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杉の厚板による床の性能



最近よく建築の雑誌等で、自然素材を利用した家や、人に優しい木の家というキャッチフレーズで、建築家が設計した木造住宅が見受けられるが、思わず「このプランで耐震性を確保するには水平構面の剛性が必要なのだが大丈夫だろうか?」というような、写真が目に付く。

特別に工夫された事は一切書かれてなく、ただ杉の板厚さ40mmで直張り仕上げ(天井なしで杉の表し)で断熱性に優れたなど云々といった類の文章だけで、確かにお見合い写真のごとく、美人できれいな仕上である。

しかし、かなり偏心(偏心率0.4程度あるであろうと思われる)した木造住宅の平面プランが掲載され、板の上からの釘頭は一切見られず、どのようにして止めているかはおおよそ見当がつく。

これらの意匠設計者だけで設計された木造住宅では、往々にして隠し釘による施工方法がとられているのである。

この斜め隠し釘による方法は、全国的にわたって施工されているものと思われ、いろんな所でいろんな人から「このような厚い板で施工しているので、従来の根太を使ったやりかたよりもはるかに強いんだよ。」などと聞くが、確かに鉛直荷重においては効果があると思われるが、「では、水平荷重ではどうなのか?」といったことは想像すらしていないと思われる。

つまり、床面を垂直にした壁に置き換えると、次のように説明できる。

日本の伝統的木造建築における校倉造りが横ズレ防止のダボが無くて、外国のログハウスには横から来る力(せん断力)に対し、木材同士がずれようとするのを止めるシステム(ダボ等)がある。

つまり、校倉造(杉の厚板直張り)でもログハウス(流しダボ)と同等に、せん断抵抗のシステムを備えれば十分建築できるのであるが、このズレを止めると言う概念すらないのが、木造住宅の実務に携わる多くの人にいえることである。

研究者や学者は、「そんなことは常識」と言うが、斜め隠し釘打ちで施工している建築士や、工務店等が存在することからして、木造住宅における安全性の確保は、木造専門の構造エンジニアでなければ、もはや不可能ではないかと思われる。

人命に関わることだから、なおさら声を大にして言いたいのであるが・・・


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 ©Tahara Architect & Associates, 2003