豊岡市T町公民館

2009年 3月
根曲がり材を利用した小屋組が特徴のホール
意匠設計加藤設計
構造設計木構造建築研究所 田原 (担当:村田)
施工者 (株)マルテン

豊岡市の公民館で兵庫県木の香るまちづくり事業によって建てられた建物である。

本建物は災害に強い防災拠点となる公共施設であり、地元兵庫県産の木材を使用している。


今回使われた構造材は木材コーディネーターである有限会社ウッズの能口氏の協力により集められた物で、特に桧の根曲がり材については現地調査から選定まで厳選された材である。

その結果、樹齢80年程度で曲がり形状のそろったものを使用できた。

このような根曲がり材は多雪地域では多くあるが、市場に出るのは根曲がり部分を除いた真っ直ぐな部分のみ切り出しているのが現状である。



根曲がり材の墨付け。

本建物では市場価値の少ない根曲がり材を有効利用した構造要素としている。



根曲がり材の製材。

製材により根曲がり材が末口で9寸だが、積雪1.5mの荷重を負担しスパン8mの屋根を支える梁となる。



建て方中の2階部分。



小屋組の加工。

本建物は一部複雑な木組みとなっているのでプレカットでは無理があり、現場での加工が必要であった。これらの複雑な架構は地元豊岡市の大工職人の技術により、精度の高い木組みが構成された。



小屋組の組み立て。


雪の荷重により発生するスラストに抵抗するため、雪の結晶上の木組みによって応力を分散させ約8mのスパンをとばしている。

この雪の結晶状の木組みは雪の多い豊岡地域の気候から木構造建築研究所 田原がデザイン・構造の検討をして、意匠設計に提案し実現したものである。



根曲がり材と雪の結晶状の木組み一体となり屋根を支えている。

本建物は雪の多い豊岡地域に建っている為1.5mの積雪を考慮している。

無積雪時であれば耐震等級3の性能を持ち、1.5mの積雪時でも等級1以上の性能を確保している。



構造見学会の様子。

地元の大工と木材で作られた構造に地元住民らの関心も高かく、今後の住宅の在り方について考えるきっかけとなった。



完成式典の様子。

豊岡市の誇る公共施設として盛大に式典が行われた。


豊岡市T町公民館

兵庫県北部に多雪地域にあたり豊岡市は良質材を算出する条件を備えた地域だが、植林されたこの地域の山は雪が多く降り積もり、斜面地等の条件により根の部分が折り曲がった材が生産される事がある。

その様な材は、運搬時トラックに積載し難い事や一般的な住宅等では使い難い為、この様な部分(根曲がり部分)は山で切り捨てる事になる。

昔はこのような根曲がり部分等を上手く利用して屋根を支える小屋組用の梁に使われていた。(地元の古い民家では良く見られる小屋組である)

また、丸い木状態で曲がった部分は「あて」といわれ乾燥によっては大きな狂いが生じる為、木材の欠点の1つとなりますが職人の手によって適切な乾燥&製材によれば、適材適所に優れた構造材として使用することが可能となる。

この建物では、さらに現代的な構造技術も組み込んで多目的ホールスパン=8mを支える和風トラス梁を提案した。


和風トラス梁に作用する外力(自重・雪・地震・風)に対して過大な変形が生じず、各部材及び各接合部が安全であることを確認した。

構造計算上では積雪1.5mでも、僅か4o程度のたわみ量と想定される。(約1/2000)

日本の昔からの建物は「木材」が主要構造材(柱・梁)で構成されていた。

とくに「木材」は再生可能な材料であり、先祖代々よりその地域の自然材料を巧みに培ってきた建築技術がある。便利な道具が無かった時代からの伝統技術とは、自然と人間がうまく調和して生きていく為の技術の集大成だと思う。

本建物では木材の欠陥として嫌われる「根曲がり材」を山でゴミとして廃棄するのではなく、適材適所に生かしていく技を現代的技術でおぎなった一例を示すものである。

その代表的な大工技術の伝承としては、地元大工による手刻み加工の「雪の結晶の格子組み」が挙げられる。

地元材(杉)の羽柄材を地元大工職人の目利きによって、適材適所に配置し木肌の色を見極めて番付け(木材を配置)し、接合部では過度な隙間なく木組みされていることが、本建物の和風トラス梁内の雪の結晶状の六角格子にて表れている。

この六角格子は多雪地域である本建設地から、「雪の結晶」をイメージして「木構造建築研究所 田原」が考案し構造デザインした。

根曲がり材(H=270以上)及び斜材(120角)等に対して羽柄材程度(60角)である為、厳密には構造材補助材であり、各接合部の補強及び各軸組の座屈長軽減等の補助的な部材として計算モデル化した。

 ©Tahara Architect & Associates, 2010