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錦帯橋の構造的な主応力の一部は鉄が負担



2001年12月より、3年の工期で架替が行われたのをテレビで見た。
この橋は、わが国の国宝と言ってよい橋であるが、この橋の構造的特性を理解している人は少ないと思われる。

錦帯橋に行った人であれば、橋の下から見上げた人もいるだろう。
下に行かないでも橋の横から見た場合、桁材はスチールプレート(巻金)で包まれていて,そこにボルトと言うべき「鎹」が打ち込まれているのがみえたと思うが、「それ」が何を意味する物か考えた人は少ないであろう。

見た目の綺麗さに感動し、何気なく「それ」も目に映ったが、風景や友人との会話で記憶から消えて行き、「木組」による印象しか残らず帰ってしまう人が多いと思う。
本当は「それ」の正体である鉄が何を意味する物かと言うと、この橋の大事な応力負担している「もの」であると言ってよい。

実は、この橋は完成した後の構造特性は「アーチ構造」ようにみえるが、実際は「アーチ構造」と「刎ね橋」構造の複合橋というべき構造となっている。

「アーチ構造」であれば圧縮応力が主であり、その応力を木材の繊維方向による抵抗機構で処理すれば良いので、わりと簡単にできる。
だが、建設時においては徐々に持ち出していく「刎ね橋」であり、「刎ね橋」の構造特性を持つのであれば、「引っ張り・曲げ及びせん断」の応力も支配的となり、その格応力を処理するのに木だけでは不可能な規模である。

その為、建設当時の大工職人達も「木だけで建設するには無理があり鉄を利用しなければ出来ない」という事を実感し、「鉄」を利用して18cmの角材を組み合わせ、施工時の「刎ね橋」構造を克服し支点間距離35.1mの橋を建設できたのだと思われる。

一般の人ではない建築関係者の一部の人も「錦帯橋は鉄や釘を一本も使っていないんだよ」と平気で言う人がいるが、この橋の構造原理を理解して昔の人の「鉄による応力処理」に対し、「コンピュータも無い時代に良くやった」と言って欲しいものである。

この錦帯橋を構造特性で呼ぶならば「南京玉簾構造橋」と言うほうが正しいかもしれない。


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 ©Tahara Architect & Associates, 2004