好きな子を前にして、どんなセリフなら・・、どんなセリフまでなら理性が本能を押さえつけてくれますか??? それがどんなに爆弾発言かとか全然わからないままに、にっこりと無邪気に向けてくれる大好きなコの、ほんの些細なコトバ。そろそろ、限界じゃないかって自分でも思ったりしつつ…だけど、ホント困ってるのが現状って言うか。 そんな日々は幸せ、で…少し、大変だったりするわけだ。 |
| gravity |
来週の半ば頃から中間テストが始まるという感じの、週末、土曜日。いくら自分たちが将来有望なサッカー選手のタマゴだとはいえ、テストは自分たちにも容赦なく襲ってくる。 というわけで、毎週あるロッサでの練習は今週はお休みである。クラブの方針で、テスト前は必ず休むとなっていたのだけれど。 今日は、3人で集まる場所として、グラウンドではなくて、オレの部屋。格闘するのはボールとではなくて、目の前に積み上げられたテスト前課題の数々と。一学期の中間テストだからそんな凄い範囲がデカイわけでもないけど。それでも先の3学期の期末で入りきらなかった分の範囲もテスト範囲に入ってくる教科だってあるわけだから、それなりの容量にはなってくる。 まぁ、自分はしっかり毎日のノートはきちんと取ってるから、別に慌てて勉強しなきゃイケナイってわけでもないけれど。 目の前の結人と一馬は…そうも言ってられないようだった。というか、結人の方がって感じか?必死で範囲内と思われる歴史の年号を頭に詰め込んでるようで、わけのわからない呪文のような年号早覚えを唱えていた。 「うぉぉぉ、なんだよ、この覚え方――!!意味わかんねーよっ!!」 ガァァァ!!と単語帳をバシバシ机に叩きつけながら、結人はがばりと机に顔を伏せた。 「ゆーと…その変な呪文覚えるより…普通に年号覚えた方がイイと思うんだけど…??」 そんな結人に一馬は律儀に応答を返してやっていたが一馬の瞳も泣きそうに潤みまくっている。一馬の手元には理科の問題集が広げられていて、自分たちの中学の中では一番レベルの高い校区と言われている彼の中学校なのでなかなかの難しい問題がぎっしりのようだった。 「年号おぼえるのが難しいから、こんな変な早覚えおぼえてんだろー!バカズマ!!」 「…だって、年号も覚えられないなら、なーんでそんな長い文章が覚えられるんだよ!!それから、バカズマっていうな!!」 むぅぅっと怒ったように一馬のほっぺたがぷくっと膨らむ。そんな可愛い顔して怒ったって、全然迫力ありません…ていうか、むしろその可愛さが結人のイジメ心を刺激するって分からないモノなのですか…一馬…。 「バカズマにバカズマっていって、何が悪いんだよ♪」 「違うっ、オレ、バカズマじゃないもん!!!」 …オイオイ、このまま不毛な会話をし続けてていいのか??ていうか、結人、オレの一馬を独占しないでくれないかなぁ… しかも、どんどん目が潤んできてるし…一馬。そんな瞳でオレ以外の男を見るなんて…ちょっとオレ妬いちゃうよ。 結人の声が楽しそうだったから少しむっときて、二人の非建設的な会話にピリオドを打つことを決定した。 「結人、さっさと勉強しなよ。一馬泣かせても歴史は覚えられないだろ?」 面白そうに笑っていた結人の顔とそれとは反対に泣きそうな顔の一馬が一斉に自分の方に視線が向かう。 「えーしっ!」 「英士ってば、オレタチに仲間はずれにされて寂しかったんだなぁ♪」 しししっと冗談っぽく笑う結人に手持ちの消しゴムをパシっと飛ばすと、自分の右隣に座っていた一馬に顔を向けた。イテっという声と文句を言う結人の声が聞こえてきたが、この際無視だ。 「一馬、お前もさっさとその問題集やっちゃわないとダメだろ?」 「……ゆーとがうるさいから、できねーんだ」 小さく俯いて、拗ねるように言った一馬に、結人とオレは互いに目配せして同じようにやれやれと苦笑いを零す。 何のために、一緒に勉強しているんだってコトだ。 オレは少し意地悪がしたくなって、キツイ口調で一馬のその答えに返答をする。 「この際、結人の悪魔の呪文と一馬の問題が進まないのとは関係ないだろう?」 呪文じゃねぇっと結人のブーイングが再び聞こえてくるが、再度無視だ。 「一馬の、問題デショ?」 じっと俯いたままの一馬の頬に手を添えて、ぐいっと自分の方に視線を合わせさせる。少し抵抗したけれど、そのアーモンド型の瞳は躊躇いがちに自分の姿をその黒い瞳の中に映し出してくれる。 こうなったら、もう、一馬の気の強さもオシマイ。 きゅっと瞳を閉じてから。それを少し伏せ目がちにして。小さく一馬は呟いた。 「だって…難しくて、わかんねーんだもん……」 オレに頬を添えられているから目を逸らすこともできなくて、一馬はちらちらと手に持った鉛筆を動かした。 ぷっ、と耐えきれなかったのか結人が勢い良く吹き出すと、それからはなし崩しに爆笑し始めて。一馬は本当に涙を浮かべて、結人にバカバカっっと手を伸ばしてポカポカ叩こうとしていた。 もちろん二人の間には大きな机という障害と、さらに大きなオレという障害・・?があるから、結人に一馬の可愛いポカポカを触れさせてあげたりなんかしないけれど。 「笑うなっ!バカゆーと!!」 「ぎゃはははっ!だって、バカズマだなぁって・・思ってさっ!!」 くくくっっっと必死で笑いをこらえている様子の結人に、オレは一瞥してから、一馬のまるい頭をポカンっと軽くこづく。 「痛い、えーし!」 「これくらい、やんなきゃ一馬には分かんないでしょ?」 笑いすぎの結人に今度は近くにあったクッションをぼかっと投げつけると、オレは不思議そうな顔をしてオレを見つめる一馬に、少し厳しい表情で言い聞かせた。 「あのさぁ、一馬…何でオレタチ一緒に勉強してるワケ?」 「え・・?」 何を聞かれているのか分からない・・といった表情の一馬にオレは自分を指さして。すると結人も同じように、自分の方を指さして、一馬の額をピンっと弾いている。 その結人の顔から先ほどのバカ笑いは消えていて、一馬は不安そうにオレ達を交互に視線を移していた。既に一馬の手の中からは鉛筆はなくて、使われないままにノートの上に転がっていた。 「だからさ、一馬。オレ達、一緒に勉強してるじゃない?」 少し溜息をついて、コトバを紡ぐオレに一馬はびくりとして体を竦ませる。そういう態度が、嗜虐心刺激するって感じなんだけど。今回ばかりは、むしろ淋しくなってくる。 「お前、その問題、わかんねーんだろ?」 結人はそういって一馬の問題集、ずっと答えが白紙になったままの問題を指さす。そう、さっきから気になっていた箇所。 他の問題はほとんど解けているのに、そこだけがぽっかり白いまま。一時間ほど前から、ずっと、そこで一馬の気持ちは止まったまま。 多分、結人の突然の呪文も一馬のソレを気になったから始めたことなんだろうと思う。 「…何で、知ってるの?」 そのコトバに二人してがくりっと肩を落とす。びっくりした表情でオレと結人を見る一馬は、ほんっとーに鈍いっていうか、なんて言うか、もう天然どころじゃなく、バカっていうか… 「オレタチが、お前のコト分かんなかったこと、ねーだろ?オレ達の方、ちらちらって見てたくせに、何にもいわねーんだからさぁ」 そう、好きな子からの、縋るような視線の訴えに気付かないような鈍感は少なくともこの場には一馬以外はいないワケで。さっきから、一馬の大きな瞳がオレ達二人に、助けてっていう可愛いビームが炸裂していたんだから。 「……そんなこと、してたかな??」 「「してた!!!!!!」」 不覚にも結人とオレの声がピッタリとイヤになるくらいに重なる。そんなオレ達の微妙なハモリにびっくりして一馬は戸惑うように、首を傾げていた。 この小悪魔一馬はまさかとは思うがほんとーにあの「助けて、英士?」視線を無意識に出していたワケなのか???そう思うと一馬と自分のラブラブ生活が思いやられる気がしてきたり。 結人を見ると、オレと同じようにがくりと脱力してる。 で、小悪魔一馬はやっぱり可愛く首を傾げてる。 窓の外から、ぶぶぶーっっと車のクラクションが風に乗って音を部屋中に届けていく。 はぁと溜息をついて、オレはとにかく本題に戻すことから始めた。 「オレ達みーんなで勉強してたら、分かんないところは尋ねられるでしょ?」 「そーいうことダ。分からないときは、ちゃんとオレラに聞け!『ご主人様、一馬に色んなコト教えて?』ってゆったら、何でも教えちゃるゾ」 「誰が、言うかぁぁ!」 ニヤリと笑う結人に一馬が叫ぶのと同時にオレの手から裏拳が炸裂する。 「いってーなぁ、何すんだ、英士!」 「結人は黙ってな。話がややこしくなるだろ?」 さすがボランチってな身のこなしでオレの光速炸裂裏拳を間一髪で交わした結人に今度は冷たい視線で黙らせてから、一馬に再び向き合う。 オレの視線を受けて一馬は不安そうな瞳を揺らめかせてから、小さく俺の名前を呼ぶ。一馬の、少し高くて澄んだ声がオレはとてもスキだなって思う。 「……二人とも、勉強してるのに…聞くの、悪いかなって思って」 予想通りの答え。 普段は思いっきり甘えてきて、我が儘なクセに。肝心なところでは変に気を遣って1人で泣いているんだから。手の掛かるコだと思う。 「変に気遣ってどーすんの、一馬?分かんないトコ教え合うから、一緒に勉強してるんでしょ?」 「そーだ、バカズマのクセに、遠慮すんなよー」 オレの手が、一馬のほっぺを撫でて。 結人の手が、一馬の頭を撫でて。 一馬はくすぐったいって言って、少し身じろぐ。 オレ達本当に一馬に甘いなぁって思うけど。 ゆっくりと俯いていた顔を上げた一馬の嬉しそうな表情を浮かべた笑顔が本当に可愛くて。 やっぱり、甘くなっても仕方ないなって思うワケなんだけどね。 「ありがとう、英士、結人」 きゅっとつり上がって、いつも何かに警戒してるみたいな一馬の瞳。でも、そんな一馬の瞳はオレ達といるときだけは安心したみたいに、にっこりと笑ってくれている。オレ達だけが、聴ける一馬の素直な表情。 他の人には絶対に見せなくて、ほんとにオレ達だけって感じに、きっと無意識だろうけれど…そんな一馬の笑顔に、オレも結人も無条件降伏ってところだろうか。 「コレ、分からなかったんだ…教えてくれる?」 少し恥ずかしそうに、そういって指で押さえた箇所を二人して見た。 それから、結人とその問題を見て…溜息をつく。 「……ねぇ、一馬……なんで、コッチの応用が解けて、こんな基礎問題が解けないの?」 「…え?」 ホント、思い切り傷つきやすい繊細なクセに、こんなに分かりやすいオレ達の気持ちにはほんと鈍い一馬の姿が激しく反映されているような気がして…苦笑いするしかなかった。 静かに、けれどいつもより早く過ぎる、週末の時間。 何でって…テスト前だから……ではなくて。もちろん、一馬と一緒にいるからダヨ、なんてコト言ったらきっと可愛いアノコは真っ赤になって俯いちゃうんだろうけれど。 窓の外は既に暗くなっていて。自分たちのオナカの中もさっき食べたばかりのハッシュドビーフで十分潤っていた。 ホントはこのままお泊まり会に突入するわけだったが、結人は明日一番に用事があるというコトで食事だけ済ませた後に帰宅して。 もちろん、帰り際に「不可侵条約忘れるなよ?」と厳しくオレに牽制かけてきていたけれど。まぁ、適当に頑張るよなんて言ったら、思い切り頭を殴られた。黒い目の奥に、真剣な色が光った気がして、結人の本気の気持ちを見せつけられる。分かっているよ、と言いたいけれど。 それは理性と本能と。 欲望と無邪気さとの、戦いで。 英士に食べられるんじゃねーぞと、釘を指すように一馬に声を掛けていたけれど、罪なくらい鈍いオレ達の宝物はニコニコ笑って頷いていた。 きっと、意味も分かってないんだと結人とオレは視線を交わし合って小さく溜息をついた。 それから。冷たいジュースを注いだ氷の入ったグラスを持って、一馬と一緒にオレの部屋に上がった。今日の夜は父と母は夜釣りに行くとかで、家にはオレ達だけだった。試験中の子供を放って釣りにしゃれ込むのはいかがかと思うが、でも2人きりになれるという点では少しの感謝もあったりする。 結人がいなくなったので、昼間は狭いと思った机も、結構広々と教科書と広げて使えた。オレの右斜め隣に一馬はちょこんと座る。 「じゃあ、続き、しようか、一馬」 「うん。オレ、次は国語かぁ……」 国語は得意な方の一馬は、ゆっくりとワークブックを広げて、文法問題を解き始めていた。助動詞の活用形を覚え中なのか、変な呪文を唱える声が聞こえてくる。 文法の活用形なんて、覚えて何の意味があるの?なんて思うし、めんどくさいなと思ってしまうけれど。 一馬が唱えるだけで。少し高めの綺麗なボーイソプラノがコトバを紡ぐだけでオレにとってはお姫様の歌声に聞こえてしまうんだから、自分でも末期だと思う。 じっと、教科書を見つめている一馬の瞳を、視界に映す。伏せ目になった瞳に、意外と長い睫毛が綺麗に縁取られている。身を少し乗り出しているから、一馬の柔らかな髪が、オレの頬に触れる。指で触れると、気持ちのいい、一馬の黒い髪から、シャンプーの微かな香がして、口元がどうしても緩んでしまう。 「……えーし??」 「……あ、え?」 突然耳に飛び込んできた、一馬の声にオレははっとして、向き直る。目の前に、どあっぷの可愛い一馬の顔が一面に視界を支配していて、うぉっと少しのけぞってしまった。 「あ、ゴメン・・えいし!」 あまりの驚きようのオレの姿に、慌てて一馬は小さく謝る。別に一馬が悪いわけではないのだけれど…。むしろ……コレは。 「いや、あ、オレの方がぼーっとしてたから、さ」 「……オレ、煩くしてた???」 「は?」 しゅんっとした様子の一馬に、オレは一瞬何を言われたのか分からなくて、ぽかんとしたが、多分、さっきまで唱えていた助動詞活用呪文について言っているのだということに気付いて、慌てて否定する。 「違うよ、一馬。勝手にオレがぼーっとしてただけだからね。一馬は何も悪くないよ?」 「……えーし…」 少し頼りなさげに見てくる一馬に、一馬にしか見せない特上のオレスマイルを見せる。それを見た、一馬はぽっと頬が紅く染まって、目を少しそらせて。 「ぼーっとしてちゃ、だめじゃん…えーし」 なんて、可愛いセリフを吐いてくれるから、思わずコッチももっと可愛い一馬が見たくて、普段は絶対に、ていうか、一馬以外には何があっても言うことはないだろうセリフを口に出してみた。 「一馬があんまり可愛いからね、つい、さ」 「えーしの、ばか!!!!」 それこそゆでだこのように真っ赤になった一馬はオレに向かって近くにあったクッションをぽすんっと口に当ててきた。 けど、一馬の行動なんてお見通しだからオレはそれを難なくかわしてみたりして。結局じゃれ合ってたら、時間がドンドン過ぎていくわけだった。 9時過ぎになって、ヤバイとそろそろオレも認識してきたし、一馬もマジで慌ててきたので、勉強の方にとにかく集中することにした。 漢字の勉強をしているようで、上手なのか下手なのか分からないが、なんとなく達筆にも見える一馬の漢字の列をちらりと見て、オレはテストの一日目にある英語に取り組むことにした。しらじらしいシチュエーションで会話をするトムとヨシコさんの会話文を復習する。 かりかりという鉛筆の音が静かな部屋に響いていた。 ジュースの入ったコップの下には、水滴が机の上に落ちだしていて、氷もあと僅かになっていた。一馬のコップに入っていた林檎ジュースは、溶けた水のせいか、さっきよりも色が薄くなっているような気がした。 自分のコップに入っているお茶も同様の事態になっているのは一目見て分かることであるので、眠気さましを兼ねて台所にでも降りようかと思っていた、そんな何事もなく過ぎそうな時間に。 一馬のコトバが切り札になって、おかしなコトになっていくとは思いも寄らなかった。 不意打ち。 一馬の、無邪気な一言が。 にっこりと笑う一馬に、オレの伸びきっていた理性の糸が思いっきり弾け飛んだような気がした。 きっかけは、ただの一馬の天然ボケ的、質問…だった。 「なぁ、えーし…なんでモノって下に落ちていくんだ?」 「…は?」 不思議な顔をして、一馬が小さくオレに聞いてきた。何でって…そーいやこの前理科で勉強したよなぁ・・つか、むしろソレってある意味常識じゃない? …それ以前に、漢字の勉強していて、なんでそんな質問に行き着くんだ?という疑問にブチ当たる。 だが、きゅっとつり上がった瞳を上目遣いに。少し小首を傾げてオレに尋ねてくる可愛い一馬に、邪険なコトが言えるはずもない。 「…重力、だよ。地球の中心に向かって、力が働いてるの。すべてのモノにはその重力が働いてるからサ、モノは地球の中心に向かってひかれるんだよ」 簡単に、答えて。 一馬は、きょとんとした瞳をオレに向けてから。 にっこりと、笑って。 「そーなんだぁ…えーしって、やっぱ凄いな!」 なんて全開の一馬スマイルをオレに見せてくれる。 その瞬間自分の頭の中にお花畑が出現するんだから、自分もかなりイっちゃってると思う。 コンナ簡単なコトで、一馬の信頼を勝ち得られるなんて、と、一馬のオバカさに神様に感謝したいぐらいだ。…なんて、一馬に知られたら大変な騒ぎになるようなことを考えている自分に対して、素直に尊敬の念を表していた一馬だったけれど。 再び漢字勉強に取りかかったようで、かりかりという鉛筆の音が少し、響き始めた。一体今の質問はどこから出てきたのかという大きな謎を残したままだったが、まぁとにかく飲物を取り替えようとコップに手を掛けようとしたときに、一馬の少し考え込んでいるような声がした。 「重力が、モノを地球の中心に惹きつけてるってことなんだろ?」 「んー、まぁ、そういうことになるかなぁ…」 オレの愛想程度の相づちに、一馬はゆっくりとオレの方を見て、透き通るような笑顔を見せてくれながら。 「じゃぁさ…オレの重力は、えーしにむかって働いてるんかな?」 一馬は鉛筆を軽くくるっと回して、にっこりと罪のない笑顔を浮かべる。 ソレって、どういう意味だろうなんて、考えてみて。 「…一馬、ソレって?」 ほとんど喉から絞り出すかのような声になってるオレにあまり気がいっていないのか、何事もないように、でも、オレの幻覚でなければ…ほんのり頬を赤く染めながら。 「だから、オレのココロは、全部えーしに向かってるって…えー…し?」 「一馬ッ!!可愛い、なんっっって、可愛いの!!!!」 「え・・えっ、え!?」 うわっという一馬の悲鳴を押さえ込んで、オレは机という障害をモノともせずに一馬の躰をカーペットの上に押し倒した。 「んっ、えーし、何すっ…」 「可愛いから、キスするんだよ、一馬w」 慌てた一馬の手が、机に軽く当たって、かちゃんっと音がしたかと思うと、ぽたぽたと、林檎ジュースのほのかに白いソレが一馬の顔の上を濡らしていく。 「わっ、冷た…っ!」 林檎ジュースを顔に受けて、少し苦しそうに瞳を閉じる一馬の姿があらぬ想像を書き立ててしまって、完全に理性が引きちぎられてしまった。 一馬の手首を床に軽く縫いつけて、その華奢な躰をしっかりと自分の下に押さえ込んだ。無条件に自分を信じるようにオレ達はずっと一馬を躾けてきたから、一馬はコンナ体制になっても、何も疑いもしなくて。ゆっくりと開けていく一馬の瞳に自分の優しい笑みが映るように、オレは表情を緩めてコトバを口に乗せた。 「ね、一馬…さっきのコトバって、どういう意味なんだい?」 そう尋ねるオレを大きな瞳が一瞬瞬いた後、縫いつけられていない手を一馬はゆっくりとオレの頬に添えて、柔らかく、笑った。 「英士が、スキってコト、だよ? ……いつも、目で追っちゃうんだ、えーしの、コト。いつの間にか、オレ、えーしの傍にいるんだから。だからさ、だから……んっ」 その赤い唇をオレは自分のソレで覆い隠した。柔らかい、ソレは温かくて重ねているだけの軽いキスだけれど、本当に愛しくてたまらなかった。軽いけれど、長いキス。 「…ぁっ…」 微かに漏れ聞こえてくる一馬の呼吸が苦しそうだったので、離れがたかったけれどその唇を解放してやる。林檎ジュースとオレとのキスで艶やかに濡れた唇と、いつもの強気な瞳を隠した潤んだソレが自分の心を一馬だけに惹きつけられる。 少し、泣きそうな光を浮かべた一馬は弱い声で、可愛い質問をしてくる。 「オレの傍に、ずっといてくれるか?」 ぷかぷか浮かぶ存在、ひとりぼっちの存在は…一馬にとって一番の嫌な想い出で、一番の怖い、コトだとオレと結人は小さい頃から痛いくらいに感じていたから。 オレは涙を浮かべた一馬の瞼に軽く唇を落としてから。耳元で甘く、囁いた。 「オレの重力も、結人の重力も…お前の方を向いているよ」 囁きつつも、オレはゆっくりと一馬の服の下に手を添えていく。Tシャツを羽織っただけの一馬の胸が、ゆっくりと暴かれていく。いつもは日の当たらないその肌は、透明な白い色をしていて、噛み付くようにキスを落とすと、一馬の躰がぴくんっと、敏感に反応する。 「ぁ…えーし……なんか、…ヘン…」 そういって、ぎゅっと手を握りしめるけれど、抵抗はしない一馬に、視線を上らせると、幾筋かの涙が頬を伝っていて、何かを求めるように微かに開いた唇がとても艶めかしくて、自分のソレを再び重ねた。 「抵抗、しないなら、やめないよ一馬?」 「…っんぁ…えーし、…抵抗なんて、しないよ…?だって…」 オレは一馬の声を聞きながら、白い胸の中心にある熟れた果実に唇を寄せようとしていた。時。 「ゆー…とがぁ、コレは友情の印だって、ゆったからぁ……」 「……………は?」 今まさに攻略寸前!だった一馬の赤い果実を目の前に、オレの行動と思考が完全に止まってしまった。 今、なんて、一馬は言ったんだ??? 「え…?だから、こーゆーことするのはぁ、ゆーととトモダチだからっオレの全部アゲルって意味だって、ゆってたよ、ゆーと」 「……結人が…??」 恐る恐る一馬の顔に再び目を向けると、それに気付いたのか一馬はニッコリと嬉しそうな表情で自分を見つめていた。 「えーしは、オレにそーいうこと全然してくれないから、実はチョット、不安だったんだ」 …まさか、本気でソレを信じていたのか、一馬?ていうか、少しは疑え…いやいや、今はソンナコトどーでもよくて、ていうかていうか… 「結人と、シタのか…?」 「…?…ん、だって、友情の証なんだろ?結人が、シテくれたよ?」 いつ?と聞く声が果てしなく低く感じられて、オレの頭はショート寸前だ。 そんなオレに気付くこともなく、うーんっと、と考え込んでる一馬の様子に・・つまりはそんな昔から結人は一馬に不純同性行為を行っていたということなのか!? がばりと、オレは体を起こして、のほほんとした一馬の顔を上から厳しい顔で見下ろした。きょとんとした幼い顔が、全くもって結人のコトバを信じ切っていたと言うことを指し示しているようで、脳内絶叫だ。 「一馬!ダメ、ダメだよ、こんな行為が友情の証行為なワケ、ないでしょ!!一馬は結人に騙されてるんだよ!こんなこと、結人に二度とされちゃ、ダメだよ!!」 「…え??…コレって、悪いことなのか??……なら、どーして、えーしもしてるの?」 「…………っ!」 「……えーし?」 思いっきり自分で墓穴を掘ったような気がして自分の動揺さ加減に頭が痛くなってくる。けれど、ソンナコトは今は、どーでもいい。 ていうか、まさかとは思うけれど、一馬の処女はまさかまさか…… 「ぎゃーーー!!えーし、やだぁぁ!離して!やだ、やだぁ!!!」 「抵抗するんじゃないよ、一馬ッ!」 突然気になりだした一馬の後ろの庭に、オレは思いっきり抵抗を受けつつも一馬の下着に手を伸ばした。 「えーしの変態!どこ、脱がしてんだよっっ!!!」 一馬の抵抗ぶりも凄かったが、自慢じゃないがオレの欲望はそれくらいの力で納まるはずがなくて。 オレの手が一馬のズボンに手を掛けられた瞬間。 階下からものすごい音がしたかと思うと。 バタンッッ!!! 部屋のドアの音が開いたかと思うと。 「英士ッッッ!ナニシテンダァァァァ!!!!!!!!」 ボスンッッと目の前に柔らかいモノが飛んできたかと思うと、思いっきり自分の顔面に直撃。 「ゆう…と?」 びっくりしたような声が下から聞こえてきて、オレもはっとして、視線をどうにか上げてみたら。やっぱり、ソコには。 仁王立ちで立っている、結人がいたわけで。 「英士、一馬の上から避けてやってくれるかなぁー。…ていうか、お前完全に今の状態だと、ゴーカン魔になってんぞ?」 その言葉に、確かにそうなりそうだったところを止めてくれたのはいいけれど。 すべての元凶は、… 「ていうか、結人!不可侵条約かってに切ってるのはソッチだろーがぁぁ!」 「約束なんて破るモノにあるのだよぉ、英士?」 「つか、何でお前、また戻ってきたわけ?」 「えー、何かオレの可愛い可愛い一馬がオレに助けを求めてる見たいに思えたからさぁ…正義の味方ってヤツ?」 ニヤニヤ笑いながら近づいてくる結人に対抗するべく、仕方なく一馬の上から退いて、ぐっとオレの腕の中にその少し熱くなっている体を引き寄せた。 んっ、と軽く一馬の口から漏れる声が激しく可愛くて、結人がいなきゃ絶対にこのまま大人の階段登り切るのに!と、そう思うと結人の出現ほど自分にとって大きな障害は未だかつてないように感じたりした。 「こら!英士!一馬独占してるんじゃねーぞ!!」 引き離そうとつっかかる結人に、オレは絶対に一馬を渡すもんかと激しく抵抗して。 「結人こそ、ずっと今まで一馬をたんのーしてきたんだろう!?今日はオレの番なんだからジャマするんじゃないよっ!!」 「わけわかんねー論理ふりかざしてンじゃねーの!」 どたばたどたばたと、二階のオレの部屋で暴れまくる中学男子二人と、抱き締められたまま目を白黒させている中学男子1人… 両親がいたら怒鳴り散らされるところだろうが、幸か不幸かいないわけで… そのまま、ドシンっっっと三人で崩れ折れる。 「うぁっ!」 「いたっっっ!」 「どぁぁ!!!」 三人三様の声をあげて、気が付いたときには一馬の体の上に、オレと結人が二人がかりで押し倒している状態になってた。 「ぁ…」 「……」 「……えーし、ゆーと?」 オレ達の目の前に見える、きゅっと目尻の上がった一馬の瞳があって、オレ達の姿をその鏡に映しだしていた。右手首をオレに、左手首を結人にそれぞれ床に縫いつけられる形になっていて、囚われの姫のような一馬に結人と二人少し気まずい目配せをしていた。 退こうかと思ったその時。 一馬の瞳がオレと結人を捉えて。 ゆっくりと、そりゃあもう、本当に。 月の光のような、儚げで、きれいな笑顔をオレ達だけに向けて。 「やっぱり、オレの心の重力は、えーしとゆーとだけに向かってるんだ」 「一馬…?」 結人の声が、隣から耳に入ってくる。 突然静かになった空間が、清冽な空気を放ち始めているみたいで、無意識に背筋が伸びた。 「オレは、多分……ゆーととえーしがいないと……ダメ…」 ぴくんと、一馬の両手が何かの動きを求めていたような気がして、オレと結人はその楔になっていた手首の枷を外してやる。 無意識に、だろうけれど…すっと伸びてくる一馬の腕がオレたちのほうに持ち上げられて、それと共に控え目だけれど強い声でコトバが生み出される。 「オレも…えーしとゆーとが傍にいてイイっていう言ってもらえるようにガンバルから……だから……」 小さく小さく、唇だけで紡がれる言葉はほとんど声にはなってなかったけれど、オレ達だから伝わるコトバがあって。 ―傍に、いて…… ゆっくりと腕から力が抜けていく一馬のそれをオレと結人はしっかりと受け止めると、一馬は安心したようにもう一度ニッコリと笑って。 「勉強、しないと…ヤバイヨ?」 可愛い可愛い、唇はそういって、オレ達を現実に返してくれた。 それから数時間して。 結人は何をしに来たんだか分からないが、一馬の唇にちゅっと軽いキスを落として「オレの傍から離れるんじゃねーぞ!」と言い置いて、忘れ物だったといって、机の下に落ちていたプリントを持ってそのまま帰っていった。もちろん、オレに対しての牽制は掛けていったけれど。 眠たそうにしている一馬に、シャワーを浴びるように言いつけると、その間にオレは寝る用意をしていた。こぼれた林檎ジュースはほとんど入っていなかったから大惨事には至らなかった。机を片づけて、その下に布団を退いていると、さっさと上がってきた一馬がオレの少し大きなパジャマを着て上に上がってきた。 「えーし、空いたよ」 「分かった。先、寝ててもイイから」 「んー、でも待ってる」 オレが布団の上から立ち上がると同時に一馬がその布団の上にぺたりと座り込む。 そのまま部屋に出ようとしたときに、一馬の手がくぃっとオレのシャツの裾を引っ張っていて、どうしたの?と声を掛けた。 見上げてくる幼い一馬の表情が、どこか泣きそうで頼りなげだったから。心配になってオレは再び屈み込んで顔を近づける。 ふぃっと視線をそらせて、一馬の頬がほんのりと赤くなる。 「……答え、聞いてない……」 「え?」 一馬の呟きに、少し戸惑ったけれど。オレは、すぐにぴんっときて。 それから、一馬の頬に両手を寄せてから、くっと自分の方にそれを向けさせる。不安げに揺れた表情が可愛い。 「…えーし」 「……あのね、一馬。オレにとっても、オレの心の重力はさ、一馬だけに向いてるよ」 「……っ」 「ずっと、傍にいる、一馬」 なんだか自分でも信じられないくらいにクサイセリフを吐いていることに気付いて、違う意味で激しく動揺が走ってしまうけれど。嬉しそうに、ニッコリと笑ってくれた一馬を見て、そんなことはどーでもいいことに感じられた。 ちゅっと、額にキスを落として。ゆっくりとオレは再び立ち上がった。そのまま一馬はぽすんっと布団の上に寝転がる。 ドアを閉めて、出ていくとき、一瞬だけ一馬と視線が合った。 「えーし、大好き!」 そう言ってるみたいで、ホント、完全に一馬にはノックアウトだった。 何気ないコトバをたくさん紡いでくれるアイツだけれど。 馬鹿なクセに、鈍感なクセに。信じられない小悪魔なセリフを吐いてくれたりして、結人とオレの心をゆらめかせてくれる。 結人とオレと一馬と。 その三人を結びつけていたのはサッカーって言う絆だったけれど。 もう、サッカーしてるからとかそういうのとは違う絆が生まれていて。 気付いてないかも知れないけど。 恋に関する、重力は。 一馬が中心に向かってるんだよ? 「一馬…?」 「……ん」 シャワーから出てきて部屋に戻ってきたら。オレ達のお姫様は既に夢の中。 一馬に触れようとした瞬間、ブブブブーっと携帯のバイブの音が聞こえてきて条件反射のようにそれを探してしまう。 案の定、送り主は結人で。 『眠りにつく前の、お姫様のココロはもう、奪っちゃったからね』 という変なメール内容に。 オレは、はっとして一馬がぎゅっと大切そうに握りしめてる携帯に視線をみやった。 画面には、送信された文章が残されていて。 『ゆーと、大好きダヨ』 と簡潔に、書かれてる。 結人に文句言いたい気分が募ってきたけれど。 でも幸せそうに眠ってる一馬を、独占できるのは今はオレだけだから。 『負け犬の遠吠えは聞こえないよ』 と書いて送信。 怒りのメールがくるだろうと分かっていたからオレは携帯の電源を切って、一馬の隣の布団に潜り込む。 ベッドがあるからソッチ遣えばいいけど。 1人はイヤダといつもだだをこねる一馬のために、二人で寝るのは当然になっていた。 「明日は、本気で勉強しないとなぁ……」 なんて呟くけれど。 隣ですぅすぅ幼い表情で眠ってる一馬を見てると、きっとまたどたばたで終わりそうな気がして。 まぁ、それでいいか。 オレは小さくあくびをして、電気を落とした。 どこまで、耐えられますか??無邪気なコトバに。 そろそろ限界だなぁと思うことが多々あるわけなんだけど、でも、まぁアイツのココロも、オレも、ライバルのアイツも、全部、結局は、惹いて惹かれて、まだまだ、全然、重力はたくさんの方向に、働いてしまってる。 理論じゃ、決められないけれど。 それも自然の法則。 オレ達の、重力の法則。 |
| Comment:・・・久しぶりの小説更新。相変わらず私だけが楽しい、U14のただのラブラブ。ていうか、一馬アイドル話。いい加減、やめろよとりーさん辺りに言われそうですが(笑)スキなんです、やっぱり・・るるる。でも、今回はどっちかっていうと一応郭真中心に書いてみたんですよ。でも、最後はやっぱり結人が出張ってきてしまいました・・・コレも、やっぱりりーさんに捧げるよ(笑)いらんかもしれないけど、もらって帰って下さい♪そのかわり、また変態郭さんをぜひ、書いて下さい♪ちなみに、題名はサカモトマアヤから。ぜんぜん歌詞は関係ないですけどね。 |