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私の仲間である小林直人が訴える「ともいきの杉」とは



「ともいき」とは,「生かされている」という意味を持つ仏教用語で,自分の一生をかけた林業と,ともに生きていこうとする私自身の決意の表われである。

この言葉のきっかけは,自分の山の70年生の杉が「熊剥ぎ」(熊が樹皮を剥ぎ取り,芯材に傷が入ることで出材できなくなる)の被害を受けたことによる。

熊剥ぎにあった杉等は、市場に出してもチップ材にしかならないが,「おれの親父の代から今まで本当に苦労して、70年間も育てた木は必ず活かせるはず!」と思い、建築関係者に強く主張したのが契機となり,「ともいきの杉」の活動が始まったのである。

この「ともいきの杉」グループの活動では,1年間の季節の旬や杉の特性に合わせた生産(伐採・葉枯らし・製材・桟積み乾燥)を行ない、その杉を生かした家づくりを行なっている。

伐採は例年8月と12月に行われ,そのまま山で3ヶ月〜8ヶ月間の「葉枯らし」(葉をつけたままの自然乾燥)が行われ、100%以上あった含水率が約66%程度にする。

その杉を数十年挽きつづけた、近所の製材所の職人によって製材され、製材後は約100日程度の「桟積(さんづ)み乾燥」(製材をある間隔ごとに小角材の桟木をはさんで、積み重ね自然乾燥しようとする手法)の期間を経て出荷、納材される。

そしてやっと,「ともいきの杉」を一緒に取り組む工務店で、この杉の特性を知り尽くした大工の棟梁の手に渡り、墨付けから刻みまで職人の手によって、丈夫で長持ちする家が建てられるシステムを構築したのである。

このように、約1年以上たって始めて売上につながる方法は、本当に稀な生産方法かもしれないが、私にはこれしかない。

大量生産(伐採)する人員もなければ雇う資金も無く、雇ったにしろ1年先にしか代金が払えないとなれば、こんなシステムは誰も相手にしないであろうと思う。

また、大規模な「人工乾燥機」も莫大な資金を必要とし、われわれの「ともいきの杉」グループでは、到底不可能な設備である。

こんな設備投資をすると、その返済とランニングコストの乾燥代が製材料金の上に加算され、ますます杉は外国産材にコスト面で負けてしまい、住宅需要の落ち込んだ現在では返済もでず、必ず倒産または自己破産することが見えている。(このような所が多いのが現実であるが、そんな所には必ず莫大な補助金が行っているが、どうなんだろうか?)

このような「ともいきの杉」の生産システムは、資本主義から見たら「不合理の極み」であろうが、これが環境と共生した素材生産・住宅建設システムであると私は思う。


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 ©Tahara Architect & Associates, 2003