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忘れ去られてしまうのが「災害」なのか?


昨年は、台風の上陸が非常に多く、観測史上最多の上陸があり、7月から10月に掛けて、日本各地で大雨による洪水や土砂災害に見舞われた。

特に、10月20〜21日にかけて、日本に上陸した台風23号は、西日本に甚大な被害を与えて行った。

この災害の直後に起きた「新潟県中越地震」で、この23号による被害がなかなか表に出る事は無く、現在に至っている。

その実態は、なかなか報道されないが、四国、中国、近畿の各地域では、山林の斜面崩壊や崖崩れ等により、人工林である杉の森の一部が、表土から杉ごと崩壊して、各地にその爪あとを残している。

当方が、調べた中国道の高速道路から見渡せる限り、兵庫から岡山に掛けて、かなりの斜面崩壊が起きていた。

これらの被害は、半年経った現在でもあまり手がつけられておらず、復旧作業はまだこれからといった感じである。

激甚災害に指定された地域では、復旧作業が行われているが、それらに指定されていない地域では、予算がつかず、手付かずのままの状態であり、また今年の雨季および台風シーズンで、さらに斜面崩壊等の山林被害が拡大する恐れがある。

これは、昨年の異常な数の台風の上陸や時間雨量100mmを越す激しい雨といった、地球温暖化の影響とも言える結果であるかも知れないが、被害の要因の一つとして、人工林である杉の森の手入れ不足と、杉の低価格による原価割れ状態による間伐等の管理不足で、森の表土のほとんどが無く、石ころだらけの斜面に生える杉の根の地面を掴む支持力低下が被害を増大させたのである。

また、この様な日本の山林の荒廃が進み、表土の流出が加速度的に増えている結果、西日本各地のダムの大雨後の泥水がなかなか沈殿しないで、長期間にごった水のままの状態で、ダムの湖面が通常の青い色にならない。

今から20、30年前の大雨による洪水では、一週間以内で泥水が治まり、元の青い色になっていたが、今では各地のダムの濁った状態が、一ヶ月程度まで続き、それだけ山の表土のシルト等が流出し、下流のダムを濁らせているものと思われる。

この様な、現象が日本各地でこれから発生する事が予想されるが、山の荒廃と同時に、森の保水力が失われ、夏場の渇水の引き金となる恐れがある。

また、ダムの保水機能の低下となり、洪水調節の機能が無くなり、下流の被害を増大させる可能性がある。

当方は木造建築の構造設計技術者であるが、日本の自然環境に対し、技術者としての取り組みを仕事を通して少しでも改善すべく取り組んでいきたいと思う。

これからの建築技術者は、超高層のビルや大空間の構造物を人工素材で構築する事に目標(あこがれ)を持たないで、自分の住んでいる周りの自然環境を破壊しないで、いかに循環型の建築システムを構築できるかを目標にすべきであると思うのだが...

その為には上記の、人工林の杉を可能な限り、建築用材(材料の総数量としての使用量が最も多いのが木造建築の構造材利用です。)として利用できるかにかかっていると思う。


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©Tahara Architect & Associates, 2005