戻る

大地震における安全とは



わが国の建築物における安全確保の基準として、「建築基準法」がある。

その建築基準法に基づいて、建築物は設計・施工されているが、その基準法で定められている地震力とは、50年間に一度起こる可能性のある地震で、軽微な被害を許容する(弾性域内の挙動)性能を担保することを目的としている。

また、数百年に一度起こる可能性のある大地震で、倒壊をさせない塑性域内での挙動で収まるようにすることを目的としている。

これは、静的な考え方で表現すると、地面に建っている建物に地球の引力が加わった状態(Y方向成分)で、さらに、横にも同様の引力が加わった状態(X方向成分)を考えてもらいたい。

つまり、重力加速度(1G)が水平方向からかかるのと同じであり、それでも倒壊しない性能を目標としているのであるが、最近では、動的な検討方法(振動解析等)より、やや簡略化した解析方法として、限界耐力設計法が行われるようになってきた。

しかし、水平力(地震動等)の与条件は、基準法等で定められているが、このような限界性能まで詳細に解析し、その性能を把握していくら「振動解析をして、安全を確認いたしました。」とか、「限界耐力計算をし、安全を確認しました。」と言っても、その与条件の水平力を上まわる地震動の場合、もし、倒壊し死亡した場合は、いったい誰に責任があるのだろうか?

もしそのようなことが起こった場合は、国は「想定以上の地震動で、過去の歴史的な地震動から見ても、このような大きな地震が起こることは、現代の技術を持っても想定不可能であった。」と言うであろう。

また、設計者や施工者は、「国の基準通りにやったのだから、自分たちには責任がない。」と声を上げるであろうと思われる。

科学技術がいくら発達しても、自然エネルギーを枠に入れて、ここまでの地震力以上は起こらないと考える方に無理があり、決め付けることは不可能と思われる。

つまり、本当の意味での安全は、その予算内で、快適や空間美を考慮しつつも、安全を担保し、地震被害の少ない建物にすることが、一般の市民の考える「安全」であると思われる。

しかし、現在、木造住宅で行われている内容とすれば、最低限の安全確保である建築基準法を守った上で、「快適や空間美」を優先した住宅が多いのが現実である。

また、既存の木造住宅においても、上記と同様を目的として建てられている事が多く、本当の安全とは設計者の能力と、施主の考え方で決まっているのが現状であると思われる。

近いうちに東海・東南海・南海地震等が起きると、マスコミで報道されているが、日本全国あらあゆる場所で大地震は起こる可能性があり、その地震動の最大パワーは、規定することができないのである。

意匠性と快適性と、構造安全性能をローコストで確保することは、木造軸組工法では非常に難しいと言える。

そのため、マスコミや建築関係者は、いたずらに不安をあおるのではなく、現状の技術規準を分かりやすく説明し、理解してもらうように努めることが必要と思う。

これらのことに対し、全てに対応できる能力を持つ建築士(設計・施工)の数は、現時点では、日本国中で非常に少ないと言っても過言ではない。


戻る

 ©Tahara Architect & Associates, 2003