「ぬくもり」
文:ふるーる様  絵:カオル

宵の口から降り始めた雪も止み、闇を切り裂くかのように漆黒の雲が左右に流れ 月が静寂の地上を照らし出していく。 降り積もった雪が落ちる音以外は、何も聞こえない。 またどこかでバサッという音・・・オスカルはふと、目を覚ました。
窓辺に目をやれば、月光が白雪を反射して部屋を明るく照らし出している。 あまりの明るさに彼女は、もう朝なのかと部屋を見回す。 テーブルの上には、飲みかけのワインとお互いの贈り物の箱やリボンが 寒そうに取り残されていた。 反対側に視線を移せば・・・そこにはアンドレの寝顔。
久しぶりに間近で見る彼の寝顔。

「ふふっ・・・可愛い」

微笑みながら、独り言のようにつぶやく。 大の男に可愛いと言う表現は似合わないかもしれないが、オスカルは心底そう思っ た。
少しだけ身体を起こして、しげしげと眺める。子供の頃はこんな風に、よく彼の寝顔 を覗き込んだものだ。
大人になってからは、さすがに無くなっていたが・・・遊び疲れて一緒に昼寝をする と時々、私が先に目覚めることがあった。 傍らで眠るおまえには悪いとは思いつつも、さびしくなって私はいつも、おまえを無 理やり起こしたものだ。
そんな事が頭をよぎった。

子供の頃のように鼻をつまんで、彼を起こしてやろうか?
彼女は片方の口角を上げて微笑んだ。
上半身を起こすと、冷気が彼女にまとわりついたが、かまわずにアンドレの寝顔を正 面から覗き込む。 長い睫毛、すっきりとした鼻・・・少し開いた唇。
くーくーと、安らかな寝息を立てている彼を見るうち、いたずら好きな少年のような 表情はゆるゆるとやわらぎ、えもいわれぬ表情へと変わる。 今しがたの企みは淡雪のように消え、もっと見つめたいと思うオスカル。
「あどけない顔をして・・・」
アンドレ.お前はこんなに可愛い寝顔をしているくせに、私を・・・
先刻の余韻が蘇ってきたのか、オスカルは慌てて彼の唇へ伸ばしかけた指を引っ込め た。
代わりにいつもは、目を覆い隠している前髪をかき上げてみる。 だいぶ目立たなくなったとは言え、やはりハッキリ見て取れる傷跡。

『おまえのためなら片目くらい、いつでもくれてやるさ』

その言葉の重みを実感できるようになったのは最近の事・・・おまえがあんまり優し すぎるから、私は受け止めるだけで精一杯だ。 だが・・・この頃、私は思うのだ。
おまえが注いでくれる愛情の万分の一でも、私はおまえに 報いているだろうか?・・・と。
出来る事なら、時間を取り戻したい。
青い瞳に涙がにじむ。急いで涙をぬぐうと、オスカルはそっとそこにくちづける。

「んっ・・・オスカル?」

不意に呼ばれて彼女は起こしてしまったかと思ったが、彼のまぶたは動かない。 安堵の息をつこうとしたせつな、腕だけが伸びてきて、自分をすっぽりその胸の中に 取り込んでしまうと、また寝息を立て始めた。
その無意識の行動にオスカルは、驚いて動けない。 唖然としつつも、胸一杯に嬉しさと、アンドレを愛しく思う気持ちであふれた。

「アンドレ・・・昨日より今の方が愛している。そして、明日はもっと愛している。 今年もあとわずか・・・来年もこんな夜がずっと続く事を、私は祈らずにいられな い」

聞こえるか聞こえないかの声でオスカルはつぶやいて、温かい彼の胸の鼓動を聞きな がら眠りに落ちて行った。

                                  Fin
                                      










あとがき


昔,メニューページに出していたイラスト(眠っているアンドレを覗き込むオスカルの図…現在は メニューページのランダムに出る絵に小さいサイズで入っています)をご覧になって、 「もし、オスカルさまがアンドレの寝顔を見たら何を思うだろう?」というところが発端だったという ことですが、意外にホットな方向へいってしまった…とはふるーる様の弁です。
寒ーい夜、熱ーいふたりに思いをはせ、我々はMerry Christmas...!
ふるーる様、ありがとうございました!!