徹底した安定化電源で実現
管球式DCプリアンプ
(1980年1月発表)

トランジス夕ーか球か

 最近はそうでもないようですが,いままでは,アンプはオーディオ全体の音に占める割合は
せいぜい2割までで, カートリッジとスピーカーが,音質の7割以上を占めるようにいわれて
きました。また,アンプで音が変わるようなことはあまりなく,聴いて判るほどの差であれぱ,
余程一方のアンプに欠焔がある場合だといわれてきました。
現在,市販されている内外のアンプ類も試聴すれぱ,人の顔ほど音が違いますが,測定結
果で欠陥が見つかるような製品はないようです。
その理由を,今ならすぐにコンデンサーが原因だといわれそうですが,TR式のDCプリ・メイ
ンでも全く同様な結果のように思います。
そこで,生の音楽だけのもつあの音の柔さと,ダイナミックさを少しでも実現したいと思い,T
Rでも,DC型や,CD型等いろいろ製作しましたが,満足できるまでにはいたりませんでした。
球のもつリニアj ̄ティーの良さとダイナミックさには現時点ではまだ勝てないように思います。
DC形式のTRアンプに思うほど満足できないという声を聞きますが,それはトランジスターに
問題があるのであって,回路方式や少なくとも部品に原因があるのではないと私は思ってい
ます。
供給電圧の高い球を音声回路に使ってレンジを広くとり,TRの内部抵抗の低さを利用して電
源を構成してやれぱ,と考えたのが次に述ぺるプリ・アンプです。

管球式DCプリ・アンプ

岩田氏のプレーヤー,ホーン等がよりシビヤーに改造される度に,より完成度の高いプリ・ア
ンプ・バッファー,バッファー・アンプ(一つの帯域にパワー・アンプが何台も並列になっている
ため)が必要となってきます。
私が増稿器を製作いたしますポイントは,次のように考えています。
@ダイナミック・レンジの広いこと
A実在感のあること(そこで歌っている感じのすること)
B音源を感じさせないこと
C音のためなら経済性を無視しても採用すること
の大体以上の4点です
管球式でアンブを構成するのは,@のダイナミックレンジがトランジスターより大きく取れるか
らで、いわゆる物理的レンジのみならず聴感上の閥題も大きいと思いますので使いにくさ,ス
ぺース等に目をつぷり使っています。
まず各チャンネル各増福段のクロストーク,レギュレーションの関係から各段別々の安定化
電源より,他からの影響を受けないようにトランス,ヒューズから全部別々に電流を供給して
いまず。
本体の増稿段回路は,各段がオート安定回路で、基本回路は第1図に示したものです。

第1図 基本回路

近差動増幅器が作られていますが基本的には同じで,この形は入力と出力が同電位ですか
ら,NFBをかけたり,何段も増幅したりするのにとても設計がらくな回路で’60年9月号の「ラ
ジオ技術」に森本雅樹氏が,天体観測装置に使われる直流アンプの実凝として発表された回
路を参考にさせて載いて,オーディオ用は改造したものです。第2図が本体全部の回路図乙
現在はポリュームの代りにアッテネーターを使用しております。

本機に使用した真空管はECC808Sを使用していましたが,球のユニットのバラツキ,供給
の関係もあり,選択するということもできにくいので、国産の球を他の方の分は使っています。
本体の方でとくに気を付けなけれぱならないことは,球のGの揃ったものを初段に使う必要
があり,多少時聞をかけてGチェッカーで両ユニットの揃ったものを選ぴます。
話は変わりますが, トランジスタ−は別としても,球の方も大体ぱらついており,私のわずか
な経験でも,一般に良くいわれているほど国産と外国品の差は無いようです。
とくにDC(ただし夕イレクト・カップリングです)アンブの湯合は大切なことで自動バランス回路
で、安定化電源から供給して,さらに各段でバランスを取ってやっても,60dBもの増幅度をも
つアンブでは無視できません。コンデンサーで切れば話は簡箪ですが,いかに良いコンデンサ
−でも,ないものには勝てないという理屈の元に,パワー・アンブの入力のところでドリフトは阻
止するということで入れていません。
そのため,直流帯域まで負帰還をかけて,直流的に安定化を施してやる必要があります。
簡単に自動安定回路について説明しますと,第1図において供給電圧を+側,−側共に同じ
電圧を与え,R=R,R=R,R=R,としてやりますのと,共通の抵抗であるRの作用
でプレート電流が一定となり,動作点が一定にたもたれます。
そこで正負の供給電圧を変動しない電源から供給し,実際には多少誤差の有るR=R、R
=Rのために,RとRとの間にバランス用の抵抗を入れ,アース電位と同じに調整できるよ
うにいたします。
真空管はGの揃った,すなわちバイアス電圧の変化に対する,プレート電流の変化の比が
揃っているもの(相互コンダクタンスと呼ぼれています)を使えぱ,多少温度その他によって電
流,電圧が変化しても,同じように変化するようにしてやる訳です。
そのために,上下の球は双3極管で同じ条件にしてやる必要があります。
また,真空管はトランジスターと違って,温度による影響は受けにくいですが,ヒーター電圧の
変動はもろにエミッションにでてきますので定格の電圧で変動しないよう点火しなければなり
ません。
大体,以上のようなポイントを押さえておいて,簡単に本体の説明に入ります。

本体の構成について

真空管は全部テレフンケンのECC808Sを使用しました。理由は岩田氏の御希望と,ノイズが
少なく,歪みが少ない点も気に入ったからですが,別に他の球でも差が出るほどではありませ
ん。
それよりも揃っていることの方がはるかに大切です。電極接続,データは第3図のよな球で,
特性はECC83と大体同じですが,歪みを少なくするためか,ヒータ−の電力が12%程大きい

のと,両ユニット間がシールドできるようになっています。回路は第2図のように,2段の増幅段
を一つのステージとして,イコライザ−段と増幅段に使っています。使用部品は,1/2W型金
属皮膜抵抗でポリュームはカーボン型を使用いたしております。
また,各段の後段のパスコンはゲインを稼ぐため,電流帰還をかけないようにパスコンを入れ
ています。
トータルゲインば約6OdBでイコライザ−の誤差は±O.3dB以内に仕上げ,3OHzから15
kHzまで完全にチェックいたします。
また,ここで注意したいことは,バランス用のポリューム,(たとえセンターで損失の少ないよう
にしてあるものでも)は入れないようにすること,各チャンネルにボリュームを1個ずつ入れて,
バランスはどちらかのチャンネルを上げるか下げるかすれぱバランスは取れますので面倒で
も音のためですから,そのようにしています。
理由はコンデンサーより何より,ー番音を悪化させるのはポリュームだと考ええていますので,
ないといクわけにはいきませんが,1個はやむを得ないとしても,2個も付けたくない,というの
が理由です。
実際にオ−ディオ畑でいろいろと経験しますと,ー般に雑誌等で良くいわれ,常識のように思
われていることの中に,いかに実際と違うことの多いことか,本当に驚かされます。
ボリュームにしてもその一つで同じメ−カ−の同じ抵抗値のボリュームでもA型,B型,C型で
全部音質が違い,それも個体差でなくメーカーが違っても全く同じ傾向ができます。
カーボン型,巻線型,金属皮膜型等ありますが,素材の差など比較になりません。
これにはそれなりの理由と考えられるものがあり達すが,それは次の機会に譲るとしまして,と
にかく1個にしており,現在は自作のアッテネ一タ−にいたしています。これなら耳ではあまり
感じない程度にしか悪くならない,との批評をいただいてます。

電源部の構成

まず,各チャンネル,各ステージで4つの増幅段があり,それぞれ高圧の安定化電源が,しか
も正負共に必要となり,電源は富士シャシ−のNo.10.480×290×70mm,板厚1.4mmと
いうのを使いましたが,それでも少し小さいほうでした。第4図は使用したトランスのデ−タを示
したもので、市販のものでなく,別註文で製作してもらったものです。

鉄損,銅損と無負荷電流をできるだけ少なくしたもので、電硫を流しても曲線で電圧が下るよう
なことがないように作ってもらったものです。
電流電圧特性のデータをご覧ください。トロイダル・コアーでなくとも,良いものは作れます。
94VAで95×8OのEIコア−で,積は55mmです。
無理をしていませんから,うなったり,発熱したりせず,全負荷でも温かくなりません。
別註にした理由は私の知る限りにおいて,市販,別註を含めて,このような特性のトランスは知
りませんので,本当の意味での性能を追求した場合,別註にならざるを得なくなったのです。
トランスの話はこの程度にして,まずアンプの一番大な電源部に話をもどしましょう。
第5図がヒーターの安定化電源で、ICの723を使った簡単な安定化電源ですが,Lチャンネル
,Rチャンネル別々に12.5V 0.68Aで供給し,電源の特性はAC92V以上で安定化し,リッ
プルは1mVです.2SD180のドロップアウトは最高で3Vですので、0.68A×3=2.04Wで
約2Wの損失ですから,放熱板も必要ないぐらいです。
これもトランスの良さによるもので、普通のものでしたらおそらく5割以上損失が大きくなると思
います。
ダイオードはフジのSIB-02というモ−ルドタイブを使用しております。
管球式のDCアンプの揚合は、ヒーターの安定が大変大切なので上記の場合AC100Vが92V
まで下っても,安定化がくずれませんが,それ以下になると少し電庄が下るだけでリップルは
あまり変化しません。
しかし,最高の性能を発揮させるというにはいかないで、やはりヒータ−といえども,電源のイン
ビーダンスが上るのは良くないようです。第6図が高圧部の改造前のIC723を使った安定化電
源でAC150Vの倍電圧で約300Vを得ており,電源が85Vまで下がっても,安定化を崩さな
いように考えたフローティング・レギニレ一タ−で構成したものです。

それ以前は,管球式の安定化電源を使っていただいていたのですが,何しろトランジスターの
ヒューズより早く切れるほどの内部抵抗の低さに魅せられ,3年前にこのICのトランジスタ−方
式の電源にしたのですが,何しろAC300V(倍電圧なので一応倍と考えて)のACを入れて安
定化の電圧がDC300Vではどう考えても不満です。ICを使用すれぱ少なくとも30V前後のド
ロップを見込まねぱならず,どうしても揖失の大きな電源,すなわち音の出の悪いと甲しますか
,鈍いと申しますか,そのような回路しか構成できませんので.フローティングをやめ,ディスクリ
−トでシリ−ズレギュレーターを作りなおすことにしました。

それにより作りなおした回路というのが第7図です。

使用パーツはダイオードが富士のSIB−03−10というVRMが1kVのもので、TRはダーリン
トンとし,fが80MHzの日立の2SD669A,誤差増幅回路にVceo:300Vの2SC515Aを
使いました。
基準電圧用ダイオードは,1Z-7.2を使って,トランジスターの温度特性をキャンセルするよ
ういたしました。
簡単に回路の説明をしますが,数字のお嫌いな方を,飛ぱしてお読みくださって結構です.
2SD312のhfeを20,2SD669Aのを100とすると,見かけのhfe20×1OO=2,000倍
となります。
電源が90Vまで安定化するとすれぱ,DCとしては0.9×200V×1.4=252Vまでしか供給
されませんから,安定電圧は252V以下となります(2O0Vタップ使用でブリッジ整流)。
そのため,ダーりントンを採用して,できるだけ誤差増幅器の負荷抵抗Rを大きくして,DCの
変動率を良くし,リッブルを少なくする必要があります。
流れる電流が20mAとして,2SD669Aのぺ−ス電流は1OμAとなります。ブリ一ダーとし
て約2mAを流すとして12−8と4kΩで安定化してべースに供給するとロスは8V,Rで2Vを
見込めばR=200kΩが採用できますが,トランジスターは小電流ではhfeが下っていますので
安全を見込んで1/4の50kΩとするとすれぱ電源電圧が90Vまで下っても,安定化出力24
OVが得られます。
そのときのレギュレ−クーのロスはAC100Vのときが最大で,波高値から計算すると,

200V×1.4=280V
280V−240V=4OV
40V×0.02=0.8W

となり,放熱板は不要ですし,全回路の電流避全部賄っても3.2Wにしかならず,実にその点
は不経済ですが,音のために仕方がありません。
綱かい設計は教科害を見ていただくとして,基準電庄用に8mA,分圧回路に4mAを流すもの
として設計しました。
電源としては,残留ノイズ150μVとまあまあのできですが,イコライザー回路にはー応リップ
ル・フィルターを入れております。第8図のようなフィルターを入れておりますが,これもロスから
遡算してトランジスターと定数を計算して決定したものです。
Trは2SC945,2SA733というhfe300〜500の石を選択して使い,5Vのロスで残留ノイズ
2OμV以下になっており,ぺース電流もエミッター電流に対して安定化してから与えていますの
でDC変動は大変少なくなっています。

改造後の感想

なにしろ,このプリ・アンプの後ろには管球式のステレオOTL・アンプが約19台,トランス付ア
ンブ2台,トランジスター・アンプ3台の計24台のパワー・アンプを鳴らすのですから,良くなれ
ぱ24倍の効果があります。
1台のアンプで試聴した結果でも,生きた音が増え,私の知る限りにおいて最も音の損失の少
ないものと思います。す
最後に申し上げたいことは,これは経済性と外観を無視して音のみの追求をしたアンプで決し
て皆様に無条件でお推めできるものでもなく,またテスタ−1丁で作れるようなラフな形式のも
のでも有りませんので,あくまでも参考の域に止めておいてくださると幸いです。

今後の計画

改造の結果,私のアンプ設計ポントの@〜Bは大体達成できたと思いますが,Cに関してはま
だ不十分でまた近い将来において,できるだけAC電源にダイレクトにカップリングした電源に
できたらと考えています。
電源電圧の変動分を,レギュレーターのトランジスターに負担させなくても良いような,直流抵抗
が無視できるような方式の電源にしたいと考えています。

プリアンプのシャーシ上部

このパワー・アンプを駆動

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