に変形が進行する場合など、耐力壁に充分な靭性(ねばり)がないと変形の進行した部分が先に破壊してしまう。 特に柱頭・柱脚金物が破壊すると急激に耐力が低下して危険である。

そこで、耐力壁に十分な耐力を持たせる様に壁の最大耐力に見合った接合金物を設置するように建築基準法が変更された。





 金物が必要な訳を簡単に説明したが、接合金物だけでなく、地震力・風圧力の低減、建物全体のバランスをよくすることや、耐力壁を分散配置するなどの構造計画、垂壁・腰壁などの雑壁類の効果、直交壁の効果なども含めた総合的な構造性能の評価が必要である。


筋かい接合部廻りの問題点

筋かいによる突き上げ

上図に示すような場合、柱脚にしか金物がないので水平力が作用する仕口部分で筋かいが突きあがり柱ほぞが抜けて壊れてしまい、筋かいの性能が発揮できない恐れがある。

また水平力は左右から加わるので、上図の場合反対側から力が作用すると引張筋かいとなるが、筋かい仕口に、その筋かいに対応した筋かいプレートがないとその引張力に抵抗できない。


2000年の建築基準法改正において、筋かいプレートが補強金物として明示された。また、さらに筋かいが取り付く柱と横架材の接合金物の仕様も明示され、法規関係は、接合部の強度を担保し筋かいの性能が発揮できるような仕様を明示する様に改善された。

しかし、従来は筋かいの形状が規定されているだけであったので、実際の現場では「仕口金物が無い」か「取付け方を誤っている」例が数多くみられたのが、現実であった。


地震で倒壊した住宅に多く見られた、筋かいの釘1本止め。
このままではとても危険なことは、震災が証明している。

柱脚金物を取り付けるために、筋かいが欠き込まれてる。
これでは折角の角筋かいも、意味がない。



・その他の接合部

土台と基礎や、土台-柱、柱-梁接合部といった構造上重要な大きな力が生じる箇所にも金物が無い場合がみられる。

また、1階柱の直下に基礎人通口を設けるような、構造耐力的によくない施工がしばしば見られることもある。

細かい点で言えば、筋かいのかわりに使用する構造用ボード類を止めつける釘の類も正しい施工を行わなければ、所定の耐力を発揮できない。



上記の図が現実に行なわれている現場の写真
釘と合板の縁との距離がほとんどなく、おまけに釘が板にめり込んでしまっている。
釘の縁距離は最低20mm以上確保することが望ましい。



耐震調査における問題

これらの問題により、現存する住宅の接合部の性能を簡単に推定することはなかなか難しく、木造住宅の耐震診断があいまいなものになる一因となっている。現行の耐震診断法の多くでは、補強金物の有無や、すじかいの向き等の耐力に影響する要素を推定により決めざるを得ず、性能の過小評価による改修費用の増大、あるいは過大評価による危険性を生じる可能性がある。


耐震調査をおこなうと、耐力壁廻りの接合部及び、水平構面と鉛直構面間の接合部において、作用する地震力・風圧力に対して有効に機能しないような状態にある部分がほとんどの木造軸組み住宅で見られる。

それでもそのような接合部の評価を正しく評価しないで、耐震診断を行なっているのが現状である。

また、一般の設計者及び施工者で、耐震補強として、高倍率(4.0〜5.0倍)の耐力壁をつけることが耐震的になるのだと考えても、接合部廻りの金物補強はほとんど付けないまま、施工を行なっている場合がある。

強度の小さい無筋基礎に対し、「耐力壁を増強するのであれば、ホールダウン金物で接合部を補強するのが常識だ」と言って、基礎性能のことを考えずに補強している場合も少なからずある。

そういうほとんどの人達の口から出てくるのは、「テレビでやってるドラマチックなリフォーム番組なんか、耐震のことをまったく考えていない」などと、自分たちはそういった種類のお化粧直しのリフォームとは違うと自負しているようだが、どうも50歩100歩と見えて仕方がない。

耐震調査・耐震診断・耐震補強・補強後の評価の4項目においては、本来、高度な構造的判断が必要で、木質構造技術に関する高度な知識が要求されるエンジニアの領域である。それが確実に行なわれている事例は少ないこと、その判断に対して対価が払われることがすくないのは非常に残念である。