紀州博物館
12月の中旬、宿泊するホテルグリーンヒルへ向う途中、「紀州博物館」の案内板を見かけた。
ホテルで持参したガイドブックで調べると、ここには著名な浮世絵がかなり展示されているらしい。
翌朝、チェックアウトして、車で1分の当館に向った。
館内を周って2つの感想・印象を持った。
●「博物館」!? ここは美術館ではないか、ということ。
蛇足ながら、角川国語辞典では、
「博物学」とは、動物学・植物学・鉱物学の総称
「博物館」とは考古学資料・歴史的遺物・美術品などを集めて公開する施設
と定義されているので、博物館でも良いようだが・・・。
●まさか白浜という温泉地の小さな美術館に、これほどの浮世絵のコレクションを有しているとは思っていなかった。

この二つだ。

紀州博物館は、眼下に白浜温泉を一望する平草原高原の入口にある。和風の平屋建て、内部はバリアフリーになっていて、ほどよい照明の落ち着いた空間の中で、ゆったりと作品を鑑賞出来る。
希望すれば学芸員が丁寧に作品を説明してくれる。
小さな美術館だが、収蔵品がすごい。
歌川(安藤)広重・葛飾北斎・東洲斎写楽・喜多川歌麿
、栄松斎長喜 などの浮世絵、古備前・古唐津古九谷や紀州徳川家の所蔵だった御庭焼などの古陶器、掛軸、茶道具、印籠、根付など約1、300点を収蔵している。
特に歌川広重の「東海道五十三次」を全点保有しているのが素晴らしい。


この美術館は、紀州の名家「小竹一族」が、約400年に亘って収集したコレクションがベースになっていて、昭和48年、実業家・小竹(しの)林二の寄贈によって財団法人紀州博物館が設立された。小竹林二氏は、海外に流出していた浮世絵などの美術工芸品を買い戻し、これらを日本に里帰りさせた。
ここでは年に3回、企画展が開催されるが、私が訪れたときは「歌麿と写楽・・・美人画の世界・役者絵の世界」だった。
馴染みの地名が散見される歌川広重の「名所江戸百景」もゆっくりと鑑賞できたが、何と言ってもここで歌麿と写楽を見られたことが嬉しかった。
歌麿の名を初めて知ったのは1955年11月、小学6年生のとき、写楽はその1年後だった。

祖父の切手のコレクションに影響を受けて、自分の小遣いで初めて買った切手シートが歌麿の「ビードロを吹く女」、そして1年後に写楽の「市川海老蔵」を数シート買った。

     

その後、写楽が寛政6年(1794年)から7年にかけて、わずか10ヵ月間に百数十点の作品を世に残して忽然と姿を消したこと、そして、写楽は誰か?が浮世絵史上で最大の謎であることを知って、推理小説が趣味の一つだった自分は、写楽に関する図書をかなり買い込んだ。
写楽の候補者は、歌川豊国をはじめ30人ほどいるが、
最近では阿波藩蜂須賀侯のお抱えの能楽師・斉藤十郎兵衛という説が有力と見聞している。

ところで、この美術館の館長でもあった寄贈者の小竹林二氏を調べている途中で、地元の新聞・紀伊民報の記事にぶつかった。
博物館の前で撮影した左下の写真、てっきり小竹林二氏の銅像と思い何気なく撮影していたが、その記事によって、これが琴の名手「宮城道雄」の銅像だったのが判明した。
若かりし頃、琴の音が好きだった私は、宮城道雄さんのレコードを買って、6段や8段などとともに、同氏の作品、「春の海」や「瀬音」に聞き入った。

(以下は記事要約)
宮城道雄さんは、元明光バス社長・小竹林二氏と親交があり、たびたび白浜を訪れた。
8歳のころに失明した宮城さんは、心に感じとった白浜を「浜木綿」という詩にまとめた。生涯唯一の作詞ともいわれ、この詩に自ら曲をつけた。
小竹氏は、56年6月「浜木綿」の詩碑(写真左)を建立。除幕式に臨んだ宮城さんは、その後、白良浜ホールで宮城さんは琴を手に初めて「浜木綿」を披露した。宮城さんは、その20日後、東海道線の夜間急行「銀河」から転落、帰らぬ人となり、同ホールでの演奏が最後の公演になった。
それから15年。宮城さんをしのぶ小竹氏は、除幕式の日の宮城さんの姿を銅像にし碑のそばに建てた。


また、小竹林二氏は、白浜の純和風高級旅館、「旅館万亭」の館主でもあった。昭和28年、京都一力茶屋の別荘として建てられた館を譲り受け、数寄屋造りの名匠・平田雅哉氏の設計で改築、現在の万亭の姿にしている。
地元では著名人であろう同氏の調査は、門外漢にとってはここまで。
何れにしても小竹林二氏が実業家であるとともに、すぐれた文化人でもあったことが推測できた。
上:広重・東海五十三次
京都(三条大橋)


左:広重・名所江戸百景
深川洲崎十万坪


下左:写楽・三代目市川八百蔵

下右:歌麿・遊女見佐山
白浜の山の手、白浜温泉と海を一望する平草原(へいそうげん)公園の入口に、浮世絵を中心に1,300点の美術・工芸品を収蔵する素晴らしい美術館(名前は博物館ですが・・・)があります。白浜で1時間の余裕があれば、ぜひお立ち寄りください。
尚、年に3回の企画展がありますので、お出かけ前にホームページ又は電話でご確認ください。
住 所 和歌山県西牟婁郡白浜町兵草原2054
電 話 0739−43−5108
ホームページ http://www.aikis.or.jp/~kishyu/
開館時間 午前9時〜午後5時
休館日 無し(但し、特別展・企画展の前後で休館日を設けることがある。)
料 金 大人 1,000円 小学生  500円
アクセス JR白浜駅からタクシーで10分
南紀白浜空港からタクシーで7分

白浜の旅館・ホテルから車で3分〜10分
(無料駐車場有り)
ここでお薄を頂く
宮城道雄さんの浜木綿(はまゆう)詩碑と銅像
上下写真 : 展示室