15V7A
安定化電源の設計と製作
(無線と実験1981年11月号で発表)

今回は皆様がパワーアンプやプリ アンプの製作記事をご覧になる時に,必ずと言って良い程見かけられるの が電源部の安定化回路(定電圧・定 電流共含めて)で,特にトランジス ターアンプでは必ずと言って良い程 組込まれています. 何故にそれらがトランジスター回 路では必要で,真空管回路ではあま り見かけないのかという点について, 深く考えられた事がおありでしょう か 日頃,何気なく見なれている回路 にも,それぞれの役目があり,その 理由をもう一度考えて戴くのも,音 を良くする何かのヒントになるので はないかと考え,安定化回路につい て,いっしょに考えて下されぱと思 にの記事を書かせて戴きました. 今年の10月号で小生の拙文『管球 式DCブリアンブ」中でも申し上げ ましたように,今月号では一応安定 化電源の種類,設計方法並ぴに製作 について,少し詳しくご説明致した いと思います。既に十分にご承知の 方には判りきった事かもしれません ので,その方々は飛ぱしてお読み戴 けれぱ幸いです。

☆安定化電源とは何か

普通,安定化電源と呼ぱれるもの には交流(AC)と直流(DC)とを安定化して供給するものを全部総称して言う言葉ですが,私達が一般的に 安定化電源と言いますのは,ほとん ど直流の安定化電源をさして言いま す。 最近のメーカー製のアンプには交 流も含めて安定化する方式が出てま いりましたので,この呼称は私自身 も改め,正しく何々安定化電源と言 わねぱならないのですが,一応安定 化電源と書きましたら,特にことわ らない限り,直流安定化電源の事と お考え下さい。 安定化電源とは前述致しました通 り,直流を安定化して供給する動き をする電源ですが,何に対して安定 化をするのかと申しますと,電流ま たは電圧が次の様に保たれる物です. @負荷の量の大小に関係無く安定に 供給出来る事。 A供給されるAC100Vの変動に対 して,2次側の電圧,電流が安定 に供給出来る事。 の2点が重要な働きとなります。 私達が安定化電源を間題にする場 合,ややもすると@ぱかり問題にし てその良否を考える事が多いようで すが,現在のような電力事憤ではむ しろAの方がはるかに大切な役目で はないかと考えてい蛍す. 今迄はAC95V以上と言う仮定 の元に安定化電源を設計出来たのですが,現状はとてもその様な電源で は使い物にならず,少なくともAC 90Vでも安定化が崩れない電源,欲 を書えぽ85V ACでも安定化出来 る電源が必要だと言えると思います. 私もO氏から教えられ,0.5%級 の交流電圧計をAC100Vに接焼し, 驚きました。 テスターで気楽に計っていた時は テスターの誤差ぐらいに考えていた のでずが,特に夏場はひどく,電燈 だけの軽負荷でも94V前後,クーラ ーがONすると軽く90V近くにダウ ンしますし,5V繭後の変動は常時 起きています。 これほ私の近辺だけの事かも判り ませんが,いずれにしても2次側の 安定云々以前の問題ですし、これに より,トランジスターに負担させる 電力が大幅に違ってきまずので,大 変重大で、特にご注意戴きたい点だ と考えています.

☆トランジスター回路には何故 安定化缶源が必要なのか

今迄に読者の皆様は管球式アンプ やトランジスターアンプの記事をご覧になって気付かれたと思いますが, 管球式のアンプの場合、一部を除く とほとんどのアンプの電源には安定 化電源は使用してなく、CRキLC フィルターのみで電源を供給し,特別の回路が組み込まれていないのは 何故だと思われた事はありませんか. (お判りの方は飛ぱして下さい) 無論トランジスター回路と違って 高圧ですし,使用出来るトランジス ターが少かった事もその理由の一つ ですが,大多数はその必要が無かっ たからで,トランジスター回路はそ の必要があったからなのです。(あたり前ですが)管球式アンブでもそ の一部に管球式の安定化電源を組込 まれたアンプもありますが,無くて も結構音になりますし,SN比も十 分稼げるのだ,本誌でもそのような 回路でのご発表がある訳です。 しかし,トランジスター回路では そうはいかないのです。 理由は次の通りです。第1図のよ うに今かりに管球式回路で3O0V, 0.1A(30W) の電力が必要だとしま す。

リップルを取るのにC・Rのπ 型フィルターを使用するとして,100 (μF)(kΩ)が必要だったとします。 すると仮りに1kΩと100μFのコン デンサーを使用したとすると, 1000Ω×0.1A=100V がフィルターによる損失で,それを 補なう為には, 300V+10OV=400V の電圧を供給してやれぱ0.1A流し ても3OOVが供給出来,抵抗の容量 は I2乗 R=(0.1)2乗×1000=10W 以上あれば良い事になります。 抵抗によるドロップを少なくした いと思えぱ,5O0Ωと20μFを組合せれぱ同様にして50Vのダウンとな り,350Vを供給してやれぱ良い事 になります。 トランジスター回路の場合も全く 同じ条件ではどうでしょうか。 トランジスターはご承知の通り耐 電圧が低く,大電流の回路ですから, ー応電圧を3OVとするとします。 30Wを供給するのですから1Aの 電流となります. 管球式と同じ条件のリップルフィルター 100(μF)(kΩ)が必要だとす ると,同様の1kΩ 100μF ではど うでしょうか.その様子を第2図に 示しますと供給電圧を30Vとすると, 1000Ω×1A=1kV,となり電圧が 出ません。 管球式と同様の考え方で供給を増 加させ,ともかく1kΩ と100μFで 1A流して30Vを供給するとすれぱ, 前記の計算に30Vを加えて, 1000V+30V=1030V を供給してやれぱ良い計算となりま す。 抵抗の容童は, I二乗R=1二乗×1000=1kW となり,とても実現がむつかしい事 が判ります。 それではRを小さくし,Cを大き くしてやるとすれぱ,

(1)100Ωと1000μF・・・・・・ (供給電圧130V) R容量100W C耐圧130V

(2)10Ωと10,000μF・・・・・・ (供給電圧40V) R容量10W C耐圧40V

(3)1Ωと100,000μF・・・・・・ (供給電圧31V) R容量 1W C耐圧31V

の組合せが考えられます。 これ以外にも無数の組合せがあリ ますが一例として10倍きざみで考え て見ますと,何とか出来そうなのは 1OΩと1pぐらいで,それもコンデ ンサーに多量の容量のものが必要と なる計算になります。 これでトランジスター回路に安定 化電源が必要な理由の一つなのがお 判りでしょうか。 すなわち,わずか30Vの電圧を 得る為に1kΩの場合は1030Vと必要 電圧の約17倍もの電圧が必要となリ, しかも1Aを得るのには1.03kVA の電源が必要になる計算になります。 組合せ例の@からABの順に必要 な電圧及び電力が少なくなっていき ますが,それにつれてコンデンサ ーの容量が1桁づつ上り,Bでは 100,000μFも必要となり,この湯合 は抵抗の容量もコンデンサーの耐圧 が@の場合ピーク値の130Vまで必 要なのと同様に瞬間チャージの数10 Aに耐える容量が必要となり,少な くとも100W級が必要だと思います。 このようにリップルを取るだけで も低電圧,大電流の回路は高圧,少 電流回路(真空管回蜘に比ぺて,むつかしい問題を持っているのです。 そこで必要に応じて考えられたのが 安定化回路です。 すなわちRを@→Bのように小さ くし,しかも見かけ上のコンデンサ ー容量を大きくしたのと同様の働き をする様な回路をトランジス夕ー を使って考え,それに出力の変動も 検出して,電圧または電琉の安定化 を計ったものがいわゆる安定化電源 と言われるもので,トランジスター 回路には不可欠なものと申せます. これで何故トランジスター回路に 必ずと言って良い程,安定化電源が 付いているかの理由がお判り戴けた かと思いますが,オーディオの湯合 はそれだけでなく,音質の関係で電 源の出力インピーダンス(アンブ側 から見た交流に対する内部抵抗値) が低い事が重要となりますが,安定 化電源が付いているから良くて,管 球式の電源のように単にCRフィル ターだけから供給しているものは良 くないと言う考え方だけは考え直 して戴きたいと思います。 一度皆様も固定観念に取り付かれ ずに,ご自分の耳で確認して見て下 さい. 良いトランジスターを使うのも結 構ですが,それを通さないのも良い 方法である事もお考えいただいて, 総合的なコスト・パーフォーマンス の立場からご判断下さると良いと思 います。 ともかくフィルターのR分を小さ くし,C分を極端に大きくする代り にトランジスターを使って見掛け上 のコンデンサーの容量を大きくした のと同じ作用をさせると言うのがま ず安定化電源の第1歩で,それに安 定化回路を組込んだのが,定電圧ま たは定電流電源と言われるものです. それ故にフィルター回路のみから 考えれぱ代用品ですから,下手に設 計すれぱコンデンサーだけの方が動 作も,音も,損失も(コンデンサー だけの倍は損失は零です)秀れている当然が出て来るのは当然ですから,安定化電源だから,ハイスピー ドだから必ず良いのだと安心するの は危険です。そうで無い場合も有り 得る事もご承知おき下さい. 私自身ややもすると複雑な,いた れりつくせりの回路を良しとする傾 向に有りますので,その点自ら深く 反省して居ります。第3図をご覧下 さい。

これが前述致しましたR分を 小さくし,コンデンサーをトランジ スターのhfe(直流増幅率)倍になっ たと同じ働きをさせるフィルター回 路の1例です.仮りに前述と同じ条 件の動作をさせるとすると,トラン ジスターを仮りにNPNを使い,hfe =100の物を使ったと仮定します。 これはRをトランジスターの内部 抵抗に置き換えたもので,それ以外 の抵抗は直列には入って居りません。 R1にトランジスターのパイアス用 の抵抗です。 いまトランジスターの飽和電圧 (Ic=1Aの時)を1Vとすると, ぺース電流が飽和するまで流れるよう にR1を定めると,hfe=100で,Ic =1Aですから,IB=1A/100=0.01 AとなりR1=1V/0.01A=100Ω以 下であれぱ良い計算になります。 見かけのRは1Ωですから,同じリップル フィルターとすると,C2は100,000μF を入れなけれぱならない所ですが。 所ですが第3図の回路ではそのhfe 分のユで良い事になり,100,000/100 =1,000μFで良い計算となります。 しかも電源電圧は、 30V+1V(飽和電圧)=31V で良く,トランジスターの損失は 1A×1V=1W となり大変都合良い結果となります。 何故コンデンサーがhfe分の1で良 いかと申しますと, hfe=Ic/IB  Ic…コレクター電流 IB…べース電流 で,今仮りにhfe=100と仮定しま したのでIBはIcの1/100になって います。エミッター電流はIcの変化 にはほとんど影響を受けず,IBに より動作するのがトランジスターで すから,エミッター電流はIcに応じ たリップルとなり,Icの1/100すな わちhfe倍の容量を付けたと等価と 見なせる訳です。ただし大変良い点 ぱかりに見えますが,残念な事にト ランジスターのhfeは電流に関係無 くフラットなのではなく,Icにより 大福に変化します。それ故に常に流れる 電流によってC2が比例して変化す るのと同じ状態となり,それに 飽和電圧もリニヤーに変化するとか, 一定であるとかいうのでは無く,Ic によりノンリニヤーに変化しますの で,そこらも考えに入れて設計する 必要があり,そんなに良い点ぱかり では無い事を,ご理解下さい. いずれにしても同じリップル率を 稼ぐのに1kWの抵抗とか100,000μF のコンデンサーからはまぬがれる事 が出来るのは有難い事だとお考え下 さい。

☆安定化回路の種類とその勤作

節述のようにフィルター回路の C2のコンデンサーの所に出力の誤 差(偏差)を検出してトランジスタ ーのぺース電流を加減して出カ電圧 または電流の変化を少なくしたのが,安定化電源の基本的な考え方で,形 や方式が変っても同じ考え方により 成り立っています。 直流安定化質源には普通次のよう な種類のものがあります。 (1)直列制御方式 (2)並列制御方式 の大別して2覆類があり,第4図に それの回路を示します。

第4図

第4図の(1)が直列制御方式,す なわち一般的なシリーズレギュレー ターと言われる方式で,(2)は並列 制御方式でシャント・レギュレータ ーと書われるもので,いずれも連続 制御方式と書われる系統に入ります。 これらと異なり継続制御方式(い わゆるスイッチングレギュレーター と呼ぱれるもの)や,これと連続制 御方式との組合せ方式も有りますが, 今回は一般的な連続制御方式にのみ ついて考えて見ました。 第4図の動作原理を簡単にご説明 しますと,制御用トランジスターが直列に入っているのを直列式,並列 に入っているのを並列式と言い, (1)の直列式においては,Dz(ツェ ナーダイオード)でべース置圧を固 定し,その安定化電圧でぺースを駆 動するので,出力電圧E outは, EOUT=Vz一V BE となります。 VBE…ぺースエミッター間の電圧 それ故にツェナー(定電圧)ダイ オードの電圧よりVBEだけ低くな り,その電圧がエミッターに出て来 ます。この回路では電源電圧の変動 に対しては,定電圧ダイオードがそ のツェナー電圧を保ち,負荷の変動 には制御用トランジスターの電琉が 増減して,出力電圧はぺース電圧で コントロールされ変化しにくくなり ます。 (2)の並列制御では制御用のトラ ンジスターのコレクター・べース間 が定電圧グイオードでクランプされ ているので,電源や負荷RLが変化しても,その量に慰じそ制御用トラ ンジスターがコレクター電流の増減 と言う形で負担して,出力電圧 Eoutが一定に保たれるというも のです。 この回路の湯合は(1)でも(2) の湯合でも,常に出力電圧は定電圧 ダイォードで限定され,簡章に変化 出来にくいだけでなく、微少な調整 が出来ません。  その上定電圧と言っても変化しな いのではなく,やはりノンリニヤー ですから第4図ではEが上れぱRL は一定でも、やはりEoutが不変と はならず少し上昇します。 それに温度係数も含んでいます。 それらを少しでも改良し,使いやす くしたのが,つぎに述べる閉回路型 定電圧電源回路です。

☆閉回路型定電圧電源

 この方式は前述のような不便な点 を改良したもので,出力電圧を監視 し.基準電圧と比較し,変動が有る とすぐに制御回路に帰還して,その 変動を打ち消す。フィードバック回 路を持つものです。 第5図がその基本回路で,皆様が 一番良くご覧になる回路です。

この 動作原理を簡単にご説明致しますと, 入力電圧画が制御用トランジスター Tr1を通り負荷R辺に電流が流れ ます。 すると分圧回路のR1とR2により 出力電圧Eoutが分圧されTF2 のベースに与えられ,定電圧ダイオ ードDzにより与えられる基準電圧 と比較され,その変動分が誤差増幅 用トランジスターTr2と,その負荷Rと で増福されて,制御用トランジスタ ーのぺースに送られます。 出力電圧が仮りに低くなったとす ると,基準電圧は一定ですからTR2 のぺース。エミッター問電庄が低下 し,Tr2のコレクター電流が滅少し, その結果制御用トランジスター瓦 のぺース電圧が上りエミッター電圧 が上昇し,出力電圧の低下をおぎな うど言うに勘きます。

それ故に出力電圧が変化せず,電 源や負荷の変動にも不変となるよう に働く訳です。 そしてR1,R2を可変にすれぱ出 力電圧を自由にコントロール出来る という事になります。 第4図の(2)の並列制御方式は上 記の直列制御方式に比べ可変範囲を 広く取ると制御用トランジスターや Rの損失が増加するので,一般的に はほとんど直列制御方式となってい ますが,並列制御方式もまた捨難い 良さが有り,後日ご報告するとして, 今回は普通の並列方式を採用する事 に致します。

☆DC15V7A安定化竃源回路の設計について

電源の原理についてご説明申し上げましたのは,10月号も含めて今迄 に発表させて戴きました,パワーア ンブ,プリアンプ等にはほとんど全 てに管球式も含めた安定化回路から 電源を供給しており,紙面の都合も 有り,詳しいご説明を致して居りま せんでしたので,そのお詫ぴも兼ね て今回まとめて少し詳しくご説明致 したいと思いました。 それ故に判り切った事とお思いの 方も多いと思いますが,その点はお 許し戴いて,本題の安定化電源の設 計に入らせて戴きます。 まず今回の安定化電源の仕様につ いて申し上げますと,

仕様

(1) 出力電圧

最大15V,最少12V前後

(2) 負荷電流

7A連続

(3) 電源電圧

1O0V AC(90V以上)

(4)リップル1mV以下

(5) 0Aから最大負荷までフルス ケール15Vメーターで電圧ドロッ プが指針の幅程度の事.

と言うものです. この電源は主に通信機の電源とし て使われるとの事ですが,オーディ オ用としても十分使える物である事 と言うのが条件でした。 まずコンデンサ一インプット型と し,平滑コンデンサーCの値をリッ プルIO%として計算しますと,

C≒7×Io/Edcx10(μF) で表されます。

Edc・・・入力電圧

Io・・・出力電流

ドロップアウト4Vとし,計算すると,

C≒7×7/19×10(μF)

≒25,789μF

となります。

それ故約25,000μF前後のコンデ ンサーを入れれぱ良い計算になりま す。制御用のトランジスターのhヅe を仮りに50有る物を使ったとした場 合,出力電流7Aですから,だのぺ ース電流をIb,コレクター電流をIc とすると直流増幅率hfeは,

hfe=Ic/Ib

で表されますから,

Ib=Ic/hfe=7A/50

=0.14A

となります。

hfeは前述致しましたようにIcに より大幅に変化しますので,この 0.14Aが大稿に変化することになり, これを安定化される事は,電流が多 いのでむずかしく,グーリントンに して増幅率を稼ぎ,見掛けのぺース 電流を少くしてからこれを安定化す る洪うに設計致します。 これは仕様条件の(5)が太変厳し い条件ですので,ぺース電圧を固定 して出力電流の勢ヒに対してのより 安定なフィードバック制御が必要だ からです。

但し,この方式は注意して設計し ませんとべース電流が不足したり、 ぺース電圧がエミッター電圧より低 くなったりする事が有り,制御用の トランジスターに逆電圧が掛ったり して制御用トランジスターを壊す事 がありますので,ご注意戴きたいと 思います。  

いずれにしてもぺース電流0.14Aでは扱いきれませんのでダーリントンと致します。 ドライパー用にhfe=100程度の トランジスターを使うとしますと, ぺース電流は,0.14A/100=1.4A で良い事になり,10倍程度の変動を 見込んでも十分制御出来そうです。 まず制御用トランジスターの損失 を計算して見ますと,電源電圧の変 動率を10%,として制御用トランジ スターのピークコレクター損失を PB,変動率をE,制御回路の入力電 圧をEdc,出力電圧をEo,としま すと,定電圧電源回路でのピークコ レクター損失Pcは出力電流をIo とすると, Pc={(1十Edc−Eo}Io

で表されます。

 いまAC90Vでも15VDCで安 定化を計画するとすれぱ,Vce=4V として考えると,90VでDC19Vが 与えられるには、その交流電圧を XV・ACとすると、

XV×O.9×1.4=19

X≒15.O8V AC

が最少限必要なAC電圧となります。 少し余裕強見てAC=16Vのタップ があれぱ良い計算になります。 Pcを計算すると, Edc≒21V(AC=100V時) Pc={(1+0.1)21V−15}x7A =8.1×7W =56.7W となります。  

次いでドライバー用のトランジス ターのPcdを計算すると,

Pcb=Pc/hfe

   =56.7/100

   =0.567W

となります。

 ただし上記の計算はAC100Vが 110Vになった場合の計算から, 実際にはAC100Vが10%も上昇す る事は現状ではあまり無く,100V での計算でも十分で,その湯合は,

Pc={(1+O.1)19ー15}×7A

=5.9×7

=41.3W

Pcd=41.3W/100=0.413W

となります。

むしろAC低下の注意の方が大切 だと思います。いずれにしても最大 コレクター損失56.7W以上,コレク ター電流7A以上のトランジスター で有れぱ良い計算になります。 吹に綱御用トランジスクーの放熱 対策です。 上記条件のトランジスターですと 形状はTO−3型(普通の2SD188 等の大きさ)は必要ですから,その 型を選ぶとします。 また例のごとくの計算式ですが, 数字のお嫌いな方は飛ぱして下さっ て結構ですが,日頃の発表で教科書 を見て戴く様にお願いしているもの ですから,一度はなまけずに計算式 を出させて戴きますと,トランジス ターの周辺温度をTa,最大コレク ター損失をPc max全熱抵抗をθja トランジスターの接合部湿度(ジャ ンクション温度をTjmax(最大値) とすると,

Pc max=TJmax−Ta/θJa……(1)

TO−3型トランジスターのケースと 放熱板聞の熱抵抗をθcs,トランジ スターの接合部とケース間の熱抵抗 をθJC,放熱板と大気間の熱抵抗を θsa.絶縁版抵抗をθS、すると, θJA=θJc+θCS+θSa+θS+θf・・(2)

となります。(θf…放熟板熱抵抗)

一般に放熱板を使用する場合はθsaは無視出来ますし,今回はマイ カ等の絶縁板を使用せず,直接放熱 板に取り付ける事に致しましたので, θsはゼロとなり,

θJa=θJc+θcs+θf

となります。 今仮りにTc(トランジスターケ ース温度)25℃でPcmax1O0W, TJ max…エ5O。のトランジスターを使 用するとして考えて見ますと,θJc は下記より

θJc=TJmax−25°/Pc max =150°−25°/100 =1.25℃ となります。

トランジスターと放熱器との熱抵抗θcsはコンパウンド(シリコングリス)付の直接取り付けですから, 約0.1℃/W程度とされていますので,

θJa=θJc十θcs十θf

=1.25+0.1+θf

=1.35℃/W+θf

となります。

いま仮りに周囲湿度4O℃まで使 うとすれぱ,どの程度の放熱板が必 要かを計算して見ますと,TJmax=150℃,Pc=41.3W,Ta=40℃,θja =1.35°十θfですから,(1)式にこれらを代入すると,

Pc=TJmax−Ta/θJa

41.3=150°-40°/1.35°+θf

θf=150°−40°/41.3−1.35

≒2.663−1.35

≒1.31℃/W

の放熱板が必要となります。 第6図がアルミ板の表面積と熱抵抗のグラフですが,これから見ると 1mmアルミ板で約1400cuの表面 積があれぱ良い計算になります。

大ざっぱな計算ですが,何にしろ ネジのしめ方一つで,また取り付け 方や方向,空気の流れ,放熱器の表 面処理一つでころころ変るような性 質のものを,計算で正確に出しても あまり有効とは言えず,温度上昇を 実測するのが一番正確です。 私の場合はメーカー製の放熱器は あまり使用致しません。 理由は @スぺ−ス・ファクターの点であ まり有利でない事. A包絡体積が取れない形状が多い 様に思える事. B希望する形状が入手出来にくい 事. C形が決っている為,取り付けの 自由度が低い事。 によります。 それ故に放熱器は自分で設計し, 温度を実測し,改良して,少しでも 小さく放熱効果の大きい物との考 えの元に努力して居る次第です。 上記で計算しました条件は一番悪 い状態での計算でVcE=4Vと致し ましたが, 大電流を流した場合は hfeの関係と前述の安定化電源のフ ィードバックが働いてVcE間電圧が 低くなり,損失は半分程度(実測 VcE≒2V)になりますので,その点

も有利となります。 1400cmというと約37cmx37cm の板と同じ面積となります。 上記の計算の結果,制御用トラン ジスターは,上記の条件の湯合 ・コレクター損失1O0W以上 ・コレクター電流7A以上 ・ケースTO−3型 であれぱ良い事になりますが,AC 100Vが110Vに上昇しても使用出 来る様に制御用トランジスターにモ トローラの2N3055を2本並列に使 用する事に致しました。 2N3055はVCBO100V,Pc=115W Ic=15Aと発表になっていますので, 1石でも十分ですが2本パラにして 計算してみますと,上記の同じ条件 の場合ですと, θJa=θJc+θcs/2+θf

=1.35/2+θf=0.675+θf

Pc=56.7Wとした場合

56.7W=150°−40°/0.675+θf

θf=150°−40/56.7−0.675

≒1.94−0.675 =1.265℃/W

となり100Vの時と大差無くなり最悪の場合でも十分耐えられます。ドライバーのトランジスターはコレクター電流0.14A以上,コレクター損 失0.57W以上であれぱ良いので, 2SB536を使いました。 使用致しましたケースはリードの LK−3と言う,上部に取手の付いた シャレたケースで,写真でお判りの 様に裏面のアルミ板を利用して,そ れに放熱器を直接取り付けました。 表面積は1mmアルミとして1270cu 程で,放熱用のフィンは1.2mm 板を使ってい蛍すので,一応1400cu 程度と等価と見なしても良いと思いま す。

☆回路定数の設計

一応一番重要なレギュレーター用の トランジスターの設計が終りまし たので,他の回路定数の設計を致し ますと,定霞圧ダイオードにO5Z-5.1 を使用するとしますと,ツェナー電

圧は5.1Vとなります。 ツェナー電流を10mA流すとして 直列抵抗をRsとすると

Rs=E0−V2/10mA

=15(V)−5.1(V)/1OmA

=990Ω

したがって1kΩとします。 第7図にそのアウトラインを示しましたのでご覧下さい。 分圧抵抗をR1,R2とするとし、 電流を約6mA流すものとし ますと,

R1=E0−V2/6mA

=15−5.1/6mA

≒1.65kΩ

R2=Vz/6

≒850Ω となります。 ここでは出力電圧を可変にする為 に1kΩ(B型)のパリオームを使い ますので,R1を約1.2kΩ,R2を400 Ωとし分圧回路は、1.2kΩ+1KΩ+ 400Ω=2.6KΩと致しました. 誤差増幅様のトランジスターは hfeが約500の2SA733を選択し使用 致しました。

これらにより決定したのが第8図 の全回路です。

各部のご説明では+側のレギュレ ーターとしてご説明致しましたが. 前述致しましたように制御用トラン ジスターを直接放熱板に取り付けて 使用したい為にインバーテッド・ダ ーリントン方式とし,コレクターを アース電位となるような回路挺致し ましたが,動作は+側制輝と全く同 じですので,ご承頬下さるど幸いで す。

☆安定化送源本体についての説明

前述致しまたような設計の元に構 成致しましたのが第8図の回路です が,−側に制御用トランジスターが 入っている点が少し違うだけで普通 の+側制衛のレギユレーターと動作 は全く同じです。 使用致しましたトランスはセンタ ーと言うメーカーの16V−15A (AC)のもので240VAの容量のもの です。 プリッジ整流ですのでDC出力電流 は15Ax0.6=9Aが連続で取れる計

算になり,7Aでは余裕があります 整流用のダイオードは東芝のS5188 と言う逆耐圧400V,電流11Aと言 うスタックになっているものをスぺ ースファクターの点から使用致し致 しましたが,これには2mm厚の約95 cuの放熱板(表による熱抵抗は約 5℃/Wのもの)を付けて居ります が,15Vで9Aの電流を1時間程流 すと本体と放熱板が約47〜50℃程 度まで上昇するようで,計算とは良 く合っていますが出来れぼもう少し 低損失が理想です。 これは最初2mm厚アルミ20cm の放熱板を付けていたのですが,熟 的に不足なので15×15cmのものを 追加致しました。(約75cu+20cu =95cu)計算ではドロッブ電圧約 0.6Vとし,7A流した時の損失を,

0.6x7=4.2W

と考え,10℃/W程度の放熱鮫を付 けたのですが,連続で電流を流すと 発熱が,4.2Wx10℃=42℃,とな る計算となり,周囲温度がもし仮に 40℃となるとすると,42℃+40℃ =82℃となり、別にこの程度なら問 題ないと考えていたのですが、予想 以上に制御用Trが低発熱でしたの で,それに見合う温度と言う事で逆 算し5℃の放熱板だとずると,5℃ x4.2W=21℃の計算となり。周辺  温度40℃の場合でもー応℃とな り何とかなりそうです。 出来れぱもう少し損失の少いダイ オードにするか,放熱板をもう少し 大きい容量にすれぱ良いのですが、 場所の関係もありこの程度で妥協する事にしました。 実測は大体計算したように28℃前後の高温の時に前述したまうな温度どなり問題はないのですが,何しろ発熱するはずのレギュレーター用 のトランジスターで予想より発熱が 少かったものですから,変にダイオ ードの発熟ぱかりが目に付いて,気 になったと言う訳で,この程度なら 余裕十分ですが,熱的には揃えたい ものです。 回路についてご説明致しますと、ブリッジ整流後,前述の計算通りの 約24,000μFのコンデンサーを入れ リップルを取っていますが,小容量 を何個が入れましたのはリップル 量を多く流せようにじたい為で, 15,000μF(25V)は大体普通の 品で8A程度と考えられます。 プリッジでのリップル量は7A流 した場合は,大体次の計算値となり,

7A×√2≒9.889A

約10Aのリップル電流が流れます。 この回路のトランス,その他の容量 は9Aは連続で耐えられるので,そ の場合は

9Ax√2÷12.7A

のリップルとなります。
2,200μF(25WV)の1個のリップ ル許容量は約1Aとされていますの で,4個並列で4Aとなり,全部で 12Aのリップルは流せる計算となり, 7A出力の場合十分それに耐えられ る容量となり9Aでも何とか使用出 来ます。 制御用トランジスターは前述の計 算からIc=15A,Pc=115W, のモトローラの2N3055を並列 に2本使用し,直接コレクターにシリコング リースを十分塗って放熱板にじかに 取り付けます。

2N3055はfeを実測し一応揃った たものを選ぴますが,その上エミッタ ーに0.2Ωはバランス用抵抗をそ れぞれに挿入します。 この0.2Ωは半分づつとしても3.5 Aが連続で流れるのと,少しでも流 揃いがあると入れた意味がありませ んので,ニクロム線をブリッジで実 測し自作致しました。 何しろ7Aも連続で使用するので すがら.十分注意が必要で、まず1 石で全部の負担でも耐えられる物と し、その負担を均等に2分割してや ると言う考え方によつています. ドライパーは2SB536と言うモー ルド型のトランジスターでVCBO= −140V,Ic=1.5A,Pc=20Wとい うものですが,これは前述の条件に 十分耐えられるものです。 ダーリントンのドライプトランジ スターべース用電源は0〜16Vを倍 電圧整流して1Z−8のツェナーダ イオ一ドでコレクターに対して定電 圧化し,5kΩでドライプしていま す。 本当の高能率,高安定度を希望す る場合は別巻線から,別電源で供給 するのが良いのですが,スぺースファクターの関係で第8図のように致しましたが,これは倍電圧でなけれ ば使えません.(それ以上なら可で す)理由はコレクターがアース電位 でしかも−側だからです. 必ずベース電位はコレクター電位 より低い必要があるからです。今コ レクター電圧により8V低い電圧で クランフ致しましたので,前述計算 通りのhfeであったとして,

hfe(R)・・・50(制御用Tr)

hfe(D)・・・100(ドライブ用Tr)

でドライパーのぺース電流が,

1.4mA(7A流した時)ですから

8÷14÷10-3≒5.71×103Ω

≒5.7kΩ

となります。

トランジスターの小電流での実測結果hfe(R)・・・80 hfe(D)・・・185 程ありましたので,上記の約3倍となり、増幅率が,

80×185=14,800

ぺース電流が,

7A÷14,800≒0.473mA

計算上は

8÷0.473÷10-3≒16.9kΩ

が採用出来る事になります。

今回は9A出力時や電源電圧の低 下時も考慮に入れて,計算値に近い 5kΩを採用致し叢した(約1/3とす る)。  出力側には電圧計(フルスケール 15V)と電流計(フルスケール10A) と電流計フルスケールのものを入れ 読み取りやすく致しました。 これらはいずれもヒオキのRー60 と言うトートバンド方式の1.5%級 メーターで,少しでも正確度を上げ るようにし,量流計のドロップ(0.15 Vー7A)の無いようにダイレクト 端子も付けています。AC100V側 にはレギュレーションの良いトラ ンスを大容量コンデンナーの入って いる関係で,スイッチオンのインラ ッシュ琶流がものすごいので,例の ごとく,プロテクターを入れて居り ます。

☆測定結果について

 まず初期の仕様が満足出来たかについてですが,出力電圧は13〜15V において,無負荷から最大負荷まで (7A〜9A)の間でメーター指針 の幅一本程度(実に不正確な書い方 で申し訳ないのですが)の低下にお さまりました。

ヒオキのR−60型は1V間に小さ い目盛りが全然ありませんので,こ のメーターでは判りませんが,0.1 V以内である事は確かです。 メーターが付いているのに(校正 はしましたが)他に並列に付けるの はいやで,その点は電圧をメーター の目盛り線に合せると(例えぱ15V) その線の幅からは出ないと言う程度 のドロップとお考え下さい.7A〜 9Aの運続負荷で,前述の通りダイ オードで室温28℃前後で50℃ま でで,制御用トランジスター,放熱 器共に40℃にはなりませんでした. AC100Vにつきましては供給90V で安定,リップル電圧は0.5mV〜 1mVまでの間で負荷とAC100V の組合せで変動し,AC90〜100V で3.5Aの負荷の湯合は0.3mV以下 となりましたので,一応オーディオ にも使用は可能ではあります。 制御用のトランジスターが発熱が 少ないのは,石を並列にした事と, AC1O0Vが110Vにならない事, フィードバックによりドロップアウ ト(VCE間電圧)電圧が4V以下に なる事により、ー応10OVにスライ ダックで固定し負荷を掛けた状態で ほんのり温い程度の発熱です。(40℃ 以下) それからテストの負荷の問題です が長時間となると大変です。私ば今 回のテストではヒーターの切れてい ない不良の真空管を使いました。 第9図の通り6R・A3のヒーター は63V一1Aですから,それを直列にし,7Aのテストでは7組,9A は9組齢し,多少オーバーロード (13〜15Vの場合)ですが、どうせ 不良なので実験しましたが,.多少の オーバーロードには何ともなく,何 時間も耐えてくれました。 煙も臭いも出ず長時闘でも安心です が,初めの時だけは5〜7倍ぐらい の電流が流れますので,普通のトラ ンジスターや規格いつぱいの設計の 場合は制御用トランジスターを駄目 にする危険がありますので,ご注意下さい。

☆後日記

これは前述致しました通り通信機用に設計、製作した安定化電源ですのでオーディオ用に使われる事は無いと思って居ました所,皆さんが自作の安定化電源を持ち寄られて,カ セットデッキで音出しなされた所, 大変良い成績だったとの事で,後日 それを聴き驚くやら,嬉しいやらでi 何とか使って戴ける物に出来上った 様な感じがその時になってやっと実 感として感じられた事でした。無線 用もオーディォ用もなく,や綾り慧 源は重要な部分である事には変り無 い様に思います.

参考資料

(1) 最近トランジスタ規格表1979 年…CQ出版社

(2)安定化電源回走の設計,清水 和男氏著,CQ出版社

(3)トランジスタ技術1976年2月 号…CQ出版社

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